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ひろば御意見番

密室での修正とは何事か
−新学習指導要領告示のウラで−

                  中西 潔(京都教育センター)



 3月中頃に嬉しいことがあった。7年前に中学校で担当したT君から電話があって、お母さんと二人で来 宅された。今年大学を卒業して、東大大学院で原子物理学の研究をすることになったので、行く前に報告にとのことだった。

 彼は、中学3年生の修学旅行直前に足首を骨折した。幸い思いやりのある学年で、友人たちの手助けもあり、車椅子で修学旅行に行けた。中学校での友達や教師との思い出が心に一番残っているとのことで、7年も経つのにわざわざ挨拶に来られた。

 信頼や友情、母校への愛着や郷土愛、愛国心などは、他から強制的に植え付けられるものでは決してない。信頼や愛するに足るものがある事こそ大切だ。こんな事は誰にでも解ることである。

 が、である…。3月28日付けで 文部科学省は、新学習指導要領を告示した。3月の地方教育行政研公開究会での植田健男先生の講演で、その本質と問題点の指摘に危機感を持ったが、告示直前での改訂案修正の経緯にはさらに怒りを禁じ得ない。

 総則に「愛国心や郷土愛の育成」を新たに盛り込み、小学校の音楽で君が代を「歌えるように指導する」と具体的に規定するなど愛国心教育をより強調する内容となったが、3年越しで改訂案をまとめた中教審にも諮らず、国民への説明も全くない。告示直前の密室での修正である。

 中教審委員すら修正作業に一切関与してないとして批判の声が上がっているという。 改訂案公表後に、一部の自民党国会議員が文科省に道徳教育について書 き換えを強く要求したとのことだ。 これでは、特定の思想、意見で教育が歪められる。やってはならない権力の教育内容・方法への介入だ。

 今後の動きを注視しながら、信頼の深まる学校づくりに取り組みたいとT君の活躍を想像しながら思った。

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