事務局  2015年度年報目次 


生活指導研究会

2015年度の活動のまとめ


   横内廣夫(生活指導研究会事務局)

 

Ⅰ.2015年度経過報告

1.活動の柱

 今年度第一回例会(4月25日実施)にて活動の柱-[研究活動の視点]と[留意事項]について以下のように確認した。

<研究活動の視点>

○新自由主義教育政策のもとで「競争」と「自己責任」を強いられ、「ゼロ・トレランス」指導が実行されつつあるが、それらの状況の中で子ども・生徒たちが何に苦しみ、何を求めているのかを客観的に整理し、それらの教育政策の欺瞞性と矛盾を明らかにする。

○若い教員・中堅の教員・ベテランの教員の多様な教育実践の報告を受け、子どもたちをとりまく今日的状況の深刻な実態とその課題克服のために子どもたちを繋いでいく教育実践の有り様を、理論的に整理していく。

○小・中・高校における子どもたちの「荒れ」と向かい合う教育実践の今日的な原則をさらに理論的に整理し、その教訓を一般化する。

○とくに「いじめ問題」等を様々な角度から読み解くことで、再度学校と学外組織とのふさわしい連携の在り方を議論し、いじめ問題等についての原則的な理解と対応のあり方を探っていく。

○職場を取り巻く管理主義的な環境や職場体制の中で、若い教員が困難さを克服していく筋道に視点を当て、教育実践を教員の自己変化・発達の視点から整理していく。

<留意事項>

①将来教員を目指している、あるいは教育問題に関心を持っている学生・院生の参加を追求していきたい。

②若い教員の参加が得られるように工夫する。

③本研究会編『希望をはぐくむ教育実践-繋ぎの回復から』(仮題)の内容作りに着手する。

2.若干の総括

 [研究活動の視点]については次年度の研究活動にも引き継がれていくが、報告者の幅広い組織化とともに可能な範囲で報告内容の討議の柱を定めておくことができるならばさらに深まった討議になる。そしてそのことが研究活動の視点にそって各レポ-トをより論理的に整理でき得ることを確かなものにしていくと考える。

 [留意事項]①については、院生1名・学生6名の参加者を組織できた。内2名については恒常的に参加していただいている。②については、1年目と2年目の新人教員にレポ-タ-として参加していただいた。今後研究会会員になっていただけるように協議していきたい。③については、諸般の状況が重なり計画通りに運ばず取り組みが不十分であった。次年度の課題としたい。

3.部会の研究会活動について

 第二回例会(6月6日実施)

報告(1)

「新卒1年目教員生活を振り返って」 IH先生(府内中学校)

 IH先生は、この報告を「1年の流れをざっくりと振り返ることを通して、子どもとの関わり方の問題点を明らかにする機会にするとともに、担任としての関わり方や学校生活上で起こったことについて振り返る機会とする」と位置づけている。この報告は1ヵ月毎に1年間の生徒との関係、学年団との関係、生徒に寄り添えない指導力への悩み等の経過を詳細に記録した内容であった。IH先生は自らの感情の振幅も鮮やかに表現している。例えば以下のようなIH先生の心理描写がある。「10月-子どもとの距離が離れていくという事実だけが感じられ、学年主任の先生が前に立ってくれることに安心してしまう。そんな状態になっていた。女子との距離感がつかめない。一部女子生徒やMさんとクラスの間の問題に対処できない。自分自身がクラスに行くのが怖くなり、関わりに行くことが出来なくなっていく。給食時間に一緒に居ても話すことが出来なくなっていく。自分自身の気持ちを奮い立たせることが難しくなっていた。できない自分を責め続けたためである。こうなると、担任としての自分というのは本当に辛いものでしかなかった。決して生徒指導がしんどいわけでも何にもないのだが、子どもとの距離が離れていくという事実だけが感じられ、学年主任の先生が前に立ってくれることに安心してしまう。そんな状態になっていた。」

