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京都教育センター年報 第19号(2006年度)
第二部 研究集会 第二分科会報告

共同と信頼を築く生活指導実践を構築する(要旨)


          築山 崇(生活指導研究会)
第37回 京都教育センター研究集会
日時 2007年1月28日(日)10:00〜16:00

パート1.今日的生活指導をどう構想するか−「社会的排除」の視点を踏まえて
     報告・問題提起            築山 崇(生活指導研究会)
パート2.「いじめ・自殺」問題集中討議
  @最近の自殺事件の分析と「いじめ問題」の解明(生活指導研究会 資料紹介)
  A京都における学校現場の状況、教組を中心とした取り組みについて
   ・「いじめ」問題をめぐる市教組の取り組み 
   ・「京教組・府内各教組での取り組み、地域の状況など」
  B現場からの報告
     ・いじめ問題の具体的指導をめぐって                   
   ・いじめ問題〜中学校の現場より〜 
 【運営担当】 築山崇 中西潔 深澤司 松岡寛


T 分科会報告の概要

 今回の生活指導分科会は、「共同と信頼を築く生活指導実践を構築する−『社会的排除』の視点を踏まえて」をテーマに開催された。

 今回の分科会設定は、前回から位置づけた「社会的排除」の視点を踏まえて、格差の拡大・固定化が進むばかりでなく、その正当化を図るような論調がある中で、生活指導実践・理論のあらたな構築を目指している。

 また、2006年秋期の「いじめ・自殺事件」の相次ぐ報道によって、「いじめ」問題があらためて社会問題化したかのような観があるが、事実の冷静な分析にもとづく正確な議論が必要と思われることから、「いじめ・自殺問題集中討議」の場としても、今回の分科会を位置づけることにした。

 「社会的排除」の問題については、生活指導研究会事務局の築山から問題提起を行い、学校教育現場、地域の状況などについて、参加者によるフリーディスカッションを行った。そのあと、「いじめ・自殺問題集中討議」では、生活指導研究会の浅井定雄氏が作成中の資料(いじめ問題をめぐる今日的状況と課題)を参照しながら、京都府生活指導研究協議会会員で京都市立中学校教員の谷尻治氏、京都市教組の宮下直樹、松岡寛の両氏、京教組の深澤司教文部長、生活指導研究会会員で宇治市の中学校教員の北村彰氏から、レポート報告を受けて議論した。それぞれの報告・議論の概要は以下の通りである。


1.「社会的排除」の視点から見た、今日の社会・教育の状況について

(1)築山報告では、「排除の力」に抗して「自律と自立」を実現する生活指導実践・理論の探求というテーマのもとに、@子どものアイデンティティ形成A抑圧・排除されている他者との協同的・組織的な活動に取り組むことによる自治の力の形成B地域づくり活動における子どもと大人の協同の3点の課題が提起された。(詳しくは、生活指導研究会の活動報告参照)報告を受けての議論で出されたおもな論点は、次のような内容である。

・かつての「学級崩壊」が問題となった時期と比べると、「崩壊」よりも「孤立している子」「排除されているというか、ずっと“外側”にいる子」などの存在が気になる。
・保護者の状況を見ると、明日に対する見通しが立たなくなっている状況がうかがえ、就学援助がクラスの4割超えるという大変な状況があるが、困難な子ども・家庭の状況に教育や福祉の手立てが届かなくなっているように感じる。
・「学級崩壊」的状況から子どもの状況が一定落ち着いてくると、今度は「研究に継ぐ研究」で、職場で子どものことを話し合うことがむずかしくなっている状況がある。今回は、少し一歩下がって(冷静に)考えてみる機会を求めてこの会に参加した。
・「いじめ」問題を追い詰めていくと、子どもがばらばらになる。つまり、「いじめ」を発生を防ぐことが、子ども相互の関係を希薄にする結果を招いてしまうという視点が必要である。
・「いじめ自己点検シート」など、行政による各種の調査が行われているが、「いじめ」として報告するか、「いやがらせ」として報告するか、暴力事件などもどこまで報告事例にふくめるかに幅があり、そのような曖昧さを含んだ行政資料はあてにならない。既に指摘されているように、報告が学校やここの教員の評価に連動するような構造が、事態の正確な把握と問題解決を困難にしている。

 このほかに、数十年前に自らいじめに会って苦しみつつ、それをばねに勉学に励んだという経験を紹介された参加者からは、教職員組合の運動が「いじめ」をはじめ教育問題の一員となっているような攻撃があるが、組合活動に熱心な先生が子供との間に確かな信頼関係を築いていたという体験を交えて、組合活動・教育研究活動への期待と激励の声が寄せられた。

  雇用や医療・福祉など社会保障制度の後退が、生活困窮者を社会から排除する結果となっている状況は、学校や子どもたちの世界には、どのように表れているのか、社会全体における連帯と協同の取り組みと、学校における子どもたちの集団づくり・自治活動の取り組みを関係づけながらそれぞれを発展させていく構造を探っていくことが、今後の基本課題と思われる。


