トップ 事務局 2008年報もくじ 第39回教育センター研究集会報告もくじ
第1分科会 報告

「足下からの教育をどのようにすすめるか?
     −市町村、府、国のあり方を考える−」


           市川 哲(地方教育行政研究会)


 第1分科会は4本の報告を受け、討論をおこなった。討論内容も入れ込みながら、報告の概要をまとめておく。


@ 基調報告「地方分権と教育−市町村、府、国の役割」

 戦後、公選制で始まった地方教育委員会制度は1956年の「地方教育行政の組織と運営に関する法律」でもって任命制に変わった後、根本的な変更なしに存続してきた。しかし、例えば全国市長会が教育委員会制度そのものの基本的な在り方の検討に言及し(「学校教育と地域社会の連携強化に関する意見」2001.2)、首長有志がつくる「提言・実践首長会」が、教育行政委員会方式によるか首長の諮問機関として「教育審議会」を置くかを市町村が選択できるようにする(2003.4 )、教育委員会を廃止するか否かは市町村にゆだねる(2005.7)という「提言」を出している。

 また、国の審議会も教育委員会の必置規制の廃止等に言及し(「総合規制改革会議」第3次答申、2003.12)、各地域の実情に応じて地方公共団体の判断で教育委員会制度を採らないという選択肢を認めるべきだとし(「地方分権推進会議」2004.5)、最終答申ではトーンダウンしたとはいえ「規制改革・民間開放推進会議」は「教育委員会制度の見直し」を提言(「中間答申」2006.7)している。

 文科省も、地方分権一括法(2000.4施行)に続く教育委員会制度の改革が必要と判断し、中教審に「地方分権時代における教育委員会の在り方について」を諮問(2004.3 )、中教審教育制度分科会は「地方分権時代における教育委員会の在り方について(部会まとめ)」(2005.1 )を出している。そこでは“事務局主導、住民ではなく教員など教育関係者の意向に沿う、役割や活動が認知されておらず住民との接点がない、国や都道府県の示す方向性に従い地域の実情に応じて施策を行う志向が強くない、学校も市町村より国や都道府県の方針を重視する傾向が強く教職員の市町村に対する帰属意識が弱い”などを「指摘されている問題点」としてあげていた。

 つまり、戦後50年余続いた任命制教育委員会制度が今日、多いに揺らいでいるといえる。

 そうした中、1999年の地方分権一括法で「地教行法」が改正され、機関委任事務の廃止とそれにともなう「指揮監督権」の廃止や教育長の任命承認制の廃止など、国と地方との関係では、一定「地方分権」が前進した面もある。その後、「地教行法」は「教育改革国民会議」の「レインボープラン」(2000.12)に対応して2001年に、また改悪「教基法」(2006.12)に対応して国と教育委員会との関係を整理するために2007年に改正された。

 後者の2007年改正は「・・国と地方の適切な役割分担を踏まえつつ、教育に国が責任を負える体制を構築していくため、教育委員会の責任体制の明確化や体制の充実、教育における地方分権の推進と国の責任の果たし方及び私立学校に関する教育行政について所要の改正を行うもの」(「地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律について(通知)」2007.7.31)である。

 改正によって、地方の教育行政は「教育基本法の趣旨にのっとり、国との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない」とされ、教育長に委任できない事務として学校を含む教育機関の設置及び廃止に関する事務と教育機関の職員の任免その他の人事に関する事務が挙げられ、教育委員会の事務執行と管理に点検と評価を導入し、議会への提出・公表を義務づけている。

 また国と地方との関係については、教育委員会の法令違反や事務の管理及び執行の怠りで教育を受ける権利が侵害されていることが明らかな時は、文部科学大臣は講ずべき措置の内容を示して教育委員会に是正要求するとしたこと、また、生命又は身体の保護のため、緊急の必要があり、他の措置によっては是正を図ることが困難なときは、文部科学大臣は教育委員会に対して指示を行うことができることとしたことなど、この間の“高校日本史受講問題”や“イジメによる自殺”に関するマスコミのヒステリックな教育委員会批判にも乗って、地方分権の流れに逆行した「教育における国の責任の果たし方」を示ているのが特徴である。


A 特別報告「橋下『教育改革』と私たちのたたかい」

 「子どもが笑う大阪を」とアピールして当選した、橋下府政がスタートして1年が過ぎたが、その言動は、多くの問題を含んだものの連続であった。この一年のたたかいをふりかえって見たとき、「大阪はたいへんやな」と言われる政策の推進を前にして、府民の府政への関心が高まっていると感じている。

 「35人学級と小学校警備員配置の存続」署名では、大阪府PTA協議会と共同するなかで、105万筆の提出を実現し、その存続に結びつけることができた。

 昨年6月に橋本知事が発表した「大阪維新プログラム(案)」は、@「財政再建(財政再建プログラム案)」A「政策創造(重点政策案)」B「府庁改革」の3つを柱としている。「財政再建」策では、大阪府の財政危機を誇大に描いて、全国に例を見ない過酷な職員人件費削減をおこない、それをテコにして府民のくらし、文化、教育を徹底的に切りすてようとしている(国際児童文学館の廃止や大阪センチュリー交響楽団への補助金削減など)。教職員給与の10%削減(管理職12%、若年層4〜8%)や退職金の5%削減、府立学校の教務事務補助員(非常勤職員)の廃止・解雇など、日々安心して子どもと向かい合うための保障を切り下げることになる。「政策創造」策では、習熟度別授業の小学校3年以上・中学校全学年への導入や大学の進学に特色をおいた学区の定めのない府立高校づくりなど、「格差社会を拡大する教育」を推し進めようとしている。また、「府庁改革」という名で「がんばった人が評価される人事制度」といった差別と分断を職場に持ち込むことになる改革がおこなわれようとしている。

