事務局  2016年度年報目次 


京都教育センター第47回研究集会 分科会報告


第1分科会
「学校統廃合と地域づくり・学校づくり」

                 我妻 秀範(地方教育行政研究会事務局)

 

T  はじめに

 現在、京都府内において学校統廃合と小中一貫校の導入が急テンポで進められている。また高校についても口丹以北で統廃合問題が具体化しつつある。本分科会は統廃合問題を軸とした高校問題を中心テーマに据え、現状を正確に把握しながら「権利としての高校教育」を充実・発展させる立場から報告・討論を行った。なお、今年度はテーマの性格上、高校問題研究会と地方教育行政研究会の合同開催となった。以下は報告と討論の概要である。


U 報告の概要

1 基調報告            佐古田博(京教組、高校問題研究会)

(1)京都府の30年間の公立高校改革
  ・1985年 普通科に類・類型を導入、小学区制から通学圏に
  ・その後、特色学科、進学系の専門学科、中高一貫校などを新設
  ・2002年の府立高校の在り方懇話会のまとめをうけて府立高校改革推進計画を作成。以後新しいタイプの単位制高校、中有高一貫教育の導入、入学者選抜の多様化、府立高校の規模の適正化・適正配置などを高校改革などを具体化

(2)府教委「生徒減少期における府立高校の在り方検討会議」
  ・口丹・中丹・丹後の高校再編が話題に。当面の焦点は丹後。
  ・各地域で懇話会をもち、高校再編計画を策定
  ・府教委は「独立した高校の最小規模は3学級」とする適正規模論を提示。
  
(3)「丹木地域における府立高校の在り方検討会議」 内容は以下の近江報告参照

(4)京教組「見解」のポイント
  ・府教委の「小規模校=デメリット」論は高校再編・統廃合を合理化する理屈。根拠はない。
  ・学舎制はデメリットが多く、丹後地域には相応しくない。
  ・府教委の普通科リスク論は地域に根ざした高校つぶしと進路の早期選抜、高校の階層化を進めるための口実
  ・これからは小規模校での少人数教育が重要。少人数教育は様々な可能性をもつ。
  ・丹後地域の高校再編構想に地元の理解は得られていない。

(5)第三次府立高校再編のねらいとわれわれの対抗軸
  ・府教委の本音は高校統廃合、学科再編、入試制度改革。
  ・府教委は高校を4類型に再編成(「スーパーサイエンスネットワーク京都」9校、「グローバルネットワーク京都」8校、「スペシャリストネットワーク京都」5校、「京都フロンティア校」25校・分校5校)
  ・高校入試制度改革のねらいは普通科については学区内の完全自由化、専門学科は学区を府内全域とすること。
  ・地域の高校、地元の高校、普通の高校を取り戻すことが重要。そのためには学校間格差の縮小、小規模教のメリットを生かした教育の実現を。

2 私立高校の多様化と学校づくり  川西宏和(京都私学教職員組合)

(1)私学の存在意義  略

(2)京都の私立高校をめぐる現状と課題
  ・私立高校40校に32,155名が在籍。府内の全高校生の43.5%を占め、割合では全国2位。
   「建学の精神」を活かした教育、個性あふれる魅力的な教育、充実したクラブ活動、きめ細やかな学習指導と進路指導、快適で明るいキャンパスを宣伝。
  ・早い時期からの中高一貫教育、コース制導入、大学付属校化を進めてきた。

(3)京都の私立高校の現状
  ・少子化の進行によって生徒募集の困難さが顕在化している。学校間格差が広がっているのかで、進学実績向上とクラブ活動強化の動きが顕著である。多くの私学がほぼ同じ路線を歩むことに収斂している。根本的に財政基盤が弱い私学では、この傾向にさらに拍車がかかり教職員に従来以上の加重負担を強いる傾向がある。
  ・こうした中で「わが校の教職員」に依拠した学校づくりの視点が弱くなり、教職員を選別し、効率的に学校運営を行おうという衝動が生じている。教職員を頼れない一部の経営者はコンサルにアドバイスを求めたり、問題を丸投げするしかなくなっている。

