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特集2 国際化・世界とつながる学びと子どもたち

総論
2005年第四回日中韓青少年歴史体験キャンプに参加した中高生


                                    大八木 賢治


はじめに

 2004年の韓国に続き、2005年は第4回日中韓青少年歴史体験キャンプが北京で開催されました。韓国50人、中国38人と昨年と同様多くの中高生が参加しました。日本からの参加は、京都6名、広島2名、香川1名(大学生)、東京1名でした。今年度は教科書の採択問題もあり、日本では呼びかけが十分広げられませんでした。

 しかし東アジアの歴史交流ということがまだまだ一般化していないなか、まして戦争責任や歴史認識について真正面から交流することについて、しり込みや躊躇があることは否めないと思います。その原因の多くは日本の近現代史学習において、アジアへの植民地支配と侵略戦争について、その歴史と意味について十分学んできたとは言えないからです。しかし適切な働きかけがあれば、日本の中高生もアジアの中高生との交流に参加して、大きく成長ができることを、この2年間の取り組み示しているのです。


北京での日中韓の中高校生の発言・討論から

 2004年、韓国での討論では、広島の高校生からの「日本の民衆も原爆の被害者である」という発言について質問が集中しました。しかし自分たちが「加害者」側にいるという緊張感もあり、どちらかと言えば、間島問題や高句麗問題など領土主権など民族問題と日本の侵略問題がからんだ韓国や中国の発言に圧倒された面がありました。司会を務めた韓国中央高校の崔先生の「皆さんが各国を代表する国民であると実感した。皆さんの質問と答えには、各国の歴史観がにじみ出ている」というまとめは、議論の特徴を端的に言いあてていました。

 2005年は、「戦争責任論」をテーマに日中韓の代表による発言とそれに基づくグループ討論が展開されました。韓国の代表は、「日本人に対して怒っているワケじゃない。三国の歴史をちゃんと勉強したい。学んだ事を忘れないで生きていく。でも日本のやった事はひどい。歴史を勉強してアジアの平和に協力していきたい!」と発言しました。また中国の代表は、「理解と愛が大切である。これまで中国は、恨みが支えになってきた。生きているうちに日中韓三国が支えあい、喜び合うこと大切にしたい」と発言しました。中韓の生徒からは日本の戦争責任問題を問いながらも、未来の平和をどのように築くことができるのか、友好関係をどう築くのかという趣旨の発言が多く聞かれました。また韓国の高校生のベトナムへの加害責任、親日派問題など、韓国の「戦争責任」について言及する発言には注目が集まりました。

 日本の参加者を代表して高校生のNさんは、「日本の戦争責任の取り方について、賠償金とかいろいろあるが、いくら政府の上の方の人々が金を払っても、政府の人たちをはじめ、日本国民や若者とかが過去の事実を知らないで、自分たちには関係ないとか、思っているようであれば、それはで意味がない。過去を知って、自分の意見を持たなくては責任を取ることもできない」と発言しました。在日の民族学校に通学しているSさんは「日本でも被害者だったという証言はよく聞きますが、どの方も同じ被害者だと考えると、思わず涙が出ます。日本では今も、歴史を多くの人が間違えています。朝鮮、中国侵略を理解しない学生や政治家がいます。私たちが真実を知って必ず後世に伝えなければならないと思います」と、日本での戦争認識の曖昧さと自分の決意をしっかり述べています。

 このように今回の北京での中高生の討論はアジアの平和を創造する為には何が必要か、どのようなことを大切にしなければいけないのか、率直に語り合ったと言えます。被害・加害という立場が異なっても、日中韓の相互の信頼があり未来の平和を築きたいという強い希望があれば、それぞれの立場を踏まえ、相互にかみ合った議論ができることを示しています。しかしそれには歴史の真実に目を閉ざすことなく、向き合うことなしにはできないことでもあります。


