事務局  2015年度年報目次 


第1分科会

「今日の学校の組織と運営を検討する〜学校の自主性・自律性は確保されたのか」

   我妻 秀範(地方教育行政研究会事務局)

 

T. はじめに

 中教審答申『今後の地方教育行政の在り方について』(1998年)は、学校の自主性・自律性を確保するためには、それに対応した学校運営体制と責任の明確化が必要であるとして学校運営組織の見直し、校長・教頭の適材確保と教職員の資質向上、学校運営組織の見直しなどの方策を提言した。

 以後、文科省は学校教育法改正などによって職員会議の補助機関化、学校評議員制度や学校評価制度の導入、主幹教諭や指導教諭などの「新たな職」の導入、学校組織マネジメント研修などを具体化してきた。

 このような17年間にわたる学校運営組織改革のもとで学校はどう変化し、いま何が問題なのか。

 本報告では、@学校組織改革の経過、A学校組織マネジメントの概要、B今日の学校組織と運営〜現状と問題、C学校づくりの課題と展望について問題提起を行う。

 その後、京都市教委の学校管理京都市立高校の職員会議、学校における「新しい職」と学校運営、についてそれぞれ報告をうけ、議論を深めた。


U. 基調報告

「今日の学校の組織と運営を検討する〜学校の自主性・自律性は確保されたのか」
                    我妻秀範(府高:綾部高校分会、地教行研事務局)


1. 学校組織改革の流れ−以下は小島弘道氏の論稿から

  ・第1の改革(戦後教育改革)の特徴

  文部省の教育関与・統制を排して、教育権限を地方と学校に委譲し、教育委員会を創設して地方分権の地方教育行政体制を構築し、教育の自律的経営を実現するために学校の自主性の尊重を目指して行われた。

  ・第2の改革(1956年体制)の特徴

  集権型の問題解決スタイルに立って、学校の経営機能を行政側に引き寄せ、吸収して学校には主として管理機能を残し、その実現を求めるというもの。第1の改革で実現を強調した自主性や専門性は軽視され、行政の教育意思実現を最優先課題におく方針が行政と学校、学校内部の関係に官僚制の施行とシステムを求めた。

  ・第3の改革(1990年代以降)の特徴

  地方分権の徹底を前提に教育を実施する側の意思を尊重するために教育、人事、財政にかかわる学校の権限を拡大するという面と、親の教育(学校)選択の可能性を拡大することを視野におき教育を受ける側の学校運営への参加を促すという面を持っている。そこで、@学校の意思は学校のトップリーダーである校長が最終的に決めるシステムの構築、A校長のリーダーシップを発揮しやすくするという観点から、補佐機能、補助機能を重視した組織原理、意思決定原理に基づく学校運営組織の確立を求めている。

2. 今日の学校の組織改革

(1)経過

1998年:中教審答申『今後の地方教育行政の在り方について〜学校の自主性・自立性確保』

2000年:教育改革国民会議答申

2000年:学校教育法施行規則改正(職員会議の補助機関化、学校評議員制度の導入)

2004年:中教審「学校の組織運営の在り方について」(作業部会の審議のまとめ)

2006年:教育基本法改正

2007年:学校教育法改正(学校の新しい職(副校長、主幹教諭、指導教諭)と学校評価を制度化)

(2)今日の学校運営の制度的枠組み

  ・学校裁量の拡大と校長のリーダーシップの強化

  ・副校長・主幹教諭・指導教諭の導入

  ・職員会議の補助機関化

  ・学校の自己評価と公表

  ・学校評議員制度(保護者・地域住民の学校参加)

(3)学校の組織改革の問題

  ・校長のリーダーシップを企業経営者的な管理技術的リーダーシップに求めていいのか?

  ・学校組織の達成効果を企業的なマニフェスト(数値化)に集約していいのか?

  ・企業経営的な組織評価の導入が学校の組織運営と実践の柔軟性を抑制することにならないか?

