事務局  2016年度年報目次 


第2部 教育センターと各研究会の年間活動


子どもの発達と地域研究会
       2016年度の活動のまとめ

                 姫野美佐子(子どもの発達と地域研究会事務局)

 

Ⅰ.はじめに

 ずっと、「地域の活動」にスポットをあて、「地域のつながり」に注目をあてて研究してきました。昨年は「学校は今、どうなっているか」という点にも注目して現場の先生方からお話をきかせていただいたりしましたが、今年は「父母たちのつながりは、どうなっているか」という点を深めたいということになりました。まずアンケートを取りましたが、事務局に現役の小・中保護者がいることから比較的スムーズにすすみました。このようなここ数年の活動から、さまざまな視点から「子どもの発達と地域」をとらえることができるのだと、改めて考えています。


Ⅱ.2016年度の活動経過

・ 1月から月に一度の事務局会議で「今年のテーマ」を議論して決めていきました。「子育ての主体である父母の『つながり』について深められないだろうか」というテーマに行きつき、まずはアンケートをとってみようということになりました。以下にアンケートのまとめを掲載します。

1. 今、“親同士のつながりが少なくなっている”ということを、多くの方が感じているようです。

⑦ 核家族化や長時間労働で“みんなで育てる”ことができにくくなっていると思います。親子のふれあいがうすれ、子どものストレスが増し、攻撃的になることにつながっているように思います。

⑧ 私たちの子どもが小学校の頃は、父母同士のつながりもいろいろあったり、懇談会でも話したりしていましたが、今は、忙しいお母さんたちも多く、PTA活動もなかなか難しいようになってきた。卒対などがなくなって楽になった分、子どもを囲んで親たちがまとまるということが少なくなっていると思う。

⑨ 今の小中学生の子どもたちの母親たちも、働かないと家計が苦しいという状況があり、子育てするのに、親同士がつながれるといいけど、親があまりに忙しくて、学童の親の会などがなくなってきている。

⑩ 自分が子どもの頃、田舎で三世代家族で、地域のつながりの強いところで育った。今京都で子育てをしているが、そういうつながりが乏しいと感じる。子どもにはいろいろな人(年齢・性別・職業…)と関わる場をできるだけ提供したいと思うので、そのような取り組みがあると参加するようにしている。

⑪ 人とのつながりがうすれている今日この頃、保育園で親教育をしてもらえるのはありがたい。親同士、親しくなるため、保護者会など、忙しくても参加するのが大切。

2. また、「つながり方が分からない」「いざというときに困っている人もいるようだ」との意見もありました。

① PTAにはあまり積極的に関わっていません。負担が多すぎて。理不尽な仕事、非効率な仕事がたくさんあって時間をやりくりして関わるのが辛いです。もっと創造的な場だといいと思います。

② 子育てや、ご近所(地域)との関わりの難しさに息苦しさを感じています。(問題の背景については)インターネット、TV、新聞などの広告媒体でしょうか…。平均的な人たちがつくった〝平均″に沿って生きなければならない社会のように思える…

③ 主婦のときは親同士のつながりがあるが、仕事を持つとつながりがなくなるので、仕事をもっていても親が集まれる場があると良い。

3. 問題の背景は何か、これからどうしたら良いか、という問いにもさまざまな意見が寄せられました。

① 国や社会が絶えず成長を求め続け、成長を表すものがGDPなどの数字である中で、知らず知らずに親は数字で表される結果を求めてしまうようです。問題の背景を社会としてしまうとどうしようもないことですが、親として、地域として、またそれぞれの場において、失敗や後戻り、評価を必要としないこと、無目的な集まり、などと意識的に作っていかないとと思います。

② 先日、ママの出産後の体の変化や、幼児の脳の発達研究について特集を見ました。(母親のホルモンの変化によるストレスの感じ方や子どものガマンする力をつかさどる部分が、いつごろ発達していくかなど)コメンテーターの方が科学的に解明されてきたことを広く周知してもらうことが必要だと言っていましたが、子育てに悩み、孤立しがちなママのためにも男性にも知ってもらいたい内容でした。

③ 交通量が多く、外遊びで親が目を離せないのが問題。遊び場を増やしたり、道路で車がスピードを出せないような仕組みを作ってほしい。(ex道路をわざとガタガタにする。くねらせる。住宅地への進入車両の既製など)

