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特集 2 小さくても輝く学校づくり

総論 地域再編の中での学校統廃合


    山本 由美(和光大学教授)
 

1.「地方創生」に積極的な京都

 京都のみならず全国各地で、劇的に統廃合計画が増加している。

 大企業、多国籍企業が活動しやすい地域の新自由主義的な再編のために提唱されていた「道州制」の進まない進展に業を煮やした政府が打ち出した「地方創生」は、“選択と集中”の名のもとに特定地域を切り捨てる「人口減少とグローバル化に対応した地域再編・公共部門再編政策としての性格が強い」とされる。各地で、中枢連携都市などに重点的に予算を配分し、「コンパクトシテイ」や「小さな拠点」といった公共施設の再編を含む地域再編がめざされる。学校統廃合はその中でも中心的な施策とされている。

 2014年の総務省による公共施設等総合管理計画、2015年の文科省による学校統廃合の「手引き」の58年ぶりの改正、2016年4月の義務教育学校(小中一貫校)制度化があいまって各地ですさまじい統廃合計画が進展している。

 まず、総務省は自治体に「公共施設等管理計画」の策定を要請し、2016年度末までに計画を策定する自治体に策定費用について特別交付税措置をとっている。2016年5月段階で京都府では40%の自治体がすでに提出している。これは全国でもトップ3に入る高率である。京都府は総務省の「地方創生」に積極的な自治体であるといえよう。

 例えば、京都市の「京都市公共施設等総合管理計画」、福知山市の「福知山市公共施設マネジメント基本計画」、舞鶴市の「舞鶴市公共施設等総合管理計画」など多くが出そろっている。市町村合併10年後の地方交付税減額期をねらって、5年後には合併自治体の追加分がゼロになることから、公共施設の維持費、改修費が捻出できないことを「口実」に、公共施設の廃止、統合を進める床面積を減らす「数値目標」などの「計画」を自治体に策定させる。その中で、合併した中心自治体以外の、弱い旧自治体の公共施設、特に床面積の多くを占める学校を小中一貫校にまとめ、保育園や幼稚園を認定こども園などにまとめて統合する計画が各地で出現している。

 また、総務省は、公共施設等の集約・複合化を促進する財政措置として、公共施設等の除却(施設の解体費用)への地方債の特例措置(2014年度予算〜)、公共施設の「集約化」への交付税措置(2015年度予算〜)を導入した。統廃合にあたっては、PFIやPPPなどの民営化の手法もしめされている。認定こども園の民営化などは、この施策に後押しされている。

 第2に、2015年1月に改正された統廃合の「手引き」では、従来の標準学級数である全校「12〜18学級」を「適正規模」に設定する自治体が多かったのに対し、単学級以下の学校は速やかに学校統廃合の適否を検討する、と小学校6学級以下、中学校3学級以下校の統廃合促進について言及し、さらに「(スクールバスなどを用いて)おおむね1時間以内」という時間枠の基準を「小学校4キロ以内、中学校6キロ以内」の基準に追加した。徒歩通学が子どもの人格形成に及ぼす影響については、1970年代お統廃合判例でも言及されており、さすがに文科省はバス通学について多くの配慮事項を記載しているが、全国の過疎地の統廃合に拍車をかけかねない。

 第3に、2015年に学校教育法が改正され新しく導入された「義務教育学校」が2016年4月に22校開校した。さらに今後、114校が開校予定であるという。表1は22校の一覧である。品川区など千人規模の施設一体型からスライドした「学園」が6校ある反面、3分の1以上が全校児童生徒200名以下の過疎地の小規模校である。また、高知市の行川学園、土佐山学舎などは校小規模特認校の認可を受け、全校児童生徒のうち半数以上が他の学区からバスなどで入学している。過疎地の「義務教育学校」の中には、小規模な小学校と中学校を1つにして、この「特認校」にするといった方法がとられているが、保護者などへの制度の説明が不十分なケースがある。

 例えば、施設の離れた小・中学校を校長1人の「5・4制」「義務教育学校」にして「特認校」に移行する茨城県笠間市のケースは、保護者には「義務教育学校」「特認校」「5・4制」が一体のものとして説明され反対がしにくい状況が生まれている。いずれにしても、過疎地の小規模校には「義務教育学校」は多用されそうである。


2.京都市 −コミュニテイスクール・小中一貫による統廃合と跡地利用 −

 すでに、2004年に「小中一貫教育特区」に認定され、全国の小中一貫校=統廃合促進をリードしてきた京都市教育委員会は、特に「下からの統廃合」を装うために、コミュニテイ・スクールの施策を利用した点が特徴的である。

 教職員組合が保護者、地域と結びついて、教育行政に対抗する図式が明確で、1980年代には銅駝中学校の統合反対による同盟休校まで起こした京都市において、市教委は一部の保護者、住民を懐柔して、統廃合はあくまで「下からの要求」であるというスタイルをとるようになった。 歴史的に、地域が共同で学校を作った「番組小学校」の歴史を挙げて、「地域の学校」を装いながらトップダウンの施策を「下支え」する「学校参加」を利用してきたのである。