3. 学校の組織改革は何をもたらしたのか

(1)今、学校で起きていること(詳細は略)

  ・学校組織

  ・子どもや保護者との関係

  ・教職員の状況

(2)教育の意義と役割

  ・そもそも教育は子どもの人間としての成長・発達のために働きかける行為であり、教育は「応答する行為」「引き受ける行為」が出発点である(佐藤学氏)。しかし、この間の教育改革では「教育はサービス」「教育は商品」ということが語られてきたが、そのような認識が学校教育をゆがめてきたのではないだろうか。

(3)「職員会議の補助機関化」は学校組織を活性化させるのか。

  ・「(職員会議の相対的地位の低下は自律的学校経営の実現に何ら不都合はないという議論がある)といっても全校的教育問題は職員会議で大いに議論し、審議することを省略してはならないプロセスだ。専門的意思が学校の意思となるプロセスに職員会議があることは確認しておきたい。それが教職員の中に全校的教育問題への関心をつくり、問題を共有し、問題解決の意欲と行動を生むことになる。学校教育の質につながることはいうまでもない…。」(小島)

(4)「学校における『新しい職』」は学校組織を活性化させるのか。

  ・「(新しい職が)組織の末端にあって、教育現場の第一線として仕事をしている教職員の勤労意欲、協働関係、貢献意欲、そして何よりも教育活動の質を高め、学校の教育目標の達成に貢献しようとする意欲を高めることに果たしてつながるのかどうか」、「仕事の誇り、満足感、達成感、自己実現を体感しうる労働環境と職場環境を実現することにつながるのか」(小島)

  ・「学校の成功は、ミッションの共有、教職員の専門性、献身性、協働性が重要だとされてきました。さまざまな理論やあるいは実証研究がこれを示してきております。また、日本の学校の卓越性は、教職員のすぐれた協働性と創意工夫にあるというのも国際的な評価であります。こういったことすべてが、このようなライン組織、しかも、ハイエラーキカルな,官僚制的なライン組織を学校教育の中に持ち込むことによって阻害されることがないだろうか、その危険性はないだろうか。」(2007年5月8日、衆議院教育再生に関する特別委員会での藤田英典氏の意見陳述)

(5)学校の組織改革は教職員のモチベーションを高めたか〜以下は淵上克義氏の論稿から

  ・学校心理学から見ると、「多忙化と教員間の共通理解・協力の不足が学校改善の阻害要因となっている。」「多忙と人間や集団及び組織の変化に対する抵抗の心理がエンパワーメントの形成を妨げている。」それに対して、「自主性・責任性が尊重され、活動自体への興味や関心が増すとモチベーションが高まる。」

  ・「お互いの信頼関係の蓄積や改善への環境づくりが教師のエンパワーメントを促進する。」

  ・「教師の職務満足感や生徒に対する期待感にとって重要なのは、生徒の学習活動へのコミットメントよりも学校組織へのコミットメントである。学校組織へのコミットメント形成には外的な報酬よりも学校風土や教師が学校の意思決定に積極的に参加しようとする態度が深く関わっている。学校全体として改善のビジョンを構築していくプロセスそのものも、管理職や教師同士の理解を深め、学校の将来の方向付けへのコンセンサスを図り、教師個人を越えて集団としてのコミットメントを高める働きをもつ。」

(6)まとめ

  ・学校の自主性・自律性の確保を目指して推進された教育改革によってこれまでの学校の組織と運営が大きく変わってきた。しかし、それによって学校の自主性・自律性が確保され教育活動の質が高まったのであろうか。

  ・教育行政と学校の関係をみると自主性や自律性よりも管理統制が強化され、学校の裁量がせばめられているような状況がある。

  ・また、学校現場では多忙化や教職員の疲弊につながる多忙感の増大、さらに教職員間の協働や同僚性も弱まりなどが指摘されている。学校の組織改革によって教職員に矛盾が集中しているのではないか。

