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「学校統廃合と小中一貫教育全国交流京都集会」実行委員会 主催


基調提案(全文)


2010年9月5日 学校統廃合と小中一貫教育全国交流集会実行委員会



(1)京都集会開催に至る経過

 学校統廃合が全国に広がり、特に小中一貫校の名による統廃合が進んできています。しかし、このことが教育や「まちづくり」にどのような影響を及ぼすのかについては、十分には明らかにはされていません。学校統廃合や小中一貫教育問題について、各地で運動に関わっておられるみなさんに、京都に集まっていただき、現状を交流するとともに、各地の運動から学びあい、今後の方向を考えてみたいと、何回かの準備会を経て、本年6月22日に実行委員会を発足し、9月5日に全国交流集会を京都で開催することになりました。

 集会の目的は、
 @学校統廃合が教育とまちづくり等に及ぼす影響を明らかにする。
 A学校統廃合と小中一貫教育の全国的な現状を交流する。
 B全国の運動から学び、今後の方向性を見出す。

 集会の内容は、
 〇日時 2010年9月5日(日)13:30〜16:30(13時受付開始)
 〇場所 華頂短期大学1号館401教室(京都市東山区)
 〇日程 13:30〜13:45 開会挨拶・基調提案
      13:45〜14:30 講演「学校統廃合に反対する東京都文京区住民のたたかい」
                 講師 中嶋 束さん(歴史教育者協議会会員)
     14:30〜15:30 各地からの報告
                 京都府宇治市 京都市東山区 大阪府門真市 広島県広島市
     15:30〜16:30 意見交流
     16:30〜      アピール採択・閉会
 〇主催 「学校統廃合と小中一貫教育」全国交流京都集会実行委員会
     (事務局 京都市教職員組合 п@075-771-9171)
 〇参加費 資料代として500円
 〇報告集 後日、集会の詳細と学校統廃合と小中一貫教育の全国的な現状をまとめた報告集を作成・発行する。(報告集代300円)

 実行委員会では、以上のような諸点を確認して、本日の集会開催となりました。



(2)学校統廃合と小中一貫教育をめぐる情勢

@学校統廃合をめぐる動き

 学校が統廃合される問題は、いつの時代にも深刻で重大な問題です。とりわけ明治時代初期から市町村の人々の財力によってつられてきた公立学校は、歴史的に学校教育の場であるとともに地域のコミュニティセンターとしての役割を果たしたり、緊急災害時の避難所となるなど、地域との密接な関係をつくってきました。

 ところが、今、この学校を統廃合しようとする動きが全国各地で起こってきています。地域は大都市部、農村部を問わず、学校種も小学校、中学校から高校、特別支援学校まで、すべての学校が対象となっています。

 そのいくつかを紹介しますと、群馬県では、前橋や桐生の小学校の一部の統廃合が進められ、埼玉県では、県立の高校統廃合について後期再編整備計画が出され、県立高校20校、定時制14校がなくなっています。また、市町村立学校については、地域の児童数減などで統廃合校が毎年数校生まれています。千葉県では、県立高等学校再編計画案3期実施プログラムに基づき、2011年度に船橋、市川、松戸、我孫子(あびこ)地区の8校4組の統合が計画されています。東京都の特別支援学校関係では、「東京都特別支援教育推進計画」において10年間でろう学校8校を4校に、寄宿舎11舎を5舎に、校外宿泊施設2施設を廃止するなどの計画が出され、2004年から第1次実施計画、2007年から第2次実施計画によってすすめられています。また、全国に先がけて東京都品川区では小中一貫校としての「日野学園」が開園し、「小中一貫教育」が宣伝されているのが特徴です。愛知県名古屋市では、「小規模校対策に関する基本方針を策定するために」市民の意見を募集し、「基本方針(案)」がつくられています。それによれば、「望ましい学校規模(適正規模)は、小・中学校ともに、少なくとも各学年でクラス替えができる規模」「適正化の対象は、小11学級以下、中5学級以下」「適正化の方法は、学校の統合か通学区域の変更」「通学距離は、小で概ね2km、中で概ね32km」として、統廃合に向けての世論づくりが進められています。岐阜県岐阜市では統廃合案が検討されてており、中心部の小学校の統廃合が進んでいます。また、山県(やまがた)市(山間部)でも小学校の統廃合が行われました。また、恵那地区でも、学校適正規模検討委員会がつくられており、恵那市では、中学校5つを1つにという答申が出され、中津川市では旧郡部をターゲットに小学校4つを1つにという動きが進められています。いずれも市町村合併が行われ、大きな自治体になった中での動きであることが特徴です。

 京都市東山区においては、大規模な学校統廃合(小中一貫校)が進行しています。また、宇治市でも小中一貫の名による統廃合が進められ、その他京都府内でも福知山・伊根町などいくつかの地域において動きが広がっています。和歌山では、小規模校を中心に各地域で統廃合が進んでいます。特に「耐震」を理由とした統廃合で、反対運動が起きにくいという状況があります。大阪府では、今年は、3つの市町村で小学校が統合されました。これは過疎化による児童数減からと言われていますが、地域・父母は、地元の学校がなくなることの不満はあるものの、子どもが集団生活を経験するにはあまりにも少数であるために、苦渋の選択として、統合への決断を迫られています。島根県では、松江市、雲南市、大田市、浜田市、益田市、隠岐郡など、県内各地で統廃合計画が進められています。はじめに“統廃合ありき”の前提で進められていると言います。広島県では、西広島市、三原市、世羅町、北広島町、大竹市等でも統廃合が計画されています。広島市議会文教委員会に市教委から提案された「広島市立小・中学校適正配置計画(素案)」によれば、「適正配置検討対象校は小学校24校、中学校6校、計30校」。この素案に基づき策定した適正配置計画について、5年以内に実施するというものです。香川県では小学校の統廃合が進められ、小中一貫校もつくられました。愛媛県では、「平成の大合併」で70市町村が20市町に合併されたのをきっかけに、急速に統廃合が進められ、今年度でほぼ統廃合は終結する勢いと言われています。

 その他、全国各地で大規模な学校統廃合が急速に進められています。従来喧伝(けんでん)されてきた「適正規模論」「小規模校弊害論」などと共に、新たに「小中一貫校」「小中一貫教育」をも口実にして、父母・地域住民の反対意見を封じつつ進められているのが、その特徴であると言えます。

*この項は、全教の調査(「教育財政」運動総括アンケート2010.4)等を参考にしました。

 こうして、1992年度から2007年度までの15年間の間に、全国では小学校3212校、中学校959校、高校636校の合計4807校が廃校とされるに至りました。これは実に、全国の小学校数の13.3%、中学校数の9.1%、高校等の15.3%にあたるものです。


(注)廃校数÷全国学校数×100(%) 廃校数は山本由美『小中一貫教育を検証する』花伝社2010p10による。全国学校数は1997(平成9)年5月現在の文部省調査による公立小学校・中学校・高等学校数。
区分 廃校数 全国学校数 廃校数÷全国学校数×10(%)
小学校 3,212校 24,235校 13.3%
中学校 959校 10,518校 9.1%
高等学校 636校 4,164校 15.3%
 
公立学校の年度別廃校発生率(学校数) (山本由美『小中一貫教育を検証する』花伝社2010p10による)
年度 小学校 中学校 高校等
1992年度      136       42      11     189
1993年度      100       43      12     155
1994年度      160       47       8     215
1995年度      122       46      11     179
1996年度      163       43      19     225
1997年度      122       50      13     185
1998年度      153       47      17     217
1999年度      123       43      18     184
2000年度      199       51      15     265
2001年度      221       64      26     311
2002年度      228       68      46     342
2003年度      276       80      65     421
2004年度      372      118      86     576
2005年度      316       71      70     457
2006年度      248       70     104     422
2007年度      273       76     115     464
  計    3,212      959     636   4,807
 出所) 文部科学省。