慰安婦にされた陳おばあさんの体験談を聴く中で

 中国の海南島で日本軍に慰安婦にされた陳おばあさん(80歳)の体験談は、参加者に大きなショックを与えるものでした。大きく息を吸い、震えた声でつまりながらも話は進んでいきます。しかし日本軍からうけた暴行や恥辱の話になれば、苦しい息遣いとなり、目にはいっぱいの涙をため絶句。彼女にとって身を引き裂かれるような悲しい体験は過ぎ去った出来事ではなく、いまなお彼女を苦しめているのです。会場は水を打ったように陳さんの話に集中し、あちらこちらからすすり泣く声が聞えてきます。日本人の生徒たちも全員泣いていました。そして陳さんがこの会場にいる日本人の中高生に対し「日本の軍国主義者には怒りはあるが、話を聞いてくれている日本の青少年には好感を持っている」と話をされた時、日本の中高生のすすり泣く声はさらに大きくなったように思います。

 またこの話を一緒に聞いていた韓国の高校生の発言も忘れる事はできません。彼は陳さんが今日、大変苦しい話をしてくれた事に深く感謝するとともに、そのことで心や健康を害されないようにやさしく声をかけるもので、同時に戦争の真実を学ぶために、日本の中高生がこの場に来ている事を付け加えてくれたのです。この発言に日本の中高生は救われました。

 中学三年生のHさんは次のような感想を書いています。「どうしてこんな事をされなければいけないのでしょう。この事はみんなが言っているとおり、目をそらしてはいけません。被害にあった人々と一緒に、日本政府に立ち向かっていこうというおばあさんはすばらしいです。そのおばあさんは、日本人にいやなことをされたにもかかわらず、私たち日本の若者にとって、とてもうれしいことばを言ってくれました。戦争被害にあった韓国の人々、中国の人々には本当に申し訳ないと思います。しかし、日本人だからといって差別をしていないところは本当に感激しました。日本は加害国であり、罪も償っていません。ふつうは日本人をきらうだろうと私は思っていました。だけど私たち日本人に平等に接してくれるということはとてもうれしいです。それほど三国の絆は深いのかなあと思いました。日本人をきらっている人もいると思います。みんなで、平和な地球にしようと取り組んでいきたいと思います」。陳さんから人のやさしさを学ぶとともに、日本人として戦争責任という重い課題をどう受け止めていくべきなのか、彼女なりの感じ方が率直に述べられています。

 また陳さんの話を十分受け止め切れない、自分の内面への嫌悪感に泣いた高校生のIさんは、自らの葛藤を次のように表明しています。「罪悪感で泣いている私を、おばあさんは慰めてくださいました。私は彼女の目を見て、彼女の温かい、でもかたい手や、彼女の強さと優しさに触れ、始めて実感がわきました。はっとしました。『何て強い人なんだろう』そう思いました。すると、涙が新しくわっとわきだしてきました。なぜだがわかりません。あの時、私は無心でした」。

 また同じ高校生のNさんも「おばあさんの話を聞いて私は泣いた。でもそれは事実を知ったからではなく、おばあさんが泣きながら話す本当に辛そうな姿を見て、日本の恨みを支えに生きるしわしわで本当に小さなおばあさんをみて、日本を恨んでいるはずなのに、泣いていた私たちの手をにぎって笑いかけてくれたおばあさんの笑顔を見て、つらい記憶を日本人である私たちに話してくれるおばあさんの気持ちを考えて泣いてしまった」と書いています。歴史の対話や共有を否定する意見が意図的に流布されていますが、人間の真実の心は国境や民族を越えて伝え合う事ができる、そんなことを感じさせる体験だったように思います。


一度参加すれば、必ずもう一度行きたくなる旅

 このように今回の北京での青少年歴史体験キャンプは参加者に大きな感激と感動を与えるものでした。参加者は戦争責任という重い課題を自分なりに受け止め、それぞれがまたひとまわり大きく成長しました。しかしそれは、厳しい戦争体験や討論だけからではなく、文化やスポーツ交流、お菓子を食べ、夜店を楽しみながら、好きな音楽や歌手など話など楽しい交流を通し、友情を確かめ合いながら獲得していったものなのです。一度参加すれば、必ずもう一度行きたくなる楽しい歴史交流の旅になりました。


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