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特集2 乳幼児の育ち


総論 「子ども・子育て支援新制度」は子どもの育ちを危うくする

                     
藤井 伸生(京都華頂大学教授)
 

はじめに

 2012年8月、子ども・子育て支援法が新たに制定されると同時に、児童福祉法及び認定こども園法の「改正」によって、子どもの育ちに多大なる影響を与える制度(「子ども・子育て支援新制度(以下、新制度と称す」)が生まれました。

 新制度がめざす基本方向は、介護保険や障害者自立支援と同様な考え方で、今までの国及び自治体の責任と費用負担のもと社会的に保障する仕組みを変更し、制度利用者の自己責任に基づいて事業者との直接契約による制度利用へ切り替えようとするものです。あわせて、そのなかに営利追求する株式会社等を参入させて、金儲けの仕組みを作り上げようとしているといえます。したがって、子どもの育ちにとって心配な内容がたくさん含まれています。

 新制度の実施は2015年度を予定しており、今、国及び自治体レベルで詳細な内容を検討しています。そこに私たちが望む子育て環境のあり方に関する声をしっかりと届け反映させることが、とても大切になっています。

 このような問題意識から、新制度の概要を踏まえつつ、私たちが課題としなければならない内容について述べていきたいと思います。

1.保育所保育のゆくえ

 新制度では、市町村責任に基づく保育実施義務を全面的に解除しようとしていましたが、「公的保育を守れ」といった運動によって、児童福祉法24条1項において保育所保育(認可保育所)のみ市町村責任が残りました。児童福祉法24条2項では、認定こども園(幼保一体施設)・小規模保育(6〜19人)・家庭的保育(5人以下)・居宅訪問型保育・事業所内保育が位置づけられましたが、これらは利用者と事業者の直接契約制度です。新制度の保育制度にかかわる中味は、市町村責任に基づく保育所と直接契約制度による施設(事業)で構成されることになっています(図1を参照)。

 ただ、保育所保育においても、子ども・子育て支援法による運用となる関係で、保護者の労働時間等によって保育時間を決めるといった保育時間認定、その後、認定証に基づく入所申込みになります。政府は、厳密な保育時間認定によって保育経費の軽減を狙っています。「短時間」と「標準時間」の二段階になるといわれていますが、保護者がパートタイマーであったりすると、一日当たりの保育時間が6時間となる恐れもあります。仮に6時間認定で8:30から14:30の保育時間になれば、午後のお昼寝途中で迎えがあり、おやつ抜きでの降園となります。子どもの保育園生活を踏まえた保育時間にすべきであり、その点から最低8時間(8:30から16:30)の保育を保障すべきです。

 保育時間認定問題は、保育所の運営経費の減少にもつながります。現行では児童1人当たり最低でも8時間分の経費が支払われていますが、仮に6時間認定となると、8分の6に減少する恐れあります。さらに、新制度では保育所整備・改修費の補助金が廃止され、新たな保育報酬(公定価格)で賄えといったものに変更されます。保育所保育の運営経費の減少は必至です。最低8時間の保育保障がこの意味からも重要です。整備費等の補助金廃止については交付金手立てをするといっており、この点の実施を迫るべきです。

 運営経費問題としては、直接契約制度の認定こども園(詳しくは後述)への誘導策として、認定こども園の公定価格を保育所より高くするといった議論が出ていますが、保育所を軽視する考えで許容できません。
 保護者が負担する保育料については、所得に応じた応能負担を基本とするといっていますが、認定時間オーバー・土曜保育などの割増追加料金の発生、おやつ・給食費の全額負担、教材費等の実費徴収、絵画・スイミング等のオプション保育料の上乗せ徴収等が懸念されており、保育料負担の増加の恐れがあります。基本保育料以外の負担を極力抑えていく仕組みが求められます。

 新制度における保育所保育においてもう一点、心配事があります。公私連携型保育所が創設されます。これは「当該市町村から必要な設備の貸付け、譲渡その他の協力を得て、当該市町村との連携の下に保育及び子育て支援事業を行う保育所」(児福法56条の8)・「当該設備を無償又は時価よりも低い対価で貸付け、又は譲渡するものとする」(児福法56条の8のC)となっています。要するに公立保育所を安売り・安貸しできるといったもので、民営化に拍車をかけることになります。民営化の道は、人件費保障を不安定なものにするものであり、保育士の非常勤化・若年化を招き、保育の質後退の懸念があります。安易な運用は避けるべきです。


