事務局  2016年度年報目次 


第2部 教育センターと各研究会の年間活動


地方教育行政研究会
2016年度の活動のまとめ

                 我妻秀範(地方教育行政研究会事務局)

 

1 今年度の主な取り組み

(1)京教組・地教行研合同学習会

  ・10月15日(土)、京都教育文化センターにて開催。30数名が参加した。

 学習会では冒頭、河口京教組委員長の開会あいさつに続いて中田康彦氏(一橋大学)が「中教審の『審議のまとめ(案)』を検討する」と題して講演した。

  ・その後、葉狩宅也(研究会事務局)が「資質・能力と小学校の英語教育、道徳教育」について、我妻秀範(同)が「アクティブ・ラーニングをどう考えるか」について報告した。

   以下は当日の講演レジュメの要約


中教審の「審議のまとめ(案」を検討する

1 教育課程の何をどう変えようとしているのか~現行学習指導要領との関係
 1)「資質・能力(コア)」をめぐって
  ①学力の「三要素」は維持されている
   ・下敷きとなっているPISAのコンピテンシー≒資質・能力論
   ・新設科目構想の具体化・キャリア教育への言及も含め、学力観自体については、
    従来の路線の延長線上にある。ただし、それは延長線上に位置しているものの、
    新しいステージに入ろうとしている。
  ②(研究者からは)変化を強調する見解も
  ③「学力」から「資質・能力」への焦点の移行をどう考えるか
・基本的には学力の三要素を踏襲しつつも、学力という表現に収まりにくい含意を含みこみ、「教育」外に通用する表現へ

 2)高校改革・大学改革と義務教育段階の改革との連動
①義務教育段階では、今さら感がないでもない「アクティブ・ラーニング」がなぜ
   今改革のキーワードとして語られるようになったのか
   ・もともとは大学教育改革の文脈で提起→ALが大学教育改革にとどまらず、学校教育全体の改革を象徴するキーワードへ=上の学校段階から下の学校段階へ浸透するという改革推進プロセス。職業社会と直接対峙している大学教育に対する要請が初等中等教育段階にもより直接的に浸透している。
  ②学校段階間の連続と、個々の学校段階改革の連動性の強化
   ・大学入試の在り方は学習指導要領とは相対的に別の形で、高校教育、ひいては義務教育段階の在り方に影響を及ぼしてきた。今回はそこに焦点をあてるだけでなく、入学者選抜方式と大学教育・高校教育自体の在り方とを連動させる方向で教育課程改革を進めようとしている。
  ③高校の基礎学力テスト(仮称)導入の意味
   ・(小中の)学力テストをベースとした教育課程編成が、義務教育から高校段階へと拡大していく。
   ・小・中・高・大の一貫性を強化する動きへ。
  ④なぜこのような学校段階の再編成が行われるのか
・高校の多様化と学習指導要領の上限撤廃など、多様性を前提としているからこそ、コア(資質・能力)の確定が重要になっている。「二つの国民」のような社会の階層化を前提とした中での、ある種の合理性の追求

 3)学習指導要領の性格変容
  ①教育内容だけではなく、教育方法(指導過程・学習形態も規定する
  ②教育目標だけでなく、教育評価も規定する
  ③学テ体制への学習指導要領の歩み寄り
   
2 教育の何が変わろうとしているのか 
 1)カリキュラムマネジメントの含意
  ①誰がマネジメントを担うのか~組織マネジメントへの言及は何を意味するのか~
学校単位でのカリキュラムマネジメント=管理職による管理体制の強化
  ②教師個人の授業づくりはどうなるのか
   教育課程の自主編成や教育内容・方法の多様性を手放すことになる可能性
   コアの強調とは異なる形で、教育の柔軟性が損なわれる。

 2)アクティブ・ラーニング
  ①アクティブラーニング自体は悪いものではない
  ②アクティブラーニング自体は(特に小学校では)珍しいものではないはず
  ③変わることが自己目的化してはならない
  ④学習形態にとらわれすぎて内容を置き去りにしない

 3)他の諸分野の改革に正当性を調達するものとしての教育課程改革
  ・2015年12月の中教審三答申「チーム学校」「コミュニティスクール」「教員の資質向上と連動。教員養成へのテコ入れの必要性を正当化。教育課程改革と連動。

3 学校現場で何に気をつけるべきか
 1)学習指導要領という公式のカリキュラムの制度改革だが
  ・環境の変化に自発的に隷従することを促す環境管理型統制 
 2)条件反射的な拒否反応によって、返す刀で自分の足を切らない
・1998年改訂における「総合的な学習の時間」にどう対応したか。
  ・積極的な(ディープ)アクティブ・ラーニングの探求の必要性
 3)環境管理が強まる中で、ガイドラインに流されない
  ①本当に学校現場の裁量を制限するのか
  ②一見「教育的」な指導に落とし穴がある
   ガイドラインやパイロットケースに安易に依拠することは、子どもの学びや教師の指導・学びを定型に落としこめることになりかねない。 
 

