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ひろば153号

特集2 専門機関とのネットワーク
            −−学校・家庭からのSOSと子ども支援

総論 専門機関とのネットワーク
    −−学校。家庭とのつながり方

              横湯 園子(中央大学)



はじめに

 「自殺予告」で騒然となる前から、私は切羽詰った相談や危機感を抱いての講演依頼が多くなったのが気になっていました。例えば、講演後のホールや廊下での風景もそうです。

  この頃は以前よりも引き止められての相談が多くなり、しかも相談内容が悲惨さ凄まじさを増しているのです。「どこかでお会いしたはずだが思い出せない」などと記憶を手繰っていくうちに、絵画に描かれた地獄絵にあった「あの顔であった」と気が付いて愕然とすることもありました。それほどのことが子どもやその家族を襲っているということです。

 稀ですが、薬物依存やアルコール依存の高校生や青年、ひきこもり青年からの相談電話が入ったり、スピリチュアルな事柄に関する手紙が研究室に届いたりします。

 もちろん、電話相談が仕事ではありませんから、その旨を伝えますが、電話を切ってくれないだけでなく何回もかかってきます。精根尽きたとでもいうのでしょうか。どこかにつなごうと試みるのですが、全国各地の相談機関や各種ネットワーク、各種自助組織をそんなに知っているわけでもありませんから、それはそれで苦労をします。私だけでなく、多くの人が同じ苦労をしているのではないでしょうか。

 薬物依存やアルコール依存の場合、居住地や症状を丁寧に聴いた後に、公的機関や民間団体を紹介するように努めます。スピリチュアルな相談の場合、私には無理であることを伝えた上で、内容によっては「いのちの電話」につなげることもあります。このような個々バラバラの見通しのない対応をしていてよいはずがありません。

 どのように「つながる」か、どのように「つなげる」かが、現在、大事な必要課題になってきていると実感しています。本稿では「つながり」の主体になる相談機関や民間団体、自助組織などの紹介をしながら、「つながり」について述べていくつもりです。機関名や団体名の紹介の関係上、漢字の多い文になりますがお許しください。


子どもの抱え込んだ困難、諸問題の解決を考える基軸

 視点の基軸は、国連子どもの権利委員会(CRC)によって審査、採択された日本国政府報告(初回報告)に対する「最終所見」内容(1998年)であると思います。そこで、「最終所見」について簡単に説明いたします。

 子どもの権利条約を批准した締結国は、条約が効力を生ずる2年以内に、その後は5年ごとに、子どもの権利条約において認められる権利の実現のためにとった措置及び、権利の享受についてもたらされた進歩に関する報告(初回報告)を、国連事務総長を通じて、国連子どもの権利委員会(CRC)に提出することになっています。

 日本においては、子どもの権利保障状況に関する政府報告(1996年)を提出、政府報告に対して、市民・NGOは「もう一つの報告」(1997年)を届けました。CRCは審査結果を、「最終所見」(1998年)を採択しまた。第2回報告と勧告、第3回準備については略します。ここでは、先に記した子どもの抱え込んだ困難や諸問題について絞って、「最終報告」ではどのような懸念、提案、勧告がなされたのかについて記します。

 さて、懸念のうち、教育に関していえば、最もインパクトのあった懸念事項は、22「高度に競争的な教育制度によるストレスにさらされ、かつその結果として余暇、身体的活動および休息を欠くにいたっているため、子どもが発達傷害においちっていることを懸念する。さらに、不登校・登校拒否の数が看過できない数にのぼっていることを懸念する」だったのではないでしょうか。

 さて、先に記した子どもの抱え込んだ困難、諸問題への提言と勧告をピックアップします。30「政策調整機関の設置」、32「独立した実施監視機構の設立」、34「NGOとの協力」、37「子どもの有害情報からの保護」、40「子どもの虐待からの保護?調査・処罰・決定の公表・不服申し立ての創設」、42「若者の自殺、HIV/AIDSへの羅患の予防?広報活動、・性教育・カウンセリング」、四三「高度に競争的な教育制度の改革?過度なストレスと不登校の防止」、45「学校における暴力<いじめ・体罰>の根絶、家庭及び背施設における体罰の法的禁止、代替的な懲戒手段の確保」、46「子どもの売春と闘うための包括的な行動計画の策定」、47「薬物・アルコールの乱用防止のための広報活動、リハビリ・プログラムの支援」、48「少年法システムの見直し、身柄拘禁に替わる措置の創設、監視手続・不服申し立て手続の創設、代表監獄の見直し」などがあります。

 もちろん、日本政府は提言と勧告に基づいて改善と進歩に努めるべきで、それが大前提ですが、真に内実あるものしていけるかどうかは私たちの動きにかかっています。


どの問題はどこに、協同・共同はどこと?

