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青年教師のための お助け「玉手箱」 5

「教育について学びたい」 理論編「玉手箱」
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そして電車は飛んでいった!

          京都教育センター 倉原 悠一

(2009年10月10日)



 二〇〇五年四月二五日、世界のさまざまな事故の中でも信じられないような列車事故が我が国で起きた。スピードの出し過ぎで電車がカーブを曲がりきれずに飛ぶように脱線して線路脇のマンションに激突した。犠牲者は一〇〇名を超え、現在も苦しみ続けている人々が大勢おられる。このカーブ区間の安全速度は六〇〜七〇キロメートル/時であったのが、事故列車に残されていた速度計は一〇七キロメートル/時を示していたそうである。

 その後の事故原因調査の中で、列車乗務員の日々の勤務管理が過酷で、安全を優先する余裕はほとんど無いと要っても過言ではない実態が明らかになった。列車ダイアの目標が守られない場合、乗務員に対して、再教育などの実務に関連したものではなく懲罰的な「日勤教育」というものを科していた。この実態について、事故が起こる半年前に、国会において国会議員より「重大事故を起こしかねない」として追及されている。また、日勤教育は「事故の大きな原因の一つである」と、多くのメディアで取り上げられることになった。 この事実を巡って毎日新聞特別論説委員である岸井成格氏の発言を思いだす。

 「原因の一つとして労働組合の弱体化があげられる。労働組合とは労働者の権利や生活を守っていくだけではなく、社会的弱者の権利を守るセーフティーネットの社会的システムである。経済活動の停滞や後退を余儀なくされる中で、労働組合の役割を軽視したり、時には否定的にとらえたりする風潮が強くなった。特にJRでは民営化される過程で、旧国労や動労の組合員を差別的に扱ってきた。その結果が、社会のセーフティーネットが崩された今の日本の現実では無かろうか。この事故は、その大きな象徴のように思われる。」

 岸井氏は、昨年から今年に掛けて起こったいわゆる「派遣切り」を予想していた観がある。構造改革路線の結果もたらされた「ルールの崩壊した資本主義」とまで言われる今の日本の社会構造はきわめて深刻である。その社会に教え子はやがて入っていくのである。

 しかし、今の学校の現実はJRのそれとほとんど変わらないのではないか。安全を何より優先する余裕が学校という職場にあるだろうか。職場の仲間として抱える困難を分かち合ったり、年配の教員が若い教員の成長を見守りながらサポートしたり、迷いやとまどいなどの悩みをゆっくり時間を掛けて教育論議を重ねて解決の方向を探っていく余裕が現在の学校という職場にあるだろうか。おそらく殆どの職場が「NO!」なのではないか。

 すべての教師たちは「いい先生になりたい!」と思って仕事に就いている。クラスの全ての子どもたちが学習を深め、友人達と豊かな交流を深め成長していく過程は、教師の本質的は喜びであり、だからこそ夜遅くまで仕事に頑張れるのである。その前提は管理職を含めて職場の仲間に支えられている実感から来る学校への信頼なのではないだろうか。

 一方、学校を巡る状況は益々厳しさを増している。次々と発生する課題にタイミングを逃さないように対応したり、保護者と連絡を密にしたり、場合によってはトラブルに翻弄されたり、無力感に押しつぶされそうになって教職を去ることを考えたりすることもある。だからこそ学校にもセーフティーネットが必要なのだ。

 教職員組合に入る、入らないは各自の自由である。これ以上忙しくなるのは何としてでも避けたいというのが現実かもしれない。でも、このまま推移したとき学校という場のセーフティーネットその物が崩壊してしまう危険すら伺える。全ての人が誇りを持って仕事を全うする条件を英知を尽くして探っていくこと共に考えていきたいと願っている。

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