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■特集テーマ 2
  京都市の教育を糺す


●総論
 京都市教委の体質
−−不正・不祥事はなぜやまないのか−−

             中村 和雄(市民ウォッチャー・京都 事務局長)

 
はじめに
 
 
 2011年5月19日、京都市中京区でシンポジウム「またしても京都市教委−不正・不祥事はなぜやまないか」が開催されました。京都においてこれまで多くの情報公開と行政監視に取り組んできた「京都・市民・オンブズパースン委員会」と「市民ウォッチャー・京都」の2つの団体が共催したものです。シンポジウムでは、京都市教育委員会の不正腐敗・不祥事事件を紹介するとともに、なぜ、これほどまでにこうした事件が連続して発生するのか、京都市教育委員会の体質についても問題を指摘する発言が相次ぎました。当日のシンポジウムで報告された京都市教育委員会の実態の一部を冊子「京都市教委の体質」(発行:京都・市民・オンブズパースン委員会、市民ウオッチャー・京都)より抜粋して報告します。
 
 
一、タウンミーティング〈不正国賠訴訟〉
 
 
 2006年秋、教育基本法「改正」の国会審議の中で、小泉・安倍内閣のTM(タウンミーティング)が「やらせ質問」や公金のバラマキ等で、民意を偽装しようとするものであったことが大きな問題となりました。その中で、前年の秋、京都市で開催された「TMイン京都」では、国と京都市(市教委)が、不正抽選を行って特定の応募者の参加を阻止したことが明らかになったので、排除された4人が、国と京都市の謝罪を求めて国賠訴訟を提訴。2011年3月、最高裁が京都市の上告を棄却し、「(国と京都市の行為は)公務員の廉潔性に対する信頼を害し、公務員の職務義務に違反する」として、国・京都市に、原告3名への損害賠償金の支払いを命じた大阪高裁判決が確定しました。

 呆れるのは京都市の対応でした。市教委は、国に、特定の応募者に関する、「元夫」や「民団支団長」というようなとんでもない個人情報(しかも虚偽のもの)を伝えて、参加を阻止するよう要請しただけではなく、応募者名簿に「当選」「市教委ダミー」等と付記して当選者を操作しました。また、裁判でも、いっさいの責任を国に押しつけて開き直りを続けました。判決確定後も、原告らに形式的な謝罪文を出しただけで、関係者の処分等はいっさい行っていません。
 
 
二、無理やり分割発注の入札
 
 
 本来公共工事は、公正な競争入札によって業者が選定されます。しかし、小学校や中学校の修繕工事などは、工事費が250万円以下であれば、特定の業者に依頼する随意契約という方式が認められています。そこで、京都市教育委員会はこのことを悪用して、本来は250万円を超える工事でも、書類上だけ分割して競争入札を回避するという違法な手法を長年にわたって続けてきました。

 たとえば、西賀茂中学校では、2008年7月から9月にかけて教室改修工事が行われ、M工務店が総額1127万円の代金で工事を完了しました。本来この工事は競争入札によって業者を選定しなければならなかったはずですが、そうした手続きはなされず、はじめからM工務店に依頼されました。そして、書類上は、同年11月から翌年3月までの7回に分かれて工事が行われたことになっています。さらに不思議なことに、提出された別業者の見積もり書は各工事ともにM工務店の見積書のぴったり10%増となっていました。

 驚くばかりのこうしたデタラメな手続きを是正させるために、住民訴訟を提起し、現在京都地裁で裁判中です。
 
 
三、パイオニア委託研究事業住民訴訟〈最高裁が7168万円の賠償命令〉
 
 
 この事業は、京都市教委が、「研究委託」という名目で、毎年500名ほどの教員と個別に随意契約を締結し、各5〜15万円を支給したものです。2001年度からの5年間で、2500名以上の教員に合計約1億3千万円が支出されました。しかし、この事業は、誰もが自由に応募できるのではなく、校長・市教委のお気に入りの教員に限られるという露骨な教員分断策だったのです。

 この公金支出は、「いかなる給与その他の給付も法律・条令に基づかずには、これを職員に給付することはできない」と定めた地方自治法違反だとして、住民訴訟を提起しました。京都地裁、大阪高裁とも違法支出と認定し、門川市長(当時教育長)、高桑教育長ら京都市教委幹部4名に総額7168万円の支払いを命じました。この判決も本年4月の最高裁決定で確定したのです。

