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■情勢ナビ

TPPは国民に何をもたらすか



      農民組合京都府連合会 副会長 上原 実

 

1、はじめに

 さる2月22日、安倍首相はオバマ大統領との会談でTPP参加へと大きく舵をきっ た。「聖域なき関税撤廃は前提でないことをオバマ大統領と確認した。」として3月1 5日に記者会見を開きTPP交渉参加を正式に表明した。自民党が総選挙で掲げた「聖 域なき関税撤廃を前提とする限り交渉参加に反対する」という選挙公約はいとも簡単に 反古にされた。しかし、その後のアメリカとの事前協議の結果は、アメリカの要求を丸 呑みしただけで、米や乳製品など農産品の関税維持をはじめ日本は何の確約も得ること はできなかった。


2、TPPは国民に利益をもたらすか

 参加表明の記者会見後に発表された「政府統一試算」では、関税を撤廃した場合の経 済効果として国内総生産(GDP)が10年後に3.2兆円増えるとしている。日本の GDPは約500兆円なので「年率にして0.06%ということになる。これは誤差の 範囲といってもよい。」「TPPはGDPを増加させる効果はほとんどない」(一 橋  大学名誉教授野口悠紀男氏)のが実態である。しかも、輸出の一番の稼ぎ頭になるはず の自動車が、アメリカとの事前交渉で関税撤廃は当分先送りとすることを日本はのんで しまった。輸出が2.6兆円増えるとする政府試算の前提が崩れてしまったのである。 しかし、甘利担当大臣は影響が大きいので「再試算」は行わないとしている。

 日本政府は事前交渉段階でアメリカの要求を丸呑みした結果、国民への経済的メリッ トの説明の根拠を失っただけでなく、日本の交渉能力の低さまで露呈してしまった。

 これまでTPP参加を煽って煽ってきたマスコミも「日本は何のためにTPP交渉に 参加するのだろうか」(朝日)と嘆く始末である。

 「政府統一試算」の農業の分野の計算を見ると、食料自給率カロリーベース40%が 27%に減少し農林水産物の生産減少額は2兆9600億円の減少となっている。   しかし、3年前の農水省の試算で示された 就業機会の減少(350万人減少)やGD P減少額(8兆4千億円)は計算されていない。さらに、TPP参加によって農業の多 面的機能が喪失されることを考慮するならば、失うもの多くして日本が得るものは何も ない。


3、「食糧危機」の時代に食糧生産を放棄する愚かさ

 世界人口70億人のうち10億人が飢餓人口といわれ、異常気象による干ばつや洪水 の被害が世界各地で頻発する状況のもとで世界的な食糧危機の警告が発せられている。  日本が食糧の六割を海外に依存しながら食糧不足を感じることがなかったのは、比較 的安価にたやすく食糧を手に入れることができたからである。しかし、そういう時代は 終わりをつげ、世界の食糧危機と円安のもとで、食糧の高騰はまともに食卓を直撃する ことになる。世界人口の2%が一割の食糧を買い漁るやり方を世界は許さないのである。 すでに世界の市場で日本が買い負けする事態が起こっている。このときに、食糧の自給 を放棄することは日本の未来を他国にゆだねるに等しいものである。


4、食の安全はまもられるか。

 例外なき関税化と同時に、非関税障壁の撤廃もTPP交渉の重要な課題としてあげら れている。その中には、食品安全基準や食品の表示制度も交渉の対象となる。アメリ  カはこれまで「外国貿易障壁報告書」で様々な要求を取り上げてきた。たとえば「日本 の食品添加物の規制は、いくつもの米国食品、特に加工食品の輸入を制限している」と して、アメリカで認めている食品添加物を日本で認可するよう求めている。米国の認め ている食品添加物は約3000品目。それに対して日本は832品目。その差2000 品目あまりが押し寄せることになる。

 さらに、農薬の残留基準値について「国際基準に合致した基準値の導入を日本に対し て強く求める。」としている。かつて、日本がWTO(世界貿易機関)に加入した1995 年、ジャガイモの発芽抑制に使用されていた除草剤のクロロプロファムをアメリカの圧 力に屈して、0.05ppmの残留基準値を50ppm(1000倍)に引き上げたこ とがある。消費者の長年の運動によって築かれてきた食品の安全基準が外国の圧力によ っていとも簡単に崩され、食の安全が脅かされる事態となることが予想される。


5、学校給食も外国資本の餌食に

 現在、WTO・政府調達協定のもとでは政府と都道府県の発注する20億円以上の公 共事業、2500万円を超える物品調達は国際入札にかけ、外資に解放しなければなら ない。しかし、TPPでは政府、都道府県だけでなく、全市町村が発注する6億円以上 の公共事業と630万円を超える物品調達を国際入札にかけることが求められる。   学校給食もその対象となることが予想され、外資が入ってくれば 地場産の野菜の使用 などの義務づけは貿易障壁として訴訟の対象とされる可能性が出てくる。また、学校給 食に大量の輸入冷凍食品が持ち込まれることも危惧される。


6、「百害あって一利なし」TPPはストップする以外にない

 TPPは医療や雇用をはじめ、国民生活のあらゆる分野に影響が出る。日本国民のく らしの中にアメリカのルールを強引に持ち込む日本のアメリカ化は認められない。消費 者と農家の利益対立の構図を描いて、議論をその範囲に封じ込めようとする政府や財界、 マスコミの意図を許してはならない。ことは日本の未来がかかっているのである。闘い はこれからが正念場である。「百害あって一利なし」のTPPをストップするために、 幅広い戦線での世論の結集と闘いの強化が求められている。

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