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●京都教育センター通信 
復刊第40号
 (2010.1.10発行)

今を生きる教師の目の前にあるもの

              京都教育センター 浅井 定雄


 昨年11月30日に文部科学省が発表 した校内暴力の件数は、2008年度で 5万9000件を超え、前年度よりも7000件 近く増え、過去最悪になつた。中学校は4万2000件余、小学校は6000件余でいずれも急増している。高校は若干減少して1万件余である。校内暴力数はこの三年間で1・75倍になったとされている。

 校内暴力については、1980年代中頃に、大きな波があつた。当時、この校内暴力に体を張って取り組んだ多くの教師の教育実践が、現在にも貴重な宝として残されている。しかし、現在の子どもの事態は、児童・生徒数が当時よりも大きく減っているにも関わらず、暴力件数では最多になっているのである。

 同時に発表された「いじめ」に関しては、8万4000件余で、「減少した」とさ れているが、これはにわかには信じがたい。事実上の「いじめ」であっても、「病気」「不登校」など、統計上どのような項目に入れるかによって恣意的なものが入るからである。これは、一昨年の北海道滝川市の小学校六年生女児のいじめ自殺を機に文科省がいじめの定義から「一方的」「継続的」の文言を削除したとたん、報告件数は前年度比6倍の12万5000件余に激増したことでも明らかで、ひきつづき「いじめ」問題も深刻な事態であると言わなければならない。

 文科省や教育委員会は、この原因を 「コミュニケーション能力の不足」「感情がうまく制御できなくなっている」 と、子どもに責任転嫁している。確かに、昨今の子どもの気質の変化が関係しているには違いない。しかし、これは校内暴力最多の真の原因を隠蔽するものである。

 今、子ども達がどんな社会の中で生 きているのか。最近の新聞記事の見出 しには次のような文書が踊っている。

 「自殺、十二年連続三万人超」「給与、 十六カ月連続減」「貧困、七人に一人」 「ひとり親家庭、半数超が貧困」「生活保護費、受給世帯急増」「所得格差が子どもの学力差に」「児童虐待、過去最悪 に」「授業料減免、十人に一人」‥・。 こうした中に子ども達は今を生きている。子どもの貧困が確実に広がり、子ども達の心を荒れさせている。子ども 達の荒れは、社会の荒れの反映である。

 同時に、ゲームやケ一夕イの急激な普及で子ども達のまわりには仮想社会が広がつている。仮想社会の中では、人権は存在せず、サバイバル社会とそれに立ち向かうための武器として暴力行為 が肯定され、子ども達の心 にくい込んで きている。

 そして、そうした事態に目も向けず、学力テストで格差付けをし、サバイバル競争を煽り、分・秒を惜しんで子どもを追い立てる学校。

 そうした中で、心の荒れを「暴力」「いじめ」という形で噴出させる子ども達。その子ども達と目の前に向き合って、教師達は今を生きている。

2008年度 校内暴力(調査 約39,000校)
学校種 小学校  6,484件
中学校 42,754件
高校  10,380件
内容別(前年度比) 生徒間暴力 32,445件(+4,049件)
器物破損  17,329件(+1,611件)
対教師暴力  8,120件(+1,161件)
対人暴力   1,724件(+41件)





子どもと進めた劇づくり−自分たちをふり返ろう−

     竹内 真知子(伊根町立伊根小学校)



はじめに

 某小に赴任して二年目のこと。一年担任から突然六年担任になった。前年度ベテランの先生の指導のもと、「落ち着いたクラス」「よくできる子たち」との評価を受けていた子どもたちで、基礎学力は高く、前向きにがんばろうとする意欲もあった。その姿に安心してスタートしたが、次々にやってくる行事などをこなすことに必死で、嵐のような毎日だった。

 二学期の途中から少しずつ子どもたちとのズレが見えてきた。ある時、男子を注意すると「そんなんやからみんなにきらわれとるんや」という言葉が返ってきた。職員室では「去年はよくできていたのに」と言われ続け、誰にも相談できなかった。そんな中、ベテランの先生から「保護者から不満が出ている」と言われた。ショックだったがどうしたらいいかきくと、「真剣に子どもと話をしたら」とアドバイスをもらった。

 そこで週明けの一時間目に「真剣に話をしたいからみんなも真剣にきいてほしい」と前置きして、自分のやり方でまちがっていたと思うところ、いいクラスをつくりたいという思いなどを子どもたちに話した。

 その後の作文には「みんな仲がいいと思うけど友達を信じていない。みんなが本音をうちあけてくれるクラスにしたい」「卒業までにどんなことにも真剣に取り組めるクラスにできたらいい」「これからは一人一人がやる気をもってがんばるクラスにしたい」「竹内先生はこれまでもってもらった先生の中で一番がんばっとると思う。けど一番未熟というか一番ダメだと思う。だけどいいところもあると思う。あと半分の小学校生活、少しでも五年のぼくらに近づけるよう努力したい」という言葉があった。子どもに真剣に話したことで自分の気持ちをきりかえることができ、子どもたちも少しずつ自主的にがんばろうとする姿が見られるようになってきた。


一、劇に向けて

 十一月末にある学習発表会での出し物を子どもたちと考え、劇をすることになった。様々な案が出て多数決で決めようとしたが、Tくんが「ぼくらのことを劇にしたい」と言い出した。話し合いがまとまらないままその時間が終わった。他学年との交流があったため中断して教室移動し、Tくんだけ残して話をきいた。するとTくんは泣きながら「ぼくらは今までいろんなことがあった。でもこないだ先生が言ってくれたし変わろうとしとる。そのことを劇でやりたい。成長してきたことをみんなに教えたい」と話してくれた。私の話を真剣に受け止めて学習発表会に真剣に取り組みたいというTくんの思いがよくわかった。そこで次の時間に話し合いをしてTくんの思いを伝えると、他の子どもたちも「よくわかった」「それでいこう」と言ってくれ、やっとTくんも笑顔になった。


