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青年教師のための お助け「玉手箱」 2

「「教科指導」実践「玉手箱」
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裁判員制度をどのように高校生に認識させるか
--社会科(政治経済)の授業やHRで取り組んでみて--

            京都市立洛陽工業高校定時制 秋山 吉則


(2009年4月10日)



定時制高校卒業後に直面する裁判員制度

 今年の5月から裁判員制度が始まる。定時制高校では十九歳で卒業するので、卒業の翌年度から対象となってしまう(二十歳以上の生徒も多い)。卒業後はほとんどが就職するので、学生であれば可能な辞退ができない。だから、裁判員制度を高校教育で扱うのは定時制教育の一つの課題であると思っている。

裁判員制度についての社会科教員の問題意識

 裁判員制度については、本校のもう一人の社会科教員(R先生)とよく話し合っている。筆者は、国民が裁判に参加することは必要なことであり、一般の国民の視点や感覚を入れることにより、裁判への国民の信頼を高めることができると思っている。冤罪事件が減り、無罪判決が増えるだろう。一方で問題点もあり、死刑になる可能性のある事件を扱い、量刑も判断するので、国民には負担が大きい。トータルに見て裁判員制度を一定評価しているが、R先生は否定的な意見だ。絵に描いたような成果はあがらないだろう、結局は裁判官が主導することになるのではないかという意見だ。しかし、裁判員制度を教えることは定時制高校の大きな課題であり、取り組むべきであるという点では一致している。生徒たちが何の準備もせずに裁判員に直面すれば相当困ることになるだろう。それぞれで裁判員制度に関しての教育活動を展開することにした。

社会科や人権学習(特設HR)での取り組み

 筆者は3年生の「政治・経済」で、9月に「暮らしと法律」という授業を行ったが、「刑法」の2時間目に「死刑制度の問題と裁判員制度」を扱い、裁判員制度についての説明を行った。R先生は4年の担任だが、十一月に行った文化祭で、クラス劇でオリジナルのシナリオをつくって裁判員制度を演じた。本校では、1月に全日かけて学年ごとにテーマを決めての人権学習を行うが、その前段として十二月に教職員研修会で、R先生の提案により地裁から書記官を呼んで裁判員制度の講演会を行った。人権学習本番では、4年生に対して同じく地裁の書記官に生徒向けの講演をお願いし、最高裁が裁判員制度を啓発するためにつくった広報映画(DVDソフト)を視聴させた。この映画はなかなかのスグレモノで、国が作ったような押し付けがましいところがなく、サスペンスドラマを見ているようだ。調べてみると、最高裁と法務省は5本の映画を作っており、小林念持や中村雅俊、藤田弓子など良く知られた俳優が出演している。 筆者はこの映画を見て3年生の政治経済の授業でも見せることにした。5本を全部見て比較し、その中で公判後の評議の場面を中心に描いた「評議」という映画を2月に見せた。アメリカ映画の「怒れる十二人の男たち」を思い起こして欲しい。授業2時間分を使って上映した。

取り組む中での生徒たちの意識の変化

 9月の授業と2月のDVD視聴の時に生徒に感想文を書かせた。9月の授業の時には、裁判員制度についての一応の理解が得られたが、まだ漠然とした意識にとどまっていた。それが、2月に映画を見せた際の感想文では、公判がどのように進められ、裁判員と裁判官がどのように評議を行うのか、どのように事実認定がされ、量刑の際の情状はどう考慮されるかなど、具体的な裁判員制度の内容を知ることができたと書いている。具体的に裁判員制度を意識させることができのではないかと思っている。裁判員制度に直面した時の最低の心の準備ができたのではないかと思っている。

 まだ、中学校や高校で裁判員制度をどのように扱うかということでの共通理解は得られていない。しかし、何らかの教育活動が必要である。HRで扱うことも可能だが、やはり社会科の教育課題だと思っている。教育現場での議論を期待したい。

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