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エッセー●私と京都

 京都で学ぶ環境問題

                  ホルヘ・ガルシア
 「ひろば 京都の教育」162号では、本文の他に写真が2枚が掲載されていますが、本ホームページではすべて割愛しています。くわしくは、「ひろば 京都の教育」162号をごらんください。


 私の名前は、ホルヘ・ガルシア・ポロといい、中米のグアテマラ出身です。グアテマラのサン・カルロス大学で生物学を勉強しました。このとき世界各地の先生方を知る機会を得ました。そこには当時グアテマラに調査に来ていた鹿児島大学の山根正気教授、京都大学の市岡孝朗教授、野生動物研究センターの酒井章子博士もおられます。グアテマラで勉強していたとき、昆虫、なかでも蟻の研究のために、各地の森へ出かけました。このとき以来、私はグアテマラの森に生息する多様な種類の蟻に興味をもちました。またグアテマラでもっとも美しい場所の一つ、ラチュア湖国立公園で調査をする機会がありましたが、多彩な構成をもつ一つの森も多くの種類の蟻を生み出すことも知りました。そのよく保存された湖沼と森林を見て、人間の活動による撹乱が、いかに森林や河川、湖沼における種に影響を与えるかについて研究しようと思いました。

 大学の課程を終えたあと、私は環境についてのコンサルタント会社で働き始めました。仕事は、グアテマラの河川や湖沼の水生種にたいする産業の影響について監視することです。蟻について研究することはできませんでしたが、水生昆虫を研究することや産業活動の悪影響について知ることは可能でした。この間、人間の日常生活がどのように環境に影響を与えるかについて観察する機会を得ました。たとえば人間は服を洗い、ごみや汚水を直接川や湖に捨てます。これは自然環境に非常に否定的な影響を与えます。蟻の研究に興味を持ち続けながら、最近伐採の進んでいる高山地方の森林の調査でサン・カルロス大学の共同研究者として働きました。

 グアテマラにおける研究と仕事で、私は多くのことを学びました。たとえば現在の人口は1400万人で増加を続けています。グアテマラの森林や河川、湖沼を護るために対策が必要なことは、昨年起こったことで明白です。すなわち世界で最も美しい湖の一つであるアティトラン湖で、周辺の人間の活動が原因とみられる藻の大量発生が初めて認められました。この湖の例と同様にグアテマラの多くのエコシステムが破壊されるか、あるいは破壊の過程にあります。いまやエコシステムを護り、再生させるための対策が必要なのです。

 こうして人間活動による環境問題を認識し、解決するために、私は研究を継続し、もっと知識を増やしたいと思いました。

  2007年の末ごろ、研究を続けるには、グアテマラの国内か国外かどちらがいいだろうか、考えました。しかし国内では私の関心に合致する修士課程がなく、国外をさがし始めたのです。その中で、多くのプログラムを知り、スペインへ行くことを考えました。私の母語からしてスペイン語で研究するのはたやすいことですから。あるとき山根、市岡教授との経験を思い出しました。そこで日本の大学の修士課程を調べ、京都大学の地球環境研究学舎(大学院)を見つけたのです。これは私の希望と完全に一致していました。そして文部科学省の奨学金がもらえることになり、感謝しています

 2009年4月、京都で指導教官の藤井滋穂教授とお会いし、先生の研究室に迎えられ、教授はじめ研究室のメンバーや学生を紹介されました。その後大学院への入試の準備で夜昼なく勉強し、無事今年から修士課程を始めることができ、喜びと興奮で一杯です。グアテマラでは教育を受けられる人は少なく、高等教育の機会はもっと少ないのです。それ故これは、私にとって大きな責任でもあります。

 修士課程においては、水質、水処理、流域管理やその他関係テーマを研究している藤井教授と田中周平教授のもとで研究することになります。 また琵琶湖の葦の群落を回復させるための研究にも取り組みます。先生方の一連の研究は、問題を発見するだけでなく、その解決方法にも至るという、私にとって重要で興味深いものです。昨年研究室の活動の一環として、修士課程の学生の課題である琵琶湖のフィールドワークに参加しました。ここで私は研究方法、植物名、琵琶湖の水を使用している京都や大阪にとっての重要性について学びました。

 ほぼ一年に及ぶ京都の生活で、多くのことを学び、言葉についても勉強を始めました。日本に着いたときには何も分かりませんでしたが、今は少しは理解できます。また環境問題、とくに琵琶湖について多くを学びました

個人的には、この年家族の愛情に気づかされました。遠くに離れていますが、いつも私を励まし、力づけてくれました。父のホセと母のヒルダはいつも私に必要なすべての援助を惜しみませんでした。5人の兄弟姉妹、アウラ、レティシア、フリオ、ロミナとヒルダ。みんな、それぞれに子どもがあり、甥が3人、姪が8人で、姪の独りは結婚していて、3人の子どもがあります。

 それに友情のありがたさを思いました。友人の多くは遠く離れていますが、ここ京都で新しい友情を得ました。美しいグアテマラの風景や食べ物、日常などに接することができないのはさびしいですが、京都の美しい風景やおいしい食べ物、風習を知り、味わうことも大好きです。

                  (京都大学地球環境研究学舎修士課程在学、グアテマラ出身)

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