二、台本作り

 まずはじめに、どんな体験を劇にするか話し合った後アンケートをとった。いじめ、交換日記、ガラスを割ったこと、テストを投げ捨てたこと、おかしやゲームを持ってきていたことなど、具体的にたくさんの内容が出てきた。ほとんどの子が「いろんなことがある→話し合い→良いクラスにかわる」という流れを考え書いていた。

 次の日、Tくんがノート三ページ分の台本案を書いてきた。その台本案とアンケートを項目ごとにまとめ、子どもたちに配った。またそれをもとに話し合い、一人一人に書きこみ、それをまた一つにまとめ、子どもたちに返し・・・という作業を何度かくり返し、徐々に台本ができてきた。

 しかし、その台本は日々がただ流れていくようで、子どもたちの悩みや思いが見えてこない。そこで自分たちがその時々にどんなことを考えていたのかアンケートをとった。「いじめがあった時」「ふざけていた時」「やっぱり変えようと思った時」などの項目ごとにきいた。すると「このままじゃだめだと思ったけど、とめられなかった」「少しダメだなあと思ったけどやってしまっていた」「ふざけていたらダメだなと思ったけど、注意ができなかった」「人がふざけているときはとめにくかった。自分がしているときはダメだと思いながらやってしまった」「遊ぶつもりでやっていた。こわいし何されるかわからないから注意しなかった」などの声があった。それをまた子どもたちに返し、台本にまとめていった。


三、練習、そして本番

 台本が完成したのは本番二週間前だったが、子どもたちは一週間でセリフをほぼ覚えた。しかし、ふざけながらの練習もあり、また子どもたちと話し合いをした。「何のためにこの劇をやるのか」「変わったところを見せるんじゃないのか」とよびかけた。子どもたちもどこを直せばいいのか毎回の練習後にアドバイスし合うようになった。

 当日は朝から緊張がただよい、子どもたちは「まちがえたらどうしよう」を連発していた。「まちがえたらまわりがフォローしよう」と励まし合い、いっしようけんめいしてきたことは見ている人に絶対に伝わるからと声をかけた。本番では今までで一番大きな声を出し、いっしょうけんめいに演じた。幕が閉まると、やりきった満足感でどの子もいい顔をして幕の中でハイタッチできた。

 保護者からは「六年生みんなの成長が感じられた」「ふだんの学校生括の中である問題をどんな風にのりこえていったかを、わかりやすく、六年生として下の学年の子どもたちに伝えられたと思う」「これからも今回の劇のように先頭に立って事実を伝えることができるか、先頭に立って友達を助け支えてあげられる子どもになれるかがこれからの課題かと思う。これからも友達を大切にしてほしい」などの感想を寄せていただいた。子どもたちからは「この劇で、いじめる人の気持ちを学んだ」「練習の時、みんなまとまらなくて、ふざけて練習をする時が多かった。でも本番に近づいていくうちにみんなまとまってきて、まじめに練習する人がふえてきてよかった。本番ではみんな一つにまとまっていい劇ができた」「これをきっかけにみんなでしっかりとしていきたい」などの感想があった。


四、終わりに

 劇を作り上げていく中で、子どもたちとよく話し合い、アンケートや作文を通して子どもたちの考えを交流した。その中で、子どもたちが何を考えて今まで過ごしてきたのか少し見えてきた気がする。子どもたち同士も、強く見えていた子のイライラ、やられる側の悲しみ、だめだと思いながらも口にできなかったもどかしさなどを知ることができた。クラスが一つにまとまっていくあたたかさを感じながら取り組むことができた。

 ただ、劇が終わると、また次々とやってくる行事に流されてしまう毎日になってしまい、この経験を次の取り組みやつなげていくことができなかった。それでも、劇を言い出したT君とはよく話ができるようになった。 いじめられる子の役をしたFくんは「ぼくは劇の中で役でもしんどかった。本当にこういう思いをしている人がいることは忘れたらだめだと思う」と言った。この後も様々なトラブルは起こり、「六年生は何も変わっていない」と言われることもあっったが、たとえ少しだけでもこの子たちの心の中に何かを残すことはできたと思う。卒業して中学生になった子どもたちが、今後何かの機会にこの取り組みのことを思い出してくれていればと思う。







第40回 京都教育センター 研究集会
研究集会テーマ
「教育と学校に自由と民主主義を!」

2010年1月23日(土)〜24日(日)

詳しくはこちらをごらん下さい。

新刊紹介
教育センター室でも扱っています

『思春期のゆらぎと不登校支援 U子ども・親・教師のつながり方』

 春日井敏之 著    ミネルヴァ書房  二八〇〇円+税

 U認め合う居場所とつながりの実感を  思春期・青年期の自己形成と支援のあり方、臨床教育の視点から双方にとっての支援の意味を問う。

『水源の里 綾部で文化を紡ぐ U中学生からの 地・生・輝 づくり』

吉田武彦 著     ウィンかもがわ 一五〇〇円+税

 地域の人々が支える学校、地域のにない手が育つ学校づくり。過疎の農山村地域で取り組んだ、未来に生きる豊かな学び。

『京都山科 音羽・大塚・音羽川 二千年の歩み』

       鏡山次郎 著     つむぎ出版 二五〇〇円(税込)

 ふるさと山科の二千年/中世の山科七郷と自治の伝統/音羽地域の二千年/幕末の山科史/四ノ宮地域の二千年/山科における戦争の爪痕を訪ねて/四ノ宮におけるまちづくり住民運動 他


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