A「小中一貫校」による学校統廃合の動き

 歴史的に見れば、明治時代の学制施行以降、学校統廃合の波は幾度かにわたり起こっています。たとえば大正期から昭和初期にかけては、第一次世界大戦後の不景気が全国を襲う中で、市町村の教員費や維持管理費を削減するために小学校の統廃合が進められています。また、戦後には新制中学校のの発足にあたり、学校統廃合が行われたこともありました。そして、現在の統廃合は「平成の大合併」といわれる市町村大合併や「地方行革」と連動していることが特徴で、とりわけその統廃合をスムーズに進めるために、地域によっては「小中一貫校」「新教育システム」などが打ち出されています。

 1999年に広島県呉市は、文科省・研究開発学校制度による小中一貫校を提起しました。当時は、中高一貫校がさかんだったのですが、呉市は財政難から学校統廃合を推進するために「小中一貫校」を出してきました。その背景には、文科省による9年制の見直し検討があり、当時、広島大学で「4・3・2制」が言われはじめたことがあります。小中一貫校問題はこのあたりで出はじめました。

 普通は初等教育と中等教育を一緒にするのというのは、教育学的にも議論の余地があるのですが、その小中一貫校を東京都品川区が取り入れました。「小中一貫校」というのは、学校教育法には規定がありませんので「特区」を使って推進することになります。内閣府が経済特区を作り、品川区、次に京都市東山区が小中一貫特区となりました。その後この動きは、品川区、京都市、宇治市、呉市、大阪府門真市、奈良県をはじめとして全国に広がる動きを見せています。京都市、品川区、呉市では「小中一貫教育シンポジウム」を交代で開催していますが、その中で参加しているある議員は、「小中一貫はよくわからないが、これで統廃合ができる」と言っていたといいます。また、東京都三鷹市の小中一貫校のように、施設分離型の小中一貫校が模索されている地域も出てきています。

 小中一貫教育については、(ア)施設一体型小中一貫校、(イ)施設併設型小中一貫教育、(ウ)施設分離連携型小中一貫教育に、その形態を分類して考えることができます。施設一体型の例では、品川区日野学園、京都市開睛(かいせい)小中学校などがあり、施設分離型の例では、京都市御池中学校と御所南小学校・高倉小学校の例などがあります。

 こうした小中一貫教育については、その必要性の論拠として、(A)学年進行に伴う学力格差拡大への対応、(B)「いじめ」「不登校」「中一ギャップ」など生徒指導上の課題への対応、(C)学校のダウンサイジング(技術進歩に伴う高密度化・小型化)への対応、(D)公立学校の多様化をめざす教育改革への対応、などが主張されています。こうして例えば京都市、宇治市などではさまざまな形態をとりつつ、全市一斉の小中一貫教育が推進されようとしているのです。


全国の施設一体型小中一貫校       (山本由美『小中一貫教育を検証する』花伝社2010p5より)
開校時期 自治体 学校 児童生徒数
2006年


 
東京都品川区
東京都足立区
宮崎県日向市
奈良市
日野学園
興本扇学園
平岩小中学校
田原小中学校
      966人
      810人
     約250人
     約100人
2007年

 
広島県呉市
東京都品川区
宮城県登米市
呉中央学園
伊藤学園
豊里小・中学校
     約730人
     1126人
      533人
2008年





 
広島県府中市
東京都品川区
川崎市
大阪府箕面市
佐賀市
佐賀県唐津市
福岡市
府中学園
八潮学園
はるひ野小中学校
とどろみの森学園
小中一貫芙蓉校
七山小中学校
照葉小中学校
     1059人
      709人
      610人
      125人
     約170人
     約190人
     約630人
2009年
 
千葉県鴨川市
福岡市
長峡学園
小呂小中学校
      306人
   15人(島嶼部)
2010年






 
東京都品川区
東京都足立区
東京都武蔵村山市
神奈川県横浜市
滋賀県高島市
香川県高松市
福岡県八女市
鹿児島県南さつま市
荏原平塚学園
新田学園
村山学園
霧が丘小中学校
高島小中学校
高松第一学園
上陽北?(ほくぜい)学園
坊津学園
     約470人
     約540人
     約650人
    約1000人
     約570人
    約1100人
     約230人
     約150人
2011年

 
東京都品川区
京都市東山地区
島根県松江市
品川地区
開睛(かいせい)小中学校
八束小中学校
     約830人
     約800人
     約320人
2012年



 
東京都渋谷区
京都府宇治市
京都市南区
茨城県つくば市
熊本県宇城市
本町小中一貫教育校
宇治第1小中教育校
南区小中一貴校
春日小中一貴校
豊野小中一貫校
     約520人
    約1000人
     約820人
     約900人
 
2013年 東京都品川区 荏原東地区小中一貫校  



B東京都品川区における小中一貫教育の実態

 東京都品川区における小中一貫教育は「教育改革プラン21」(21世紀の新しい 学校づくりを目指して2000年度からスタートした品川区の教育改革)の中核として位置付けられていたものです。「教育改革プラン21」の3つの視点として「指導内容・教材・指導方法・指導形態の開発や改善」「学校の社会的位置付けに関する見直し」「学校教育制度の在り方に関する見直し」が示されていました。「学校の社会的位置付けに関する見直し」として行った施策が、学校選択制・外部評価者制度・品川区独自の学力定着度調査であり、「学校教育制度の在り方に関する見直し」を意図して行ってきたものが小中一貫教育です。

 2001年に小中一貫校設置検討委員会が設置され、準備が始まりました。そして、同年から学校選択制が実施され、翌年より「小中一貫校開設準備委員会」が設置、2006年に小中一貫校「日野学園」が開校しました。 教育課程の編成では現行の 学習指導要領に準拠しつつ、品川区小中一貫教育要領を作成し、その中で「ステップアップ学習」の導入、小学校における英語科の導入、道徳・特別活動・総合的な学習の時間を統合した「市民科」の設置などがなされました。その後、いくつかの小中一貫校が開校し、9年間の教育課程を一貫するカリキュラムを開発することで「確かな学力の定着」「小学校と中学校の滑らかな接続」などの課題の解決が図られると言われています。しかし、その実態は、下記のように「あまりにもずさんな学校づくり」(佐貫浩氏)であると指摘されています。


(1)小中一貫校ということで、授業時間が小学生と中学生が同じになってしまった。そのため休み時間がすべて、10分という形になり、小学校ではそれまであった20分休み時間がなくなった。ゆったり遊べないので子ども達のストレスがたまっている。

(2)親が一番問題としているのは運動会。9学年生徒1000名近くが一緒にするので、待つ時間が多く、自分の子どもがでる時間がとても少なく、短い。中学と小学校を分けて欲しいという希望が多い。

(3)生活規律を小・中一緒にするという機械的な指導も矛盾を起こしている。小学籍の生徒に、中学生生徒の校則との統一を求めてくる。小学生に短いスカートがいけないというのはおかしい。小学生にも標準服が強制され、7〜8万円。それに夏服、冬服がある。

(4)中間定期考査をやめてほしい(5・6年生)という声が強い。中学校と小学校の行事を一緒にしないでほしい。4、7年生、5、8年生というまとまりでの移動教室も好ましくないという親が多い。

(5)5、6年生がいままでは最上学年として、委員会をやり、下の学年の面倒をみて、リーダーシップをつけていた。それらの役割が全て9年生の役割になって、その大事な役割がなくなるために、宙ぶらりんになる。6年生の卒業式がなくなり、とても大きな自信や記念になっていたものがなくな   るのは残念。

(6)5、6年生が教科担任制になると、教室に担任のいる教卓とか机がなくなる。5年生ぐらいだと、急にふらふらっとしてしまう。学級規律が乱れてしまう。生徒は誰に頼ったらいいのかわからない。

