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平和教育35 

被害と加害の両面に目を向ける平和学習



                    本庄 豊(立命館宇治中学校)
 

「先生、中学校の『平和のつどい』、何で十二月に開くの?」
「『アオギリのつどい』の名前はどこからつけたの?」
「立命館宇治中では平和について考えることが多いけど、なぜ?」
「生徒会本部役員になると、毎年八月に広島に行くの?」
「社会科の授業では戦争中の立命館の歴史を学ぶの?」

 教師に話しかけるのが好きな生徒たちは、放課後や休み時間などに、私をつかまえ口々に語ります。立命館宇治中学校では、社会科をはじめ、社会科や国語、英語や理科などの各教科で、平和について学ぶ機会が多くあります。当たり前のように平和学習をしている生徒たちですが、自分たちが学ぶ平和というものがどんなものなのかをもっと知りたいと思っているのです。


社会科で学習したことが新聞投書に

 二〇一二年十一月、教員の二人は中学三年生社会科「公民」学習で「領土問題」について取り上げ、学習した成果を新聞に投書させました。次は、『京都新聞』に掲載されたある生徒の投書です。中学生らしい率直な感性で書かれた投書の内容が、多くの人たちの共感を呼びました。

二〇一二年一〇月三一日付『京都新聞』朝刊「読者の声」欄

日中は仲良く民間交流 宇治市(中学生・十四歳)

 尖閣列島をめぐって中国の反日感情が高まる中、上海許建東将棋倶楽部の許建東一家の歓迎会が一〇月二日、京都で開かれ、私は複雑な気持ちで参加した。
 八歳の時から二回、上海で開催された将棋交流会に招待されたことがあって、許さんとはその時からの知り合いだ。しかし私は反日デモの映像をテレビで見ていたので、どんな顔をして会えばいいのか、とても不安だった。
 ところが会場に着くと、許さんが私のところに笑顔で来られて「奈々ちゃん、大きくなったね」と、優しく手を差し伸べてくれた。そして全体のあいさつの時に、「いろいろあるけれど、仲良くしていきましょう」と片言の日本語であいさつされた。
 その言葉に、会場の雰囲気は一挙に和み、私もほっとした。尖閣諸島をめぐっては日本の主張と中国の主張はまったく異なる。けれども、私たちが忘れてはならないのは、中国十三億人の、そして日本人一億二千万意見が皆、同じではないということだと思う。
 焦らず、日本も中国も冷静に自分たちの意見を述べ続けていくことで、ゆっくりではあっても一番正しい方向へと進んでいくのではないかと思う。 

 日韓両国とのあいだで軋轢が生じている領土問題は、日清戦争直後の一八九五年に台湾植民地化と尖閣諸島の日本編入があり、日露戦争直後に竹島の日本編入、六年後に「韓国併合」があったという歴史的事実を無視、あるいは軽視する外交交渉ではぜったいに解決できません。領土問題は、まさに歴史的問題だからです。


現代の課題に切り結ぶ社会科学習を

 本校の社会科学習では、「公民」はもちろん、「地理」や「歴史」においても、常に現代の課題(社会問題)を意識したテーマでプランを立て実践しています。二〇一二年十二月の総選挙時の社会科授業では、「自主憲法制定」「国防軍の設置」を訴える党首のことや、「脱原発」や「卒原発」が話題になりました。生徒たちのなかに主権者意識を育もうと、総選挙を前に中学三年生社会科「公民」のなかで模擬投票に取り組みました。

 中学一年生社会科「地理」では、「東北の復興と私たち」という課題を冬休みの宿題とし、それを二〇一三年三月の学習発表会で保護者の皆さんに披露します。中学二年生の社会科「歴史」では、モノに着目し、「モノが語る歴史」というテーマの課題を夏休みの課題に出し、それを文化祭などで展示しました。こうしたなか、靖国神社や原発問題などのテーマに果敢にとりくんだ生徒もいました。なお、立命館大学国際平和ミュージアムへの見学は、中学社会科の必修企画にしています。


立命館の「不戦の集い」

 戦後の立命館が「平和と民主主義」を教学理念に高く掲げているのは、皇国史観に基づく鉄血勤皇隊等の活動や、学徒出陣や特攻隊への志願、勤労動員など立命館が大日本帝国の侵略戦争推進の国策に深くかかわって来た反省の上に立っているからです。戦後、学園内に戦没学生記念会が作られ、彫刻家・本郷新により「わだつみ像」が制作され、一九五三年に末川博学長が学園として像を引受ける意思を示し、現在立命館大学国際平和ミュージアム内に設置されています。こうした立命館の歴史については、社会科近代史学習のなかで時間をかけて教えています。

 さて、立命館の「不戦のつどい」は、「わだつみ像」が設置された一九五三年から毎年、十二月のアジア太平洋戦争開戦の日前後に像の前で開催されている、平和のための取り組みです。立命館大学琵琶湖草津キャンパス(BKC)では「嵐の中の母子像」前で行われています。また、各附属校でも、さまざまな平和学習が旺盛に展開されています。


