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特集1 教育再生会議で学校・教育は良くなるのか
−現場からの提言−


総論 安倍内閣の教育再生会議が担う役割と狙い


       
京都教育センター代表 野中 一也


「教育再生会議」の第二次報告の発表

 六月二日の『毎日新聞』では、「教育再生会議」が「土曜授業来年度にも〜指導要領改定を提案〜」(二次報告正式発表)と大きく報道しました。@支配層の要求に応えるエリート養成の「学力向上」、A上から「規範意識」的徳育を教科化した「道徳」の新設、Bこれを可能にする「評価制度」で従順な教員づくり、といった特徴をもっていると言えるでしょう。

 この教育再生会議とはどんな会議で、どんな性格をもってどんな役割を果たすのでしょうか。端的に言えば、十九人の閣僚のうち十二人が「靖国派」といわれる安倍内閣が、日本国憲法を改悪して戦争ができる「普通の国」にするため教育を最重要課題として位置づけ、その尖兵としての役割を担わせているのが「教育再生会議」と言えるでしょう。そこで教育再生会議の役割を考察するにあたって、まず安倍内閣が発足して以来の教育政策を概観してみましょう。

 安倍内閣は自民党政治のゆきづまりを公明党の援助をもらって、改憲と「教育再生」を目玉として乗り切ろうとしています。従来ですと、おおよそ文部科学大臣の諮問機関である「中央教育審議会」(中教審)を通して議論され、政策化されてきました。安倍内閣は中教審にも審議を性急にやらせて「答申」を急がせました。これがいわゆる教育三法です。この従来の中教審路線といわれるものに質的変化を与えながら加速させているのが教育再生会議です。

 安倍内閣は昨年十二月十五日に「改悪教育基本法」を強行採決で決定しました。これは内心に土足で踏み込んで、「愛国心の態度」を強要する国家主義的性格を主軸とするものです。    


教育再生会議の発足

 安倍内閣は内閣主導で教育再生を図るとして教育再生会議を昨年の十月に政府内に設置しました。教育学者はひとりも入っていません。構成員としての目玉は、七月の参議院選挙で自民党候補者であるヤンキー先生が「教育再生会議担当室長」として入ったことぐらいでしょう。重みの無い薄っぺらさを感ずるのはわたくしひとりではないでしょう。  


教育再生会議の第一次報告

 教育再生会議は慎重な議論も無いままに今年の一月二十四日に第一次報告「社会総がかりで教育再生を〜公教育再生への第一歩」を発表しました。同報告は七つの提言と四つの緊急対応からなっています。「『ゆとり教育』を見直し、学力を向上する」「学校を再生し、安心して学べる規律ある教室にする」などです。「ゆとり教育」を安易に見直しをするというのです。国際的な学力調査で「学力低下」が見られたと称して、また「詰め込み教育」の方向に舵を切ろうというのです。国民的関心の強いいじめなどの問題では強圧的な懲戒等が必要であり、「出席停止制度の活用」などを提案しています。驚くべきことに、体罰基準の見直しがいわれるなど、監視と懲戒の管理統制の教育観が大手を振るっています。素人集団だからこそ教育条理をいとも簡単に「超えた」提案が出てくると思うと恐怖を感じます。    


教育三法案の提案・成立

 安倍内閣は、中教審に答申を急がせて三月三十日、学校教育法、教育職員免許法、地方教育行政の組織と運営に関する法律(地教行法)の三つの法案改定を閣議決定し、国会に提案しました。六月二十日に強行採決、成立しました。政府は、改悪された教育基本法の具体化のために「緊急に必要とされる教育制度の改正」であると主張しています。

 学校教育法では、教育目標に「愛国心」の徳目を入れ、教育の変質をはかろうとするものです。教育活動などに「学校評価」を導入します。また学校に副校長、主幹教諭、指導教諭を新しい職として置き、上下の関係を強化しようとします。一人ひとりの子どもの発達を教職員が協働して取り組むということがいっそう困難になってくるでしょう。

 教免法では、教員免許更新制度を導入します。これは大問題です。教員免許は十年で失効します。失効しないで更新するにはそのため三〇時間の講習をうけて認定されなければなりません。これと連動するのが教育公務員特例法(教徳法)です。困難な現状の中で努力しても上から「指導不適切教員」というレッテルを貼られたら、免職になり、免許剥奪の道もつくられました。なんと冷たい人間不信の教育行政ではないでしょうか。

