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青年教師のための お助け「玉手箱」 1

「学力づくり」実践「玉手箱」


授業を通して学校をつくる

               木津川市立南加茂台小学校  松田森幸

(2007年10月10日)


 運動会の前日、高学年の子ども達は激しく議論していた。高学年の表現「ロックソーラン2007」の入場の仕方についてである。静から動への変化をつけようということで、それまでの練習では太鼓のリズムに合わせて歩いて入場をしていた。

 ところが最後の通し練習の後で、一人の児童が「どうも歩いての入場は気合が入らない。駆け足の方がいいのでは。」という意見を出したのである。早速全員で考えることにした。多くの子が同様の意見を出し、「駆け足で入場」と決まりかけた時、ある子が「ちょっと待って。」とストップをかけた。

 「駆け足で入場ということになったら、S君はどうするの。みんなから遅れるし、自分の場所もわからなくなるんじゃないか。それではS君がつらい思いをする。」というのである。S君は重い障害を持ち、みんなと同じように判断し、行動することができない。

 またいろいろと意見が出、結局、S君の両隣で踊る子がS君と共に先頭を歩きみんなが走って配置につくときにはS君も自分の場所に立っていられる方法をとってみようといったが入場だけやってみることとなり、結果、何の違和感もなく踊りに入れることが確認できた。

 翌日の運動会本番、満場の拍手に包まれた子ども達は、満足しきった顔で退場門に向かった。

 些細といえば些細なエピソードであるが、私達は、この小さな出来事の中に、自分達がつくっていこうとしてきた学校、子どもの姿を見る思いがしている。

 この学校に転勤してきて三年目。「授業をつくる」ことを核に学校づくりを進めてきた。「自分の考え・思いを豊かに表現する児童を求めて」をテーマにし、文学的教材を中心に深く追求し合う授業をみんなで模索してきた。国語という教科は全ての教科の基本になっている。文章を読み取っていく力とか、また国語教育の中で培われた想像力とか追求力とか、集中力とか人間の幅とか深さとかが、そのまま他の教科での追求力とか想像力とかに波及していくと考えてきたからである。

 これまでに、各学年での研究授業はもちろんのこと、節目節目では理論的学習や演習、模擬的授業などを行い、「教師が学び合い、力量を高め合う」ことを大事にしてきた。一年半程の間に学習しあったテーマは「どのように文学の授業をつくるか」「個人学習の内容と方法」「追求ある授業形態」「追求し合うに必要な力をつけるための具体的指導」「授業づくりと学級づくり」「追求ある授業のために」などである。

 冒頭の場面。本番直前であってもみんなの前で自分の思いを率直に表明する児童、それをしっかり受け止めみんなの課題として返す教師団、困難な立場の友達に思いを馳せ、その立場で発言することのできる児童。そしてみんなの合意で一つのものをつく出すことができた。学校の一つの姿があるのではなかろうか。

 この学校へ転勤してきた教師達は、「この学校は圧迫感がなく、居心地がいい」と言う。子どもを真ん中に据え、教師が納得いく実践に励めるような、そんな学校であればと願っている。

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