(2)京都教育センター研究集会

  ・12月25日(日)に開催。15名が参加。テーマは「学校統廃合と地域づくり・学校づ   くり」。なお、今年度は高校問題研究会と共催とした。
 ・報告者は以下の通り。報告・討論の概要は本誌に掲載したので参考にされたい。
   (1)基調報告            佐古田博(京教組、高校問題研究会)
   (2)私立高校の多様化と学校づくり  川西宏和(京都私学教職員組合)
   (3)口丹地域の高校多様化問題    原田 久(高校問題研究会)
   (4)中丹地域の高校制度問題     我妻秀範(研究会事務局、綾部高校東分校)
   (5)丹後・与謝地域の高校再編問題  近江裕之(府高峰山高校分会弥栄分校班)

(3)公開学習会

・第1回:5月7日(土)「18歳選挙権と高校生の政治的教養」をテーマに開催。13名参加。
杉浦真理氏(立命館宇治中学高校):「私たちが考える主権者教育とは」
   福田秀志氏(兵庫県立尼崎小田高校):授業実践「安保法制と国際貢献の授業をどのように進めたか」
   我妻 秀範(研究会事務局、綾部高校東分校):「高校生の「政治的教養」を育む教育と「教育の政治的中立」について」

 ・第2回:9月3日(土)「18歳選挙権と主権者教育の課題」をテーマに開催。16名参加。
   市川 哲氏(研究会代表):「2016年参議院選挙の状況と今後の課題」
   杉浦真理氏(立命館宇治中学高校):「主権者教育実践の具体的展開を構想する」
   我妻 秀範(研究会事務局):高校生の政治的教養と「政治的中立」について」

2 今年度の活動総括

(1)昨年度の総括をふまえ、2月20日、4月15日、8月4日、10月23日に事務局会議を開催して、教育行財政をめぐる情勢を整理しながら、当面の諸課題推進について議論した。同時に事務局メンバーの主たる研究課題の交流を行い、学習を深めた。

(2)上記のように京教組との合同学習会(10月)、主権者教育に関する2回の公開学習会(5月と9月)、京都教育センター研究集会(12月)などに取り組んだ。それに向けて事務局内でのメールでの意見集約、メールを使った参加組織などを積極的に取り組んだ。

(3)学習会ではテーマの性格上、報告者が重なった。京都府内の実践を把握する目的も兼ねて様々な研究者・実践家に報告を依頼する必要があった。

(4)研究集会は高校統廃合・再編問題をテーマに掲げたことで、高校問題研究会と合同開催となったが、地教行研事務局として主体的に高校問題に取り組むという点での弱さが見られた。また発達問題研究会も学校統廃合問題をテーマに掲げたが、教育センター事務局段階での事前の整理が必要であった。

3 来年度の活動方針

(1)基本的な考え方

  ・日本国憲法に基づき、子どものための教育行財政・教育条件の確立を求める立場から研究を進める。
  ・教育再生実行会議、中教審など国レベルでの教育改革の動向、京都府内の教育行財政の状況についての調査研究を進める。
・京都府内の各教職員組合と連携しながら調査研究を進める。

(2)おもな研究課題

・教育再生実行会議提言や中教審答申などによる「教育改革」に関わる問題
・小中一貫教育や公立の小中一貫校など「学校制度」に関わる問題
  ・学校組織マネジメントと学校の自主性・自立性の確保など「学校組織」に関わる問題
・教職員定数、教育予算、父母の教育費負担、学校統廃合など「教育条件」に関わる問題
 ・教員養成・採用・研修、教員評価、学校における新たな職など「教員制度」に関わる問題
 ・18歳選挙権と政治的な教養、教育の政治的中立など「主権者教育」に関する問題 
・子どもの貧困、生活保護・就学援助制度など子どもの「学習権保障」に関わる問題
 ・超過勤務や多忙など「教職員の働き方」に関する問題

(3)研究会の組織確立

・事務局会議を定期的に開催して情勢と問題意識の共有化をはかる。
  ・教育学にとどまらず法律学・政治学・経済学などを専門とする研究者に協力を依頼する。
・学習会への参加組織を重視する。そのためにも宣伝を重視して取り組む。
・研究課題を深めるために京教組との合同学習会を開催する

(4)事務局体制

  ・代表:市川哲(前明治国際医療大学)
  ・事務局長:我妻秀範
  ・事務局員:大西真樹男、奥村久美子、田中正浩、葉狩宅也、本田久美子
  ・会員  :東 辰也、新井秀明、石井拓児、磯村篤範、井上英之、射場 隆、植田健男、
        大前哲彦、大和田弘、梶川 憲、佐野正彦、末富 芳、竹山幸夫、野中一也、
        藤本敦夫、山本重雄、吉岡真佐樹、淀川雅也
 「京都教育センター年報(29号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(29号)」冊子をごらんください。

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              2017年3月発行
京都教育センター