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京都教育センター 年報29号(2016年度)

 -- あいさつ --

「なんか、この頃変なんや」と言える学校・社会を

                京都教育センター代表 高垣忠一郎
 

 グローバル競争の時代に資本の利益を増やすために、人間の生(いのち)をもっとも有効に生かす政治が必要です。それぞれの人間がもっている能力・特性(「性能」)を資本として生かすような政治です。つまり、人間を経済原理で支配し、競争原理をそのままに人間一人ひとりを「企業」にするのです。そういうシステムをつくる政治が安倍政権の「一億総活躍社会」なのだと思います。

 「企業」がすべて悪だとは言いません。利潤をあげることに支配され、利潤をあげないと倒れるという競争システムにとらわれた企業を悪だと思います。いまの流行は、プランを立て(目標をつくり)、実行し、そして、その結果をチエック(評価)し、そして次の一歩を踏み出す。そういうPDCAサイクルのなかに、すべての人間を巻き込むのです。

 すべての人間を追い込むために、PDCAサイクルに違反する人間が出てくると、浮いてしまって排除されるシステム、空気を作るのです。いま学校にも、この横文字のシステムが導入されているようです。そんな学校では「明るく、元気に、前向きに」がスタンダードになってきているように思います。それを別名「目標管理社会」といいます。目標を管理して、それぞれの人間、組織をそれに向けて、最大限走らせる。そういう社会です。

 そんな社会の成果・果実は誰が享受するのか、1人ひとりの個人ではありません。グローバル企業とそれに従順な政治家です。そんな息苦しい社会になると、「いきもの」である人間はますます「生きづらく」なります。そういう社会に閉じ込められないようにするためには、1人ひとりが何かおかしい、変だという声をあげることがとても大切です。

 子どもはあちこちでそういう声(声にならない声もふくめて)をあげています。登校拒否・不登校の子どもの声に耳を傾ければよくわかります。たとえば、ある学校の、あるクラスでは、毎日日直が「最近ボクはこんなことを頑張っています」とスピーチするのです。それがスタンダードになっています。Aくんは、「僕はそんな自慢たらしいことを言いたくない」と違和感を親に表明しました。

 自分はそんなことやりたくないけれど、でもみんなやっているのに、自分だけやらないと「浮いてしまう」のです。葛藤・ストレスが彼のなかで溜まっていきます。そしてついに、「明るく、元気に、前向きに」の祭典みたいな運動会の終わったときから、「ボクはもう学校には行きたくない」と宣言しました。

 「いのち」の感じる違和感を大切にすることです。そのためには、「いのち」という大きな自分に心、感性を開いていることが必要です。社会に適応する「氷山の一角」の「自分」の枠内に自分を閉じ込めていると、違和感をもつことがありません。「いのち」という大きな自分の感じる違和感に耳を傾け、それを訴えることができる関係、場をつくることです。そしてその場で声にするのです。「最近なんか変なんや」と。そんな開かれた学校や社会をつくることが、子どもを育てるわたしたちおとなの大事な課題になっているように思います。
 


共同の運動で次期学習指導要領の抜本的見直しを!

            京都教職員組合執行委員長 河口 隆洋
 

 京都府内各地での保護者・住民と共同した運動が様々な変化をつくり出しています。

 京都府教委は、北部の府立高校再編・統廃合にむけて、@宮津・加悦谷高校を、網野・久美高校をそれぞれ統合し、2高校4学舎とし、A弥栄・伊根・間人の各分校を弥栄に統合してフレックス学園構想にもとづく学校を設置する方向性を示しました。

 これに対して、地元教組や保護者・住民有志で「丹後地域の高校再編を考える会」(以下「考える会」)等を結成して、全戸ビラの新聞折り込みで住民・保護者に事態を知らせ、「見切り発車反対」「住民の声を聞け」の要求を軸に、幅広い住民・保護者とともに学習会・住民集会等をすすめてきました。「考える会」として地元議会への働きかけを強めました。昨年7月には京丹後市議会は全会一致で、「高校再編は…地域住民の声をしっかり聴くこと」「住民に丁寧な説明をすること」等を柱とする意見書を府教委に提出しました。与謝野町の幅広い住民で組織する「か矢織りなす会」(加悦高まちぐるみ応援団)は、「加悦谷高校を本校(独立校)として残す」意見書を府教委に提出し、9月には与謝野町議会も府教委への意見書を全会一致で可決しました。地元からの運動によって府教委が当初想定していた再編計画策定に大きな狂いが生じています。

 福知山市議会では「35人学級」を求める請願が全会一致で初めて採択されました。また、木津川市議会でも、「教室へのエアコン設置」「市独自で教職員増」「公園の整備」を求める請願が採択されました。宇治市議会では、地元教組も参加する「宇治市の中学校給食の実現をめざす会」から提出された中学校給食の実現を求める請願が全会一致で採択されました。宇治市では昨年度請願が採択された小・中学校のトイレ改修など施設整備に12億円の補正予算が組まれました。保護者・住民と共同した運動の積み上げが着実に成果をあげています。

 昨年末に中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領の改善及び必要な方策等について」がまとめられました。これをふまえて次期学習指導要領が策定されます。次期指導要領は、教育基本法改悪後初めての改訂であり、改悪教基法・学校教育法で示された教育目標や教育内容をさらに具体化することが想定されます。今回の「答申」の資料で、子どもたちに身につけさせるべき「3つの資質・能力」の一つである「学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性の涵養」の社会科の項では、小・中・高校ともに「我が国の国土や歴史に対する愛情」「日本国民としての自覚」などがことさらに強調されています。

 今回の改訂では、小学校での外国語教育など、つめこみをいっそう強化し、競争をあおり、小学校段階から選別が強化され、さらに指導方法や評価方法においても教職員を縛ることが狙われ、その意味では戦後最悪の改訂と言えます。憲法改悪と一体に戦争する国づくり、人づくりを進め、「世界で一番企業が活動しやすい国」の「人材育成」に奉仕する教育や学校づくりが企まれています。
今年は、戦後最悪の学習指導要領の抜本的見直しを求めて、国民的な共同の運動を広げていくことが求められます。そのとりくみへの京都教育センターの理論的・政策的な引き続くご支援をよろしくお願いします。
 
 「京都教育センター年報(29号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(29号)」冊子をごらんください。

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              2017年3月発行
京都教育センター