  ・以上から教育行政改革や学校の組織改革は教職員の勤労意欲、協働関係、貢献意欲、専門性を高める方向ではなく、逆にそれを弱める方向に機能しているのではないだろうか。


V. 京都市教育委員会の学校管理・支配の特徴
         中野宏之(京都市教組)


1. 歴史的な出来事

  ・同和と人事による学校支配が2000年代前半まで続いた。

  ・1987年に「管理運営規則」を制定

  ・文部省(当時、1980年代後半)調査を契機とした各学校への「日の丸・君が代」の強要

  ・週案の提出強要

  ・指導力不足教員問題(2003年以降)

2. 管理を体系化した学校管理運営規則の制定 〜学校現場では・・・〜

(1)学年及び学期に関して

  ・学校管理運営規則で入学式や卒業式の日時を決定。

  ・二学期制の導入

  ・授業日数確保(年間205日以上)を規則化、台風等による休校措置に対して機械的な授業時間の回復を指示。

(2)教育課程の編成に関して

  ・市教委独自の教育課程編成要項と指導書等(京都市スタンダード)の活用を各学校・教員に要請。

  ・年間指導計画、学期・月指導計画・週案の提出を強要。管理職が内容をチェックする体制。

   これを通して京都市スタンダード通りの授業を強要。

(3)校外活動に関して

  ・京都市の宿泊施設(奥志摩みさきの家、花背山の家)を使った校外行事を強制。小学校4年で宿泊学習(2泊3日)、5年で長期宿泊体験(3泊4日以上)、6年で修学旅行(1泊2日)を実施。

(4)教材の使用に関して

  ・各学校から市教委に副読本、学習帳などを提出させる。準教科書は市教委の承認が必要。

   一方で、「心のノート」「京都ジュニア検定冊子」の学校への持ち込み。

(5)校務分掌の決定に関して

  ・管理運営規則で校長の権限を明確化。教職員の希望が尊重されない傾向にある。教員の本来の職務とは考えられない業務を担当させる動きも顕著に。

(6)主任の任命に関して

  ・任命主任制のもとで教務主任、生徒指導主任、研究主任、同和主任などは市教委と事前協議

  ・恣意的な校内人事の横行

  ・現在は査定評価制度へ

(7)職員会議に関して

  ・職員会議の補助機関化によって意思決定機関から伝達機関へ。最終的に校長が決定。これにともなう教育論議の形骸化。

(8)自主的な研修に関して

  ・自主的な研修が困難な状況が拡大(勤務場所を離れての研究も困難に)

  ・青年教研(市教組と市教委が共同で実施)の廃止

  ・市教組教研に際しての学校使用を拒否

(9)文書等

  ・平成4年に「京都市立学校幼稚園文書取扱規程」を制定。様々な文書も教職員が自主的に作成するのではなく管理職に求められて作成することになる。

  ・さらに文書取扱規程をテコにした週案の提出強要。

3. 反撃の取り組み

(1)指導力不足教員問題…高橋裁判での勝利(2005年3月31日分限免職処分、2010年2月25日、最高裁は京都市教委の上告を棄却。分限免職を取り消した大阪高裁判決が確定)

(2)二学期制の破綻

(3)青年教職員の変化…戦争法反対のたたかいや沖縄問題の学習を通して教育や学校の運営の在り方に対する疑問の声が出される。


W. 市立高校における職員会議の状況と課題

〜京都市立高等学校の学校改革に果たした各校職員会議の役割〜
          秋山吉則(佛教大学大学院・元京都市立高校教員)


1. はじめに

 京都市立高校は、京都市内にある9校からなる学校群である。 1985年度に類型別の入試制度が導入され多様な類型や学科が導入されるようになっていく。この後、1990年から京都市立高校8校(全定並置4校、全日制単独校4校)は新しい学科を導入する学校改革を次々に実施していった。これらの学校改革は教育行政からの後押しはあるものの、多くは現場教職員の議論・検討を踏まえて実行された。登校とも、学校改革を企画・実行する教職員の専門的な検討組織を立ち上げて学校改革の内容を創設していったが、その節々で全教職員が参加する職員会議での報告・議論が行われ、全教職員の合意・確認を得て改革を実行していった。