(7)伊藤学園は運動場が1つだけになった。1000名前後の小1から中3の生徒に、一つの運動場。だいたい、運動場の作りが違う。小学生は今までは、花壇もウサギ小屋もある。そんなのはなくなってしまった。

(8)校長が1000名近い9学年の子どもを前に朝礼で話をする。小学生向けに話をするが、中学生にとってはおもしろくない話。小学校だけの朝礼が懐かしい。

*佐貫浩「東京・品川区の小中一貫校の実態と問題」『にいがたの教育情報102』にいがた県民教育研究所2010.6 pp15-16
 


C京都市における学校統廃合と小中一貫校づくり

 京都市では、教育畑の同じコースを歩んだ2人(桝本氏・門川氏)が市長になり、「教育先進都市」を自負する中で、文部科学省とリンクし新自由主義を意識しながらベンチャー企業と連携し、公立学校の中に施設設備や学校運営費などで公然と格差・不平等を持ち込むなど「教育改革」を推し進めてきています。

 京都市の中心部は明治初期にできた「番組小学校」の歴史的経過から「学校は地域のモノ」という意識が強くあります。それゆえ、京都市教委は1979年の「銅駝・柳池」2中学校の統合で住民から猛反発を受けた教訓から、周到な作戦を立ててこの学校統廃合に取り組んできました。その結果、1992年から2007年の15年間で、36校が廃校(51校→15校)にされ、京都府全体では95校が廃校になりました。

 また今後2011年から2014年までの4年間で、15の小中学校が4校に統廃合されようとしています。いずれも施設一体型小中一貫校を中心に全市で「小中一貫教育」「小中連携」を進めようとしているのが特徴です。そして、2007年に発行されたPHP研究所編『教育再生への挑戦−市民の共汗で進める京都市の−軌跡』の中で「特筆すべきは、校区内に旧同和地区を含んでいる学校も含めた統合が実現したことです。差別や偏見が完全になくなったとまでは言えない状況を乗り越えて統合が実現したことは、本当にすばらしいことであり、市民の英知が示されたものであると受け止めています。京都の教育の未来を開くものと受け止めていいのではないでしょうか」(京都市教育委員会学校統合推進室)と述べられているなど、同和施策を意識した統廃合プランとなっている点にもその特徴があります。特に東山区北部の小学校5校、中学校2校を、一つの小中一貫校に統廃合する動きは、「小中一貫による全国トップレベルの教育」「最先端教育システム」を標榜し、「エリート校」を喧伝(けんでん)し保護者を懐柔してきています。今後、これが全国の大規模統廃合のモデルにされる危険性があります。

 他府県と違い、かつて京都には長い間、民主府政・民主市政の時代があって、その時代に住民と行政をつなぐ「パイプ」がつくられていました。そのパイプがかつて1979年の「銅駝・柳池」2中学校の統合問題で住民側の威力を発揮したこともありました。

 しかし、京都市教育委員会はこの民主市政時代の成果を逆手にとって、このパイプを使い、一部地域有力者との癒着を強める中で、学校統廃合問題を地域の問題から切り離し、「あくまで教育問題」として、PTAをはじめとした一部役員を「納得」させる形で、カッコ付きの「住民合意」を演出して、統廃合を進めているのです。この手法は、以下のようでした。


@東山区では人口の減少に伴い学校が小規模校化したが、市教委は長い間、学校の施設設備の老朽化を放置すると共に、さまざまな場を通じて「小規模校弊害論」を流布した。この結果、住民の中に「統合による教育条件の改善」を求める雰囲 気を生み出した。

A最初は、市教委は表面には全く出ないで、学校長等からPTAや地域に訴えるという形をとりながら、統廃合の検討委員会を(自主的に)設置させた。

B次に、すでに統合済みで「モデル校」化されていた市内中心部小学校の「見学会」を実施。PTA役員らは「こんなすばらしい学校で子どもたちを学ばせたい」という思いにさせる。

C地元に戻ったPTA役員らは、それぞれの学校で「アンケート」を実施。しかし、その時点では統廃合の賛成・反対は半ば拮抗して全体としてどちらに動くとも決し難かった。

Dその時点で、ある学校PTAから「小中一貫校新設」「最新の教育システムによる学校」案が提案され、それにより一気に統合への流れが加速した。

Eそれ以後、市教委の「統合推進室」のメンバーがオブザーバーとして会合に毎回参加し、「バラ色の小中一貫校新設」が流布される中で、地元自治連による「要望書」提出に至る。

Fその間、大多数の地元住民には「いったい誰が進めているのか」というのがわからないうちに、ほとんどその内容が知らされないまま、また意見を表明する場も設定されないまま、「話し合われたこと」「決まったこと」が伝えられるだけであった。

*浅井定雄「京都市東山区の学校統廃合をめぐる動きと住民運動」『人間と教育61号』民主教育研究所2009.3
 


D学校統廃合と小中一貫教育をめぐる住民の運動

 こうした全国的な学校統廃合の動きに対して、住民側の運動も少なからず展開されています。

 青森県では青森市長が新しく代わり、これまで強引に進められていた統廃合計画がすべて白紙にされました。また、宮城県栗原市では、5小学校1中学校を小中一貫校にする動きに対して地域住民や退職教職員を中心に「ゆきとどいた教育を進める栗原市民の会」がつくられ、学習会など反対運動が展開され、一部では統廃合にストップをかけた地区も生まれています。

 また、東京都羽村(はむら)市では「西多摩初の小中一貫校 平成22度開校へ」という動きに対して、教職員組合や「羽村の教育を考える会」などが中心となり運動を発展させています。そして、東京都の特別支援学校では、教職員組合を中心に、保護者・教職員による学習会や懇談会が取り組まれています。

 京都においては、小中一貫校による大規模統廃合の問題点を指摘する「東山の学校統廃合を考える会」が統廃合問題に取り組み、府下でも教育長に統廃合1年間先送りを表明させた「福知山の子どもと教育を考える会」(福知山教育ネット)や、宇治市の「小中一貫校を考える会」なども学習・懇談会・署名活動などに取り組んでいます。また、大阪門真市では、保守的な自治会長をもまきこんでPTAと共に「反対する会」を校区でつくって活動し、統廃合計画を「凍結」させています。奈良県では、統合への苦渋の決断はあるものの、スクールバスの配備や、我が子のことを知っている現任校の教員を新設校に配置するよう要求を出すなどの取り組みが進んでいます。また、広島市では、統廃合への反対運動が広がり、地域住民による署名運動なども取り組まれています。


 以下、取り組みの例として、京都府下において取り組まれている運動を紹介します。

 京都市の「東山の学校統廃合を考える会」の取り組みは、概要、次のようなものでした。

 京都市教育委員会の周到な「根回し」の下、2007年8月、東山区北部の5小学校・2中学校のPTA会長が連名で「7校を統合し、一つの小中一貫校建設を求める」という内容の要望書を京都市教育委員会に提出しました。この動きを機に、退職教職員らの呼びかけで「東山の学校統廃合を考える会」(以下「考える会」)がつくられ、統合計画に対する疑問点を指摘し、市教委に質問書を提出する一方で、区民に検討を呼びかけてきました。また、建設予定の校舎の教育的不適合性を指弾する「計画の見直しを求めるアピール」が建築専門家30氏の連名で発表され、続いて区内の当該校に勤務したことのある退職教職員らが多数の賛同署名を集めて「見直しの要望書」を市教委に提出しました。

 京都市教委はこうした区民からの質問書や要望書などに対して誠実に答えようとせず、東山区北部地域に対しては8学区合同の「新設協議会だより」なるカラー版のビラを何度も各戸に配布しながら、新しい学校名(「開睛館」)や制服を公募するなど、地元の声の「反映」を装いつつ既成事実を積み重ねてきました。「考える会」ではこれに対し、区民対象の公開説明会の開催を求める署名集めを行っています。

