事務局  2015年度年報目次 


第7分科会

「若者の声から主権者を育てる教育を探る―どうする!18歳選挙権Part2―」

   原田 久(高校問題研究会事務局)

 

Ⅰ. テーマ 「若者の声から主権者を育てる教育を探る―どうする!18歳選挙権Part2―」

Ⅱ. 出席者 10名 元教員3名、現職教員6名(高校5名、中学1名)、大学生1名

Ⅲ. レポート

 ①「安保法制の授業を振り返って」(山根さん・西乙訓高校)

 ②「文科省副読本について」(小寺さん・洛東高校)

Ⅳ. 口頭報告

 ①京都産業大学1年 林海秀さん

Ⅴ. 内容


1. 基調報告 佐古田博(事務局)


 6月17日、公職選挙法改正で18歳・19歳に選挙権が引き下げられた。ただし、被選挙権は留め置かれた。その直後の7月8日に自民党は「選挙権年齢の引き下げに伴う学校教育の混乱を防ぐための提案」を発表し、政治参加に関する副教材の配布や新科目「公共」(仮称)の新設、政治的中立の徹底、社会全体での取り組みを強調した。

 10月29日に文科省は「高等学校における政治的教養の教育と高等学校の生徒による政治活動等について(通知)」を発表し、高校生の政治的活動を禁止した「69通達」を廃止した。新通達では「政治的教養の教育を学校長中心に系統的計画的に実施する」としつつも、高校生の政治的活動は「必要かつ合理的範囲内で制約を受けること」とした。発想の根底には、生徒の基本的人権よりも校長の学校管理権を上に置く発想や生徒の自治活動を完全に学校の支配下に置く発想が見られる。こうした中、文科省が行った教育関係団体ヒアリングで示された全国高等学校PTA連合会の意見は、「高校生の政治的活動に新たな規制や法的措置は不要」とし、その根底には高校生への信頼が示されているなど特筆すべき内容となっている。

 「民主的な社会を担う主権者」を育てるためには、「自らの頭で考え、行動する人間を育てる」ことが求められている。青年は社会とつながることで劇的に変わる。高校生に政治を語る前に、職員室で自由に政治が語られているとは言い難い学校の現状に大きな課題がある。

2. レポート報告

報告(1) 「安保法制の授業を振り返って」 山根 直 (西乙訓高校)


 3年生の「政治・経済」で行っている、新聞を意識的に活用し、討論会も取り入れた授業実践の報告。安保法制に関する授業では、新聞各紙の見出し、社説、解説などを読み込み、その違いを基に考え、自らの意見を発表させた。戦後の平和問題に関する授業では、基礎的な知識に関する学習をした上で、少人数グループによる討論会を行う。討論は十分成り立つ。生徒は前向きに取り組む。生徒達には新聞にしっかり目を通してほしいと考えている。



報告(2) 「文科省の副読本について」 小寺康之(洛東高校)

 文科省は総務省と連携して、主権者教育に関する補助教材「私たちが拓く日本の未来」を作成し、全国の高等学校などに配布した。本文は面白くないが、実践面の箇所は充実している。学校における指導に関するQ&Aは面白い。

 かつて、自身の高校時代にASSEMBLY(アセンブリー)の時間があった。毎週1時間が設定されていて、憲法、学校生活、安保条約、学習、バイク通学、シンナー、性、高校教育、同和問題、市電問題、進路、沖縄など高校生に関わる幅広いテーマを取り上げ議論した。こうした過去の取り組みは今後の主権者教育を考える上で参考になる。


報告(3). 口頭報告 京都産業大学1年 林 海秀

 新潟県の出身。高校生のころはデモに行ったこともなく、歴史の勉強は受験の為で、原始から始まると現代史までやれない。先生は「坂の上の雲」を盛んに薦めたが疑問を持った。大学生になりデモに参加するようになり、改めて歴史の勉強をしたが、新鮮さを発見した。

 政治的中立ということが問題になっているが、それは政権との距離感のことにほかならない。しかし、アメリカ・財界優先の安倍政権と多数の国民との間ということになれば、公平の点からも国民側に近いのが当然。辺野古にしても戦争法にしても、マスコミはありのままにことを伝えて欲しい。そのことが政治的中立を犯すことにはならない。