 生徒たちから信頼される教師になるという志を抱懐して教育という現場に旅たった新任教師が、結果として痛々しいまでに自信を喪失し、自分を責め続け、心身ともに崩壊しかねない状況に追い込まれている。いったいその根本的な原因はどこにあったのか、IH先生の個人的な教育観・子ども観・指導観、あるいは具体的な場面での指導の有り様が原因なのか、あるいは学校が内包する問題状況の何らかの反映を原因とするのか、等々検証すべき視点が考えられる。同時に有効な同僚性の有無問題も浮上してくる。IH先生の報告では、ここに至るまでの同僚からの援助・励ましの言動がほとんど語られていない。報告では3月に「学年主任の先生が人事の話をしてくださった時に、持ち上がることで双方が不幸になるんではないか?という指摘は、その通りではないかと思ったりもしていた。」とある。副担となったIH先生は、自らの課題を以下のように設定されている。①分かりやすさが工夫された学級経営という視点に着目し、子どもたちを動かしながら経営するあり方を学ぶ。また、子どもたちとの距離感の取り方について学級担任の先生のアドバイスを聞きながら関わりを持っていくことで、適切な距離感を取りながら指導できる教員を目指す。②教科の中で生徒指導や生活指導が出来る余力を持ち、子どもたちの良い頑張りを応援する教員を目指す。③(学年経営方針)に則った指導の実践の在り方がどのように行われているかについて考えるとともに、報告・連絡・相談の充実を意識することを通して、学年間や学校内での子どもの情報共有を盛んに行わせるきっかけを自分から作り出していく。④自分自身のキャラクターを前面に出し、自分自身が勉強・研究してきたことを活かしながら、子どもたちの日々の指導につなげる。

報告(2)

「新任教師の戸惑いとクラブ指導」 YY先生(市内私立中学高等学校)

 YY先生は経験したことがないバトン部の顧問となった。在籍する中学生と新加入した高校生とのトラブルに悩まされる。「高校生に教えるぐらいなら自分の練習がしたい」という中学生に対しての指導に戸惑う。この中学生が持つ個人的なフィルタ-を通しての認識をより広い集団としてのフィルタ-を通しての認識に、中学生にも高校生にもどのように迫っていくのか。YY先生は、生徒たちの意見を聞くことを大切にし、自分の思いを伝える努力を継続している。授業についても試行錯誤しながら取り組んでいる姿が報告された。YY先生は、積極的に民間サ-クルに参加しそこで学んだ内容を取り入れていこうとされている。

 第三回例会(8月1日実施)

 【テ-マ】将来教員を目指し教育実習を経験した学生から学ぶ

① 教育実習報告 京都府立大学文学部4回生 HS君
② 教育実習報告 京都府立大学院  1回生 OEさん
③ 教育実習報告 京都府立大学文学部4回生 OFさん

 三名の教育実習報告は新鮮で興味深い内容を含んでいた。HS君は、教育実習にテ-マを設定して臨み以下のように報告している。「『1. 生徒と積極的にコミュニケーションをとる』については、反省点が多い。生徒とある程度会話ができるようになりはしたものの、特定の生徒と話すことが多くなり、あまり言葉を交わすことができなかった生徒もいた。生徒がどんなものに興味があるのか、どういった話題なら食いついてくれるかなどを見極める必要があると感じた。だが、自分の経験を話してからは生徒の私に対する態度が変わったと感じた。自分がどのような人間なのかを生徒たちに伝えることは、コミュニケーションをとるうえで重要である。『2. アクティブ・ラーニングを取り入れた授業をする』に関しては、授業の進度等の関係から実践できたのは3年生で1回、2年生で1回の計2回だけだった。3年生では既習内容についてペアで説明しあうというペアワーク、2年生では『メモリーツリー』をつくるという個人学習を行った。どちらのクラスでも生徒たちには笑顔が見え、楽しんで学習していたようなので、一定の成果はあったのではないかと思う。今後は様々な実践について今まで以上に学び、より効果的な指導を行えるようにしたい。」

 OEさんは山口県東部に位置する母校で教育実習をしたが、その経験は熟慮すべき教訓を含んでいた。報告によると、「一週目の最終日、担当していた部活で一年生の生徒たちにそれぞれのクラスの雰囲気を聞いた。そこで5組の生徒がとある生徒O君がクラスの人間に威圧的な態度をとりO君がクラスの人間を『いじめ』ていると私に訴えかけた。」ので、部活動後指導教員にこのことを報告して、教育実習簿に「いじめ」の言葉を書いた。そのことが問題となり「生徒指導の教員や教頭から指導をうける」、その結果部活は謹慎、生徒からの訴えのため事情聴取をうけたというのである。「いじめ」問題についてはその後継続して学校として取り組んだとある。それにしてもこの教師集団の「固さ」はどこからくるのだろうか。生徒指導の教員や教頭からうけた指導とはいかなるものなのか、そしてそれは正当と言えるのかどうか。そこには過剰なまでの隠蔽意識が垣間見られると批判しても言い過ぎではないであろう。OFさんは、教育実習生の視線から今日の教員の過酷なまでの勤務実態に疑問を抱いている。