 また、宇治市の「宇治小『小中一貫校』を考える会」では、次のような取り組みが行われています。「宇治小『小中一貫校』を考える会」は、2008年2月に発足しました。宇治久世教組と同宇治小分会、宇治小保護者、地域住民で構成しています。同年2月に行われた懇談会では、先行している品川区の実態を聞くと共に、参加者からは「何も知らされていない」「育友会ではそんな話はなかった」等の「手続きがおかしい」という不満の声と同時に、もしも一貫校になった場合どうなるのかという不安の声がたくさん出されました。そして、情報を広く正確に伝える場の設定を求めていくこと、その上で@宇治小を早期に建て替えよ、Aマンモス校解消のために中学校をもう1校建設せよ、B小中一貫校については時間をかけて検討せよ、という要求を掲げていこうということになりました。

 実態が明らかになればなるほど保護者の不安はふくらみ、5月の市教委主催の学校説明会には180人もの保護者らが参加。市教委は一方的に説明をした後、参加者から出た質問に「それも含めてこれから検討していく」としか答えられず、ますます保護者の不安を募らせることになりました。その後、「考える会」は地域懇談会や1万人を目標に署名運動に取り組み、市長選挙の政策にも反映されました。また翌年には、2万筆を目標に、1万4506筆を集め、市議会に請願書を提出しました。


 全体として、小学校・中学校単独の学校統廃合の場合には、地域の存続問題ともからんで「統廃合」に対する抵抗感も強く、教職員・保護者・地域住民が一体となった運動が発展する可能性があります。しかし、施設一体型小中一貫校による統廃合の場合では、行政が保護者の支持を得るために「小中一貫教育のメリット」についての一方的な情報提供を積極的に行っていることとも相まって、保護者の中に期待感や幻想が生まれ、結果として統廃合を歓迎する傾向を示しています。特に保護者には、「エリート校になる」「子どもたちが勝ち組≠ノなる」といった、実は検証されているわけではない「俗説」が流布されています。また少子化の中、少しでも大きな子ども集団が確保されることも支持される傾向があります。遠距離の通学の問題も、通常スクールバスが準備されることが多いのですが、車社会の中で保護者が車で送り迎えをすることなど、通学距離の問題も以前ほど抵抗感が少なくなくなっているのが現状です。

 こうして、地域から学校がなくなってしまうことを危倶する地域住民がいながら、結果的に多数の保護者が小中一貴校新設に賛成してしまうので、学校統廃合問題に対してなかなか住民運動が成立していかないという状況があり、統廃合計画を覆すことは難しくなっています。「小中一貫教育」の宣伝は、教職員や保護者、地域住民の運動に分断を持ち込む役割を果たしているといえるでしょう。

 しかし、私たちの働きかけにより、保護者の中に「小中一貫教育のデメリット」についても認識が広まるならば、また地域住民の中に「小中一貫校が必ずしも子ども達の教育にとって良いものになるとは限らない」という認識が広まるならば、学校統廃合に関する地域住民の運動は、住民ぐるみのものとなる可能性があります。

 


(3)学校統廃合と小中一貫教育の背景と狙い

@「市町村合併」と「地方主権」の流れの中で

 今、日本では「構造改革」「規制緩和」の名の下に、各分野において上からの「改革」が強引に推し進められています。その狙いは大型公共事業費や軍事費を維持するために、庶民の暮らしに直結する福祉や年金・医療・介護・保育・教育予算などのいっそうの削減を進めようとするものです。この「改革」は、「地方分権」「地域主権」「三位一体改革」などの掛け声と共に、国は外交・防衛・治安などの「小さな」(しかし強権的な)政府にしながら、福祉・医療・教育などの(本来国がやらなければならない)事業を地方に押しつけてしまうというものです。同時に役所や行政機関を統廃合・集中し、「安価」な費用で済まそうというやり方です。また、各都道府県市町村などでの細かな「規制」を取り払い、大企業が「もっと自由に」儲けのための活動をしやすくする狙いもあります。

 三位一体改革のねらいは「地域主権の確立」であり、地域の自己決定、自助努力、自己責任の仕組みの構築にある。一方で、国と地方を通ずる財政再建を考えれば、国と地方がともに歳出規模を大幅に削減・抑制するための努力が不可欠である。これらをともに達成していくためにも、地方が今回の改革の成果、特に、地方が自ら創意工夫する余地が拡大することを活かして、歳出の非効率を見直し、特色ある地域づくりに取り組んでいくことを期待したい。(社団法人経済同友会代表幹事 北城恪太郎「「三位一体改革」について」2003年6月18日)

 こうした財界の提言により、地方にたいする「三位一体」改革が推し進められる中で、地方財政の逼迫(ひつぱく)も、大きな圧力となっています。今、全国で学校統廃合が急ピッチで進む背景には少子化や児童・生徒数の減少という社会状況の変化もありますが、しかしそれだけではなく、この間の政府によって推進されている「三位一体改革」をはじめとする「構造改革」の中で、地方財政の悪化が進み、自治体がそれに「対処」していることも促進要因となっています。

 こうした中で、教育予算や学校も当然、「削減」の対象となります。「学校統廃合・小中一貫教育」を持ち出してきている背景には、こうした問題があるのではないでしょうか。また、こうした狙いの下で行われる「教育改革」は、同時に、子どもたちに「格差」をつくりだす「改革」でもあります。一部の子ども達の教育にはふんだんに公費をつぎこみながら、その他の子ども達の教育からはどんどんと公費を取り上げていくというもので、全体として教育費を削減していきます。京都市内でも、一部の公立学校には膨大なカネをつぎこみながら、他の学校の費用を削減しているのはその現れだと言えるでしょう。

 子どもの人数の減少で、本来は「30人学級」など、一人ひとりの子どもに行き届いた教育ができる条件が整えられるはずです。しかし、行政は、その逆を進めて、子どもの人数が減少したことを口実に「学校つぶし」を進めています。小中一貫の学校であれば、今まで「小学校2校・中学校1校」あった地域に「公立小中学校1校」で済むことになってしまいます。単純計算で費用は3分の1で済むし、全国の公立学校が3分の1にまで減ってしまいます。これは、全国の小学校が消えてしまう数に等しいのです。しかも、削減された教育費の中で、一部エリート達には重点的に公費を配分する、こうしたシステムが同時につくられようとしています。

 また、教職員定数の削減を提案する「行政改革推進法」や、「小規模校は財政的に非効率」とする財務省の「学校規模の適正化論」「公教育のコスト見直し論」が学校統廃合を強力におし進めています。

 たとえば、学校が「統合したらば・・・児童・生徒一人当たりの単価で見て、35万円の効率化が図られている」(「財政制度等審議会財政制度分科会・財政構造改革部会」における中川主計官の発言。2007.5.21)や、「2005年4月1日に統合で開校した小中221校を以前と比べると、人件費を中心として合計で約170億円効率化できた」(財務省『ファイナンス』2007.8)など、財務省関係者は学校統廃合を経費削減、財政的効率化の観点から露骨に語っているのです。



A文部科学省と中教審答申

 以前から中央教育審議会答申(第12回答申・1956.11.15)では、学校統廃合について「合併市町村における学校の統合はもとより、その他の市町村における学校の統合についても、次の要領により積極的計画的に実施する必要がある。」と述べていました。しかしそれでも、その後の実施状況をみて当時の文部省は「学校規模を重視する余り無理な学校統合を行い、地域住民等との間に紛争を生じたり、通学上著しい困難を招いたりすることは避けなければならない。また、小規模学校には教職員と児童・生徒との人間的ふれあいや個別指導の面で小規模学校としての教育上の利点も考えられるので、総合的に判断した場合、なお小規模学校として存置し充実するほうが好ましい場合もあることに留意すること」(「文部省初等中等教育局長・文部省管理局長から各都道府県教育委員会教育長へ(1973.9.27)」としていたのです。

