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  ●京都教育センター通信 
復刊第91号
 (2014.11.10発行) 
   
「おっさん、読んでくれてありがとう」
〜当たり前の自分を表現する自由〜

                      京都綴方の会 西條昭男

 

 台風一過、透き通るような青空が広がった朝。5才の孫娘を保育園へ送ることになりました。車より電車がすきな孫と一緒に嵐電に乗って出発です。

 園に着くと、先に来ていた数人の園児がワッと駆け寄ってきて、「志保、おそいなあ」「こっちこっち」と笑いながら、引っ張ったり押したり、じゃれてきます。元気いっぱい、エネルギーが溢れています。

 部屋に一人の男の子が入ってきました。いきなり「おっさん、ボクの絵 どれかわかるか」。部屋に飾ってある絵を指さします。先日行われた運動会に「頑張れ○○」と家族がわが子にエールをおくるために描いた絵が部屋一面に飾ってあったのです。

 「どれかなあ」とゆっくり見回すと、待ちきれないように、その子は、「これやっ」。うれしそうにぴょんとジャンプしてあははっと笑います。ナントカマン?の絵。お父さんが描いたのでしょうか、それともお母さんでしょうか。自分ために描いてくれた絵が嬉しくてたまらないのでしょう。

 孫が持ち物を片付け終わると、その男の子が一冊の本を持ってきて言いました。「読んで」。「その本、字がないで」。孫が横から口をだします。たしかに字がありません。お風呂屋さんの絵本でした。

 一枚一枚めくりながら、「くつぬいではるなあ。」「ふくねいで」「うわあ、おっちゃん たくさんいはる」「広いお風呂やなあ」「お風呂で泳いでる子がいるな」「あれっ、水の掛け合いして、ハハハ、おじいさんに叱られてる」などと言い、その子も「ここで、もぐってる」など指さしながら絵本を見ていきました。孫も覗き込んでいます。お風呂屋さんを出たところで絵本はおしまい。

 男の子は、ぱたんと絵本を閉じると立ち上がりました。そして、本棚に絵本をしまおうとして背を向けたまま、さりげなく言ったのです。

 「おっさん、よんでくれてありがとう」

 それはまことに自然なひびきの声でした。声の響きには発する人の人格やそのときの心情が反映されるものですが、このときの、男の子のおっさん、よんでくれてありがとう≠ヘ元気すぎるでもなく、儀礼的でもない、素直な心情が込められていました。気持ちが素直にことばにこめられていました。

 どうして男の子にはそれができたのでしょうか。

 嫌なことはイヤと言い、こうしたいと思えば自分はこうしたいと要求し、うれしい時は飛び切りの笑顔を見せ、悲しい時は涙を流す。

 このように当たり前の自分を表現する自由、また感情をことばで表現する自由が保障される環境にいるからではないかと思われます。充実した幼児期を自分らしく幸せに生きている子です。

 さて、ひるがえって、佐世保市で同級生の高1女子生徒を殺害した15才の少女の場合はどうだったのかと考えざるを得ません。当たり前の自分を表現してきたのか。当たり前の自分を生きてこられたのか。

 エリートの両親のもと、親の期待を体いっぱいに受け、自分自身も高い能力を受け継いでいる少女は、その期待に応え、幼児期から、自分ではない自分を走り続けて来たのではないでしょうか。どれが本当の自分で、どれが偽りの自分か、何のため、誰のために生きているのか、それさえ分からないままに。捻じれ、ゆがんで、爆発。

 殺された少女はかわいそうですが、事件を起こした少女もまた不憫です。

 人間が育っていくもっとも基盤となる幼児期を人間らしく、その子らしく生きていくことの大切さ。

 おっさん よんでくれてありがとう≠フ男の子から改めて学ばされた保育園の朝でした。

(京都子どもを守る会新聞10月号・シリーズ「子育て」90より転載) 
 
教育研究全国集会in香川 教育条件分科会

地域と共に進んできた与謝の教育大運動のとりくみ
−就学援助制度の前進・義務教育無償、子育てしやすい地域づくりのために 私たちが取り組んできたこと、これからも取り組んでいこうと思うこと−

                   与謝教組事務職員部
 
 

