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■特集テーマ 2

 全面発達を目ざして−−子ども・青年の表現文化

総論
心豊かな人間、生き様を育てる文化・表現活動


             くろだ ひろし(児童劇団やまびこ座)



縁もなかった、ファッションやブログが…

 私の孫娘、M子(21才)が、今年京都芸術デザイン専門学校を卒業し、大阪でファッ ション業界に就職しました。

 12月上旬、0000gal1eryで「京都らしさを大切に、同じ様な想いを抱いている若者達が集い、支援し合っていく団体」−KYOTO YOUNG TALENT SHOWCASE−の一員として F地方都市京都からモードへの憧憬』がテーマで、ファッションショーと展示をしました。

 −日本の若者はファッションを「自己表現の手段」とみなし、着ること、作ることに大 きなエネルギーを注ぎ、流行とは一線をおいて「白分らしい創造性」を追求する−と京都 造形大・成美教授が朝日新聞で述べられています。

 せまいギャラリーは、若者文化のエネルギーがあふれていました。

 10月下旬、東京・六本木で中学生以下を対象に出版社が企画したファッションショー が開かれました。出るのも、見るのも子ども−朝日新聞の「いま子どもたちは−つながる @」の記事です。−会場を埋める300人ほどの客は、ほとんどが小学生の女の子とその親だった。青白いスポットライトに照らされて、ミニスカートをひらめかせ、とびきりの笑みで、手作りの赤い大きなリボンをゆらめかせ、客席に伸びる花道を小6のAさんが弾 むように進む。左右から幼い歓声が上がる。

 Aさんは、小学生向き隔月ファッション誌「ニコ☆プチ」(約13万部)の読者モデル 、素人モデルのAさんとファンをつなぎ人気を支えるのはブログ。

 幕間の控室で、Aさんが携帯電話を見つめ、両手の親指を動かしていた。「ブログの更 新です」。画面にはハートや笑顔の絵文字がぴょこぴょこと跳ねていた。(めっちゃ嬉しくて感動したよ)

 ブログを書く小学生のうち約1万2千人が日々アクセス数を競う。Aさんは1位の常連。多い時はl日10万回近い。(見に行きましたよ♪)。ショーの翌日、彼女のブログには80人以上がコメントを寄せていた。


あこがれられる人になりたい

 なぜ読者モデルをやるの?「学校では普通だけど、モデルの時はあこがれられるし‥・」 

 『あこがれられる人になりたい』普通の子どもの夢。今も青も同じです。その小さな願いを、今はインターネットがかなえてくれる−大手ブログサイトの社員は「自分一人の力 でも、世の中の関心を集める事が出来るようになった」と言う−

 科学や科学技術が進み、利便性のより高い器材・器具・機械ほど、時間や空間や仲間な どを増やし、豊かにしていく。宇宙の神秘まで解明される。反面。解りきってはいるが、生身の人と人とのつながりが失われ、生活の中で友人や家族と一緒に泣いたり、笑ったり、汗をかいたりして気持ちを動かし、他者も自分も大切にし合う気持ちも失われる。時には命も奪う、奪われる事態も起こしかねない。しつこく続く根も葉もない中傷・誹諺のブログで、自殺を考えたり、追いこまれたりする現実もある。

 韓国の釜山で、母親にオンラインゲームのやり過ぎをとがめられ激高した中3の少年が 、母親を絞殺し、自らも命を絶つ。…2月にも20代の男性が同様の理由で母親を殺害し ています。同国青少年(9〜19才)の12・8%、93万8000人がネット中毒で、ゲームをしないと禁断症状が表れ、日常生活への支障があり、背景には、激烈な受験競争のストレスもあると言われています。日本や京都ではどうなのでしょう。


私の文化・表現活動との問わり

 私が自分の人間としての生き様として「演劇や文化活動」に関わるようになったのは、 1945年8月、終戦。以後です。

 戦前、戦争中の幼稚園や小・中学校の授業では、修身、(道徳)、国語、歴史、(すべて皇国史観に貫かれていた)、算術(中学は軍事数学)、教練(学校に配属されている軍人による)、習字、図画工作や音楽などでした。学芸会や運動会もありました。勧善懲悪や軍国主義鼓舞激励の行事でした。ちなみに私は一年生で花咲じいさんの良いお爺さん。三年生で肉弾三勇士。六年生で楠公桜井の別れ…などなど…教えられた事、習わされた事はすべて戦争に勝つため、国のため、天皇のために、進んで命を差し出すためのものでした。……1945年8月、舞鶴の軍港で敗戦を知らされました。……夜、電灯がこうこうとつけられ、『唖然』としたのを昨日の様に覚えています。食べるもの着るものは不自由でした。何よりも、これからどう生きてけばよいのか?思い迷いました。何を信じて生きればいいのか?