(4)課題
  ・この間、▼大学創設をめぐる多額の借財による学園財政の破綻、短期大学や中学高校の他の学校法人へ設置者変更、▼法人相互の合併などが行われたが、ここ最近、▼併設大学公立化(無償譲渡)と赤字問題の高校への押し付け、それに伴う給与カット。▼法人による特定部門の一方的な募集停止などの強権的な校務運営。▼法人分離に際して一方的な賃金カット。▼恒常的な処遇切り下げ(年俸制の導入、給与体系の不透明化、低水準などの問 題が起きている。
  ・学校づくりを進める上で、組合独自の学園財政分析も不可欠になっている。京都府内の私立高校39法人についてみると帰属収支差額比率16.5%(全国5.6%)、人件費比率49.9%(全国62.8%)となっている。帰属収支差額比率は、帰属収入から消費支出を差し引いた帰属収支差額の帰属収入に対する割合とされ、この比率がプラスで大きくなるほど、自己資金は充実していることになり、経営に余裕があるとみなすことができる。以上から京都の私学は自己資金が「充実」(経営に余裕がある)している一方、人件費の割合が全国水準以下である。
  ・こうした中で、私学の「存在意義」「役割」に立ち返った検証が必要である。子どもが行きたいと思える学校、保護者が通わせたいと思える学校・教育づくりが重要である。各校では様々な実践の蓄積がある。そうした教育的な財産や「教育的な志」をふまえ、本当の意味でのわが校の存在意義や役割を検証していく必要がある。

3 口丹地域の高校多様化問題          原田 久(高校問題研究会)

(1)口丹地域の府立高校
  ・口丹地域には亀岡高校、南丹高校、園部高校、須知高校、北桑田高校、北桑田高校美山分校(昼間定時制)、農芸高校の府立高校7校が設置されている。全日制課程の現在の学科、専攻、コースは次の通りである。
    北桑田高校 普通科、森林リサーチ科
    亀岡高校  普通科、普通科(美術・工芸専攻)、数理科学科
    南丹高校  総合学科(単位制)
    園部高校  普通科(うち中高一貫が1クラス)、京都国際科
    農芸高校  農業学科群(農産バイオ、造園、農業土木)
    須知高校  普通科、食品科学科

(2)類・類型制の導入と改変の経過の動き
  @南丹市では大規模な小学校統廃合が行われた。小学校統廃合問題では地域づくりと結んだ運動が必要である。現在、統廃合後の地域の状況についての聞き取り調査を行っている。
  A口丹地域ではある高校の学科・類・類型の改編に引きずられて、別の高校がそれに引きずられる形で改編を行ってきた。
  B口丹地域の高校問題に関して府教委では農業科(農芸高校、須知高校、北桑田高校、同美山分校)の再編と北桑田高校、須知高校の在り方が議論になっている。

4 中丹地域の高校制度問題           我妻秀範(研究会事務局、綾部高校東分校)

(1)中丹地域の高校(設置者別、学科) 略

(2)各高校の在籍生徒の状況(数字はおおよそ)
  ア)綾部高校:綾部市から52%、舞鶴市から9%、福知山市から38%
  ウ)福知山高校:福知山市から76%、綾部市から17%、舞鶴市から4%
エ)大江高校:福知山旧市内から85%、旧大江町と舞鶴市加佐地区から15%
  オ)東舞鶴高校:東舞鶴地域から81%、西舞鶴地域から17%
  カ)西舞鶴高校(普通科在籍生徒について):西舞鶴地域から57%、東舞鶴地域から39%、
    綾部市から4%

(3)中学卒業生の進学動向 略

(4)高校の制度改革は何をもたらしたか  略

(5)高校教育をどうしていくのか?
  ア)教育改革の背景
    ・新自由主義的な思想=市場原理主義→規制緩和による競争原理の導入
   ・教育=商品、生徒や保護者=消費者、競争こそ活力の源という考え方
   ・スローガンは「(学校)選択の自由」「保護者・生徒(市場)のニーズ」」

