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いきいき セカンドライフ

子どもと共に生きる


       佐々木健
     
(退職教職員 京都南部少年少女自立支援の会「青空」代表 木津川市在住)
 

 「どないすんねん」。。。。。。「俺、やっぱり高校に行きたい」 高校進学を諦めかけていた彼らがポツリと応えてくれた。毎日のように遅刻し、校内で煙草を吸い、毎晩のようにコンビニ前でたむろし、注意をする教師に食ってかかり、学校の壁を破壊し窓ガラスを割る。授業や生徒集会を混乱させ他の生徒からもうとましがられ、居場所の奪われていった彼らは学校や時には級友をも敵に回し孤立を深める。結局は「学校に来て欲しくない者」として校内から居場所を奪われていく。授業をボイコットする彼らの学力は停滞するどころか一気に下降していく。高校進学は内申点もない彼らにとっては巨大な壁となって立ちはだかる。目標を失った彼らの暴走は激しさを増し、親たちは学校だけでなく警察との対応も迫られ疲労困憊していく。出口のない迷路のような日常がたった14歳の人生となった。

 彼らの親たちと出会ったのが昨年の春。荒れ狂う彼らが中3に進む直前であった。

 時に学校から保護者としての責任を問われる親たちの疲れは尋常でなく「親としてどうしようもないから助けてほしいのに・・・・」と学校不信の言葉が吐き捨てられた。穏やかで安定した進路指導の貫ける学校管理を求められる現在の「学校体制」の中で、彼らほどの邪魔者はいない。その責任を保護者は一身に受けなければならないのである。高校における非行問題行動を抱える生徒の保護者と中学校の保護者ではその精神的負担の差は大きい。せめて高校にだけは行かせてやりたいとの願いと、我が子が毎日のようにしでかす問題行動がその親の願いを打ち砕いていく。「先生、もう毎晩、眠れません」 多くの課題を抱えた子どもたちの親たちは、その苦しさに打ち砕かれて養育を放棄していくのである。

 京都南部少年少女自立支援の会「青空」 学校や社会から排除され行き場を失った子どもたちの支援と援助を目的に2013年に設立された退職教員・府退職職員による任意団体である。京都府府民生活部青少年課ユースアシストチームの登録団体となりチームからの支援援助も受けている。年に2〜3回、子育てネットワークのための「教育講演会とみんなのしゃべり場」も開催している。

 親たちの願いを受けてアシストチームに支援を要請し正式に支援が決定された。いよいよ子どもたちと出会うこととなった。まずは悪態をつかれることを覚悟しての面会であったが、彼らは穏やかであった。回数を重ねながら色々な話をした。家のこと、学校のこと、クラブのこと、警察のこと、煙草のこと、仲間のこと。暴走を繰り返しながら互いにつるんでいるように見えて、実はバラバラに孤立している彼らの姿が見えてきた。彼らも徐々に我々が「叱る側」にいる者ではなく「助けてくれる側」にいるオヤジたちであることをわかってくれるようになった。能面のように常に緊張して笑わなかったAに笑顔が見られるようになった。

 「そんで、これからどないすんねん」「やっぱり高校に行きたい」「俺も行きたい」

 勉強会が始まったのは中3の夏休み直前であった。勉強は小6から中1の初めからやり直した。ゆっくりと解るまで丁寧に教えた。勉強会は初めは曜日固定の週一回、2学期からは週二回。時に担任も顔を出してくれた。驚いたことに彼らは逃げ出すことも、サボることもなく3月まで勉強会を続けたのである。その一番の力は“解ることの嬉しさ”であった。「よ〜やった!」「何や、こうやったんか」「せやで!やれるやんか」

 2015年 春。彼ら全員が自らの手で高校進学を手に入れた。

 「“青空”はずっとお前らを見てるで。中間・期末、それに困ったこと、悩むことがあったら、いつでも来いや」彼らの新しい人生がとにかくスタートした。勝負はこれからである。

 
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