 しかし、2007年になって財務省・財政制度等審議会は、「平成20年度予算編成の基本的考え方について」(2007.6.6)の中で、次のように述べます。「《学校規模の最適化》ここ30年間で子どもの数は約4割減少したにもかかわらず、公立小中学校の学校数は数パーセントしか減っておらず、全国の約半数の学校が11学級以下のいわゆる小規模校となっている。こうした小規模校については、教育政策・効果上の問題があり、財政上も非効率であるとの指摘が多くなされている。小規模校の統合効果については、財務省による予算執行調査において、町村部を含めた保護者の約6割は積極的な評価を行っている一方、消極的な評価は約1割に止まっているほか、教員配置等、教育政策上のメリットが認められること、さらに、生徒一人当たりのランニングコストも約3割縮減できたこと等が初めて全国規模で明らかにされた。今後は、統合・再編の推進に向け、国・都道府県・市町村の役割分担を踏まえ、地域に応じた制度設計やインセンティブの付与等についての検討を省庁横断的に進め、教育水準を維持・向上させつつ、教育にかかるコストを縮減していくことが必要である」と述べるに至りました。また同審議会の「平成21年度予算の編成等に関する建議」(2008.11.26)の中では「《学校統合の加速》児童生徒数の減少により、学校の小規模化が進んでおり、「1学年1学級」となってしまっている学校(平均1学年2学級未満)も小学校で50%、中学校で23%に上っている。学校統合は児童生徒間のいじめ問題への対応、教員の質の向上など、子ども、保護者、地方公共団体から教育環境の向上にメリットがあると歓迎されている。目標を明らかにした上で、学校統合を加速すべきである」と、さらに推進する立場を明確にしたのです。

 そして、その上に統廃合に向けた具体的な方法についても、手取り足取りの「指南」をしていきます。「小・中学校の設置運営の在り方等に関する作業部会」(2009.3.27第12回配付資料)では、「《学校の規模の標準に付いて》12学級以上18学級以下を標準とすることについては、現在も概ね妥当」として「《適正配置を進めることが困難である状況と対応》〈学校が地域の拠点としての性格を色濃く有している場合〉○地域によっては、保護者は子どもに適度な競争を経験させたい、多くの友人関係の中で育てたいという意向から統合に賛成している一方、地域住民が、地域の中に学校を残してほしいという意向から統合に反対し、意見のずれが生じる場合もある。○適正配置の検討を行うに当たり、小・中学校は地域の文化施設、精神的支柱という側面も持つことを踏まえることは大変重要なことであるが、小・中学校は義務教育のための施設であるから、子どもの学習の場としての機能を高めていくという教育論を第一として考えていかなければならない。その上で、仮に学校を統合した場合における地域住民と学校のつながりをどう維持していくかということについて、議論が行われるということが望ましいのではないか」と、予想される反対意見に対する対応策のノウハウまで示し、さらに「<教育条件の改善が見えにくい場合>○現時点で標準的な規模である学校や、小規模であることによる教育上の課題が実感されていないような学校にあっても、将来的に児童生徒数の減少が不可避である場合には、将来を見越した適正配置を検討すべきである」と、現在、小規模校でなくても将来においてその可能性があるなら、統廃合をすすめるべきだとの論を展開しているのです。

 そして、保護者や地域住民に対する対応についても言及しています。「《適正配置を進めるに当たり、特に取り組むべきこと》〈保護者や地域住民への説明や問題提起〉○学校統合は、単に複数の学校を一つにまとめるということだけでなく、新たな学校をつくることである。市町村は、保護者や地域住民に対して、財政上の利点があるから統合するというのではなく、この統合によってよりよい学校になる、夢のある学校づくりにつながっていくという道筋を見せることが必要である」と。まさに、この通りのことが全国各地で行われているわけです。

 また、小中一貫校に対しても「《その他の留意点》〈小学校と中学校の連携など〉○地域によっては、複数の小学校・中学校でのつながりを強め、教育効果を高めることをねらいとしたり、統合を機に小・中学校を同一敷地内に建て替えることなどにより、より密接な連携・接続を可能としようとしているところもある。このように、小・中学校それぞれの規模を確保するための「横」の統合だけではなく、義務教育の9年間全体を見通して、小学校と中学校の連携・接続を改善することで、一定の集団規模を確保し、教育効果を高める「縦」の統合を進めることも、一つの方策である」としています。そして、その「後押し」として、学校統廃合推進のため「少子化や地域間での人口偏在に伴う学校の小規模化が進む中、学校の適正配置を進め、教育環境を維持・向上させていくことが必要である。学校が統合され学級数が減少した場合は、教職員定数も減少することとなるが、現在は市町村合併に伴う学校統合に限って、小学校は最長5年、中学校は最長2年の期間、教員定数の減少を緩和する措置を講じている。今後は、小・中学校の適正配置に向けた市町村の取組を支援するため、町村合併に伴わない学校統廃合に対しても、教職員定数の激変緩和を講じることを検討する必要がある」(「今後の学級編制及び教職員定数の改善について(提言案)」(2010.7))と、「統合校には暫時教員加配の措置をとる」としているのです。

 こうして多くの場合、財務省主導による教育リストラ、財政効率論を表向き隠したまま、自治体・教育委員会当局は、教育効果論を前面に出して「学校統廃合」の推進を図ろうとしています。即ち、@学校の「適正規模」論、A「切磋琢磨」論、B「複式学級回避」論などを根拠に、統廃合を進めようとする従来のやり方のほかに、新しく「小中一貫校による最先端教育システムによるエリート校づくり」や「小中一貫教育」による「中1ギャップ解消」論、「9年間一貫カリキュラムによる学力向上」論、「いじめ・不登校克服」論などが振りまかれているのです。これらは、教育委員会当局の言葉だけに、時には父母・地域住民はその言説に呑み込まれてしまいそうですが、そのいずれもが、実証的にも検証されていませんし、教育論的にも根拠のないものです。

 「小中一貫教育」を使った統廃合の行政側のメリットは、保護者・地域の反対が少ないことであり、またたくさんの学校を一度に統廃合できることでもあります。今まで日本においても、また欧米においても「幼少連携」や「中高一貫」は出てきますが、「小中一貫」はほとんど出てきていません。それは、初等教育と中等教育という区別だけでなく、子どもの発達論を全く無視したものであるからです。

 


(4)学校統廃合と小中一貫教育をどう見るか(分析の視点)

 このように学校統廃合を推進する側の本音は、財政問題としての「教育リストラ」にあります。新自由主義の構造改革路線が地方財政を圧迫し、その結果として、教育や福祉を切り捨てようとするものです。また、これは「骨太の方針2006」で提言された「1万人の教員削減」のためにも、「統廃合=学校をつぶす」というのは、最も手っ取り早く確かな方法であるからです。

 ところが、統廃合の現場では、こうした「本音」はいっさい語られることがありません。すり替え論理として統廃合による「教育効果論」が持ち出され、反対運動が起きにくくさせているのです。

 こうした動きをどのように見れば良いのでしょうか。私たちは、この学校統廃合と小中一貫教育問題を考える上で、次の3つの視点が重要ではないかと考えています。

第一は、子どもの教育への影響はどうか、という視点です。学校統廃合によって、子どもの教育にどのようなプラス面があり、またマイナス面があるのかということが、具体的に検討される必要があると思います。

第二は、学校は単に子どもの教育の場にとどまらず、その地域にとって独自の重要な役割があります。その視点から見て統廃合計画がどうか、ということを具体的に検討する必要があると思います。