 『無』からの出発です。初めて国内や外国の音楽・交響曲や小説、戯曲や詩や絵画にふ れたり、哲学や社会科学の本を読んだり、自分なりに創りもしました。音や線や色や文字 で表現されている作品に感動したり、新しい発見をしたりしましたが心の中のどこかで、 戦前戦中と同じように、騙されはしないか?との思いがありました。

 ある日、先輩に「くるみ座」に誘われ演劇活動にふれました。相手役は人間です。戯曲 も人間社会の生き様が措かれています。読んだり、演じたりしながら人間不信の目が変わ り始めました。自分と他人の真剣勝負です。まわりの人達や観客はごまかされません。

 戦後、教職員や公務員が足りなく、なり手も少ない中で、またもや誘われて教員になり ました。子ども連、教職員の仲間、父母連、と共に「逆コース」(1951年)と闘い、演劇に関わりながら教育の道を歩みました。

 日本の歴史、世界の歴史、人類の歴史や私達の歩みは止どまる事はありません。民主教 育の三原則、(1)全面発達……・人間の能力・人格のすべての側面で全面的な発達をめざす。(2)科学的認識……自然・社会・人間について正しい認識をもち、労働・生産の大切さをよく身につけ、それらを人間の幸福のために役立てる力。(3)……集団主義 「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」真理・真実をつらぬき問題をみんなで考え、行動していく力。それは、演劇人や、文化活動を営む集団、私や「やまびこ座」にとっても目ざしている道です。(民主教育三原則は「どの子ものびる」「できない子はいない」京都教育センター通信より)


想像力は諸刃の剣

 人間は、知性、感性、想像力、創造力が全面的に発達するのが大切だと言われています。例えば演劇の「表現力」、『演技』は演じたい衝動だけでは出来ません。役柄の心情がどれだけ想像出来るか、相手の気持ちがうまく想像できる、社会や歴史の流れを知る事も大切です。私達は普段から周りの人達の気持ちを想像しながら生きているのですから…

 今の子ども・青年・大人に求められるものの一つが、想像力・創造力です。その力によ って他人との関係の構築や、人の身みになって考える事が出来ます。人間性や社会性や豊 かな感性は文化活動の中から育まれます。

 文化庁も「コミュニケーション能力の育成」と助成金を出しています。(社)日本児童演劇協会「表現教育研究会」では、調布市A中学で「豊かな人間関係をどうつくるか。その方法は」とワークショップ(劇的なゲーム等の課題で)を取組み、徐々に生徒の気持ちにゆとりが生まれ始め、とげとげしさがなくなり、学校全体に落ち着きが出てきたと言われています。

 くどいようですが、人と人とが『つながる』こと、互いに気持ちや考えを伝えあい、わ かり合おうとする活動が希望を育みます。能力主義や習熟度別授業や部活の能力主義より 「友達と何かをやり遂げた体験」が子どもを育てています。


平和・憲法・命との問わり

 内閣府が12月3日、2010年版「子ども若者白書」を発表しました。年齢層別の非正規雇用者の割合は、学生バイトを除いて15〜19才が40.2%、20〜24才が32.5%、25〜29才が27.5%でした。

 音楽大学卒業生の自衛隊への就業者は、10年前は5人程度でしたが、今年は新規採用 42人中30人だと報じられています。人殺しの訓練も勿論ありです。−しんぶん赤旗・朝の風欄−

 ただ一つ正規の仕事があるのは自衛隊だと言われています。弁護士・宇都宮健児さんは 10月24日、市教組教育研究集会での「貧困とたたかう」の講演の中で次のように述べています。「貧困拡大の要因は、脆弱な社会保障制度とワーキングプアの拡大が問題。…経済的な貧困だけではなく【関係の貧困】がある、社会的、人間的に孤立している問題は今の貧困の特徴だと思う。居場所を見つけ、人間回復をし、元気に声をあげられるようにする運動が重要…垣根を越え、考え方の違う集団が集まれば運動は広がる…貧困の問題は平和の問題と絡みあう。憲法25条と9条は、人間らしい社会を創っていくための大切な車の両輪だ。戦前も農村恐慌など貧困が侵略戦争を起こした。貧困を克服せずに安定した平和は望めない…」と。

 権力は作家や子ども達の内面まで、がんじがらめにしてしまう。(戦時児童文学論・小 川未明・浜田広介・坪田譲治に沿って・大月書店刊)戦争と無縁なはずの落語でさえも戦 争に駆り出される(はなし家たちの戦争−禁演落語と国策落語・柏木新著)

 失われがちな、人間・生き様を表現する文化。特に未来に生きる子ども・青年のために 、子ども・青年達の考え、意見に耳を傾け、新しい感性、考え方を育て、社会の中に組み 込んでいく事が急がれます。

 終わりに、子ども・青年・大人みんなが長くひろい世界で生き抜いている。私の誕生日に贈られた『母の手紙』を紹介します。

 「黒田先生 お誕生日おめでとうございます H子が、小学生の頃から、やまびこ座にお世話になって すぐに同じ誕生日で50年ちがうとお聞きして以来 一度も忘れたことはありません 時に父のかわりであったり、親せきだったり、本当にお世話になりました。こんなに心をかけていただき H子はおかげ様で人並みに一児の母になりました。
 人はまわりの人に愛されて人として生きるのだと改めて思います。
 どうぞお体大切になさって下さい。 2010、l1、26  T・K 」

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