④ 地域で、一時間くらい子どもをみてくれる、おばあちゃん的な存在がいてくれたら助かる。

⑤ 子どもを囲んで地域がまとまると良い。今はPTAよりも、地域の年長 年配の方が見守り隊などをされているので、そこにもっとPTAも関わるべきだと思う。

⑥ やはり自治体、行政がもっと子育て世代の実態を把握すべき。そのため には、行政に援助・助成を求めるなど子育て世代が自分たちの権利をもっと知って声に出して言えるようになればなあと思う。

⑧親の悩みを受けとめる役割の人がいたらよいと思う。例えばスクールカウンセラーさん(臨床心理士)

4.一方で、「つながりのなかで子育てをしている実感がある」という意見もありました。

①小学校になってから知り合った親より保育園からの親の方がつながりが深いです。特にお父さんも含めた家族のつながりは保育園の頃から。子どもの赤ちゃん時代からの成長を共有している仲は色々なことを許容しあえる、受けとめあえる気がします。

②家庭塾では親子共に密なつながりをつくれています。それ以外の習い事では、その習い事の範囲ではありますが、学校や学童とも違う、異年齢で学校も違う仲間ができています。この細く長い感じの関係もまた、楽しんでいるようです。

③4年前に新婦人に入会し、親同士のつながりができたことを心強く思います。子どもが大きくなっても、親のつながりが続いていけばよいと思います。

5.また、以下のような、鋭い指摘もありました。みんなで考えてみたいと思います。

①学校・地域・団体・習い事などは、親にとって、何かの目的を達成するための場所になっています。そのため、その場所では、父母は目的が達成されているかどうかを判断する評価者となり、客観的な状況が生まれています。父母のつながりが評価となりすぎると、なかなか関係をつくることは難しく、又、父母が参加して主体者となることは難しいと感じます。それぞれの立場の中に評価とは関係なく、あやふやな目的の中で参加できる余白が必要と思います。評価することは、どれだけ前進、成長しているかを計る視点と思います。父母は、子どもがどれだけ成長したか、成長させてくれたかが必要となりがちです。子どもにとって、失敗や、後戻りする、特に目的も持たないけど居心地の良い場所、また、様々な年齢や考えの違う人とふれる場は大切で、そういう意味では地域の役割は大きいです。また、父母のつながりを評価者としてのつながりではなく、子どもの成長に関わる主体者としてそれぞれの場で、つながりを持つ意識に根本的に変えることが大切ではないかと思います。

②受験の低年齢化で競争にさらされ、(自己が確立する前に)いらつく子がかわいそう。習い事で仲良くなることはあるが、月謝がいる。余裕がない人は参加できない。

③専業主婦と働いているお母さんが分断されている。専業主婦も日々の家事・育児に疲れ、他の子を預かる余裕がない。働いているお母さんもへとへとに疲れている。集まっておしゃべりをする場があればストレスが発散でき、孤立感も解消されると思う。

④男女平等の労働になっていない。若者の雇用に大きく問題あり。賃金上がらず。結婚して子育て出来ない。産んでも、育児費、教育費、医療費に待機児問題も…と不安だらけ。これでは少子化当たり前!


Ⅲ.公開研究会の報告

 6月25日(土)、“ママ友”だけじゃない 子育てのつながり~雑談から共同の子育てへ~というタイトルで公開研究会を行いました。参加者は8人と少なかったのですが、このアンケートをもとに議論を深められました。

・感想①アンケートをもとにしながら、ママ友だけじゃないつながりの在り方について話ができたのが良かった。棚橋先生のたて軸とよこ軸の話、本当にその通り、よく分かりました。

・感想②学校の懇談会に父母が集まらないのは、学校や先生の側の話題の提供の仕方にも問題があって、父母が忙しくて来られないということだけではないという感じがしました。子どもを見る眼が、学校も親も変わってきているのではと思いました。目的を限定しない多様なつながりが子どもの見方を作ると思いました。


Ⅳ.今後に向けて

 年末の「京都教育センター研究集会分科会」では、初めて参加の方も含めて「地域のつながり」に関心を持ち、またそこに危機感を感じている討論になりました。広げていくにはどうしたらいいか、2017年も楽しく研究活動しながら深めていきたいと思います。

Ⅴ.研究会の事務局

姫野美佐子/棚橋啓一/中須賀ツギ子/西尾直子/高橋明裕(代表)
 
 「京都教育センター年報(29号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(29号)」冊子をごらんください。

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              2017年3月発行
京都教育センター