 この判決で注目されるのは、支出決定の決裁権者でなかった門川市長に対して、教育長としての責任を指摘し、「重過失があった」「不法行為責任は免れない」として事業費全額の損害賠償を命じた点です。しかし、門川市長らは、今もあいかわらず「事業の目的は正当だった」などと、判決で完全に否定された弁明を繰り返し、市民への謝罪も、自らを含む関係者の処分も拒否したままです。
 
 
四、同和奨学金 〈返済金を肩代わり〉
 
 
 前回の京都市長選挙でも大きな話題になった「同和奨学金事件」について報告します。同和奨学金自体は全国的な制度です。ただし、国が制度を給付制から貸与制に切り替えた後も、京都市は実質的に給付制度を維持するということで自立促進援助金という新たな制度を作りました。どんなに収入の高い人であっても、京都市が返済分を全額肩代わりするこの制度を最近まで維持していました。運動団体の圧力によるものでした。その金額は毎年増え続け、平成14年度だけで2億円を超えました。

 同和地域に居住している、もしくは、かつて居住していたというだけで、どんなに高収入であろうと全額すべて肩代わりするのはどう考えてもおかしい。市民ウォッチャー・京都は、住民監査請求をし、京都市監査委員会が却下したため、裁判を続けてきました。

 大阪高裁で2006年3月31日に判決が出され、京都市の自立促進援助金制度は違法であると断罪しました。2007年9月25日最高裁判所も高裁判決を支持しました。それらを契機として、やっとこのほど自立促進援助金制度の廃止が市議会で決まったのです。私たちのたたかいの成果です。 
 
五、門川宣伝本大量配布〈1400冊を無償で配布〉
 
 
 京都市教育委員会は、2008年2月に行われた京都市長選挙の直前に「教育再生への挑戦・市民の共汗で進める京都市の軌跡」という書籍を公費によって1400冊も購入し、個人・団体に無償で配布しました。この書籍には、門川氏の写真入りインタビュー記事が掲載され、門川氏が選挙の際に宣伝していた政策や実績がそのまま載るなど、まさに門川氏の宣伝本でした。この書籍は、PHP研究所編となっていますが、実態は京都市教育委員会が大慌てで作成したものであることが裁判の中で明らかになりました。

 また、この書籍の購入は、書類上は、各書店から購入したとの形式が取られていますが、実際は、出版社のPHP研究所から京都市教育委員会に直接納入されています。そして、利益を得た各書店には、「買上げ、ベストセラー掲載の件で下記の通りご連絡いたします」、「また、店頭でのベストセラー掲示を週間にてお願いします」と依頼していたのです。

 この書籍には、「公教育に懸ける祈り〜門川大作教育長に聞く〜」というタイトルがつけられた門川氏に対するインタビュー記事があります。ページの半分を使って門川氏の写真が掲載され、あたかも門川氏が読者に語りかけているようです。そして、「平成19年10月29日京都市役所にて」と、インタビューの日時場所まで掲載されています。ところが、実際は、門川氏に対するインタビュー自体、まったく行われておらず、「偽装」であったことが明らかになりました。

 現在、門川氏らの責任を追求する裁判が京都地裁で審理中です。この裁判は、市民ウォッチャー・京都と京都・市民・オンブズパースン委員会が共同で取り組んでいます。
 
 
おわりに〈不正・不祥事はなぜやまないか〉
 
 
 学校現場では、学校予算の削減がすすみ、子どもの教育、学校運営にも大きな影響が出てきています。こうした中で、京都市教育委員会の予算の使い方には大きな疑問の声が上がっているのです。

 「格差と貧困」が広がる中で、やっと公立高校の授業料の無償化が実現しました。しかし、義務教育無償化が掲げられている小学校・中学校では、教育費の保護者負担が増大しています。京都市立A小学校4年生の場合、給食費4万3000円を含めると、年間7万2630円になります。京都市立B中学校1年生は年間5万2220円になります。給食はありません。

 この背景には、回の貧困な教育予算とともに、京都市によるここ数年の学校運営費などの削減があります。業者がおこなうトイレ掃除の回数が減らされたり、科学センター学習のバス代(890円)も新たに保護者負担となりました。
 しかし、京都市教育委員会は、紹介した事例でも明らかなように恣意的な支出は拡大してきているのです。いま、必要なことは、教育予算を大幅に増やすとともに、教育委員会の思うままに予算が恣意的に執行されている現状を改善することです。そのためには、議論をほとんどせずに事務局の言うがままにわずかな時間で終えている教育委員の会議を根本的に改革しなければなりません。教育委員の選任のあり方も見直さなければなりません。さらに、現実の教育現場での仕事経験がない官僚が教育長となり、市の教育行政を恣意的に運用する仕組みをつくり変えなければなりません。
 
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