 ところで、専門機関とのという場合、学校、家庭がどのように専門機関につながっていくのかが問われ、学校・家庭とのという場合、専門機関がどのように学校・家庭とにつながっていくのか問われます。つまり民と官、民と官のつながり方が問われるわけです。大事なことは当事者が何を援けてほしいと願っているかがです。

 さまざまなレベルにあった支援が求められます。「緊急避難」としての支援、根本的な解決を見据えながらの「現実的解決」への支援、おもいもよらぬ問題提起に対してどう考えどうするかの「試行錯誤的支援」、「ともに考える大人がいるよ」というような「無形の支援」もあります。(注1)

 それにしても、「このことについては、どこへ?」となった時、相談機関や民間団体、セルフヘルプグループなどを、咄嗟に思いつかないこともあるのではないでしょうか。


どことどこが「つながる」のか

 薬物乱用でいえば、街頭その他の手段で小学生までもが餌食なっている時代です。教育、精神保健、法、文化の領域の協同・共同が求められる所以です。公的機関は保健所、精神保健福祉センターになります。民間では全国薬物依存者家族会があります。自助組織にNA(ナルコーティクス・アノニマス)があります。

 アルコール依存の公的機関は薬物乱用と同じであり、自助組織は断酒会、AA(アルコホールクス・アノニマス)があります。

 ひきこもり青年からの電話では社会へ出て行く手前の「スモールステップ」を提供する場所を求めての電話が多く、親の場合はひきこもりの最中の相談が多いようです。不登校・登校拒否を含めて、医療、精神保健、教育、心理の協同・共同が求められます。公的機関では精神保健センターや保健所になります。民間では親の会や居場所などがあります。

 児童虐待でいえば、福祉、医療、保健、法、教育、看護の領域の協同・共同になります。公的機関は児童相談所、児童福祉施設、民生・児童委員、保健所・保健センターになります。民間では虐待防止協会、センター、ネットワーク、守る会などあります。

 子どもの人権相談では、法務局の子どもに人権相談窓口、弁護士会子どもの人権相談窓口があり、非行に関する民間団体は親の会、被害者加害者対話の会がります。

 これ以上記していく紙数がありません。最近出版された『困った!に応え、自立を励ます 思春期・青年期サポートガイド』が役立つはずです。子どもの発達成長を見通しながら、教育・福祉・医療・法・文化・仕事・行政など個々のサポートのあり方、とらえ方が述べられています。資料として、法令などと併せて相談機関(官と民)が載っています。(注2)


求め合うネットワークとなりたい

 専門機関も市民向けの研究会を企画したり、各種の親の会や自助組織的グループを運営したりしていますが、民間団体との連携を求めています。例えば、かなり以前のことですが、ある県の中央児童相談所長から、県内には児童虐待防止協会・センターのような民間団体がない。官と民で協力して虐待防止に当たることができるためにも、北海道虐待防止協会設立までの経験を知りたいという講演依頼がありました。

 そこで、私が体験した民と官との協同・共同について述べたいと思います。

 はじまりは精神科医、社会福祉関係の研究者、私という女性三人が、虐待防止のために何かできないかということから、次回は虐待防止を仕事をしてきた信頼できる人を、各自三人づつ連れてこようということからでした。

 私は北海道に着任して一年も経っていず、誰を誘ってよいのかわかりませんでしたが、他の二人の女性たちはさすがでした。精神科医、中央児童相談所のソーシャルワーカー、養護教諭、弁護士を連れてきたのです。この会を持って、設立準備会が発足したのでした。

 設立準備の影の功労者がいます。自主ゼミメンバーの法学部生です。研究会の案内状をどこに出してよいのか思案中の私の手元を見ていた彼女は、「一晩、時間をください」と言って、封筒と案内状を持って帰っていきました。翌日、届けられた封筒のあて先は道内各地の児童相談所、保健所所長たちでした。こうして、官だけでなく、民だけでなく、半官半民でもない、もっと緩やかな民間団体ができていきました。

 時を経て、防止協会と中央児童相談所との間で「覚書」を交わすことになりました。どちらかが請け負いすぎることなく、官は官で、民は民で、そして官と民の双方が一人ひとりの子どもの行く末を見守っていくシステムができていきました。

 研究会や会議を終えた夜の雪道を歩きながら、「私たち、過労死しないのが不思議」、「終わった後のビールが命を支えていると思うよ」「子どもの命、尊厳を護っているっていう気持ちがあるからよ」と暖簾をくぐったものです。

 専門を超えた人たちの間で、異なるセンスと知識が飛び交う楽しさは格別でした。自分が成長していく実感も格別で、「おしゃべりグループ」は命の水だったのでした。

 理想的な展開を誇示するために、経験談を記したわけではありません。東京に戻った私にこのようなことができているかと問われれば、できていませんと答えるしかありません。しかし、「必要のあるところに人は集まり、必要が形を作っていく」という経験は、「つながり合う」を求める者にとって希望と示唆になるのではないでしょうか。

注1 大田政男・小島喜孝・中川明・横湯園子編『困った! に応え、自立を励ます 思春期・青年期サポートガイド』(新科学出版社)2007年 
注2 注1に同じ。

 
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