秋葉市長との対話、被爆ピアノ招待

 二〇〇八年中学二年生で行った広島「平和フィールドワーク」のなかで、秋葉忠利広島市長(当時)との対話、被爆ピアノ訪問などにとりくみ、その成果が八月の広島平和記念式典への招待、翌二〇〇九年の被爆ピアノを学校に招待する企画へとつながっていきました。被爆ピアノについては、その後国際連合本部にも招待され、国連で本校生徒たちが演奏するという機会もありました。また、日中韓の生徒たちがそれぞれの国で開催される歴史体験キャンプで交流しあう企画には、学校として費用の半額を補助することになり、二〇一一年は仁川(韓国)、二〇一二年は大連(中国)での歴史体験キャンプに、本校からエントリーされた十人の生徒が参加し、中国や韓国の学生たちと交流しました。


立命館宇治中学校の「平和の集い」と「平和宣言」

 立命館宇治中学校では、毎年十二月はじめに「平和のつどい」(アオギリのつどい)を開いています。これは立命館学園が開催する「不戦の集い」に呼応するものです。

 二〇一〇年八月、生徒会の代表三名が広島平和祈念式典に参加した際に譲り受けた被爆アオギリを植樹し、平和を誓う集会を行い、植樹祭を催しました。平和集会では、「広島の歌」でグランプリを受賞した「アオギリの歌」の作詞作曲・森光七彩さんにこの歌の誕生秘話をお話ししていただき、ピアノ伴奏で歌っていただきました。また、学習の成果を発表し、平和の大切さを参加者に訴えました。最後に、次の「平和宣言」を全員で確認しました。植樹祭では、生徒全員で「アオギリの歌」を歌い、本校でこのアオギリが大きく育つことを祈りました。

 立命館宇治中学校平和宣言

 私たちは唯一の被爆国である日本で生まれ育ちました。
 多くの人は、一度は広島・長崎を訪れたことがあると思います。
 昨年度、私たち生徒会は被爆ピアノコンサートを行い、平和へのメッセージを発信しました。
 今年8月、私たち、立命館宇治中学校生徒会の代表は、広島平和祈念式典に参加しました。日本人だけにとどまらず、世界中の人が広島に集まって平和を祈っている姿を見て、どうしてこんなに多くの人が平和を祈っているのに、今でも戦争は消えないのだろうと思いました。けれど、平和を祈り続けることをやめてしまうことは、「2度と同じ過ちは繰り返さない」という戦争で被害にあった人々の思いを捨ててしまうことになります。
 私たちは、実際に戦争を体験した人から直接話を聞ける、最後の世代です。悲惨な戦争によって多くの犠牲者が出たこと、たくさんの人々の心に傷を残したことは忘れてはいけないし、絶対に繰り返してはいけません。だから、私たちが、それを受け継いで次の世代へ伝えていく第一歩として、平和の象徴であるアオギリを植樹します。
 立命館学園は「平和と民主主義」を教学理念に掲げています。私たち立命館宇治中学校の生徒は、平和について考えて、平和を伝えていく立場になります。そして、大人になってもずっと、平和な世の中になるための活動を続けていくことを誓います。
              二〇一〇年一二月一〇日
                  立命館宇治中学校 生徒会 


「赦しの花・満州朝顔」の学習会

 二〇一一年六月の生徒総会に高杉元彦立命館大学国際平和ミュージアム館長(当時)を講師に招き、「赦しの花・満州朝顔」の学習会を行いました。

 「アジア太平洋戦争後、シベリア抑留から撫順戦犯収容所に移された元日本兵は、ソ連(現ロシア)のラーゲリー(強制収容所)とはまったく対照的な厚遇に驚くとともに、しだいに人間性を取り戻し、自分たちの罪を認めるようになりました。そしてごく一部を除き、大半の人が「起訴免除」として赦されて帰国しました。別れの時に、ある人が看守の一人から『もう武器を持って二度と大陸に来ないで下さい。日本へ帰ったら、きれいな花を咲かせて幸せな家庭を築いて下さい』、と数粒の朝顔の種を手渡されました」高杉館長は、旧満州に生まれた自分の体験も交えながら、全校生徒に語りかけました。

 高杉館長の話や、生徒会本部役員の「赦しの花」スライド解説を聞きながら、加害の事実を認めること、そして何ができるかを考えることの大切さを生徒たちは学習しました。顔の花を通して国際連帯のあり方を生徒たちは学んだのです。次の週に学校便りに「赦しの花」についての平和学習のことを掲載し、申し出のあった保護者に満州朝顔の種を渡し、栽培してもらうことにしました。朝翌二〇一二年の夏には、「朝顔が咲きました」という保護者からの便りが届きました。
 平和学習では、戦争被害の側面だけではなく、加害の側面も学ぶとともに、被害と加害が入れ換わること、あるいはそれを克服して行く取り組みなどについても学習して行くことが大切です。今後は、社会科学習と連動するかたちで、沖縄平和学習へのとりくみを進めたいと考えています。

(掲載写真省略)

 
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