 また、統合対象となるような地域の学校を劣悪な施設条件のままにおいて、御所南小など統合校に重点的に予算をかけた豪華校舎を建築し、統合対象校のPTAに刺殺させておいて合意を形成していく手法も多く用いられた。また、早い段階で小中一貫校制度を導入し、「エリート校になる」といった宣伝によって保護者の賛同を得てきた経緯もある。活力のなくなった地域の学校を切り捨てる5小学校2中学校の大規模統廃合であった東山開睛館については、そのような手法が多く使われた。

 しかし、従来であれば最初に子どもの発達などを背景とした「小中一貫カリキュラム」を策定して、それを根拠に校舎の一体化を進めるべき(品川区などはアリバイ的にそれを行っている)であるのに、京都市の場合、そのような手続きを無視して、敷地などの条件から、学校によって5・4制、および4・3・2制を併用するという不条理な手法をとっている点は看過しがたい。共通する行政が唱える「メリット」は、小・中の「滑らかな段差」のみであり、それすら科学的に根拠がない。東山泉学園で、小中分離校舎で、6年生のみが中学校で生活する5・4制一貫校を開設することに対して、多くの統合時6年生の保護者が反対したのは当然の事態であろう。

 また、多くの学校を統合した跡地の活用方針についても大きな方針変更が加えられた。1999年以降、京都市では、「都市部における小学校跡地についての基本方針」に基づいて、廃校跡地は、@京都市の事業として、A地域コミュニテイに配慮した活動、として、B市民、市会、学識経験者で構成する「校地活用審議会」を設置して、住民参加で跡地活用を決定する手続きがとられてきた。その結果、小学校廃校跡地は、特別養護老人ホーム、学校歴史博物館などに利用されてきた。

 しかし、2014年の「京都市公共施設マネジメント計画」公表以降は、@公的資産を「経営資源」にする、A職員の経営意識の強化、B集中管理するための組織再編、といったそれまでと異なった方向性がとられるようになった。さらに2015年、行財政局に「資産活用推進室」が開設され、民間の不動産ニーズに対応し、企業の市内立地などの円滑、迅速な実施を行政として後押しするといった方針を打ち出した。跡地の民間企業者への貸付、売却が行われるようになり、廃校になった清水小をホテルに貸与するという計画が打ち出された。

 このように都市部の廃校跡地の再開発を、行政が民間企業や私立大学に斡旋して新たな市場にしていく改革は「グローバル都市」シカゴなどにも共通するものである。経済的目的が優先され、子どもの十全な成長・発達、コミュニテイの文化的な核としての学校といった観点は極端に軽視される。


3.京北地区、合併自治体に対する強引な統廃合

 2005年に京都市に合併した旧京北町では、3小学校と1中学校を統合して小中一貫校にする統合計画が2014年に浮上し、保護者らが反対して紛争化してきた。同地域はこの10年間、豊かな子育て環境を求めてIターンする家族も多い地域で、児童生徒数はほぼ横ばいであった。2014年4月、市教委の出先機関の参与から突然、校長とPTA会長に「学校統廃合と小中一貫」の提案があり、6月には、自治振興会支部長会で突然の採決が行われ、関係者は反対1、保留2、賛成3であったにもかかわらず、振興会役員が賛成したこともあり、その時点で、一部のPTAでは合意形成ができていなかったにもかかわらず、市教委に対して下からの「要望書」として統廃合計画が提出されるに至った。

 事前に、小中一貫校化に対する十分な説明や協議、合意形成の機会が必要だったにもかかわらずそれが行われず、強引な計画がすすめられた。その背景には、合併によって行政、特に教育委員会が存在しなくなったことにより、保護者、住民の教育要求を受けるルートが消滅してしまい、むき出しの権力的な構造や利害が事態を決定するようになってしまった事態があるだろう。合併前には、個別の小学校の老朽化した校舎が改築予定であったにも関わらず、合併でその計画は消滅してしまった。
また、具体的な小中一貫校のビジョンについて提起がないにもかかわらず、「京北地域の活性化ビジョン」として、なぜか唐突に「地域に誇りを持ち、世界で活躍する人材育成に向けた小中一貫教育の推進」が提起されるなど、極端な行政主導が見られ、保護者、地域住民間にも亀裂を残す事態となっている。

高校統廃合と小・中の複式学級「解消」

 京都府の状況を全体的に見ると、2015年「生徒減少期における府立高校の在り方検討会議」が開催され、北部を中心に府立高校の序列化を伴う再編計画が進められている。生徒の人権侵害としての通学条件の悪化、困難を抱えた生徒たちが通う分校を地域に残していくことの重要性など、検討すべき課題は多い。

 また、京丹後市、福知山市などでは、小中学校の大規模統廃合が進められてきているが、「複式学級の解消」「将来的に複式学級の設置が見込まれる」学校の統合・廃止・再編といった,教育学的な根拠を欠く統合理由が用いられている。

 かつて徒歩通学が子どもの人格形成に果たす重要な役割についての判例も出されているが、子どもの十全な成長・発達にとって生活圏に学校が存在することの重要性について検討される必要性があるだろう。

 
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