第三は、学校の統廃合には、それが地域の子育てや地域の存続に直結するだけに、行政が一方的に進めてはならず、徹底した住民合意を図る必要があるという視点です。この「住民合意」は、行政と一部の地域有力者が「合意」するだけの「まやかし」のものであってはいけません。「住民合意とは何か?」について、たとえば、宮城県栗原市の『広報くりはら』(2008.12)では「『住民の合意を得た状態』とは、説明会や話し合いで出された疑問や課題について、その解決策も含めて話し合いを重ね、『一定の結論』を得た(話し合いが尽くされた)状態をさす」と説明されています。

 また、現実に進行されようとしている「統廃合計画」の分析について大平勲氏(京都教育センター)は次のような15の視点を提起しています。

1.教育効果論








 
@




 
「適正規模」論
(財政制度等審議会(07.6)、学校規模の適正化(08.6)、学校規模の最適化(08.11)など)
 
・現行の「学校規模」(12〜18学級、通学距離4km 以内)はベビーブーム期のものである。
・今日的教育関心事(学力保障、いじめ、不登校、進路保 障など)と適正な学校(学級)規模が求められている。
・「教育を受ける権利」のための「適正規模」<「成果主義」をはかるための「適正規模」
A

 
「切磋琢磨」論
(競争原理に基づく新自由主義教育観)
・教育活動で「競争」は全面否定されるモノではないが、 「競争万能」ではない。
・自己肯定感の衰退→「負けてなにくそ」<「もうあかん」
B 「複式解消」論 ・むしろ「複式学級編制基準」を改善すべきである。
2.教育条件論


 
C
 
学校建築
 
・安全上の問題点はないか。手どもの発達に沿った教育活動に適しているか。 ※耐震工事や改築は無駄遣い?
D
 
通学
 
・距離は近い方がよい(自明)。
・通学路の安全。
3「地域づくり」論




 
E

 
地域の中の学校

 
・地域の中に学校があることの弊害はない。
・学校は地域のセンター的存在(人間の“原風景”のひと つ)
F
 
学区を単位とした自治意織 ・地域に根ざした教育
・地域づくりやイベント開催
G まちづくりと校舎 ・環境や美観を意識したまちづくりと校舎設計
H 跡地問題 ・統合校の「跡地」活用で「財源確保」?
4.小中一貫は「おいしいアメ」か?




 
    ・統廃合推進の「露払い」、過疎地での適用はあり得る。
I

 
学校教育法に基づかない

 
・政府の「構造改革特区」か「文科省の研究指定」→エリ ート養成
・(「中高一貫校」は学校教育法に定めあり)
J
 
検証
 
・教育的には検証不十分
・小中一貫の教育課程などは検討に値する
K
 
「中1ギャップの解消」論 ・不登校改善?
・不登校の要因はどこに?
5.「住民合意」論









 
L


 
「住民合意」の宣伝


 
・自治連合会やPTA連合会が「可」とすれば「住民合意」 になるのか?
・行政の姑息な手法:裏で「圧力」を加え、表で「要望に 応える」と宣伝。
M



 
「住民合意」とは何か?



 
※ 宮城県栗原市の「広報くりはら」より(2008.12)
「住民の合意を得た状態」とは、説明会や話し合いで出された疑問や課題について、その解決策も含めて話し合いを重ね、「一定の結論」を得た(話し合いが尽くされた)状態をさす。
N

 
「やらせ住民合意」

 
・(PTAや住民など)構成員への説明会も開かず、意見を求めず、自治連合会の「要望」に応える「やらせ住民合意」。結果をビラで周知するなど「何をか言わん」である。
*京都集会第二回実行委員会(2010.6.22)における大平勲氏の講演レジメより編集
 


(5)学校統廃合と小中一貫教育についての検討すべき論点

【学校統廃合に関して】
●小規模校弊害 論









 











 
 小規模校は財政的に非効率だから統廃合やむなしでは、特色のある教育を展開し、地域に根ざして存在してきた歴史ある学校をあまりにも軽視しすぎています。学んでいる子どもをはじめ、保護者、教職員の不安をあおるようなやり方ではなく、小規模校に学ぶ子どもたちや勤務する教職員、地域の保護者・住民の声を十分ふまえた議論が必要です。学校での丁寧な教育指導や地域ぐるみの子育てが可能で、家庭との連携が容易、通学に負担がかからないなど、小規模校ならでは良さを共有することが大切です。
 また、学校統廃合を考える上で大切なのは、すべての子どもたちに教育を受ける権利を保障する(憲法第26条)ことであり、地域における学校の役割を再確認し、地域の再生やまちづくり、まちの将来展望と結んだ議論を大いにすすめながら、@小規模校・へき地校の教育条件や教育活動に対する支援、A「へき地学校に勤務する教員の研修について、十分な研修の機会保障と研修旅費等の必要な経費の確保」(へき地教育振興法第4条3項)、B複式学級の解消や学級編制基準の改善、を行うべきなのです。

●適正規模論













 














 
  小学校の学級数を「12学級以上18学級以下を標準とする」(「学校教育法施行規則」第41条)や「適正な学校規模の条件」として「学級数がおおむね12学級から18学級までであること」(「義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律施行令」第4条)という文言を理由にするのが「適正規模」論です。
 しかし、これらは学校を建築する際に施設としての学校が基準とすべきことであり、その数字に教育的な根拠はありません。全国的にも11学級以下の学校は50%程度あります。だからこそ、「ただし、地域の実態その他により特別の事情のあるときは、この限りでない」(同上「施行規則」第41条)とただし書きがされているのです。そもそも「12学級から18学級」は50年前のベビーブーム期に決まった数字であり、それをそのまま今日に当てはめること自体が非常識でもあります。当時の規則でさえ、地域によっては小さな学校もあり得ることを認めているのです。子どもの教育という点では、子ども同士あるいは教師との人間的なつながりの深さ、少人数だからこそできる温かみのある教育活動など、小規模な学校のよさは広く認められています。国際的にも、世界保健機関が「教育機関は小さくなくてはならない。生徒百名を上回らない規模」が好ましいと指摘するなど、小さいサイズの学校が志向されています。

●「切磋琢磨」 論














 
















 
 「切磋琢磨」論は"友達と競争しないと自分を向上させることができない"とする教育観です。しかし、統廃合で誕生する、せいぜい1クラス40名、あるいは1学年数クラスで競争することに、そもそも意味はあるのでしょうか。競争は "勝つ"ことが自信になることもありますが、「切磋琢磨」論は“負けた”ことが「悔しい、なにくそ、頑張るぞ」につながることを期待しますが“負けた”ことでやる気を失い、あきらめにつながることも多くあるのです。
 一人ひとりが自分の力を伸ばすためには、やる気を持って学習に取り組む必要があります。そして、やる気を高めるためには、努力そのものと努力の結果を認め、励ますことが大切なのです。そのためには学習を他の子との競争であると考えない学習観を教師が持ち、その子の努力とその結果を受け止めることが必要です。努力してやれたこと、その努力が正当に評価されたことを通して、子ども自身が肯定的な自己像を強める方向で丁寧に指導する必要があるのです。適切な教育指導によって達成できる目標を一人ひとりが持ち、それに向かって努力することは大いに奨励されることです。これができるのは少人数のクラスであり、余裕のある授業です。教師が到達度を分析し、一人ひとりの発達の必要に応じた課題を創造し、与え、評価するためには、クラスサイズが小さく、しかも教師の教育実践上の専門性と自由度が大きいことが必要条件とならざるを得ません。

●複式学級解消 論















 

