2.「いじめ・自殺問題」集中討議

 各報告のタイトル・おもな項目は以下の通り。

(1)最近の自殺事件の分析と「いじめ問題」の解明(生活指導研究会 浅井定雄氏作成の資料紹介)

  本資料の前書きの部分で歯、次のように述べられており、この「マクロな視点では大きな変化は見られないのではないか」という指摘は、分科会参加の現場教員の理解と一致していた。

 (統計に一定の信頼性を持つ限り)「自殺」の数量的な面では、「漸増加」傾向にあるものの、マクロ的にはそう大きな変化はみられないのではないかと考えられる。

 ただ「いじめ」については、・・・子どもの「荒れ」「暴力」が広がり、相当数増加しているのではないかと推測される。


(2)京都における学校現場の状況、教組を中心とした取り組みについて

@「いじめ」問題をめぐる市教組の取り組み(松岡 寛氏 他)

  「今こそ人間的尊厳を守る教育を=多発するいじめ問題をめぐり、市教組は訴えます!」(2006年11月8日)を踏まえて 、本報告では、「訴え」を出すにあっての議論の中では、訴え文全体のトーンが、社会的背景などをもっと前面に出すべきではないかという意見もあったが、一番のトーンは、「いじめを許さない」というトーンになった経過などが紹介され、保護者や市民とともに問題解決を目指す方向の重要性などについて意見が交わされた。

A「京教組・府内各教組での取り組み、地域の状況など」(深澤 司氏)

 本報告では、「いじめ」、生徒指導をめぐる京都府の教育行政・現場の状況及び京教組、府内各教組のとりくみついて、多くの資料をもとに紹介された。そのなかで、京都府における「いじめ」問題への行政の対応の基本は、2006年11月1日付の文科省通知「学校におけるいじめ問題に対する基本的認識と取り組みのポイント」が基本となっており、国立教育政策研究所の「生徒指導体制のあり方についての調査研究報告書」(2006.5)で打ち出されている「ゼロトレランス(寛容度ゼロ)方式」「プログレッシブディシプリン(段階的指導)」は、必ずしも前面に出ているとは思われず、内容的にも評価できるものではないと思う。

Bいじめ問題の具体的指導をめぐって(京都府生活指導研究協議会 谷尻 治 )

 谷尻氏からは、いじめ問題の具体的な指導として、2年前の中学1年生担当時に女子グループで起きた事件を事例に報告された。問題の解決には「学年教師の協同」と、「丁寧な聞き取り」そして、「いじめている子にも共感的に」が鍵であることが、具体的な実践経過をもとに、説得力をもって語られた。 谷尻氏の「いじめを徹底的に指導していくと、現象としてはなくせる。しかし、子ども同士の関係がなくなる。・・・教師のところに、『訴え』がすべてくる。関係性ができて、『あかんことはあかん』と言える。教科の授業、総合的学習の時間のなかで、意識的に人間関係をつくっていくことはできる。『共同で作る総合学習』(全生研の近畿のグループによる出版)に書いた。教育再生会議の提言には、このような視点はない。」という問題提起は重要である。 また、「教育再生会議」の緊急提言を中学3年生の生徒が読んで、率直な感想を書いた資料が紹介され、生徒の生の声から、彼ら(教育再生会議)の考えていることがいかに現実の生徒の世界から遊離しているかがあきらかにされた。

Cいじめ問題〜中学校の現場より(生活指導研究会・東宇治中学校 北村 彰)

 北村氏からは、@最近の「いじめ問題」の事例よりA学校での対処と指導、B子どもの心に何が起こっているのかC保護者との連携の困難性と教育行政の政策的対応の問題点などの、5点にわたって報告された。報告では、勤務校の教育相談活動の体制や生徒保護者の実態・意識を踏まえた取り組みの重要性などについて提起され、実態の更に詳細な検討の必要性と現在の行政の対応の問題性などが明らかになった。 北村氏の報告の中で、最近の「いじめ」の特徴として、インターネットのホームページへの書き込みや、匿名のメールによる個人攻撃の事例が紹介され、この点はあらためて参加者の重要な共通認識となった。また、保護者との相互理解、連携の困難さなどにもふれられ、「学校・教員を不安にさらすような制度で、学校はよくならない。(こんなときだからこそ)子どもから視点をはずさずにやっていきたい」という思いは、全体的な討論の基調となった。


 分科会での報告・討論の概要は以上であるが、報告内容についての質疑は多岐にわたり、また、全体的な討論では、「抑圧・排除」「孤立」といった問題状況をめぐって、実践のあらたた方向を探る提起もなされているが、それらの議論は、今後の生活指導研究会の例会へ引き継いでいくことが確認された。

 なお、分科会参加者は、13名、小・中学校現場(公立・私立/市内・府北部・南部)、教組、地域で長年教育運動に携わっている市民など多彩で、充実した分科会内容となった。多忙な中、また期日が迫ったもとでご協力いただいた運営委員のみなさん、参加者各位にこの場を借りて感謝申し上げます。
 「京都教育センター年報(19号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(19号)」冊子をごらんください。
2007年3月
京都教育センター
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