 運動に参加する中で色んな学生と話をし、シールズは「僕らが主権者だ」と言う言葉にも接した。行動する中でもっと勉強しないといけないと感じた。

 愛知の高校生が18歳選挙権を考える集いを持った。高校生の政治活動を制限する動きに対して「私たちの権利を奪うな」との声があった。高校生を政治から遠ざける教育は許されない。高校生に問題を提起して考える場を作ることが大切だ。ただ、先生は多忙で、じっくり勉強をしている時間がない。そこへ主権者教育で負担が増加するが、教える側が情勢をしっかりつかんでいることが大切。マスコミにも弱さが見える。新聞の主張をぼかす。政治問題の根本を追及することが不十分だ。自分で独自に考える、勉強することが大切だと思う。

3. 質疑

(1)山根報告に関わって


 (新聞の活用について)自費で購入。「朝日」と「京都」を基本にしつつもテーマによっては「読売」、「毎日」、「産経」も買う。「今」の話題は生徒たちを引き付ける。

 (討論について)席で班分けする。授業ということで生徒の構えもあり討論は成り立つ。ただ、討論までに基礎的な知識の学習は行う。これなしにいきなりの討論は難しい。生徒の関心あるテーマは時々に変化するが、今年は安保法制、来年は辺野古かなと思う。自分の意見を他人が聞いてくれるという体験が大切。「討論しろ」だけでは討論にならない。

 (主権者教育について)10.29文科省通知が「校長を中心にして」「政治的中立」を強調しているが、当たり障りのない授業が懸念される。18歳選挙権は生徒の6~7割が賛成、3~4割が反対だが、次第に定着するだろう。

2)小寺報告に関わって

 (文科省の副読本や通知について)文科省の副読本には「できない」を言う記述が多く、教職員に面倒な問題という思いを持たせる。「政治的中立」の強調で自己規制が働くのではないか。「中立」ばかりに気を使うのではなく、生徒たちに真実をどう伝えるかに気を使うべき。主権者教育といっても選挙のことがほとんどで、デモや署名、投稿など多様な政治参加があることも押さえる必要がある。文科省は副読本で請願等の模擬体験も示しながらも、あくまでも「模擬」と言い張り、実際の学校生活を変える活動は別と言うのも問題だ。授業の方法について記述しているが、あくまでそれは一例であり、行政が押しつけるものであってはならない。

 (政治的中立について)この問題は教員を悩ませる。しかし、突き詰めると「地位利用しない」ということを押さえておけばいいのではない。「中立」という概念は曖昧。悪くすれば権力の見解の垂れ流しになる。

 (18歳選挙権について)選挙権が18歳に引き下げられたことは良かった。模擬体験の重要。生徒会役員選挙も模擬体験として活用できる。政治に関わることは楽しいと思えてこそ選挙に行く。18歳選挙権を契機に改めて主権者教育を捉え直す機会にすべき。

(3)林報告に関わって

 (政治問題に関心を持つきっかけについて)教師の働きかけや学校の外に出て活動することをきっかけにして平和問題や地域の問題に関心を持つ生徒達も見てきた。こうしたきっかけを学校の中にセットすることが大切ではないか。

 (若者の現状について)京都の大学自治会の活動は昔のような活発さはない。授業料問題の国会請願は1大学だけという厳しい現状。「世の中は変わる(変えられる)」のかという疑問を持つ学生は多い。投票しても政治に活かされない現状がある。ただ、戦争法が強行されたことでこの思いに変化が見られる。ツィッター、ネットの保守化は深刻だが、ネットが力を発揮するのは事実。シールズなどは、学内で盛り上がるのではなく、学校からはみ出た所で活動する状況が広がっている。シールズまで行かなくてもその周辺の層の学生はいる。シールズ、ティーンズソウルなど、大学生・高校生が前面に出てきて「無関心」ということはなくなってきている。

(4)全体を通してのフリー討議

・福知山地域では「振りそでの少女の会」で高校生たちが平和学習や戦争展などで元気に活動している。地元9条の会で高校生向けビラを配したところこれに応えて数人の高校生がやってきた。今の状況を踏まえ生徒たちに積極的に働きかけることが大切。生徒たちは成功体験を通じて変わる(成長する)。地に足のついた主権者教育が必要だ。

・京都では高校生の部落問題研究活動を大切にしてきた。この活動を通して主権者として立派に成長した生徒たちも多い。現在活動も活動は続いている。

・選挙公報を活用し、政党の政策とその違いなどを考えさせた。授業アンケートでは教師が自分の見解を明らかにすることを求めるものが多い。

・教師が異なる2つに見解を示すと、生徒はすぐ「先生はどっち?」と尋ね、それに応えると生徒はそこで考えることを止める。自分の考えを出そうとしない。

・これから主権者教育が進む。「~は出来ない」ではなくて。「~はできる」というメッセージと生徒のみならず教員に向けても発信することが必要。


 
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              2016年3月発行
京都教育センター