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子育てに必要なもの−−
それは、「人と人とのつながり」



            姫野美佐子(子どもの発達と地域研究会)



子育て−−「なんでこんなに不安になるんだろう?」

 私には今、4歳になったばかりの子どもがひとりいます。今日は、同じ保育園の子どもたち5人が我が家に遊びに来てくれ、一日楽しく過ごしたところです。毎日彼らの成長を心身ともに支えてくれる保育園に、本当に感謝しています。

 そんな私ですが、今までもそしてこれからのことを考えても、「子育て」には不安がいっぱいです。自分の子、保育園でつながったたくさんのお友達、私が仕事で関わっている小さな子どもたち、みんなの顔を思い浮かべてこの子たちが将来自立して幸せに生きていけるだろうか??と考えると、今の社会は不安なことだらけのような気がするのです。

 「なんでこんなに不安になるんだろう?」といろいろ考えてみました。すると見えてきた問題の根本は「人と人のつながりがあまりにも薄くなっているのではないだろうか」ということでした。「人と人の良いつながりのなかで子どもは育つ」というこの当たり前のことが、私たちの生活の中からどんどん無くなっているのです。多忙(なんといってもこれが一番大きいと思います)交流手段の機械化(メールは便利だけれど、使い方を間違えたりメールに依存すると、やはり人と人のつながりを切ってしまいます)などなど、「人と人のつながりを消すのに役立っている要因」はたくさんあります。目に見えることではなく、しかもそれは少しずつ少しずつ、私たちの生活にしのびより、覆いつくそうとしているかのようです。


ほっとした涙が流せる場−−親子リズムのサポーターさん

 あるとき、こんなことがありました。私は毎週1回、新日本婦人の会(以下、新婦人と略)の親子リズム小組(サークルのようなもの)に関わらせていただいているのですが、そこで2人目の赤ちゃんが生まれたお母さんが、産後2ヶ月ほどして上の2歳の子と赤ちゃんをつれてリズムに来てくれました。

 2歳の男の子が他の子に軽くぶつかったとき、激しく泣き出したのです。「いつもはこれぐらいのぶつかり方では、こんなに泣かないんだけど…」というお母さんといろいろ話していると、彼女は、二人目ができてお兄ちゃんにいろいろ我慢させていたのではないかという心配を話してくれました。そこにサポーターさんと言って年配の新婦人会員さんがふたり、いつもリズムに来てくださるのですが、その人たちも話の輪に入ってくれました。ふたりのおばちゃんはとてもおおらかにお母さんの話をうんうんと聞き、ときに声をかけていました。

 私が他の用事をいろいろすませ、10分後くらいにまたその話の輪に戻ってみると、さっきのお母さんが涙を流していました。それはうれし涙というか、ほっとした涙のようでした。その後もリズムで会うとお母さんは「上の子が、あの日以来赤ちゃん帰りをするようになったんです」と嬉しそうに話してくれました。

 私はこの日のことを思い出すたびに、親子リズムにサポーターさんがいてくれて本当に良かったなあと思うのです。私たち若い親は、ちょっとしたことでもすぐ不安になるのです。なぜ不安になるかというと、私の考えでは、今の社会がすべてのことを「親の自己責任」にしようと待ち構えているような気がするからです。何か分からないことがあっても気軽に聞ける人がまわりにはいない…。こういう状況の中、若い母親の話をただ受け入れて聞いてくれる「人生の先輩」が横にいてくれると、本当に安心するのです。昔はこういう人が地域にたくさんいたそうですが今はこれがなかなか日常生活の中では得られなかったりします。ですから、新婦人の親子リズムのなかで、サポーターさんの存在はとてもありがたいです。


「人と人とのつながり」を広げたい−−「子どもの発達と地域研究会」

 私は2003年以来、京都教育センターの中の「子どもの発達と地域」研究会に関わらせていただいています。この6年間、この研究会を通してたくさんの、京都や近隣地域の子どもに関わる団体のレポートに接してきました。そのひとつひとつが本当に素敵で、どの団体も、経済的な問題や人をどうやって集めるかといった課題に直面し、四苦八苦しながらも、子どもたちに正面から全力でぶつかりながら活動をすすめています。

 それは、勉強を教える団体だったり、少年団だったり、劇団だったり、障害を抱える子どもたちの親同士のつながりだったり、ちびっこプールからできた親同士のつながりだったり、実にさまざまなのですが、どこでもそこに関わる大人や青年の試行錯誤や一生懸命さが見えてきて、私にとって励まされるものです。「まだまだ、人と人のつながりをこんなに大切にしている人々がこんなにいる…」という確信をもたせてくれます。

 学校の先生からも話をききました。今、学校の先生は本当に多忙などで大変だという話をよくききます。これから子どもを学校にやる親としては、率直なところ、そういう話をきく度に不安になります。だって学校のなかで、先生が自由にのびのびとお仕事できないということは、先生だけでなく子どもたちものびのびできていないということでしょう?

 でも悩みながら苦しみながら、ときには教育委員会に異議を唱えたりしながら、一生懸命がんばっている先生たちの姿が見えてきました。ある学校では、先生たちが「子どもにゆったりと接することができるためには、自分たちが自由におしゃべりができる場、ゆったりすごせる時間がないと」と、意図的に、定期的に茶話会を持っているということでした。報告を聞いていて、こういう小さな努力の積み重ねが日々の学校をつくっていく大切なことなんだろうな、とこころから思いました。

 どうしても押し寄せてくる不安とたたかいながらも、私がこれまで出会ってきた人とのつながりをこれからも大切にして、「子どもの発達と地域」研究会の活動を通してより多くの人に「人と人のつながり」を広げたいと思っています。

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