事務局  2015年度年報目次 


第5分科会

「子どもにとってはすべてが育ちの場」

   姫野美佐子(子どもの発達と地域研究会事務局)

 

Ⅰ. 基調報告


 今年、安保法制が成立させられようとする中、不安を抱えながらデモに参加した。そこで実名で発言する若者たちのスピーチに考えさせられた。8月には広島・長崎の原水爆禁止世界大会に参加したアメリカ人女性が発言していた。3世代にわたって戦争がない日本だからこそ、若者が街頭に出て戦争に反対できるのだ。この言葉によって日本は戦後戦争をしてこなかった国であるということを客観視できた。

 今日の研究会では今置かれている社会の状況と子どもの成長のあり方をつなぎ合わせて考えたいと思う。「学校は、今」をテーマにした夏の例会では、学校の先生に子どもたちの状況をお話しいただいた。今日は二人の保護者(父親)から、地域の活動と学校の保護者の眼から見た子どもたちを取り巻く社会の状況をお話しいただく。学校、地域、家庭、「すべてが育ちの場」である。子どもが安心して意見を出せる場とはどういうものか。

集団の中で本音を言えない子ども社会、大人社会というものは悲しい。子どもの権利条約に子どもの意見表明権が規定されていることを改めて踏まえ、子どもの発達のあり方を話し合いたい。


Ⅱ. 報告(1)

「“子どもの発達と地域”に寄せて」 新 勇二(もみの木少年団父母)


1. 少年団の最大の特徴

◆集まる目的が明確ではない。サッカークラブ、スイミングクラブ、学習塾等との違い。

◆唯一のルールは民主主義。少年団活動の土台であるが、民主主義を子どもに伝えるには時間がかかる。日々の積み重ねが鍵。

◆少年団にはふわっとした空気感がある。決めたからと言ってみんなでやらなくても良い、失敗が許される場所。

2. 社会、学校、地域の現状

◆教育基本法の改定、道徳の教科化が進められているが、「いじめはいけない」と教えながら安保法制強行採決にみられるように国が民主主義を踏みにじり、いじめを是としているような矛盾がある。

◆費用対効果の評価基準;福祉、教育もサービスなのか?「いいものを安く作る」ことを突き詰めていくと人間が壊される。先生方も激務で、子どもに向き合えない。

◆貧富の格差拡大。非正規やダブルワーク、正規労働者も条件悪化で大人たちに余裕がない。

◆偏差値での輪切り教育、中高一貫校・小中一貫校、「特色のある学校」は横文字のクラス・カリキュラムばかり。京都の高校受験制度、前期・中期・後期試験で子どもは苦しんでいる。

◆子どもの居場所の減少が寝屋川市、川崎市の事件の背景にあるのでは。

3.“ひとりぼっち”を作らない取り組み

 吉田地域では10数年ぶりに地域教育懇談会が開かれた。児童館には中学生も立ち寄り、子どもと遊んでくれる。地域、保護者で民主主義花開く社会を。


○質疑応答

補足

A;少年団は失敗が許される場だから居場所がある。子どもたちの発達は発達障害のある子も含めデコボコの状態。放課後遊び教室は、行っていない子、あぶれる子は関知できず、その子たちがつるむと川崎の事件につながるのではないか。

Q;規模は?

A;15人程度。学童から小4で少年団に入る子もおれば、小1からの団もある。午後5時になると学童から少年団に行く子と塾、算盤に行く子に別れる現状がある。

Q;その他のメリットは?