 
 「複式学級の回避」については現行の法令の枠内で努力すべきことがあります。「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」は、@学級編制は、法律に基づいて都道府県が定める、Aただし、都道府県教育委員会は、特に必要な場合は、法律の標準を下回る数を一学級の児童又は生徒の数の基準として定めることができる、B市町村教育委員会は、学級編制について、都道府県教育委員会と協議し、その同意を得なければならない、としています。
 また「小学校設置基準」では「小学校の学級は、同学年の児童で編制する」が「特別の事情があるときは、数学年の児童を一学級に編制することができる」(第5条)と複式学級を認め、「へき地教育振興法」では「都道府県は、へき地学校に勤務する教員及び職員の定員の決定について特別の考慮を払わなければならない」としているのです。
 したがって、こうした法律や規則を地方自治の観点から活かすならば、@都道府県は「複式学級編制基準」を改善し、小学校で12名以下、中学校で8名以下でも単式学級が維持できるよう教員配置の改善を行うこと、学級編制の特例措置を認めることや複式となる学校に加配教員を配置すること、A各市町村は、都道府県教委に「複式学級編制基準」を改善するよう求めること、学級編制にあたって基準を下回る編制について協議すること、B市町村独自に複式講師や補助教員の採用等を行うこと、が求められるのです。

●学校と地域(ま ちづくりと) の関係






 









 
 学校は、運動会やお祭り、文化祭などをふくめて、地域の拠点としての役割も担っています。子どもが少なくなったからといって安易に統廃合をすすめれば、集落や地域のコミュニティーの崩壊、地域社会の荒廃という取り返しのつかない事態を招きかねません。
 地域の将来を考えるならば、若者が戻ってくる、子育てができる地域づくりのためにも学校の存続は地域の命運を握っていると言えます。また全国的に統廃合対象校がある地域の多くは、農林業や漁業、水の涵養などを通じて都市住民の生活を支え、国土を保全する役割を果たしている地域でもあります。したがって、地域の生活が成り立つよう一般行政による産業の振興や暮らしに対する具体的な援助こそが本来必要なのです。

●通学距離・子 どもの安全






 








 
 学校統廃合によって「廃校」対象となる地域の子ども達は、通学距離が遠くなります。京都市東山区北部では、広域統廃合のため、新しい統合校の校区は、南北は三条通から七条通まで、東西は東山山麓から鴨川に囲まれたとてつもなく広域で、人口・交通量共に多い市街地の中にあります。登下校時の子どもの安全や、小学1、2年生には心身の疲労が懸念されます。そして、通学路の大人と子どもの関係は薄くなり、地域住民の見守り効果も薄まり、学校を中心として親同士の交流も困難になります。「番組小学校」以来、親子代々同じ小学校に学んだことによる地域の絆とまちづくりの伝統が破壊されるし、分校舎予定地の六原小学校は交通量の多い道を挟み、移動時の安全対策はどうか等、父母にとって不安が尽きません。



【小中一貫教育に関して】
●小中一貫教育 カリキュラム



 





 
 小中一貫教育カリキュラムそれ自身は検討に値するとしても、現在進められているものに対しては「早い段階からの習熟度別学習の導入」「児童生徒の興味・関心に応じた「基礎」と「活用」が言われるが、事実上学力テストに合わせたものとなっている」「基礎から活用ではなく、基礎と活用を分けている」「小学校から経済活動学習が導入され、起業家精神の育成が売りにされている」「小学校からの早期英語導入」などの問題点が指摘されており、総じて、財界が求める人材育成の視点が重視されています。

●「中一ギャッ プ」の解消





















 























 
 「中一ギャップ」とは"小学校から中学校に進学したときに、学習内容や生活リズムの変化になじむことができず、いじめが増加したり不登校になったりする現象"(Yahoo!辞書)だとされています。小学校6年生から中学校1年生への移行段階において、新入生はカリキュラムや授業形態の違い、学習内容の程度の違い、生活面では新しい学級・学年や部活の人間関係など、多くのストレスや不安を持つことになります。また、学級担任制から教科担任制に切り替わり、中学校教師の子ども観や指導観も小学校教師とは大きく異なります。これらを小中学校間にある「段差」であり、「障壁」であると見たとき、「中一ギャップ」は適応上の問題要因とされ、たとえば不登校の原因になるので取り除かれるべきであるとされ、小中一貫教育が望ましい理由として、よく主張されます。
 しかし、2009年3月に発表された国の「高校生活及び中学校生活に関するアンケート調査(高等学校中途退学者及び中学校不登校生徒の緊急調査)」では、中学生が「最初に学校を休み始めたきっかけ」は「友人関係(45.9%)」「勉強の関係(34.9%)」「先生との関係(24.8%)」「入学や転校の時周りになじめなかった(21.1%)」「クラブ・部活動(17.4%)」「親子の関係(13.8%)」「学校のきまり(11.0%)」となっています。要因に特に目新しいものはありません。これらが「ギャップ」としてことさらに注目されるのは、今日の子どもにそれを乗り越えていく力が育っていないからでしょう。もちろん、競争主義的な教育と管理主義的な学校のあり方や教科内容の違い、さらには教師の子ども観や指導観が「ギャップ」の要因であるとする見方もあります。そうであるならば、こうした要因を解決せずして小中を一体化することは、混沌とした問題状況に9年間、子どもたちを落とし込むことになるのではないでしょうか?中学校に問題があるならば、中学校はどうあるべきか、どう変わるべきか?その答えも探さずに小中を合体すれば問題が解決するとするのは論点ずらしであり、また幻想でしかありません。

●小中一貫教育 効果論



 





 
 その他、小中一貫教育に対しては「@学年進行に伴う学力格差拡大への対応ができる」「A生徒指導上の課題への対応ができる」「B学校のダウンサイジング(装置やシステムなどを小型化、軽量化、小規模化すること)への対応ができる」「C教育特別区においては公立学校の多様化をめざす教育改革と自治体としての特徴を持たせようとする教育政策に対応出来る」などの効果論が流布されています。それら一つ一つについても丁寧な検討が必要と言えるでしょう。

 
小中一貫教育を全市導入する自治体     (山本由美『小中一貫教育を検証する』花伝社2010p6より)
実施時期 自治体 対象小学校数 対象中学校数
2005年
 
大阪府寝屋川市
(英語特区)
      24
 
      12
 
2006年 東京都品川区       37       15
2007年 熊本県宇土市        7        3
2008年
 
宮崎県日向市
栃木県日光市
      15
      11
       6
       8
2009年




 
鹿児島県薩摩川内市
千葉県鴨川市
東京都三鷹市
宮崎県小林市
宮崎県日南市
大分県佐伯市
      46
      10
      15
      11
      17
      31
      16
       4
       7
       8
      10
      14
2010年
 
埼玉県八潮市
島根県松江市
      10
      34
       5
      15
2011年


 
新潟県三条市
京都市
大阪市
兵庫県神戸市
      23
     181
     299
     163
       9
      76
     130
      86
2012年


 
京都府宇治市
神奈川県横浜市
栃木県宇都宮市
青森県むつ市
      22
     346
      68
      15
       9
     145
      25
       9
2013年 福岡県宗像市       15        7
時期不明

 
兵庫県姫路市
大阪府堺市
大阪府門真市
      71
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【施設一体型小中一貫校に関して】
●「小中一貫校」 設置の目的






 








 
 「中1ギャップの解消」「学力向上」「いじめ・不登校の克服」などが唱われますが、とどのつまり、統廃合を進めるための「付加価値」というのが的を射た指摘ではないでしょうか。そもそも高校進学率が97%になろうという今日、小学校6年間と中学校3年間だけを視野に入れた制度(構想)は、恐ろしく貧困であるとしか言いようがありません。
 また、小中一貫校は、子どもの成長や教育内容、指導方法などについて教育学的に検討し、構想されたものとは言えません。先行する中高一貫や地域全体の教育との関係も不明なままです。むしろ、受験を視野に入れた早期選別と「エリート校」を目指すことが設置目的ではないかと言われています。

●法的根拠





 






 
 中学校(教育)と高校(教育)を一体化する「中高一貫教育」は学校教育法に定めがあり、1998年度の学校教育法改訂から全国に広まりました。一方、小中一貫教育は法律に根拠を持つ公式な制度ではありません。文部科学省の「研究開発学校」や政府の「構造改革特区」といった特例を使うか、あるいは実際の運用として実施されているものです。その限りで、規制緩和に乗った、曖昧な制度と言えますが、今日、官制の「小中一貫教育シンポジウム」などで「制度に法的根拠を与えるように」との声などが出されていることに対しては注意が必要です。

