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青年教師のための お助け「玉手箱」 5

「教育について学びたい」 理論編「玉手箱」
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鉄の行方

           教育センター高校問題研究会代表 中村 誠一

(2007年12月10日)



 先日、宇治田原町でガードレールが百数十メートルにも亘って盗まれるという事件があった。鉄が値上がりしているのだ。それで思い出すことがある。

 朝鮮戦争の頃、私は小学二年生。米軍からの軍事物資の受注が増え(いわゆる特需)、鉄や銅など金属の価格が高騰した。電線が盗まれるなどの事件もあった。鉄くずを売れば何がしかの現金収入になるとあって、大人に混じって子どもも河原や焼け跡に入り夢中になってくず鉄探しをした。私の家はガス会社の社宅だった。ある時、仲間の兄貴分が「ガス管なら高く売れるぞ」と言うので、倉庫に忍び込み、首尾よくガス管を持ち出した。くず屋は盗品と分かっていたと思うが、三十円ほどで買ってくれた。

 そのうちくず鉄の値段が下がった。そんな時だ、知り合いのくず屋が、「またどこかで戦争してくれんかな」と言ったのだ。私は、「おっちゃんヘンなことを言うな」と思ったことを今も鮮明に覚えている。

 鉄や銅が高騰する時、私はそこに戦争の匂いを嗅ぐ。あの宇治田原のガードレールはどこかの戦争で砲弾やクラスター爆弾になって子供達を傷つけるのだろう。

 澤地久枝さんの本に「一九四五年の少女」という作品がある。その第二章「暮しの消えた日」に、戦争中、学校や家庭から金属製品が消えていく様が描かれている。山形県寒河江中学校の記録によれば、昭和十六年にはバケツ六五個、金火鉢大十個、同小十五個、溝蓋四個、窓格子(銃器室三十、物置四十)、日覆支柱(各教室十四、幹部室十一)、雨どい(職員自転車置き場)など、十七年度は、ラッパ、野球のマスク、ライン引き、庭球網張りハンドル、ワイヤロープ、引き幕用張り線など、十八年度には臨検が入り、校長室の金庫、鉄火鉢、鉄瓶、蛇口(生徒水のみ場、実験室)、講堂ドアの握り手、当直室カーテン金具、賞碑カップなどが回収されている。

 実に寒々とした学校が眼に浮かぶ。臨検とはいつでもどこでも入れる権限を持つ役人の立ち入り検査で、拒否すれば懲役や罰金がある。各家庭では自由意志による供出とは建前で、臨検をちらつかされては、金盥から扇風機、花瓶まで供出を拒否できるはずもなかった。

 新憲法発布の一九四七年の夏、文部省が作った中学生のためのテキスト「あたらしい憲法の話」の挿絵は感動的だ。軍艦や戦闘機、弾薬を戦争放棄のるつぼに投げ込んで鉄道や船、自動車にビルなどが次々に生み出されるあの挿絵。それを見た子供達はもちろんだが、教具や生活必需品をるつぼに投げ込み、弾薬や軍艦、戦闘機に変えさせられた教師や親たちはどんなにか感激し、うれしかったことだろう。

 今また、鉄や銅が高騰している。しかし、学校や家庭から金属の回収などはない。他国の戦争だからだろうと、安心してはいけない。戦争をしたい人たちのやり方は狡猾だ。私には、病院や介護施設、障害者施設のベッドや設備を人間ごとるつぼに投げ込んで弾薬や戦闘機を作っている絵が透いて見える。歴史が巧妙に繰り返されようとしている。

 軍事費を削って教育・福祉にまわせの声を今こそ大きくしなければと思う。

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