1 はじめに

 私たち与謝の学校事務職員は、従来から「一人の百歩よりみんなの一歩」を合い言葉に、みんなで学校事務のあり方や、仕事の進め方について学び続けてきました。そして、学校の課題や労働条件の向上に向けて、様々な実践と運動を積み重ねてきました。しかし、仕事を通じてぶつかる課題の多くは、そこだけでは解決できない課題、すなわち「社会の構造的な問題に起因する課題」がたくさんあることを、情勢学習で学んできました。

 また、子ども達を巡る状況も「社会構造が生み出す貧困」が沢山あり、その厳しさと向き合う子どもたちを支えることは、学校だけでは無理であり、受け止めきれないほど大きな問題となってきています。

 「受益者負担」という言葉により、益を受けるものが費用を負担するのは当たり前とする論調が強まる中で、義務教育も例外でないと「義務教育費国庫負担外し」などの言葉が出始めた30年近く前に、「義務教育費無償が危ない」と生まれた全教、京都での教育大運動の取り組み。それとともに与謝としての独自の活動を粘り強く続けてきました。

 組合としての組織が小さくなり、運動が進めにくい厳しさの中でも小さく粘り強く取り組んできたこと。こういう地道で小さな活動が、京都の各地で、また全国で繋がることを願い、また小さな一歩の積み重ねが大きな運動を作っていくという確信をもって紹介します。


2 地域とともに取り組む教育費無償運動(教育大運動)

(1)取組の経過 〜国庫負担改悪「教育費が危ない、子ども達のためにできることは?」〜

 1985年の義務教育費国庫負担法改悪の時「教育の機会均等・義務教育費無償の原則が崩される!」という危惧のもと、保護者負担の実態調査を行い、公費増額にむけての署名活動に取り組みました。それ以来秋の教育大運動と位置づけ、各自治体への署名活動を長年続けてきました。

 私たちは、学校予算や教育条件整備に中心的に関わり、学習権を保障する立場で就学援助制度の拡充や、保護者負担軽減・公費増額の取組を進めてきました。昨今の長引く不況下で、子どもや保護者の生活、学習を取り巻く環境は大変厳しくなっている中、どの子もが安心して学べるような地域づくりをすすめようと取り組んできました。

(2)具体的取組

@「教育費の保護者負担を考えるシリーズビラ」

 地域の人々に、日本の教育費の貧弱さ・国内でも市町村によって異なることを知らせ、みんなで教育費について考えていこうと「教育費の保護者負担を考える」シリーズビラを定期的に発行してきました。第1号を2006年秋から毎年発行し、2013年で計9号になりました。宮津与謝の家庭に新聞折り込みで配布し、また、教育署名活動にも活用し多くの方に目を通していただいてきました。

 その中で、いくつかの改善や前進がみられた取組については、各自治体の努力を評価し、また課題があることについては、手作りのマンガでやわらかく批判するなど工夫を続けてきました。特に、同じ中身でも、しつこく何度も取り上げて伝えるということ、庶民的な言葉で詳しく、わかりやすくということを心掛けてきました。

 最近では、「自治体の努力で」という表現を付け加えることにより、保守系議員の議会報告でも同じような内容の議会質問や報告も出されるようになってきています。

 地域の願いは、暮らしやすい地域であり、私たちの要求との一致するものであること、要求は単に「おねだり」ではなく、よりよい地域づくりにつながるものであるということが長い時間をかけて認知されてきたのではないかと思います。

★取り上げた課題は
・就学援助制度について
 地域格差がある認定基準、支給額、申請し基準を満たせば誰もが受けられる制度になるように
・世界人権規約批准問題
・日本の教育費の実態
・学校給食の全校実施、給食費補助を導入している自治体
・通学費に高い路線バスの低廉化実現・高校授業料無償化実現
・父子家庭にも児童扶養手当が支給
・貧困対策法が整備 など

A 地域の諸団体とともに取り組む「格差と貧困、子どもと教育、修就学保障を考える学習講演会」

 2008年から昨年度まで計6回「格差と貧困、子どもと教育・就修学保障を考える学習講演会」を行政、教育、社会保障等々にかかわっておられる方々にも広く呼びかけ、実施してきました。私たちが与謝の地域で課題があると考えてきたことは、就学援助制度そのものの地域格差の問題(認定基準不明確、申請方法が古いなど)と、国庫負担法から外れたことで、地域財政力によって、今まで以上に格差が広がるという危険性についてです。そのことが、広く認知されるために、まず就学援助制度を正しく教職員に知らせ、合わせて地域に知らせることが大切だと考えました。

