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ひろば御意見番


他人(ひと)を『ばか』と呼ぶ者に賢人はいない

           北村 茂(京都退職教職員の会 事務局長)


小田実、加藤周一、筑紫哲也、緒形拳、など著名人が、昨年この世を去られた。多くの足跡と含蓄ある言葉を残して―

  漫画家の赤塚不二夫さんも忘れられない存在だった。『あの人からのメッセージ』というテレビの特集番組に、赤塚氏が登場していた。中学を出て漫画家を志した彼は、『ときわ荘』にて手塚治虫氏などから、「一流の演劇や音楽を享受せよ」と示唆されたという。

 彼はまわりにいる天才的な人に比べて、「自分は最低な人間で、 ばかだから、他人から学ぶことができた」と誇らしげに語っていた。あまり漫画に興味のなかった小生でも、彼の作品が爆発的人気があったことはよく知っている。独特のギャグとキャラクターを発揮して、マスコミにも持て囃された彼が、常に「自分はばかだから」 ら」と言っていたのであった。  赤塚氏の謙虚な言葉を耳にして、その向こうに浮かび上がった人物がある。タレント弁護士から、大阪府知事になった橋下徹だ。知事に就任する前から、その横柄な態度には問題があったが、彼の言動は、「自分ほど偉い人間はいない」と言わんばかりの行状だ。とくに教育の専門家でもないのに、現場の教師を卑下し、次々と非教育的な提案をしていることが許せない。

・「大阪の教育は最低だ。 ―日本一にするんだ。」
・「学力テストの成績を上げ、 東大への合格率を高める。」  
・「高校教育は、自己負担だ。」と言って私学助成削減する。
・「文部科学省は、バカだ。」「クソ教育委員会には任せられん。」

など、問題発言は枚挙に限りがない。

 選挙で選ばれた知事だから、権力を握っているのは、自分だと過信し、わざと極端なことを提案してマスコミが、興味本位に取り上げることに満喫しているようだ。


 マスコミの不見識さも問題だが、知事として、教育行政や教育内容に介入することを問題視する報道は少ない。本来地方行政が一番大切にしなければならない仕事をないがしろにし、教育の条理を度外視した言動を、まるで「改革」であるがごとく、連日、 テレビや新聞で紹介している浅薄かさに呆れる。

 比較的良心的と思われる評論家まで、「橋下さんは、よくがんばっている」と援護する。彼は思い切ったことを提案しているようだが、「大阪府は赤字だから、福祉や文化・教育を削る」と矛先を子どもと教育や府民に向けてはいて、その本質に迫ろうとしていない。赤字財政をつくってきた利権や財界戦略にメスを入れようとしていないのである。

   「小泉改革」が破綻したことをやっと報道するようになったマスコミだが、貧困と格差が教育面でも、極限状態にきているとき、 教育の専門家でもない人間を高く持ち上げ、「これで教育は変わる!」という幻想を与えることは、明らかな世論操作でもある。

 「私はあなたたちと違って、自分を客観的に見られるんです」 と言って政権を投げ出した福田元首相といい、他人をばか呼ばわりして人気を高める橋下知事といい、その背景や本質を私たちは決して見逃してはいけないと思う。

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