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小中一貫教育と学校統廃合−地域・父母の願いと教育行政

東山の小中学校統廃合をめぐる運動


          上村 栄一(東山の学校統廃合を考える会)


はじめに
 
 2007年8月、東山区北部の5小学校・2中学校のPTA会長が連名で、7校を統合し、一つの小中一貫校建設を求めるという内容の要望書を京都市教育委員会に提出した。この動きを機に、退職教職員らの呼びかけで「東山の学校統廃合を考える会」(以下「考える会」)がつくられ、統合計画に対する疑問点を指摘し、市教委に質問書を提出する一方で、区民に検討を呼びかけてきた。

 また、建設予定の校舎の教育的不適合性を指弾する「計画の見直しを求めるアピール」が建築専門家30氏の連名で発表され、続いて区内の当該校に勤務したことのある退職教職員らが多数の賛同署名を集めて「見直しの要望書」を市教委に提出した。統廃合計画は東山区南部にも飛び火したが、ここでは統廃合に向けて自治連合会長をも含めた連名の要望書なるものが出されることになったが、「役員だけで決めるのはいかがなものか」との、ある自治会長からの意見もあり、現在地域で質問会や検討会が進行中である。

 
市教委はこうした区民からの質問書や要望書などに対して誠実に答えようとせず、北部に対しては8学区合同の「新設協議会だより」なるカラー版のビラを何度も各戸に配布しながら、新しい学校名(「開睛館」)や制服を公募するなど、地元の声の「反映」を装いつつ既成事実を積み重ねてきている。すでに議会の承認を得て洛東中学校跡地に統合校の基礎工事も行っている。南部では協議会ができる前から同様のビラが発行されている。

 
我々「考える会」ではこれに対し、区民対象の公開説明会の開催を求める署名集めを行っている。


いくつかの疑問点

(一)無理のある建築設計

 統合校の校舎は地域の建築制限により地上三階地下二階となり、地下二階に体育館と武道場、地下一階に火を扱う給食室や湧水の恐れのある中庭を設けているという。火災や洪水時の子どもの安全はどうなるのか。また地上の教室は廊下を挟んで対面式であり、授業時の静かさが保障できると言えるのだろうか。

(二)広すぎる学校区域

 新しい校区は南北は三条通から七条通まで、東西は東山山麓から鴨川に囲まれたとてつもなく広域で、人口・交通量共に多い市街地の中にある。登下校時の子どもの安全や、小学一、二年生には心身の疲労が懸念される。そして、通学路の大人と子どもの関係は薄くなり、地域住民の見守り効果も薄まり、学校を中心として親同士の交流も困難になる。「番組小学校」以来、親子代々同じ小学校に学んだことによる地域の絆と町づくりの伝統が破壊されるし、分校舎予定地の六原小学校は交通量の多い道を挟み、移動時の安全対策はどうか等、不安が尽きない。

(三)教育内容はどうか

 
現在の各学校の学級の生徒数は20名またはそれ以下(先進国では一学級20名が常識)である。それが統合により一学級30〜40名になる。逆に教員数は全体で30名程減となる(「教育予算削減の効果」大?)。

 
統合校の子ども集団は小中混合の800名の大集団になる。「子どもの視野は拡がり、競争心は高まり鍛えられる」というが、温かい家庭から大集団に急に投げ入れられた新入生はショックを起こし、初めから学校嫌いにならないか。少人数学級での指導の良さは引き継がれるのか?

 また、大規模校での集団の秩序を守るため管理教育が強化されないか。それによるストレスから上級生のよる下級生いじめが増加しないか。後述するように教育特区で授業が前倒しされ、最後の学年は専ら進学指導にあてられることになれば、授業は過密になり、ついてゆけない子が増え、中途脱落が激増しないかという、ここでもまた多くの不安を抱えている。