A;地域のつながりがある保育園のある地域では、地域で子育てをしている環境がある。預けっぱなし、親どうしが顔を合わせない保育園・地域ではラジオ体操もできない。そうしたところでは親どうしのつながり合い、成長し合いがなくなっている。

A;親とも先生ともちがう兄・姉的な指導員の存在が重要。地域における青年の存在が少年団にはある。青年が入ることで、青年自身が持つ力が引き出せ、青年自身も自信がつくし、子どもが「ホッコリ」できる。

A;少年団の指導員の若者自身にも家庭的な困難がある場合がある。少年団は来るが半年も授業やバイトを休んでしまう若者がおり、彼らをも見守りながら少年団の活動がある。

A;全県一学区、管理教育の府県から京都に来て驚いたのは、京都には少年団が根づいており、地蔵盆が盛んだったり、障害児教育も先駆的だった。

Ⅲ. 報告(2)
「学校は、今…~本当に、子どもの育つ場になっている!?~」 丹原晋作(上賀茂1年生家庭塾・私立高校教員)


1.教師として感じること

◆親も子どもも教師もみな、「学校は子どもにとって大切な育ちの場所である」という気持ちを共有している。

◆親の不安は、勉強は大丈夫か? クラスで上手く人間関係を作れているか? あいさつはできているか? 先生は大丈夫か? などさまざまだが、学校や教師は不安を解消できるように努力することが大切。

◆学校が抱える課題、解決しようとしている課題は増加している。一人ひとりの習熟的な学力差、集団内での発達的な学力差は大きくなっている。家庭環境の差も経済的、家族構成的に格差が大きい。個人の価値観、社会的価値観も差・変化が大きい。

2.地域で、仲間で行う取り組む「家庭塾」

◆上賀茂1年生家庭塾;同じ保育園に通っていた小学1年生6人メンバー。毎週土曜日午前10時から家庭持ち回りで、練習帳などを大人二人でみている。ほかにお楽しみイベントなど。

◆地域が持っている、多様な「人」という価値が、そしてそれを活用した機会が子どもたちにとって大切。

◆目的が多様で柔軟。勉強する「学力」のみを求めていない。求めるものが多様で豊かな方が達成感がある。

○質疑応答

Q;継続は?

A;中学入学時点で、親の考え(求める学力など)、子どもの関係性、部活動などさまざまなことを考慮して、可能ならつながりを継続したい。

Q;新規希望者にはどう対処するのか?

A;これ以上人数が大きくなると手に負えなくなる。5~6人程度が良い。また、場所(家)の提供がネック。

Q;うまくいかないことなどは?

A;全国事務局があり、テキストの紹介などをしてくれる。

Q;その他、メリットは?

A;学校は階梯的に戻り学習があまりできない。できないところに戻って学習できる場が大切。

A;宿題は臨機応変にやり、どこまでやるかはみてくれる先生(大人)と相談しながら。親ではない大人が見てくれることが家庭塾の良いところだと思う。子どもどうしも成長する。

A;宇治、向島では子どもの発達についての親の懇談会から発展して家庭塾ができた。他の子どもも大事というところから親がつながって、地域の子育てになっていく可能性がある。


Ⅳ. 討論

・青年が子どもに関わるという点が重要だし、青年にはそうした要求がある。今日、学校ボランティアとして学校に関わりを持つ青年がいるが、学校以外のサークル的な場に青年が参加することが大切だ。

・「子育て新システム」が導入され、学童に小1から小6まで行けるようになったが、子どもの発達には9・10歳の壁があるとともに小5・6の発達にも大きな影響を与えるおそれがある。

・指導員となる青年については、昔の子とちがい「間違えていい」という認識が存在せず、自らが「知らないことを知らない」恐れがある。正解主義に陥り、対象に対する操作可能観がない。また青年の粒がそろってきており、型破り、チャレンジする力が今の青年の課題である。

・かつて少年団の子どもはよくぶつかり合った。今の子どもは譲り合うことを道徳的に評価する傾向があり、こうしたところに道徳教育重視の傾向の影響があるのではないか。偽善的に振る舞い、居場所を失っていないか。違和感もいえる集団づくりが必要。

