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青年教師のための お助け「玉手箱」 2

「「教科指導」実践「玉手箱」
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六年生のマット運動--側転を含む連続技から音楽マットへ

            土肥 照典(京都市立西京極小学校)


(2009年10月10日)



六年三組の子どもたち

 私の担任する六年三組の子どもたちは次のような特徴を示している。

 授業では真面目に取り組むことができ、課題に対してしっかりと向き合い考えることができる。学習・行事など自分たちが中心となり進めていきたいという思いを強くもっており、課題にかける時間配分など、授業について子どもと相談する機会が増えてきた。

 しかし、発表することができない消極的な子どもも多く、男女を意識したり、グループで協力する場面では逃避的な行動を取る児童もみられる。


教材を通してこんな力を育てたい

 今回の授業では、「側方倒立回転(以下「側転」とする)」を全員の共通の課題とし、それに自分のできる技を組み合わせて連続技をつくり、グループで音楽に合わせての創作マットに発展させようと考えた。

 側転は中学年でも習得可能な運動であり比較的できるようになりやすいこと、逆さまになりながら腕で支え回転するという非日常的な動きに面白さがあること、ロンダートなどへの発展もしやすいこと、連続技へ組み込むことで演技に高さがでて出来栄えがかっこよくなることから高学年の学習であっても取り上げるべき価値があり、得意な子も苦手な子もともに学習していけると考えたからである。


アンケート結果

 授業に入る前に、アンケートを実施した。自分ができる技と、マット運動に対して思うことを自由に記述させた。

 その結果、楽しみ・おもしろい・できなかった技ができる達成感がある・やりたいなどの前向きな思いをもっている児童は十六名であった。 一方、こわい・きらい・できない・むずかしい・あまり好きではないなどの記述がみられた児童は十四名であった。

 運動が苦手で体育嫌いなFさん・問題をかかえたTさんを何とかしたい。できてうれしかった・仲間とのかかわりが楽しかったと感じさせたいと考えた。


授業のポイントと児童の変容の様子

側転への道《一時間目》

 オリエンテーションでは、グループ分け、リーダー・副リーダー決定、ねこちゃん体操を準備運動として行うことやマットの並べ方など約束事の確認をした。グループは、男女混合・能力別・マットに向かう思いなどを参考にした。教師があらかじめ決めておいたものを発表した。

《二時間目》

 グループで協力して手形と足型を使い、側転の手と足の順番と向きがどうなっているのかを調べた。各グループに一人、側転ができるメンバーがおり、その演技の手と足の跡を観察した。

  手と足の向きや着地する順番が自分が思っていたものと違った。今までぼんやりとしか意識していなかった動きがはっきりしたとワークシートに記述した児童が見られた。

 さらに自分の今の時点での側転についても調査した。手と足が直線になるようにしていくことがきれいな側転につながっていくことを理解することができた。これまで側転にチャレンジしたことのなかった児童には,友達の手と足の跡をなぞることで動きの感覚をつかませた。

 大きく踏み込み、腕で支持をする感覚をつかむためにゴムを使った練習をした。ゴムひもをマットを横切るよう友達にもってもらい、それを越えて手をついて側転をする。最初は膝くらいの高さから始めた。さらに足・腰をのばすために、腰・お腹・胸とだんだん高くしていく。低いところから始めたので多くの児童が怖がらずに挑戦した。

K「足の向きがわかりました。」
F「うまくできたところは特にない。しいていえば準備と準備運動。」
  「うまくできたところは何もありません。できなかったことは全部。」
TB「うまくできたところはありませんでした。  足を上げるのができませんでした。」

《三時間目》

 腕で支持する感覚をつかむためにマットの中央辺りに手をついて腰を上げてマットを飛び越える「川とび」を取り入れた。

 前時に引き続きゴムの練習をした。肩くらいの高さを越えられるようになったら、側転をして足でゴムをひっかける、肩・頭・最後は万歳をした手に合わせた高さでできることを目指した。この練習をすることで腰と足の伸ばしに意識が集中し、足・腰の伸びた側転ができるようになった児童がみられた。

N「こしが上がってきた。楽しかったです。最高で肩までいきました。」
TS「ゴムでやったとき,ひざの所ぐらいのゴムをとべてよかったです。」
M「足をたかくあげるとまっすぐになった。(自分の体か,手と足の跡かは?)」
F「ゴム楽しい。でもやっぱきらい。」

《四時間目》

 休憩時間等に、自分のできる技と側転を組み合わせた連続技の流れを考えさせ、ワークシートに記述させておいた。連続技の練習をした。

 グループでの練習に積極的に練習できなかった児童が女子で六人見られた。側転の居残り練習をしようと声をかけ、授業の後に集めて練習をした。その中のHは、両足をそろえて着地して倒れこんでしまっていた。「最初に着地した足で少しがまんしよう」とアドバイスをすると片足ずつ立って着地ができるようになった。Hは四回ほど繰り返していくと腰も高くなりみるみる上達した。Hの上達を見て、苦手意識をもっていた二人の女子児童TSとTBも積極的に練習し、足は伸びきらないものの腕で支持する時間の長い側転になってきた。Fは、最後に練習をした。顎を引いて腕支持の姿勢になるためにくずれてしまう。ねこちゃん体操の「ハッ」の形で目線を手の指の少し前にすることをアドバイスした。Tは練習できなかった。

H「そくてんが少しできた。」
TS「そく転ができるようになりました。」
TB「そく転ができました。ゴムの高さを上げるとできにくくなってしまいます。」
F「全部難しい。」
T「わかったことは…足をあげる??」

《五時間目》

 H・TS・TBの三人は前時をきっかけにグループでの練習に積極的になった。とくにTBは自分で一枚マットを設置して、何度も側転の練習を繰り返していた。TB・TSはそれぞれグループのリーダーと副リーダーであったが、この時間から率先して練習し、話し合いのリーダーシップをとっていった。

 連続技は三つの技をつなげるようにした。側転での着地がうまくいかないために次の動作が遅くなることや技の組み合わせに問題があることから難しいと感じている児童がみられた。

H「そくてんができた。」
TS「そく転がうまくなった。」
TB「そく転が上手くできました。」
F「全部難しい。」
T「わかったことは…足をあげる??」

[「音楽マット」の展開は略]


実践を通して

 授業の前半では、腰・足の伸びたきれいな側転ができた子どもは四人、腰は伸びているが足が曲がっているなどの側転は五人であったが,授業後は,きれいな側転が十二人に、まだ修正点のある側転は十五人になった。

 授業を始める前まではマット運動に対して苦手意識をもっていた子どもの記述に、側転ができた・おもしろかったと書かれていて、マットの面白さを味わい、自分が上手くなることを体験させることができた。Aは、家で練習をしてきたことで上達したり、TBは授業中、自分用にマットを用意し繰り返し練習する姿がみられた。また、技のつなぎ方や自分の感覚での出来ばえを思考しながら連続技に取り組むことができている子どもが増えた。グループ活動と全員が側転という課題を共有することが良かったと考えている。

 反省点は、児童がどうしたらきれいに見せることができるのかを考えさせていなかった点である。側転の早い段階から演技を見せ合い、良かった点について話し合いながら進めていけば良かったと考えている。何ができていたら側転がきれいにできているのかがぼんやりとしたままになってしまった。

 マット運動は、指導の方法で子どもの動きも表情も変えられる、すばらしい運動文化であることを改めて感じている。

 創作活動に取り組む子どもたちは生き生きしていたし、楽しい授業であった。

 この経験を出発点として、次の実践に向かっていきたい。

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