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第3分科会 報告

学習指導要領の改訂と授業実践


           小野英喜(学力・教育課程研究会)


 2008年の初めに、文部科学省は小学校と中学校の学習指導要領が改訂し、高等学校の学習指導要領は12月末に案を発表した。いずれの改訂も、教育基本法とそれに基づく学校教育法の改定を学校教育として具体化するものであり、これまでの新自由主義教育政策をさらに突き進めるものである。

 この学習指導要領の改訂と授業実践をテーマにした今年度の第3分科会は、鋒山泰弘先生(追手門学院大学)には基調報告を、谷口公洋(京都府立木津高等学校)、畔柳晋介(福知山市立南陵中学校)、和気政司(京田辺市立田辺東小学学校)の各先生方には実践報告をしていただいた。

 今年度のまとめでは、報告後の質問・討論及び総括的な討論の内容は、報告の中に組み込んでまとめた。司会は、前半を市川章人先生、後半を西原弘明先生にお願いした。



【基調報告】 「改訂学習指導要領と教科教育(学力形成)」

学習指導要領の改訂にともなう「書く力」の指導と評価 ―社会科を事例としてー

                               鋒山泰弘(追手門学院大学)


1.言語力の強調と社会科の学力評価の改革

 今回の学習指導要領では、「実験・観察、レポートの作成や論述といった知識・技能を活用する学習活動」が、全教科に共通して強調されており、とりわけ「活用」という視点は、今回の改訂のキーワードになっている。研究動向として、学力評価の分野で近年注目されているパフォーマンス評価は、学習者が教科で学んだ知識・技能を実際に活用し、発表、表現、実践、作成する成果(レポート、作品、発表、実演など)の内容の質を評価することによって学力の向上を図ろうとするものである。

 歴史的に見ると、新学力観で自ら学び、自ら考えるというものであったが、今回の改訂では、「表現」という自分の考えをまとめる方法を強制している。しかし、これは新しいものではなく、これまでも各教科で取り組まれた多くの優れた実践の蓄積がある。

 現在の教科書にもレポートや発表・報告を考えさせる課題が掲載されている。たとえば、中学校社会科地理的分野の教科書では、「みなさんが働きざかりになる約20年後の日本のすがたを、理由をそえて『このように変化する』と、予想し合ってみましょう。そして問題が出てくるようでしたら、それを未然に防ぐためにはどうしたらよいか、考えてみましょう」とか、「世界的視野から見た明日の日本の特色やすがたについて考え、イラストマップや新聞、ポスターなどのかたちでまとめてみましょう」というようなレポートを書かせている。

 しかし、以下のような点が課題となる。

@カリキュラム設計の上で、このようなパフォーマンス評価の課題をどのように位置づけるのか。
A教科で生徒に考えさせたい「本質的な問い」とは何かという考察がされなければならない。
B生徒の作品・表現を評価する基準をどう作るか。

2 生徒の「調べる学力」の実態と目標設定

 教師が教室で生徒に社会科の調べる課題を与えて、論述レポートを書かせるということが、教育課程政策でも強調されているし、社会科がめざすべき学力形成からも必要なことは明らかである。しかし、実際にはどこまでのレベルのことが実現可能であるのだろうか。前回の学習指導要領改訂では「調べる」ことが強調され、社会科の教科書には、各種統計データを提供しているインターネットのアドレスや行政文書を参照することが、生徒に「簡単にできる」かのように欄外の学習課題として書きこまれている。はたして中学生にそのような資料がどこまで読みこなせて、活用できるのであろうか。生徒の学ぶ力の実態を見据えて現実的な学力形成の目標を考える視点も重要である。

 社会科の地理的分野の学力とは何かについて考えるとき、不可欠な問は、「その地域には、どのような特色が見られるか」と、「なぜ、その地域・場所にそのような特色が見られるか」である。例えば、加藤好一は、授業実践報告の中で、第一段階として「地図帳で交通網と産業の種類と位置を確認する」、第二段として「産物・産業で交通網と産業の全体的な特徴を確認したうえで、IC産業の立地に絞って発問する」、第三段階で「地図から調べて考えたことを、統計で客観的に位置づける作業を行う」という実践をしている。このように、「調べる活動」「文章化」することが、中学生の学力到達水準の一つであるとみなすことができる。(「世界の国について調べるレポート」の実践例は省略)

 家庭の学力水準によって、子どもの「活用」「表現」の内容が規定されてしまう。「活用と表現」は、発展的な学力と位置づけられる。習得したものに「活用」をおくことによって「探求」へと発展するのではないか。子どもに任せっぱなしにすると、活用や表現は子どもの学力水準に止まってしまう。一斉学習の中で調べ方や内容を学び、生徒がそれらをフィードバックしながら「表現できるかどうか」が鍵になる。指導と評価の一貫性から言うと、一度は形成的評価を位置づけなければならない。形成的評価をしないで「活用」や「表現」を強調すると、学力格差が拡大することになる。

 「表現力」とか「発言力」は、その教科の理解や能力というよりも、他の能力の総合的なものである。



【実践報告-1】
「苦労から喜びの社会科の授業」  谷口 公洋(京都府立木津高等学校)・・・・略




【実践報告-2】
「小学校算数におけるわかる授業課程づくり」 田辺東小学校 和気 政司・・・・略



【実践報告-3】
「楽しい英語授業の創造―小中連携にも触れてー」 福知山市南陵中学校  畔柳 晋介
・・・・略


(詳細については「京都教育センター年報 21号(2008年度版)」をごらんください。)

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