・少年団活動はプロセスが重要であり、主体的に運動に取り組むことに強みがあり、そうでなければ単なる利用者にとどまってしまう。

・今の特別支援教育は個別に対応することに比重がある。それに対して、障害によりみんなと同じことができなくても集団のなかにいられるようになることが社会に馴染んできたことと実感できる。そのような集団づくりをサポートできる存在が必要。介護においても困っている人が声を挙げられることが大切であり、迷惑をかけない、困っていることを隠そうとすることは介護を苦しくさせる。

・子どもも若者も人の中で育つ。やらされるのではなく自分たちが大切だと思うものを大切にできる関わり、そうした集団の質が重要だ。


Ⅴ. まとめ(棚橋啓一;子どもの発達と地域研究会)

 ありのままから出発することが大切だ。今の学校は押しつけから始まっている。ありのままを出せる、何でもいえる集団が必要だ。押しつけということは硬直しているということだ。それに対して柔軟な集団はさまざまな問題を解決していける。今の授業は話し合い・まとめ・発表を時間ごとに細切れにして区分して進行させている。そうした硬直したやり方では本当の集団にはならない。柔軟な集団は連結していける。失敗しても安心できる集団では、みなで課題を克服していける。そうした集団内において一人ひとりは、主体性を発揮できる。個人が尊重されていることによって発言もできる。それによって集団の主体性も育っていく。主体的であることと柔軟性が民主主義ではないか。自分たちで主体的に決めたことは互いの問題点の指摘によって柔軟に変更もし、よりより集団を作っていける。少年団、家庭塾という柔軟な集団の根本にあるのが民主主義であった。


Ⅵ. 感想より

・それぞれの地域で、活発に活動されている方のお話や実践報告に刺激を受けました。子どもたちが元気にいきいきのびのびと過ごせる環境づくりには、大人の関わりが大事であると、あらためて感じました。学校や地域のかかわりにおける、ニーズが様々になってきて、価値観もかわってきている中で、どのように子どもや学校にかかわれば良いか、地域の中での役割についても考えさせられ、大変学び多き時間となりました。

・家庭塾というのがあるというのは知っていましたが、教材研究や親同士の連絡や相談などをする組織的な活動になっているとは知らず、すごく意識が高いなあ…と思いました。少年団は、今組織的に転換点だな、と思っていて青年の育ちと親の会(父母会)とセンターの関係を学んだり、互いにつながれる組織になっていかないと、社会への反動的な流れにのまれてしまうな…と本当に悩んでいる…というか苦しんでいるのでいろんな人に助けてもらいたい…と思います。

・学校でも家庭でもない、地域に育ち合える子ども集団(異年齢)があることで、子どもの社会性や自治の力が伸びていくと改めて思いました。そのために、子どもにより近い年齢の青年(大学生)の役割、そしてそれを支える父母の役割が問われているのだろうと思います。保護者の中に「子どもを育てる場」に対して、サービスを受ける側、お金を払って利用する側という意識が強くなっている傾向がありますが、ともにつくるというスタンスで組織づくりに参加していく必要がありますね。

・久しぶりのセンター研でしたが、あっと言う間でまだまだ聞きたいこと、話したいことが尽きません。地域が少し離れていて、活動との兼ね合いも難しいですが、機会があればまた、参加をしたいと思います。

・みなさんの発言ひとつ一つが重かった。特に家庭塾の取り組みは我が子のことを考えながら聞きました。これからの一つのヒントになりました。少年団に関しては時間の関係でなかなかですが、細く長く継続していければと思う。

・少年団父母と、家庭塾父母のお話を聞いて、改めて少年団の活動の意味がとらえ直せた。とくに少年団で大切にしてきたことの一つに、民主主義ということが大きな位置を占めていることが分かった。子ども集団を支える大人、思いが大切なこと、青年も育てることが課題となってきている。報告と討論テーマ設定も良かった。大山崎チャレンジクラブの森さんの発言は示唆に富むものが多かった。



 
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              2016年3月発行
京都教育センター