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情勢ナビ 軍学共同問題
市民の声で大学の軍事研究をやめさせよう


           小寺 隆幸(京都橘大学人間発達学部 教授)
 

 大学は平和で民主的な社会を発展させるための研究の場であり、若者をその社会の担い手へ育てる教育の場です。そこでは学問の自由と民主主義の精神が何よりも尊重されねばなりません。人殺しを目的とする軍事研究を大学が行うことを断じて許すことはできません。

 戦後、日本の科学者は、戦争に加担した責任を深く反省し、「戦争を目的とする科学の研究には絶対に従わないという決意」を表明してきました。(1950年および1967年日本学術会議声明 日本学術会議のHPでご覧になれます)それが今、覆されようとしています。

 15年度から防衛省は公募制の「安全保障技術研究推進制度」を始めました。「昆虫サイズ小型飛行体」やレーダーに映らない「メタマテリアル」の開発などのテーマを掲げ、関連する研究に資金を出す制度で総予算3億円でした。研究所や企業も含め109件中9件が採択、大学では58件中、「レーダー搭載無人機の機能向上」をテーマにした東京電機大はじめ、豊橋技術科学大、神奈川工科大、東京工業大の4件が採択されたのです。

 予算を6億円に倍増させた今年度の採択結果は7月中にも発表されます。さらに自民党国防部会は予算を100億円に増やし、軍学共同を一挙に進めることを狙っています。それは軍学共同が「戦争ができる国作り」に不可欠だからです。

 研究開発費の中の軍事費の割合は日本は3%ですが、米国では55%も占めています。その結果、強力な軍産学複合体が大学の科学研究の内容や枠組みまで左右しています。日本でも軍事研究が常態化すれば特定秘密法の対象にもなり、学問の自由は消滅し、研究者の道徳的頽廃が進むでしょう。

 このような危険性を感じていても研究者が飛びつくのは大学の研究費が絶対的に不足しているからです。国立大の運営費が毎年削減される中で、大学は企業からの外部資金導入に奔走しています。そういう中で防衛省の資金であっても、民生にも軍事にも使える「デュアルユース」技術の研究であれば問題ないと弁解しながら応募する研究者がでているのです。確かに技術自体は両方に使えます。しかし防衛省が金を出すのは将来軍事に役立てるためであり、軍事研究に他なりません。

 このことが社会的問題になる中で学術会議は「安全保障と学術に関する検討委員会」を6月に立ち上げました。学術会議の大西隆会長は、豊橋技術科学大の学長として、採択された毒ガス防護服開発につながる研究の応募を承認した方です。それを批判されて氏は「自衛の目的にかなう基礎的な研究開発は許容されるのではないか」と語っています。しかしいうまでもなく、すべての戦争は「自衛のため」という名目で始まったのです。

 この発言は「核兵器使用も違憲ではない」という安倍政権の閣議決定の直後になされました。いったい学術会議はどこに行くのか、私も心配で第一回委員会を傍聴しました。山極京大総長を始め良識ある委員が多くいることにひとまずほっとしましたが、政権の圧力は更に強まるでしょう。委員会の議論を市民が監視し公表していかねばなりません。

 また各大学に、地域住民として、同窓生として、「軍事研究をするな」と働きかけることも重要です。私も大学に市民の方々とともに申し入れに行きました。大学は「軍事研究」という社会的汚名を恐れており、地域の方々の抗議は大きな力になります。今後、大学内の良心的研究者や教職員組合と、市民や各地の平和団体などを結ぶ軍学協同反対の広範なネットワークを作りたいと考えています。さしあたってわかりやすいブックレットを9月に岩波書店から出版します。様々な「ひろば」でご活用ください。

 
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