 その本質が「教育こわし」「教育つぶし」であるといえる橋本「教育改革」に対して、人件費削減が教職員の多忙化や教育困難に拍車をかけるものであることについて社会的な理解を広げる運動や、憲法と教育の条理にもとづく教育の推進、参加と共同の学校づくりの前進こそが最大の反撃になる。そのことに確信をもち、今後も、組合の違いをこえた教職員の共同、管理職やPTAとの共同という「オール教育現場の共同」をめざす運動が構築していかなければならない。

 報告後、私学助成の大幅削減に対して、高校生が直接橋下知事に「実情や願い」を訴えるDVD「『高校生に笑顔をくださいの会』と橋下知事との懇談」を視聴した。涙を浮かべながらも、切実に要望する高校生に対して、新自由主義的「自己責任論」まで持ち出してその声を切りすてる橋下知事に、分科会参加者は怒りを押さえることができなかった。しかし、その高校生たちは「落ち込むどころか、次の機会には、知事にわからせるように学習してがんばりたいと決意していた」ということであり、しなやかであり、かつ強靱な姿勢を兼ね備えた若い力が育っていることにも大いに勇気づけられた。


B 「京都府南部地域における行政の特徴 −教育行政も視野に入れて−」

 2008年12月22日に和束町・笠置町・南山城村による「相楽東部広域連合」が発足した。2009年4月1日に、現在ある4つの教育委員会(3町村と中学校組合)を一本化した広域連合教育委員会が発足することになった。

 この広域連合成立の背景には、小泉構造改革による地方交付税の大幅削減・税収減による地方自治体の財政危機があり、広域連合設置の最大の目的は経費の削減にある。

 現在の4委員会18人の教育委員(教育長を含む)、18人の事務局職員に対し、「広域連合」としての教育委員会には教育長1人を含めて教育委員が5人置かれ、事務局職員は14人、連合教育委員会が設置される和束町以外の町村には教育分室が設置される予定である。

 問題点としてまず住民にまともに説明もなされないままに、広域化が進められていることがあげられる。学校給食や修学旅行への補助金、高校生への通学補助など、各町村で異なる教育条件・教育サービスなどの水準が、最も低いところにあわされるのでないかという不安がある。また、「学校等維持管理に要する経費」「学校施設整備(改造・改修)に要する経費」の負担は「町村単独」となっているが、町村の裁量でその金額を決めることができるのかはっきりしていない。住民の教育要望を教育行政に反映させる筋道が明確になっていないことや教育委員の数が3分の1になり、分室には職員が1人しか配置されないために緊急時等のきめ細かな対応が可能かどうかも危惧されている。

 今後、子ども達の教育条件を確保するためにも広域化の動向に注視しながら、課題・問題点を明らかにしていくことが重要である。


C 「京都府の教育行財政の検討」

 京都府の教育予算は、全体で2060億円あまりであり、そのうち学校教育費は小学校費775億円、中学校費421億円、高等学校費394億円、特別支援学校費209億円である(1億円未満切り捨て)。うち府の一般財源からそれぞれ577億円、318億円、321億円、169億円(同)、国庫からは197億円、102億円、2千万円、29億円(高等学校費を除き1億円未満切り捨て)である。

 府税減収が見込まれているなか、歳出削減が言われている。また府債発行額は増加しており、府債残高は府民一人あたりにすると55万8千円と高額になる。こうした中、歳出削減をはかる大きな手段に人件費があげられており、5年間で1,500人、08年度だけで240人の削減が予定されている。

 教育委員会分の予算については「京都式少人数教育の充実」に多くをかけているが、小学校において30人程度の学級編成が可能となるような教員配置であり、また少人数授業やティームティーチングへの利用も可能なので30人学級の実現を目標とする少人数学級編成に使い切れている訳でない。「小学校低学年指導充実費」「全中学1年生英数少人数教育実施費」等も継続して予算化されているが、その配置については非常勤講師等の臨時的任用が前提となっている。他に特徴的なのは、府立学校の再編と特別支援学校の新設にも多額の予算が計上されていることである。スクラップ&ビルドを含むいわゆる「教育改革」に重点が置かれた予算であり、府下各地で展開されている地道な教育実践を励ますものとなっているのか、検討する余地がある。


 以上、@は市川 哲氏(明治国際医療大学)、Aは加藤秀雄氏(大阪教職員組合副委員長)、Bは浜田 良之氏(日本共産党6区国政委員長)、Cは北垣健一氏(京都府職労教育支部)の報告をもとに、@とAは司会を担当した地方教育行政研究会事務局の葉狩拓也氏、BとCは同じく奥村久美子氏が一次稿を書き、それをもとに地方教育行政研究会事務局の責任でまとめたものである。

 なお、第一分科会は2000年から9年間にわたって取り組まれてきた「地方教育行政研究会・京都教職員組合合同学習会」2009年度第1回学習会としても位置づけられていた。

 最後になったが、一昨年末の室井 修代表のご逝去以来、空席になっていた地方教育行政研究会代表に市川 哲氏、同事務局責任者に葉狩拓也氏が就任したことを付記しておく。

トップ 事務局 2008年報もくじ 第39回教育センター研究集会報告もくじ