事務局  2016年度年報目次 


第2部 教育センターと各研究会の年間活動


生活指導研究会
2016年度の活動のまとめ

                 横内廣夫(生活指導研究会事務局)

 

<2016年度経過報告>

1.活動の柱(基本方針)


  第一回例会(4月9日実施)を開催し、活動の柱(基本方針)について以下のように確認しました。

 ①.教師論・子ども論・学校論-ゼロトレランス、道徳の教科化に焦点を当てます。

 ②.また18再選挙権をめぐる教育・政治状況を分析し、現場に起こりうる問題を整理する。<中・高生の意見表明権/政治活動参加と現場教員の対応など>

 ③.将来教員を目指している、あるいは教育問題に関心を持っている学生・院生の参加を追求していく。

 ④.若い教員の参加が得られるように工夫する。

  *.報告者として参加していただく。 *.過去の参加者を再組織する。

 ⑤.他の研究会との交流を深め、本研究会での学習・議論に反映させていく。

 ⑥.他の民間研究団体や学会へ参加しその成果に学ぶように努める。

 ⑦.研究成果を出版できるように引き続き努力していく。

2.若干の総括

 研究会会員の高齢化が進み、退職教員が中心となってきました。研究会に現職教員と教師を目指している学生の恒常的参加が得られるように、体制を強化していくことが重要な課題となってきています。今年度もその課題を意識しつつ参加組織に努力してきましたが、期待した成果を得ることができないままでした。次年度も引き続き検討していきたいと考えます。また研究成果を出版していくことも検討しましたが、諸般の事情で困難が伴うことが判明しました。従って何らかの別の方法で成果の普及と還元については考えていきます。

 またこれらの活動の柱にそって今年度一年間で新聞記事等の収録冊子を10号まで配布しました。教育・福祉分野に限定して新聞記事を収録しましたが、「見出し」だけでも振り返って見てみますと、この一年間の問題状況が把握できます。その意味でもこの取組は有効でした。

3.部会の研究会活動について

 第二回例会(5月28日実施) 発達問題研究会との合同公開研究会

[基調報告]「道徳の教科化にどう立ち向かうのか」
大平勲(発達問題研究会・立命館大学非常勤講師)

[報告①] 「育鵬社『はじめての道徳教科書』の危険な内容と問題点」
倉本頼一(生活指導研究会・立命館大学非常勤講師)

[報告②] 「私が『学んだ』道徳授業の実践」
谷崎 誠(大学院生)

 *[発達問題研究会報告]を一読下さい。

 第三回例会(6月25日実施)

[報告①]「いじめでマスコミと闘った学校」 津村勝

 2011年10月11日当時中学2年生の少年が同級生からのいじめにより自殺しました。津村先生は、この悲しい事件後の2012年4月から1年間この学校で勤務され、事件のあった学年の副担任として国語の教科を担当されました。この事件が全国的に報道されるようになったのは2012年7月上旬ですから、津村先生はそこに直面していたことになります。当時の様子を津村先生は次のように記述されています。

 「報道は日に日に大きくなっていった。学校のことが新聞に出ない日がなかった。新聞、テレビ、週刊誌等メディアが連日学校に押し寄せた。出勤時には正門に数人の記者が撮影機材を設置して絶っていた。生徒が通るたびにインタビュ-をしている。該当学年も、事情をしらない1年生も。しかも複数の記者に囲まれ、カメラを向けられ、半年以上前の事件について執拗に聞いてくる。そのせいで、生徒は朝から疲れ切っていた。下校時も同様だ」。「連日大々的に行われる報道を受け、学校には大きな混乱が起こっていた」。野次馬のような人が学校周辺に出没したり、脅迫文のような手紙が届いたり、釘やカッタ-の刃が入った封筒が送られてくることもありました。また生徒に5000円札をちらつかせて「教えてくれ」と迫っている記者らしき人物もいました。電話は鳴りっぱなしで通常の業務が出来ず、家庭への個別の連絡は全て家庭訪問するしかなく、先生も疲れ切っていました。ネットによって、プライバシ-もなにもない、事実無根のでっち上げの内容も含めて写真付きで全ての情報が公開され「見えない恐怖・知られる恐怖」を実感しました。

 2学期の学校の状況について津村先生は以下の様に報告されています。

 「多くの不安を抱えたまま2学期を迎えた。学校不信・教師不信を抱く生徒がいた。部活を引退し、行動が浮つく生徒がいた。この学校にいて受験は大丈夫かと悩む生徒がいた。また、1年生の校舎は様子がかなり変わった。全体的に落ち着きがなくなり、かなりしんどい学級も出てきた。報道の影響を受けて『この学校はダメだ、ここの教師は腐っている』とまで言う生徒もいた。担任を始め、学年団は常にその生徒の対応に追われていた。10月11日。亡くなった生徒の命日である。この日は『平和の集い』という全校集会が開かれた。生徒会が企画・準備を、亡くなった生徒を追悼した。『一人の死を受け止めて、まっすぐ前を向いて進んで行こう』という代表者の挨拶を全校生徒が静かに聞いた。このころには加熱した報道も少なくなり、受験という新たな目標もあり、3年生は落ち着きを取り戻しつつあった」。

 該当学年の生徒たちは受験を乗り切り卒業していきました。この頃には報道されることもほとんどなくなりました。津村先生は「苦労することや厳しい場面は山のようにあった、しかし、辛いからこそ団結して取り組めた。生徒たちもそれに応えてついてきてくれた。記事だけを見ると学校の不手際を感じることが多い。しかし、その裏では闘う人や苦しさに耐えている人がいる。そのことを少しでも感じてもらえれば幸いである」と結んで報告されました。