 第四回例会(9月26日実施)

① 学会報告-横内廣夫(生活指導研究会事務局)

9月5日・6日岡山大学で開催された「日本生活指導学会第33回研究大会」に参加した。

 問題提起として、①「道徳教育と生活指導の連帯の可能性を探る」松下良平(武庫川女子大学)と②「生活指導実践と道徳教育のあり方を問う」澤田好江(愛知県公立小学校)が用意されていた。この問題提起の要点と折出健二氏のコメントを紹介して、検討した。
 『第1集 教育関係新聞記事2015年7月2日~9月21日』と『岩手県矢巾町で中学2年の村松亮君(13歳)がいじめ被害を訴え自殺した事件の関連報道集』を配布した。

 第五回例会/公開研究会(10月18日実施)

① 基調報告にかえて 横内廣夫(生活指導研究会事務局)

 骨子のみの記録としたい。
[Ⅰ]藤田英典氏の指摘-安倍政権がすすめる<5本の矢>の諸問題
[Ⅱ]『私たちの道徳』(2014年2月)の内容と現場からの批判
 (1)『私たちの道徳』の内容と意図
 (2)世取山洋介氏の指摘
 (3)現場教員から批判
[Ⅲ]『道徳』を超える生活指導の課題
 (1)折出健二氏の指摘
 (2)生活指導研究会の提起(過去の歴史に学ぶ)

② 報告「岩手中2いじめ・自殺を考える」倉本頼一先生(立命館大学・滋賀大学非常勤講師)

 倉本先生は「何が問われているのか、現時点の情報から考える6つの事」として以下のようにまとめている。①この学校の「いじめは0」と報告されていた教育体制、教育委員会が「いじめ0」を評価している教育行政の問題。②昨年からM君のいじめ被害は生活指導で話し合われ取り組まれていたのに、学校・校長の引継ぎがされていない。「聞いていない」と前県主席指導主事の校長が発言、担任責任体制の問題。 ③年3回実施している全校アンケ-トで5月にはM君のいじめが出ているのに「聞いていない」と平気で発言。アンケ-トの集約をしていないのか、読んでいないのか、担任外もつかめるはず。④クラス全員に毎日「生活記録ノ-ト」を書かせ、担任がコメントを毎日入れるのは大変、ましてや「これからはノ-トを共有する」は無理。2人担任制実現できるのか。⑤過酷な仕事の中で、毎日メントを入れ、本人とも話をしていた担任を責めるのは酷である。教育行政、学校体制、管理職の姿勢こそ問われなければならない。⑥その上に立ってそれでも「子どものつぶやき、叫び、訴え」を受け止める。とりわけ「子どもの命」に関わる「言葉、表現、文」は特に注意を払うことが問われている。

③ 報告「えがおきらきら2年生」 海田勇輝先生(府内小学校)

 「一年生時にネグレクトを受けていたS子がいた。S子に懸命に寄り添い居場所づくりを軸に据えて学級集団作りに取り組んできた。二年生へ進む直前の三学期の修了式当日、S子が児相に保護され、結局転出した。自分の力不足を痛感した一年となった。同じクラスを持ち上がり、可能性は限りなく低いが、S子がいつ戻ってきても安心して過ごせる、そして全員が安心して過ごせる、みんなの居場所になるクラスづくりを目指した実践」、海田先生の報告の冒頭に掲げられた文言である。子どもたちに寄り添いながら子どもたちの意見表明を尊重しクラス作りを展開していく。その実践の結果「S子が戻ってくるクラスはできたように思える」と海田先生自身が振り返っている。紙数の関係で残念ながらこの実践を詳しく紹介できないが、教訓に富んだ当代の実践である。

Ⅲ.2016年度の計画

1.前年度の「活動の柱」を引継ぎ、特に新会員の拡大に努力する。

2.研究会の体制 代表:築山 崇  事務局:横内廣夫

3.会員

浅井定雄、石田 暁、大平 勲、恩庄 澄、春日井敏之、北村 彰、倉本頼一、高垣忠一郎
谷田健治、玉井陽一、築山 崇、西浦秀通、野中一也、細田俊史、横内廣夫


 
 「京都教育センター年報(28号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(28号)」冊子をごらんください。

  事務局  2015年度年報目次 


              2016年3月発行
京都教育センター