2.直接契約制度の拡大路線

 いくつかの問題を抱える保育所保育ですが、市町村の保育実施義務に基づく制度であり、待機児対策をはじめ今後の保育制度としては、より一層拡充していくべきものです。しかしながら政府は、保育所保育は軽視し、前述した直接契約制度を重視し拡大していこうとしています。

 認定こども園は、「幼稚園及び保育所の機能を併せ持ち、保護者の就労状況及びその変化によらず柔軟に子どもを受け入れられる施設」であり、その推奨が『子ども・子育て支援法に基づく基本指針(案)』において謳われています。幼保一体化は全面的に否定はしませんが、市町村の保育実施義務がはずされた中での運用は、公的な保育保障を危ういものにしてしまいます。認定こども園への入園がかなわない場合、法的手段に基づいてその保障を求めることはできません。

 また、認定こども園では、幼稚園の保育時間(概ね9:00から13:00までの4時間)、保育所の短時間及び標準時間と3パターンの保育時間設定となり、子どもの園生活のリズム形成に困難を極めます。幼稚園のニーズが一定ある地域、幼稚園及び保育所機能を分割しても成り立つような人口規模の地域では、幼稚園は保育所はそれぞれ独立したまま存在させ、安易な認定こども園化は避けるべきです。ただ、人口減小地域、幼稚園及び保育所ともに定員割れをしている地域では、幼保一体化としての認定こども園であっても市町村責任を明確にするのであれば、その移行もある得るかもしれません。

 小規模保育・家庭的保育・居宅訪問型保育・事業所内保育も(これらは地域型保育と称されています)、設備投資が認可保育所に比べて少なくて済むために推奨されています。2013年4月に安倍首相によって提唱された「待機児童解消加速化プラン」(2013年度から17年度の5年間で40万の保育定員を増やし待機児ゼロをめざす)の目玉は、新制度の小規模保育の先取り実施を行うというものです。そこでは、定数上の保育者の内、保育士資格者は半分おればいいといった見解が示されています。家庭的保育・居宅訪問型保育の保育者は、保育士資格は必要とせず研修さえ受ければよいといった考え方が示されています。

 そして、最大の問題と思われるのは地域型保育給付費(保育単価)がいくらになるかということです。家庭的保育はすでに実施されており、この保育単価が地域型保育給付費の原型になると思われます。家庭的保育の保育単価は、2013年度の国基準において 児童1人当たり月額52,200円に過ぎません。認可保育所の最小規模は20人ですが、20人規模の保育単価は月額212,610円(京都市・0歳児)で、4分の1に留まっています。

 法的根拠において保育保障義務を形骸化させる直接契約制度の導入は極力避けるべきです。また、保育者資格や保育単価に格差をもたらす様な安易な仕組みの導入は受け容れられません。


3.企業化の拡大路線

 保育所の認可制度の変更で、欠格事項(経済的基礎・社会的信望等)に該当する場合や供給過剰による需給調整が必要な場合を除き、保育所の認可申請がある場合、一定の認可基準をクリアしていれば認可されることになります。今までは、自治体の意向で企業を理由に認可しない場合もありましたが、それができなくなります。地域型保育は、保育士資格や設備基準等の認可基準が緩やかなため、このままだと企業の参入が容易になりそうです。

 2013年4月において「待機児童」をゼロにした横浜市では企業保育所が多数参入しています。日本共産党横浜市会議員団が2011年度(361園、その内株式会社が80園)の保育所運営費に占める人件費比率を調べたところ、株式会社で平均53.2%、社会福祉法人で平均70.7%となっていることを明らかにしました。

 人件費比率を抑えるということは、低賃金・不安定雇用の保育士を広げることにつながり、保育士の頻繁な交代をもたらしベテラン保育士の確保を困難とさせます。このことは保育の質後退にもつながる恐れがあります。

 営利本位の企業参入には歯止めをかけるべきです。全面的な経理公開と利潤規制が求められます。


おわりに−公的保育を維持・発展させるために−

 前述したように新制度の実施は2015年度です。今、国及び自治体に向けた保育制度の改悪阻止、そして保育制度の拡充を求める運動の強化が求められています。

 国及び自治体レベルでそれぞれ議論されている「子ども・子育て会議」に対して、認可保育所の推進を基本とさせること、そして、多様な保育が推進される場合には保育基準に格差を持ち込まさない運動を強化すべきです。

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