●品川・三鷹の ケースの問題 点










 













 
 佐貫浩氏(法政大学)は問題点を6点挙げています。
@公教育の差異化
A性急な先取りカリキュラム(漢字の前倒しなど)
B教科学習に混乱(区独自のカリキュラム)
C子どもが生活し成長する空間が激変(教科担任制の矛盾・中学生 の部活で占領され るグランド)
D「市民科」の問題:マニュアル化された道徳だ。実際に子どもが 抱えている問題 とはかかわらない。
E子どもの「荒れ」
 選択制によるものだ。バラバラの学校に進学し、集団がなりたたない。小中一貫と言いながら、中学に進学するのは2割という東京の学校もある。
佐貫氏は「6・3制より良いという研究は聞いたことがない」「9年齢も違う子どもが一緒に生活するのが良いというケースは一般的な学校制度では聞いたことがない」との指摘もしています。

●小1〜中3ま でを同一施設 に入れる無理







 










 
 完全な小中一貫校であれば、同一敷地内に幼児期の課題を残している小学校1年生から、思春期に突入し第二次性徴も顕著な中学3年生までが一緒に生活することになります。男子では、平均身長116.6p、平均体重21.2sの小学校1年生から、165.7p、54.8sの中学校3年生(京都府「平成20年度学校保健統計調査」)までが走り回ることになります。
「日本スポーツ振興センター」が災害共済給付を行った学校事故の分析によれば、中学校では「人との衝突」が原因の5位、8.9%あり(1位は、通常の動作・運動中のケガ、2位がケンカ等による負傷)、文部科学省も運動場や建物内で子どもが走ることを前提に対策をたてています(「学校施設における事故防止の留意点について」2009.3)。体格が違う小学生と中学生を狭い校地や校舎に「収容」することに、そもそも無理があるのです。

●無理な建築計 画


 




 
 京都市東山区北部統合校の校舎は地域の建築制限により地上三階地下二階となり、地下二階に体育館と武道場、地下一階に火を扱う給食室や湧水の恐れのある中庭を設けています。火災や洪水時の子どもの安全はどうなるのでしょうか。また地上の教室は廊下を挟んで対面式であり、授業時の静かさが保障できると言えるのでしょうか。このように「詰め込む」あまり、各地で無理な建築計画が行われています。

●教育リストラ



 




 
 京都市東山区北部の例では、現在の各学校の学級の生徒数は20名またはそれ以下(先進国では一学級20名が常識)です。それが統合により一学級30〜40名になります。逆に教員数は全体で30名程減となるのです(「教育予算削減の効果」大?)。これで従来校で行われてきた、少人数学級での「一人一人へのきめこまやかな」指導の良さは、新設校で引き継がれるのでしょうか。

 


(6)運動の方向性と展望

 最後に、現在進められている学校統廃合の動きに対して、私たちはどのような運動の方向性を展望すれば良いのかを考えて見たいと思います。


@対抗軸を考え、提起していく

 第一は、上から進められている学校統廃合に対して、父母・住民が対抗軸を考えて行くという点です。学校統廃合によって一番ダメージを受けるのは子ども達です。田中孝彦氏・山本由美氏などの首都圏における調査では「子どもが荒れる」「地域がだめになる」と言われています。反対運動は「地域のエゴ」などと言われることがありますが、「子どものためにダメなのだ」ということを検証しなければなりません。小学校と中学校は文化が違いますが、小中一貫校ではその摺り合わせもできていません。子どもは混乱しますが、解決してくれる大人がまわりにいないため、孤立感を感じて荒れると言います。多数の学校の一斉統合などとなると、各学校の文化は消え、ダメージは計り知れません。子どもや学校は、地域から切り離されデラシネ(根無し草)となります。まず第一に子どもにどのような影響を与えるのかの検証が必要であると言えるでしょう。また、行政側は「学力向上」を前面に出してきていますが、本当に必要な学力が身につくのか、使い捨ての学力、使い捨てのカリキュラムになっていないか、検証し、対案を提示していく必要があります。

 また、学校統廃合が「教育リストラ」の延長上に出てきているものであるとの本質を深くつかむと共に「教育条件整備」「父母負担の軽減」などを提起していく取り組みも重要です。

 そして、住民側の「まちづくり」プランが必要です。新しい「まちづくり」プランの中に学校をどう位置づけるのか、そうした提起も必要になってくるのではないでしょうか。将来的な産業構造の展望も含めた地域づくり、まちづくりのプランを、住民参加のもとで進めて行く必要がありますし、またその中で望ましい学校の在り方も位置づけられなければなりません。たとえ極端な少子化でやむなく統廃合する場合でも、地域住民にとって望ましい学校像を議論し、模索していく場を保障させることが重要です。そして将来の地域の担い手である子ども達の成長・発達にどのように関わっていくのかが模索されて行く必要があるのではないでしょうか。


A情報を公開させ、住民が共有していく

 第二は、学校統廃合に関して、教職員・父母・地域住民の間で、情報の共有化を図っていくという点です。多くの地方では、行政の側から一方的に「統廃合」が強制され、行政に都合の良い「論」が公費を使って流布されています。また京都市などのように地域住民の中の一部有力者を巻きこんだ、カッコ付きの「住民合意」で進めているところもあります。これらに対して、教職員・父母・地域住民の側から説明会を開催させるなど、行政に対して住民に情報を公開させる取り組みを強め、同時に議論の場を保障させて、学校統廃合や小中一貫教育の実態や問題点・課題が広く共有されるように運動を進めていく必要があります。

 学校統廃合は、子どもの教育と地域社会の存続の双方にかかわります。それだけに、子どもを含む住民で統廃合の是非についてよく話し合い、合意を尊重することが不可欠なのです。


B「子どもと教育、地域を守る」住民の共同をどうつくり出すか

 第三に、こうした統廃合に関する取り組みを通して「子どもと教育を守る」地域住民の共同を広く発展させる必要があります。「統廃合されてしまったら運動はそれで終わり」というわけではありません。もし学校統廃合がされてしまったとしても、新しい学校の中で、子ども達は以前にも増してさままざまな矛盾・困難にぶつかっていくことが予想されます。また地域にとっては、学校跡地をどのように利用させるのかなどという問題も重要です。学校統廃合に関する取り組みが、今後、多くの教職員・父母・地域住民の共同をつくりだし、「子どもと教育、地域を守る」運動へと広がっていくことを期待したいものです。

 京都府宇治市の「統廃合を考える会」ではニュースの発行を通して、教職員と保護者・地域との新しい共同が模索されています。こうした取り組みを通して、さらに「地域のまちづくりの力」や「子どもを育てる地域の教育力」を育てて行く必要があります。そして教育についての真の意味での「住民合意」を形成していく必要があるのではないでしょうか。


 以上、実行委員会からの基調提案とします。この基調提案を一つの参考にして戴きながら、本集会での交流が活発に行われ、実りある集会となり、今後全国で、学校統廃合と小中一貫教育の問題について、交流が広がり、深まることを期待します。


                                   【終わり】



「学校統廃合と小中一貫教育全国交流京都集会」のご案内
2010年9月5日 京都市東山区 華頂短期大学で開催します



「学校統廃合と小中一貫教育全国交流京都集会」開催に向けて
2010年7月20日 同開催実行委員会事務局員


学校統廃合と小中一貫教育全国交流京都集会」の報告
2010年9月5日(日)全国から120名の参加があり、交流を深めました。


「学校統廃合と小中一貫教育全国交流京都集会」基調提案(全文)

2010.9.5 学校統廃合と小中一貫教育全国交流京都集会実行委員会

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