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青年教師のための お助け「玉手箱」 2

「「教科指導」実践「玉手箱」
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労働基準法が教材です

                 京都市立伏見工業高等学校 本山 雅章


(2008年12月10日)



 日本国憲法、労働基準法、労働組合法、パートタイム労働法、男女雇用機会均等法、職業安定法、労働者派遣事業法、労働契約法、最低賃金法、労働基準法第三七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令、労働基準法施行規則、年少者労働基準規則、育児・介護休業法、労働安全衛生法、労働者災害保障保険法、民法、雇用保険法‥‥‥

 これ全部、私の現代社会の授業で三年生が勉強している法令です。労働法制が当たり前に機能していれば、こんなに並べ立てる必要はなのですが、労働の現場は、法令無視や法令違反が山のよう、本来は労働者を保護するペき労働諸法令が、労働者の生命を脅かし、働く権利を追 い詰めています。

 私が今の学校に異動して来たのは14年前、 そこではじめて「現代社会」の教科書を持ち、 授業をすることになりました。採用12年目の 「新採教員」が、重たい気分で授業の準備。数年後、労働者の味方「労働基準法」との出会いが、私に一筋の光を当ててくれました。世紀末の二年間、組合の執行委員を務め、教育の場とは異なるさまざまな労働問題を知り、それが教材としての労働法制に深まりと広がりとを与えました。卒業生の四割程度が就職していく工業高校です。卒業すれば私たちと同じ立場の労働者になります。「8時間労働制は19世紀末のアメリカの労働者がぁ‥・!」とか「時間外労働には25%の割増貸金が‥・」といった授業の中に出でくる話は、講義をしているというよりは、将来の仲間へのエールを送っている気になってきます。

 「人はなぜ働くのだろう」、この間いかけから 労働法制の学習が始まり、労働者である自分自身の生き方・働き方を生きた教材にしながら、 B4 12枚(裏表)の膨大なプリントで、「知るということがまず大切なのだ」という確信のも と、生徒に負担をかけながら授業を進めてきました。

 将来は家業の工務店の経営者になるという生徒もいます。労使どちらの立場に属するにせよ、労働者にとっても、中小零細企業の経営者であるにせよ、大企業の横暴がまかり通るルールなき資本主義ではたまったものではありません。 生徒たちが、労働法制の基本的な考え方の一片でも身につけて卒業してもらえらばと考えています。

 近年とかく氾濫している「課題解決能力」や 「人間力」 といった今風の「力」ではなく、科学的な批判能力を身に付けて「問題点を発見する力」、「当然の権利を正当な方法で主張する力」、そして一人ではどうにもならないときに、「多数の人々とともに行動できる力」を培っていくこ とこそ、今の教育現場に求められていることではないでしょうか。 とはいえ、講義形式で知的探求を主たる活動にしている私の授業実践では、この課題に答えられないのはいうまでもありません。私自身が一人ではなしえないことを、いろいろなタイプの先生との共同によって、生徒にとって本当に必要な力が培っていかなければなりません。

 「共同の構築」、これが私に課せられた課題なのでしょう。また、生徒たちが私たちと同じ未来の労働者であることとともに、 同じ「日本国憲法」という 土壌の中で育っていることにも気づかされてきました。

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