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青年教師のための お助け「玉手箱」 5

「教育について学びたい」 理論編「玉手箱」



最後まで心を折らない


           京都音楽センター代表 時田 裕二

(2007年5月10日)



 すでにご存じのように、教育再生会議から七つの提言と四つの緊急対応が発表されました。

 七つの提言には、ゆとり教育の見直しや、学校の再生。魅力的で尊敬できる先生を育てること。などが盛り込まれていますが、提言を読みながら、これで子どもたちにとって本当に良い教育になるのだろうかと、首をかしげてしまいました。

 一番気になつたのは、教師の力量不足が問題とされているように読み取れることです。日本の教育者たちは力量もなく、信頼するに値しない集団なのでしょうか?

 私はそうは思いません。

 彼らは「人間を育てる」という、もっとも人間らしく、ムツカシイ(マニュアル化できない)ことを職業としている、選ばれた人たちです。それこそサービス残業で、過労死寸前になろうとも、子どもたちとのふれあいや、子どもたちの成長を楽しみにがんばつているのです。

 かつては集団の力で教師を成長させるシステムや、協同を作り出す自由・文化があったのです。そして、様々な工夫と教材研究で、子どもたちの学力を支えてきたのは、他ならぬ日本の教育者たちだと思います。

 問題とされるべきは、これらの集団の英知を発揮できないシステムや現場を作ってしまったことにあるのだと思います。

 それに、逆行するかのように提言には「給与体系で差をつける」としています。これは格差社会にいっそうの拍車をかけることにならないでしょうか?

 提言は社会の矛盾をますます子どもの世界にも広げ、協力や協同の理念をこわしかねません。本来の教育とは相容れない物だと思います。

 日本の学校や教師には、優れた能力と協同する力があるはずです。その力にこそ教育再生のカギがあるのだと、私は思います。

 作家の出口ランディさんが東京新聞に「STOP!いじめーあなたへ」という一文を掲載されています。

 『私は日本の子どもたちを誇りに思う』『大人社会がこれほど荒んでいても、みんなはよく育っている。がんばっています。ほんとうに明るく元気に生きている』と書かれています。

 さらに『この社会がなんとかこうして成り立っているのは、悪いことをする大人よりもたくさんの、悩みもがいている大人がいるからです』『私がまだ若くて苦しかったころ、たくさんの悩める大人に出会いました。彼らは私を子ども扱いしなかった。仲間にしてくれた。自分もそういう大人になりたいと思った。懸命な生き方に感動したからです。子どもには感動する力がある。それは子ども時代の宝です』『今の日本は大人にとっても苦しい社会です。弱さを出せない。だから、みんながもっと楽に暮らせるように変えていかなければなりません。そのために私も努力します。逃げません。あきらめません。希望を捨てません。焦りません。悲観しません。わかったふりをしません。間違いは素直に認めます。そして悩みます、喜びます、楽しみます。かつてそういう大人の背中を見て学んだのです。』と、大切な大人像を示されています。そうです、今大切なのは、もがきながらでも、一生懸命生きる大人たちの姿なのでしょう。

 アメリカンフットボールの日本一を決める「ライスボウル」で、社会人チームに挑んだ学生(法政大学)チーム。

 彼らが試合前にお互い誓ったのは「どんな状況になっても、最後まで心を折らないでいよう」でした。

 私たちも最後まで心を折らないでいたいと思います。

 そのための理念・理想を持ち続けたいし、心を折らない思想をもてる文化を築いていきたいと思います。

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