2. 1990年以降の市立高校の学校改革

 1997年の音楽高校の独立後は9校となったが、定時制2校が募集停止になり、内訳は全定並置2校・全日制単独7校となった。全ての学校・課程とも学科改編を伴う大掛かりな学校改革を行った。その結果、全校とも1984年以前とは異なる学科編成の学校となっていった。これは、市内の他の府立高校とはまったく異なっている(府立は15校のうち7校が普通科単独校)。特に洛陽・伏見の2つの工業高校は3度に及ぶ学科改編が行われ、2016年度には再校は統合され(新校名「工学院高校」)新しい校地に移転することになっている。

3. 京都市立高校の職員会議

 京都市立の各校では定期的に職員会議が開催されている。全日制校では月に2回程度(隔週)の開催(放課後)、定時制校では毎週開催(始業前)され、学校経営方針(教育目標、教育課程)の確認や目常的な学校運営・学校行事などについての合意形成、生徒の懲戒処分や進級・卒業判定が行われている。登校とも議長役の司会者集団を選出し、年間通じて一定の方針で職員会議の運営が行われている。

 各校とも職員会議の前に運営委員会を開催し、事前に職員会議に臨む内容を整理検討し、職員会議での提案・説明、意見交換、内容の確認が円滑に行えるようにしている。登校とも職員会議の議論は活発に行われている。特に学科編成を伴う学校改革に関しては、導入の数年前から職員会議で検討組織を立ち上げ積極的な検討を行い、職員会議で全教職員の合意を得ることを重視している。

4. まとめ

 (1)京都市立高校の登校では定期定か職員会議を行い、教育活動・学校運営に関して積極的な意見交換を行っている。

 (2)職員会議は教育活動を推進していくための全教職員による合意形成の場となっている。

 (3)学校改革が成功するかどうかは、職員会議を中心として組織された具体的な検討組織の役割と職員会議での議論・確認が重要である。


X. 討論の概要

 以上、三本の報告をうけ、それぞれ質疑・討論を行った。主な意見は次の通り。

(1)東京都・神奈川県・大阪府・兵庫県などでは主幹教諭を多数発令しているが、それに比べると京都府が少ない。この理由として財政問題や主幹教諭の仕事のあいまいさなどもあるのではないか。

(2)青年教職員が行政や管理職に過剰に反応する傾向が強まっている。ベテラン教師からの実践の継承も不十分。

(3)子どもの貧困が深刻になっている。それにともなって生徒指導上の困難やトラブルが増加している。保護者との関係でもうまくいかない事例が増えている。

(4)職員会議では活発な議論が行われず、単なる管理職や各分掌からの連絡に終わっている。

  また議論も建設的な議論よりも問題の指摘に終わっている。しかも職員会議が終わってから様々な不満が出される。こうした状況は好ましくない。教職員が学校の主体になっていないのではないか。

(5)組織にはリーダーたるにふさわしい人格や力量が必要である。今日の状況は形は作ったもののそれを担うべき人が育っていないというべきではないか。

(6)こうした局面を打開するためには教職員間の協働と同僚性の回復が不可欠である。日々の実践を検証し、互いに支え合うという当然の関係をつくっていく必要がある。

 上記のように、現在の学校の現状と課題について様々な質疑・討論を行った。しかし、@京都市教委管轄の小中学校と高校での学校運営体制の違い、A京都府内での主幹教諭などの発令数の少なさ、B学校の組織改革と保護者や地域との関係、C討論では学校組織と教職員の現状交流の域を出ず、学校運営の民主化と教職員の協働・同僚性回復の筋道については十分に議論することはできなかった。これについては他日を期したい。


 
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              2016年3月発行
京都教育センター