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■私と京都

気になる京都

               曾 于u
 

 初めての京都との出会いは、川端康成の小説『古都』が描いた運命に翻弄される姉妹の物語で、お祭りなどの年中行事に四季の変化を感じ、京の風物詩に魅せられた。小説を通じ、平安神宮の紅しだれ桜はまるで生きているように目の前で春風に揺れ、その艶やかさが目を引いた。それに、夏は、一カ月間にわたって行われる祇園祭は、山鉾巡行や賑やかなお囃子だけではなく、各家秘蔵の絵物語屏風が玄関に飾られ、通りから鑑賞できるようにしているのも興味深い。秋は、とこでも紅葉が空を赤く染め上げるようだ。また、火に包まれる迫力のある豪壮な鞍馬の火祭の魅力にも取り憑かれる。冬でも、凛々とした北山杉は冬の花と呼ばれ、上に載せた雪の花が、いつもとは杉の趣を異にしている。主人公の千重子が「北山杉のまっすぐに、きれいに立ってるのをながめると、うちは心が、すうっとする」と呟いた言葉に、私はいつまでもその余韻に満たされていた。

 京都での四季のめぐりと響き合うような留学生活は、面白いかもしれないと思った。心が躍る春、身体が弾む夏、力を蓄える秋、そして、春の訪れを待ちながら命を繋ぐ冬…、季節の移ろいにより、京都の町を歩きながら、四季折々の美しさが感じられるだろうと想像した。

 確かに、よその人の目でみると、京都は、古都というテーマパークだ。特に祇園では、舞妓さんや芸妓さんはパーフォーマンスとして華やかに街中を歩いているという印象を持っている。また、春と秋の時期は桜や紅葉を見に来る観光客が溢れている状態で、とっても大混雑の時期もあり、ゆっくり京都をめぐりことはほとんどできない。しかしながら、街角で見つけたある日常の風景からも、京都の雰囲気を存分に楽しめる。鴨川沿いを自転車で走ってみれば、古風な擬宝珠で飾られたコンクリート造りの橋を渡り、途中で何度か堤を降りて、観光客のあまり多くない閑静な神社やお寺にお参りに行くと、春の桜、夏の新緑、秋の紅葉、冬の雪に彩られた景色を満喫できる。また、夏の梅雨の時期は、散歩コースの疎水に沿って咲いてる紫陽花が、曇りの日にもきれいな色を添えてくれる。また夜も蛍の淡い光が川面に映る光景は、うっとりするほど美しい。秋は、東大路通りのイチョウの並木道は、黄色い葉が織りなす見事な錦秋となる。

 家の近くであり、糺の森に包まれた下鴨神社、百万遍の手作り市、出町桝形商店街にもよく通っている。いずれも京都人の気分に浸ることができ、落ち着ける場所である。ある日、学校から家に帰る道で、澄んでいる北山の空に五色の霞が出ていた。画家村山槐多が詩で描いた京都の夜景色を思い出した。

虹の様に五色に霞んでるえ北山が
河原の水の仰山さ、あの仰山の水わいな
青うて冷たいやろえなあれ先斗町の灯が
きらきらと映つとおすわ

 このときばかりは、台湾から出て来て以来、初めて旅愁という寂しい感情を味わった。

 留学のため京都に来て一年にもならないが、これまでも、これからも、様々な体験をしたいと思う。もう一歩を踏み出し、石疊で狭い路地裏の先、築百年以上の町家の中、観光客が少ない閑静な神社やお寺、地元の人で賑わう昭和風の商店街にもっと勇気を出し、進んで足を運んでみたら、素敵な人たちが待ってくれているだろう。

(2013.12.31 TSENG YUCHIEH 京都大学大学院法学研究科)


 
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