  イ)中学生の高校選択の基準
   ・生徒に「人気のある」高校とは…
  伝統校、大学進学に有利、学校が落ち着いている(学校の雰囲気)、通学に便利、学校規模が大きい、部活動が活発、施設・設備が充実している、学校周辺の状況など…。
 ・これに対して大学進学実績が振るわない、生徒指導件数が多い、生徒指導が厳しい、通学が不便、小規模校、部活動が充実していない、などの学校を避ける傾向がある。

  ウ)現在の状況
   ・京都市内や南部で、以前は国公立大学合格者を多数出していた高校が通学区域の弾力化・拡大の中で様々な困難に直面している状況を見た時、進学実績だけでなく学校の位置や交通手段、学校周辺の状況等が中学生の高校選択に大きな影響を及ぼしている。
・中丹地域の各校は地域の要望を受けて設置され、地域に支えられ、地域に様々な人材を送り出してきた、まさに「地域の学校」である。各校は様々な困難を抱えながらも、学  区制度を基盤として教職員や生徒・父母の努力によって支えられてきたが、現在はその  制度の歯止めが外され、生徒獲得競争の大きな渦の中に巻き込まれているような状況である。こうした状況を教職員や生徒・父母の努力で変えることは極めて困難である。

  エ)今日の状況をどう考えるか?
   ・学力格差は単に本人の努力の結果だけでなく、家庭の経済状態や教育環境が相当大きな影響を与えていると言われている。過度の進学競争は実際は個人間、地域間の所得格差・不平等を拡大再生産してはいないだろうか。
   ・また「人気のない高校」は、前述のように学校の立地条件や学校周辺の状況など大きな影響を及ぼしている。現在の学校間競争は同じ条件のもとでの競争とはいえない。
   ・学校には地域の後継者を育て、地域を維持発展させる責務がある。但馬の小学校教師であった東井義雄は『村を育てる学力』のなかで「村を捨てて、自分一人が立身出世することを助長するような教育ではいけない。むしろ自らの共同体を守り、発展させることのできる学力形成こそめざさねばならない」と主張した。この言葉を改めて吟味したい。

  オ)高校制度をどう変えるか
   ・「学校は社会的共通資本」(宇沢弘文)、「持続可能な(地域)社会」がキーワードである。
   ・「教育は商品ではない」。教育に市場原理はなじまないし、市場は万能ではない。同様に保護者は単なる消費者や受益者ではなく、教育の一方の担い手である。
   ・「(生徒や保護者の)参加と共同」による学校づくりを進める。
   *基礎学力の保障と自主活動の育成によって生徒が「来てよかった」と思える学校づくりを進めることが重要。現在のような学校間格差の拡大の中で新たに特進コースをつくっても効果が上がるとは思えない。際限のない生徒獲得競争に展望はない。
 *当面の課題、制度要求  略

5 丹後・与謝地域の高校再編問題  近江裕之(府高峰山高校分会弥栄分校班)

(1)この間の経過
  ・発端は平成27年8〜9月に京都市内で開催された「生徒急減期における府立高校の在り方検討会議」である。これに続いて京丹後市峰山町、宮津市、京丹後市大宮町で「丹後地域における府立高校の今後の在り方懇話会が開催された。また公聴会(合計10回)と保護者懇談会、保護者アンケートが実施された。

(2)府教委の高校再編構想
  ・府教委は学校の小規模化のデメリットとして、@生徒数の減少によって野球部などの団体で行う部活動ができなくなる、A教職員定数が減り、理科・社会・芸術などの授業に専門の教員が配置できなくなる。B切磋琢磨ができなくなり学校に活力がなくなる、ことなどをあげている。
  ・同時に府教委は、地域における府立高校の役割などを考えると、単に生徒数だけをもとにした再編・統合は行わない。丹後地域における通学事情を考慮する。学校規模が小規模化することによる課題をできる限り改称することの3点を前提に考える必要があるとしたうえで、@本校については3つの道(現状のまま/統廃合を行って京丹後で2校、宮津与謝で1校+海洋高校にする/学舎制の導入)、A分校については統廃合してフレックス化1本(伊根・間人・弥栄を統合)、B平成32年度から実施したい旨を明らかにした。

