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■生き生きセカンドライフ

土と自然の中で


                 竹内 秀曜(元京都府小学校教諭)

 

 三月のある日の午後のことです。久しぶりの好天で、一面の青空の下、暖かい陽光を浴びながら農作業をしていました。畑に馬鈴薯を植えるための畝を作ろうと、畝にびっしりと生えているオオイヌノフグリやホトケノザ、ナズナ、その他いろいろな雑草を抜いていると、モンシロチョウがひらひらと飛んできたり、カラスがひっくり返っている土の中から虫をあさったり・・・。と、頭の上から「帰りましたあ。」「かえりました。」と可愛い声が降ってきました。見上げると川の土手道を学校帰りの数人の小学生の一団が歩いています。すかさず「お帰り!」と手を振って答えます。お互い知らない者同士なのに気持ちのいい風景です。

 退職したら是非やりたいと心に決めていたのが「米づくり」でした。妻の故郷福知山の実家には田畑があります。今まで米等いつも送ってもらっていたこともあり、田植えの準備など時々手伝いに行っていました。働き手が少なくなった近年、退職を期に念願の米作りに丸ごと挑戦できることになりました。その上、畑での野菜作りも合わせて。

 福知山の畑へは、向日市の自宅から約八十キロ。車で一時間二十分程かかります。道中、自然の移ろいを楽しみながら通っています。基本は日帰りで、田植え時期など急ぐ場合や日中暑くて作業出来ない夏場などは一泊します。

 私の退職を待っていたかのように、二年半前に母が要介護に。老老介護していた父も昨年要支援になりました。現在、週三日は実家へ世話に通っており、その合間を縫っての農作業や他のやるべき事柄をこなしているという毎日です。

 さて「米つくり」ですが、この三年間、先ず初年はこしひかりを、二年目、三年目はこしひかりに加えてもち米にも挑戦し、それなりの収穫ができ、ご飯や餅、おこわとして美味しく食べています。聞くところによると、私の田んぼはそのあたりでも特に旨い米ができる田んぼだそうで、田の土質がいいということです。ラッキーなことに誰が作っても、私のような全くの素人が作っても旨い米ができるんです。

 むかし、一年生か二年生の国語の教材に『おいしいおにぎりをたべるには』というのがあったのを思い出しました。毎日、当たり前のように頂いているごはんですが、口に入るまでに農家の人達がどのような作業をしておられるのか、水や太陽の光や熱がどれだけ大切なものなのかを考えさせる教材でした。そんなことを思い出し確かめながらの稲作です。

 「晴耕雨読」という言葉がありますが、とても羨ましい言葉です。私の場合は、週一回農作業に通っているのですから、照ろうが降ろうが行った日の仕事になります。でもどのような天候であってもそこの自然の中で土と親しむ時間は、自然の中に溶け込みリラックスできる。また近所のお年寄りと出会ってはいろいろ教えてもらったりと、今までに経験することがなかった幸せなひとときです。

 米も野菜も、新鮮で市販の物と比べると明らかに安全で旨さが違うのです。親戚や友人・知人に配達しては喜ばれています。そしていつも感心するのですが、「土」のもつパワーの素晴らしさです。日本はもっと農業を大切にすべきだと心から思っている昨今です。

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