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青年教師のための お助け「玉手箱」 2

「「教科指導」実践「玉手箱」
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高校日本史の授業と映画教材


      京都府立洛東高校 松村 啓一


(2008年3月10日)



担当する日本史A・Bで「映画」を教材に活用しています。

【なぜ映画?】

 生徒の関心・興味、学習意欲を引き出し、歴史の理解を深めるためです。昨今の生徒の状況から判断して、全部見せることを基本にしています。なぜなら、その方が学習意欲は高まるからです。

【「映画学習」の留意点と教材選択の基準は?】

 次のような点に留意して、教材選択の基準にしています。 (留意点)@年間プランの中に適合的に設定する。A目標やねらいに到達する手だても必要。B編集に工夫のあるものを選ぶ。C史実をふまえたものを選ぶ。(教材選択の基準)@歴史上の人物の生き方が描かれたビデオ。A歴史の謎を推理したビデオ。B解説的でわかりやすくイメージのもてるビデオ。C「歴史ドラマ」ビデオ。

【どんな映画を?】

 日本史Aのラインナップは次の通りです。数字は視聴時間です。「たそがれ晴兵衛 3」「北の零年 4」「あゝ野麦峠(部分)1」「バルトの楽園 3」「戦争と人間第三部(部分)1」「さとうきび畑の唄(TVドラマ)4」「硫黄島からの手紙 3」「ALWAYS 三丁目の夕日 3」「パッチギ LOVE&PEACE 3」。かつては世界史に比べて 品数が少ないのが悩みでしたが、ここ十年で充実してきました。これらの作品は生徒の関心の外にあるようで、生徒の多数が観た映画は案外少ないのが現実です。その点でも見せる価値はあると感じました。

【授業との関係は?】

 映画のシーンの中で、歴史の「事実」として確認してほしい事項(問い)を、普段の授業プリントに挿入して記入させています。授業の進度に疑問を感じるかもしれませんが、二〇〇六年まで進みます。そういう授業計画を作っています。

【具体的には?】

 歴史の科目は時間軸に沿って、社会(地域)の変化の様子と原因を理解し考えることに目的があります。一九五八年の東京を舞台にした「ALWAYS」の場合、高度成長開始期の日本社会を知るシーンが具体的に登場します。農業(農村)から工業(都市)への大規模な移動は冒頭の集団就職のシーンで、企業社会の成立以前に多く存在した自営業や増大する「核家族」の姿は鈴木オートの工場や家族で、消費中心の社会への移行(三種の神器)は鈴木オートに入るテレビや冷蔵庫のシーンで、安保闘争と戦争の記憶の関係は医師宅間先生が家族を東京大空襲で失ったことを知るシーンで、というように設問を通じて確認させていきます。五十代教師にはノスタルジアの対象ですが、生徒にとっては未知の過去であり、現在を相対化し客観化する教材となります。

【誤った史実やイメージを与えないか?】

 教室の授業では知識不足の生徒にイメージをもたすのは困難が多いです。映画を使った授業の史実やイメージに関するリスクは、教室の授業でも向じように発生します。映画の感動は映画の中に見られる「史実」とは無関係なことが多いですが、それでもいいと思います。その感情は映画を通じて歴史に関心をもち歴史を少し深く知ることに役立っていますから。授業アンケートでそれがわかります。

(日本史Bの授業の全体像は拙著『新・日本史授業プリント』(地歴社)をご覧下さい。)

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