(3)学舎制(キャンパス化)とは?
  ・近隣の複数の高校を1つの高校とし、もとの高校をそれぞれ学舎として活用する形態で、   日常の授業は各学舎で行いつつ、学舎間で多様な交流・連携の機会を持つ。学舎間に上下   関係はなく、それぞれが魅力ある教育活動を展開する。教員が学舎を移動しての授業や生   徒が移動しての特別授業など、多様に交流するというものである。
  ・府教委は学舎制のメリットとして部活動も一緒にできるので野球などの団体競技も1チー   ムとして登録できる。専門性の高い科目に、専門性の高い教員が配置でき、教員を移動さ   せることで両学舎に高いレベルの教育が保障できる。ICT(情報通信技術)を利用して   遠隔授業ができる。進路指導等の分掌配置も手厚くできることなどをあげている。

(4)懇話会・公聴会・懇談会の状況
  ・府教委の高校再編構想に対して、@学舎制は距離がありすぎて移動時間の無駄が大きい。 A別の校舎で団体競技の部活動というのは可能なのか、B教育は対面で行うものであってITCの活用はなじまない、C丹後・与謝の交通事情を考えた場合、分校の統合は不可能などの意見が出された。府教委が実施した保護者アンケートでも府立高校の在り方の方向として示した3つの道に関して「現在のまま高校を存続」、府立高校に必要であると思う教育内容について「普通科を希望」する保護者が、そして学舎制については「あまり知らな   い」とする保護者が多数を占めている。にもかかわらず府教委は学舎制で突き進もうとしている。

(5)弥栄分校で大切にしてきたこと 略


V 討論の概要

(1)佐古田報告に関して
  ・教育行政が主張する学校統廃合による財政的なメリットを具体的に検証する必要がある。
  ・丹後地域におけるキャンパス制は統廃合に向けた中間段階である。またキャンパス間での学校行事や部活動の共同実施は上手く行かない。
  ・統廃合問題は教育を受ける権利の保障という視点から議論していく必要がある。

(2)川西報告に関して
  ・私学になぜ男子校や女子校が残っているのか→各校の伝統や建学の理念に基づく。
  ・私学の生徒収容率が上がっているのはなぜか→京都府は公立高校の収容率を維持するよりも私学に補助金を支出して収容率を上げる方が安上がりと考えているのではないか。
  ・私学において特進コースや部活動に特化した募集についての議論はどうなっているのか。
 ・非正規職員の割合に高さについて→経営の問題もあり、非正規に頼らざるを得ない。

(3)原田報告・我妻報告・近江報告に関して
  ・ある高校の卒業生に聞くと、その高校は勉強も部活動も中途半端。進学実績の低下が気になるという話を聞く。
  ・市町村合併によって周辺地域が衰退している。学校の統廃合も地域の衰退に拍車をかける。 ・「小規模校だからダメ」という議論は行政から提起される。小規模校ならではの教育を打ち出していく必要がある。
  ・北部の高校が京都市内・南部の高校制度改革の犠牲になっているのではないか。北部は交通問題も含めて課題が多い。北部における高校制度を地域の実態を含めて検討する必要がある。

(4)全体を通して
  ・小規模校の存続を求める運動は地域づくりと結ぶ必要がある。同時に統廃合問題に関する
   データ、子どもの声、財政上のメリットなどを分かりやすく解説した資料作りが不可欠。
  ・教育委員会の傍聴や情報公開請求などを通して、情報を引き出して知らせることが重要。
  ・マスコミに働きかけて問題を広く知らせていくことが重要である。
  ・生徒数の減少だけが問題になるが、地域の人口が減少している中で学校は何ができるかを議論する必要がある。そうした中で学校の存在意義が明らかになるのではないか。
  ・地元の高校で学ぶということを権利論として展開していく必要がある。学校に時間とお金をかけないで通学できることは権利としての教育の視点から重要。統廃合問題は教育を受ける権利の「相対的な剥奪」という状況ではないか。高校教育レベルで憲法26条を具体化する必要がある。
 
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              2017年3月発行
京都教育センター