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第3分科会

学力保障をする授業と学習指導要領の改訂

        
小野英喜(学力・教育課程研究会)


 今年度は、教育基本法の改定を受けた学校教育法と教育免許法と教育基本法の教育三法の改定が強行採決で通るなど学校教育が大きな変化を受け、さらに学習指導要領の改訂を控えた激動の年であった。第3分科会では、このような時期こそ「学校は学力を保障する機関である」という原点に返って、そのあり方を、実践を踏まえて検討することになった。

 このテーマに沿って、基調報告を鋒山泰弘先生(追手門学院大学)に、実践報告は、N先生(綾部市立小学校)、S先生(亀岡市立中学校)、S先生(京都府立高等学校)の三氏にお願いした。司会は、T先生とN先生にお願いした。 以下に、各報告の概要と討論の一端をまとめる。


【基調報告】 学習指導要領の改訂と学力保障
 鋒山泰弘先生(追手門学院大学)

 1.「生きる力」という理念の背景にあるもの

 学習指導要領と評価と目標は、一体となって議論しなければならないが、今回の改訂でもそうはなっていない。「生きる力」という理念は、現行の学習指導要領が改訂される時期に用いられたものであるが、今回の学習指導要領の改訂にとっても最も重要なことであるとされている。  特に、今回の改訂では、「生きる力」が「知識基礎社会」という用語と結びつけてその重要性が語られている。「知識基礎社会」は、「@知識に国境がなく、グローバル化がいっそう進む、A知識は日進月歩であり、競争と技術革新が絶え間なく生まれる、B知識の進展は、旧来のパラダイムの転換を伴うことが多く、幅広い知識と柔軟な思考力に基づく判断がいっそう重要になる、C性別や年齢を問わずに参画することが促進される」というものであるが、他方ではワーキングプアーの人たちにとってこれがどのようにかかわってくるかが課題になる。

 「生きる力」の背景に、地球規模での企業の利潤獲得競争システムの中で、急速に流動化する労働市場において雇用されるためには、知識・技能を絶えず更新し続けることができる力を持っているかどうかがあり、この競争に日本の子どもも巻き込まれる。学習指導要領の「生きる力」には、「権利としての労働参加」の視点がないという指摘もあり、個人が知識や技術を更新し続けるのは限界があり、国民の権利として国が公的に保障する必要がある。

2.「自分の考えを表現する」学力はどのように育成されるか

 今回の改訂で各教科における「基礎的・基本的な知識・技能の習得」と「活用する学習活動」であるが、「活用」で強調されているが言語力育成の指導である。この力を国語だけではなく、他の教科の指導の目標としても位置づけられている。それは、論述・レポート、知識技能の活用などである。そのために、今回の改訂で授業時間数を増やしているが、それでも授業時数が不足するのではないか。

 今回の教育課程審議会には、教育心理学者や教育課程の専門家も加わっているので、学力論に見られるような改善点を、われわれが利用していくことが大切である。と同時に、教育改革の方向性については、子どもの学習権を豊かにするものとは限らないので冷静に対応することが求められる。

 教育課程審議会の「答申のまとめ」は、次の点で課題がある。

 @安定した仕事に就けない政治・経済政策上の課題については不問にして、子どもたちに対応する学習能力を身につけようという発想である。A新学力観という教育方法政策の誤りや、文科省が指導方法まで指示することの誤りについての反省がない、B総合的な学習の時間を現場教師の努力と成果を無視してその成果を認めることもなく、条件を整備しない。C「活用」を学習するための時間数が不足している、D家庭や地域の教育力の低下を踏まえた対応がない。

  「言語力」については、義務教育の到達目標として「A4一枚でまとめる」とあるが、学校教育で必要なのは形式ではなく、何を表現したいかという指導である。さらに、「活用」に連動して、パーフォマンス評価が導入されることになる。


【実践報告】  学力を高め、人格も高まった1年間の授業
    N先生(綾部市立小学校) (略:年報に記載)


【実践報告】   進路保障としての学力形成
          S先生(亀岡市立中学校) (略:年報に記載)


【実践報告】  学力保障の授業実践と教師集団の取り組み
           S先生(京都府立高等学校) (略:年報に記載)


【討論から】

 ・参加者は、小学校から高校までの現職の教員と退職教員、さらに研究者が参加した。

 ・「生きる力」が出てきた背景や歴史的な経過について、基調提案を深める発言があった。例えば、学校五日制がアメリカの押し付けで経済的戦略が背景にあることなどである。学力保障については、北欧では「全体の底上げ」という側面が強く、米英では「全体の中からエリートを選び出し、そのエリートの学力を上げる」という側面が強調されている。

 中央教育審議会は、経済政策を評価して答申に組み込むことができないため、「日本の経済政策上の課題を不問にしている」ように見えるのではないか。

 ・学力形成について、みんなが共通に考え、議論できるように、原理・原則を表す短い言葉で表現できないだろうか。そして「学力の基礎となるものは何か」を科学の法則性としてまとめて共通認識する必要がある。しかし、現在の社会の中で、我々も「目指すべき社会像を打ち出すことできない」ことがネックになって、共通認識が形成できないのではないか。原理・原則の一致をするためには、「社会の持続可能性」についても議論しなければならない。

 ・今回の実践発表は、どれをとっても優れたもので、京都の中にはこのような授業実践の宝物がいっぱい存在し、日々子どもたちと作り上げられていることが具体的に明らかになった。 京都教育センター学力・教育課程部会としては、これらの実践を広め、拡大していく方策を検討することが求められている。

 ・来年度の分科会では、@改訂学習指導要領の検討と教育課程のあり方についての研究を始めるとともに、A京都府内の各学校で進められている優れた実践を掘り起こし、B学力、授業、評価などの基本的な概念について、共通認識を作るための一歩を踏み出す必要がある。

2008年3月
京都教育センター
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