 地教行法では、地方教育委員会への国の関与を強めようというものです。世界史の未履修問題などを理由にして地方教育委員会を国の意のままにしようというのです。どの用件かは明らかではありません。四月の一斉学力テストを教育の条理に基づいて拒否した岐阜県大山市教育委員会のようなところはもはや存在できないようになるかもしれません。    


全国一斉学力テスト

 四月二十四日に文科省は、小学校・中学校で一斉学力調査を実施しました。調査結果を民間業者に丸投げして集計させています。素人集団による混乱もあって結果発表がおくれるようですが、これによって全国の学校が「学力」によってランクづけされていき、学校間格差が歴然とされていくようになるでしょう。  


教育再生会議の第二次報告

 このような経過のもとで再生会議は、すでに上で述べたように第二次報告を六月一日に発表しました。まず報告のポイントを見てみましょう。@「授業時間数一〇%増」確保のための土曜授業A道徳教育に代わり「徳育」を「新たな教科」として新設B小学校で「自然体験」、中学校で「社会体験」、高校で「奉仕活動」の実施C地域、世界に貢献する大学・大学院の再生D「教育新時代」にふさわしい財政基盤の在り方などであります。そして第三次報告の課題を提起しています。  


教育再生会議の特徴的性格

 第一に言えることは、安倍政権がグローバル化した世界市場に羽ばたいていく大企業の要求に応えてスピードを加速して、しかも軌道修正をはかりながら「教育再生」をしていこうとしていて、その尖兵の役割を果たしているということです。再生会議の提案が国民の教育要求からますます乖離して、矛盾を大きくしていくことになるでしょう。

 第二の特徴は、安倍政権の教育政策の「手法」を典型的に示しているということです。現実に起こっている教育問題に真摯に向き合うことをしないで、例えば世界史未履修問題やいじめ問題の原因と背景を分析しなければならないのにそれをしないで、「社会総がかり」(第一次答申)といった大風呂敷の「表現」を使い、安倍内閣の方向に強引に軌道修正した「上から」の提案を国民に飲ませるという手法をとっています。  


安倍内閣の教育観

 教育観に関わる問題で特徴を指摘してみましょう。

 まず第一に教育再生会議だけの特徴ではなく安倍内閣全体の特徴と言えるのですが、教育を商品として扱う考え方です。いわゆる「教育の商品」化という特徴です。企業社会ではいわゆる「品質の良さ」が求められます。それと同じように教育でも「質の良い」子ども・人間が求められるというのです。だから主として測定可能な「学力」のみの競争を全国一斉学力調査として実行したりします。この流れは小泉内閣からの強力な新自由主義教育の流れです。この競争原理の教育システムに子どもたちを「自己責任」で乗せさせていきます。

 第二に規範意識を上から押し付けて「心と体の一体」をはかる道徳教育を教科として成立させ、上から子どもたちを「教化」しようとしています。新国家主義教育というものです。A級戦争犯罪容疑者として東京巣鴨拘置所に拘束されていた祖父岸信介をこよなく尊敬している安倍首相は、「美しい国へ」といっていますが、内容的には戦前の国家主義教育をイメージしているように思われます。

 第三に、「国家主義体制」に合致する従順な教員をつくることです。そのために教員管理・指導体制をつくることです。

 第四に、「親学」の提起です。報告にはまだ文章化されていませんが、親まで包み込んで「戦後レジームからの脱却」を図ろうという「見通し」をもっています。  


いまこそ日本国憲法を生かす取り組みを

 安倍内閣の教育政策に国民が主人公になる展望はまったくありません。行き着く先は、競争原理で教育の商品化が押しすすめられ、「自己責任」が強調されて、連帯感を喪失した孤独な「個人」の寄り合い社会になっていくでしょう。こんな安倍内閣を許すわけにはいきません。しかしどんな反動政策でも「内心の自由」を侵すことはできません。憲法十九条は「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」と規定しています。人類の普遍的価値であるヒューマニズムに基づく良心の自由をベースにして、平和と民主主義が貫徹される日本をめざして共に頑張っていきましょう。
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