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ルポ記事    なが〜く続く「伏見子育て懇談会」



         「ひろば」編集部
 

それは30年ほど前に始まった

 「キョウコン」の名で呼ばれてきた「教育懇談会」は、学校やPTAの行う「地域懇談会」が学校サイドからのお知らせ、お願い中心であるのに比べて、自由に父母住民と教職員などが「本音で語れる場」という魅力があります。しかし今ではこの「教育懇談会」を継続しているところは見つけるのに苦労するほど少なくなってきています。その背景には先生の多忙化で休日や夜間といえども出て行きにくい状況がありますが、もっと深刻なことは両者が「管理と競争の教育」蔓延のもとで、本音で共同していくことの意義が伝わらず「面倒なこと」として受け止められていることが伺えます。

 今回、訪問取材した「伏見教懇」は、「子どもと教育・文化を守る伏見連絡会」(市教組本部、新婦人伏見支部が連絡先)が主体となったもので、その世話人である西谷美由紀さんに伺うと「その原点はお聞きしたところでは、30年ほど前にある」ということ。伏見の南に位置する「向島南学区」に数人で新婦人の班が発足し、小花でも年々株を増やす「なでしこ」とネーミングした子育ての学校が始まりでした。定期的な懇談会の他に「おやつの手作り」など楽しいことも企画し、併行してスタートした「家庭塾」は今も続いています。この間、何度も灯が消えそうになったそうですが、清水和代さん(前市教組委員長、向島在住)は「私が教組伏見支部役員として関わったのは、1,000人規模の教育大集会などの勢いが下火になり、日の丸・君が代闘争で再開した頃です。校内の議論では校長の強圧的な姿勢に抵抗しきれなかったとき、地域父母と協力して運動することで勇気と展望をもらった」と語っています。そして「教育基本法のたたかいで三度目の灯が点ったが、最近はまた厳しくなってきているとお聞きしたのでこれからは地元在住の退職教職員の会として支えていきたい」と10月例会で発言されました。


10月例会のようす

 最近では、毎月第3日曜日の午前10時から伏見区役所の一室をお借りしてのテーマ懇談会が定例になっているとのこと。「ひろば」編集に関わる大平(教育センター事務局長)は9月に続いて10月21日の例会にも取材参加し、「父母と教職員の共同をふたたび」(前掲拙文)のテーマで問題提起もさせていただいた。かつて向島の小学校に勤務されこの懇談会にも深く関わってこられた市教組細田教文部長からは、30人学級実現や小中一貫校問題での圧力をはねのけての教育運動の紹介もあった。この日は、父母、新婦人や現職・退職教職員など9人の参加で約2時間和気藹々とすすめられた。交流では次のような「本音」が続々と出され、かみ合った議論で意義あるとりくみを実感した。

・「洛水高分会の“地域担当”の任務で10数年前から参加してきている。向島地域だけのとりくみもあり大変だったが小中高校とタテの関係で子どもの実態を知ることが出来て有益でした」(退職教師)

・「ここへ来ると、世間の風(常識)がよくわかり、学校の非常識さが検証できる。いろいろと学べて楽しかったし、遅れていっても喜んでもらえ、お菓子も出て感激した。学校も変わり、今日は久しぶりに参加したがこれからも顔を出したい」(現職教師)

・「2人の小学生がいるが、子どもは学校の先生のあり方に疑問のような思いを持っているようだ。運動会を前にして怒り方がおどしみたいで、本番二日目の演技練習で先生が『今のは何点と思うか?』と聞かれたので『100点や!』とみんなで言ったら『20点や!』と返ってきて子どもはショックを受けている。勉強のわかりにくい子に『もう一回、保育園やな』など傷つくことを平気で言われる」(母親)

・「いろいろな教師のことを聞かせてもらい心当たりもある。今の学校現場は教職員評価や学校評価を意識しすぎるあまり『整然とした学級づくり』を求められ、手っ取り早く大きな声で子ども達を抑え込む傾向がある。子どもの内面を見ないで『規範意識』を強調するなど学校の“見栄え”を競っている」(退職教職員)


 堰を切ったように発言が相次ぎ、いつの間にか正午を回っていた。次回は現職教員の実践を聞く、12月は府立大の先生からの「ノルウェーの教育」をテーマに懇談する予定が予告され解散。

 この数年、世話役として企画、案内に携わっておられる西谷さんは「最近は教組、新婦人、退教、議員さん、PTA有志、ノルウェーゼミ生などで構成しているが、組織の事情で必ずしもきちんと位置付いていない。工夫したニュースなどで細かく伝えているが、参加が少ないと消耗することもある。しかし、受け継がれてきた伝統の灯を消してはならないとのメッセージもたくさんあり、いろんな方の知恵や力をもらって懇談会以外のとりくみも視野に入れて頑張っていきたい」と力強く語っていただきました。 (文責:大平 勲)

 
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