(四)「仕組まれた」統廃合計画の進め方

 
市教委は「統廃合計画は地元の要望に沿って進めている」というが、「京都市情報館」という資料集によれば、平成16年度から内閣府の「構造改革による教育特区」の指定を受け、すでに小中一貫教育の準備を進め、その計画が明示されている。そのもとに、今日の統廃合計画実行にあたっては、その説明をPTA役員、自治会役員、学校管理職の段階にとどめ、区民レベルで充分に討議するという措置はとられず、意識的に避けられている。これらを総合すると計画の進め方は「地元要望の衣を装った政府行政の既定方針の強行」ではないかと疑われる。

 
最近、我々「考える会」と市教委との話し合いの場がようやく設けられた。そこでは、東山区南部のある学区では、自治連が催した各町内会長を集めた集会の中で、充分な討議が行われないまま自治連会長によって結論だけが押し付けられていたことが報告されていた。また、PTA会長が統合に同意した理由の一つに「大規模校ではいじめはなくなる」というのがあったが、「その根拠はあるか?」という参加者からの質問に、市教委は「他府県で一例はあるが、充分な根拠はない」と答えざるを得なかった。


これらの疑問点に対する区民の反応とそれからの教訓

 (一)(二)の疑問については役員や管理職段階では「不安はなし」という反応が多い。しかし、一般区民からは、よく聞くと「やはり不安」との声がある。しかしそれは住民からの叫びにはなっていない。これは、子どもの被害は現在では予想の段階で、実害はまだ生じていないからだろうか。しかし、実害が出てからでは後戻りはできないのである。また自治会やPTAなどの役員たちが決めたことに異議を唱えれば「村八分」の恐れも懸念されるのであろうか。もしこれが本音であれば、地域民主化のためにも克服すべき課題である。

 (三)については、反応はまちまちである。

 我々「考える会」が催した学習会で、ある母親は「統合推進・反対と、どちらにも一理ある。私の意見は定まらず、PTAでも発言できない」という。しかしこの母親をはじめ出席した多くの親は、現役教員の少人数学級での教育実践の報告に目を輝かし、また幼児教育での実践を例に「たとえ三人の子どもを相手でもそれぞれの個性を重んじ、子どもに寄り添った指導をする中でこそ、相手を尊重し自分にも自信を持つ子が育つ。今必要なのは相手を打ち負かす競争ではなく、自分に打ち克つ力の要請である」という講師の話に耳を傾けるのである。

 現代は社会の発展方向や子どもの将来が見通せぬ時代であるといわれる。その中で、子どもがどんな社会になろうともそこで生き抜けるように、それには先ず競争に打ち勝つ力を、という親心が表れる。しかし親たちはそのことに確信を持っているわけではない。迷っているのではないだろうか。


みんなと一緒に考えよう!」という運動を続けたい

 東山区には多くの小・中学校で少人数学級があり、そこで行き届いた教育指導が行われている。また、中学校に進んだときに備え他学年や他校との交流行事に工夫がされたり、子どもが居心地の良い環境の中で育つような多くの実践が蓄積されている。しかし、残念ながらその教育成果は充分には区民には伝わってはいない。教育する側の立場から見れば、教育の計画、実践、成果が親と共有されているか、教師の間だけに留まっていないかということも課題とされている。

 我々「考える会」はこれからも統合計画の疑問点を訴え、「生きづらい今日を生き抜く力は何か、それを育てるにはどうすればを含め、みんなと一緒に考えよう」という運動を続けたい。

 以下は私の意見であるが、この運動を契機に、学校や教育に対する関心が深まり、今までのように何かことが起こったときだけでなく、常に学校や教師に対して親の疑問や意見を出し議論する、こうしたことを続けたい。そうなれば学校と地域、教師と親の間に良き緊張関係が持続され、それはまた地域教育発展のエネルギーになるだろう。

 さらに話を進めれば、国や設置者、その実行部隊である学校や教師が立てた教育計画の中から、親や子どもが建売住宅を選ぶように学校を選ぶのではなく、教育権者である親、学習権者である子ども達自身が自ら望む教育を提起していく。そして、それを実現するために教育専門家である教師たちの援助を得て、自分たちの学校、本当に地域に根ざした学校づくりを実現させ、市民参加の教育が実現するようになればと願う。

 
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