[報告②]「M中学校13年間の『奇蹟』-萌子と利香、さおり、そしてまなおたちとの格闘を通して-」 恩庄澄(京都南部中学校)

 恩庄先生は、「そろそろ教師生活も終わりに近づいてきました。だから自分の教育実践をまとめていきたい」と口癖のように言っておられます。本報告もその一部にあたります。恩庄先生には「何とか実践記録を書物として早く出版して下さい」とかねてからお願いしているのですが、報告を受けてその日が益々待ち遠しく感じます。報告内容は、M中学2年生・3年生の学年主任として、そして担任として、特に大きな課題を背負っている4名の生徒たち(保護者も含めて)との格闘の有様でした。

報告はA4用紙20枚以上に及ぶもので、詳しくは紹介できないので、せめて報告の柱だけでも示しておきたいと思います。

 1.学校の様子 ①学校 ②地域 ③学年の様子 ④1年時の様子 ⑤2年生の学年編成
 2.「萌子」と「利香」の概略 ①萌子の様子 ②利香 ③さおり ④まなお
 3.2年時の学年運営、状況  4.3年生の学級編成をめぐる   議論
 5.3年時の課題層      6.学習会
 7.本人との会話       8.若い先生たちとの共同行動
 9.母との会話
 10. その後の利香と萌子
   ①公立前期 ②私学受験    ③発表前日 ④発表当日 
   ⑤その後の結果 
   ⑥卒業式対応 
   ⑦母からの感謝メ-ル

 生徒たちの卒業は、同時に恩庄先生にとってはM中学校とのお別れでもありました。恩庄先生の学級通信「仲間」2016年3月11日付け号のタイトルは「希望の灯を燃やし続けたい」でした。

 また今年4月から着任された中学校が取り組んでいる「四人班」について疑問を感じられ、全生研の会員とのメ-ル内容も資料として提起されました。

 第四回例会(9月17日実施)

[問題提起]「『学びの共同体の実践』と生活指導実践との関係性-その①」横内廣夫

 第五回例会/公開研究会(10月16日実施)

[問題提起]「『学びの共同体の実践』と生活指導実践との関係性-その②」横内廣夫

[問題提起]「道徳教育の『教科』化を考える」倉本頼一(立命館大学非常勤講師)

  1.学習指導要領の変遷と道徳教育  
  2.道徳教育の「教科化」を考える
    <KEY WORDS> 弱者攻撃 / 心構えの教育 / 道徳性の危機
            「自己責任」で生き抜く「生きる力」/ 人権意識の鈍化
国家の維持発展が目的 / 「検定教科書」使用の強制と「評価」
 3.カリキュラム・マネ-ジメントの画一化の危険
 4.道徳の授業とアクティブ・ラ-ニング
    <KEY WORDS>「考え、議論する道徳へ」/ 議論を深める共働的な学び
「自ら粘り強く考え続けられる姿勢」/「特定の価値観を押しつけない」
  5.「学校スタンダ-ド」で「そろえる」、管理主義「学習方法・態度」「子供の全生活」
  6.道徳教科の「評価」をめぐって

[実践報告①]「ヤスと2年6組のリ-ダ-たちとともに」 石川信(府内中学校)

 本報告は次の文から始まっています。「異動して2年目、持ち上がりの2年生担任として、昨年度から課題の多いヤスの担任を持つことになった。クラスは元気で明るい雰囲気があるが一見すると何を考えているのか分からない子どもたちも多くいる。240人の学年で問題行動を起こさないが人間関係の希薄さから被害者的に物事をとらえる子どもたちと、豊かなギャングエイジ期を迎えずに外野球・外サッカ-の人間関係でトラブルを起こす子どもたちと、その問題行動が起こらないように指導し、起こった場合に犯人捜しと謝罪的解決が主流の学校体制のなかで、ヤスを含めた子どもたちがクラス集団で受け入れられて過ごすために何を行えばよいかを迷いながら学級集団づくりに励んでいる記録である」。石川先生は、合唱コンの取組ではヤス君をリ-ダ-組織の一員として活躍させようと試みました。確かにヤス君は石川先生に悩みを率直に伝えられるようにはなってきましたが、しかしいつも隣のクラスの友達の所に行くヤス君について、クラスのリ-ダ-たちから「なんか関わりにくい」と言われるように変化してしまいました。先生は「『このクラスが俺の居場所や』とヤス君が思えるようにするためにはどうすればいいのか、悩みは尽きない」とまとめられていますが、じっくりと話しかけながらそれぞれの人間関係を再度見つめ直す機会を生徒たちに与え続ける努力に満ちている報告でした。

[実践報告②]「私の道徳教育の実践」 津村勝(府内小学校)

 津村先生は、右図のような「道徳プリント」を子どもたちに配布します。そして自由に話し合わせ、各自に「 」なかに言葉をいれさせ、発表させていきます。そして最後に「 」に言葉を入れて小泉吉宏作の文を子どもたちに配布して読み合わせます。押しつけではなく考えさせることを大切にした取組です。

<2017年度の計画>

1.前年度の「活動の柱」を引継ぎ、特に新会員の拡大に努力する。

2.研究会の体制 代表 築山崇 事務局 横内廣夫

3.会員 浅井定雄 石田暁 大平勲 恩庄澄 春日井敏之 北村彰 倉本頼一 高垣忠一郎
   谷田健治 玉井陽一 築山崇 西浦秀通 野中一也 細田俊史 横内廣夫
 
 「京都教育センター年報(29号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(29号)」冊子をごらんください。

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              2017年3月発行
京都教育センター