 今でもまだまだ制度の課題はありますが、議員さん方の理解も進み、議会での質問も頻繁にされる中で少しずつではありますが、前進してきました。今では、さらに国レベルの課題も知ってもらい自分の地域と比べながらよりよくしたいという願いが高まるようにと考えて、研修内容の検討を進めてきました。

★ 学習会内容
・2008年 プレ集会
 高橋瞬作氏【京都生活と健康を守る会】
・2008年 第1回
 藤澤宏樹氏【大阪経済大学助教授】
・2009年 第2回
 山田欣司氏【大教組学校事務職員】
・2010年 第3回
 秋吉澄子氏【大阪生活と健康を守る会連合会事務局次長】
・2011年 第4回 吉永純氏【花園大学教授】
 「貧困と格差から子ども・教育、福祉を守るために」
・2012年 第5回 深沢肇氏【早川町教育長】
 「早川町のまちづくり〜子育て世代を支える〜」
 義務教育完全無償化への思い
・2013年 第6回 村木栄一氏
 【東京都元学校事務職員・まちかど事務室主宰】
 「子どもの貧困と就学援助」一緒に学び考えましょう

 第5回に開催した早川町教育長,藤沢氏の講演には、幅広い地域から幅広い層で60名を超える参加が得られました。参加した若い議員さんは、その後単身で早川町を訪ね議会での一般質問にそのことをのべられました。

 昨年行った村木氏は、学校事務職員として出会った子ども達、親たちの厳しい状況と、それを支えるための就学援助制度に関わる事務職員としての事務実践を紹介して下さいました。その経験を生かし、今は「まちかど事務室」と称して、様々な活動を通して知り得た社会の問題点をニュースとして発行したり、東京の議員学習会の講師なども務めておられます。就学援助制度の充実、教育費無償、給付型の奨学金の必要性についても訴えなら、貧困の子どもたちを支える活動をどう進めるか、一緒に考える機会となりました。

 村木さんからは、この学習会を通じ、逆に刺激を受けることができたという言葉をいただいた。また、こちらのニュースの内容から、東京で行われる財政シンポジウムのアイディアを得られ、こちらからの参加を要請されるという繋がりも生まれ、一つの動きが波紋を広げ、まさに運動というものの力を実感しました。


3 職場での学校事務実践

 私たちが与謝の事務職員として学び取り組んできたことには、大事な柱があります。それは義務教育無償の原則に、現状としてできる限り近づけて実践すること。その為には、学校予算を増やし、父母負担を限りなくゼロにする。できない現状では、就学援助制度を義務教育費無償のセーフティネットと位置付け、だれもが気軽に受けられる制度として充実させること、支給内容を充実させることです。そのためにこのような運動を進めてきました。仕事の面では「学校にいてこそ学校事務職員」の役割を果たし専門的な職務を積極的に担当し役割を担うことを、真価が問われる今こそ大切にしようと若い仲間とともに進めています。

@ 入学説明会やPTA総会で事務職員が就学援助制度の説明をする学校の増加。
A 就学援助申請にはすべての保護者に必ずお知らせ文書を見てもらえるようにと返信封筒に入れて、保護者の希望有無が確認できるよう工夫している学校。
B 教職員の研修会で就学援助制度学習をしている学校。
C 高校生のための就学保障制度の説明や相談を進路担当と連携し事務職員が行う学校。
D 学級費(徴収金)会計事務を担当する事務職員の増加。
※学級費(徴収金)会計を担当することによって教育内容と保護者負担がよくわかり、問題点も見えてきて保護者負担軽減につながっています。
E 学校として責任ある保護者説明できるよう、学校経理すべてを全教職員で考えていくことの大切さを問題提起している事務職員。


4 まとめ〜これからも変わらず頑張っていくために〜

 厳しい情勢が続いているようにも見えるが、世の中まんざら悪いことばかりではなく、あきらめずこだわって続けること、大変でも何でも大事なことを続けることが大切だと思います。

  自分の仕事が、少しでも一生懸命生きている人達を支える社会づくりのため働いているという実感をもって働けるよう、まだまだ頑張らなあかん。みなさん、一緒に頑張りましょう。
 
   
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