事務局  2015年度年報目次 


地方教育行政研究会

2015年度の活動のまとめ


   我妻秀範(地方教育行政研究会事務局)

 

Ⅰ.はじめに

 この間、安倍政権は昨年9月、国民の大きな反対を押し切って集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法制が国会で可決成立した。また1月4日開会した通常国会で安倍首相は、今年7月に行われる参議院選挙では自民党と公明党で過半数の議席を獲得し憲法改正をめざすと述べ、さらに1月21日には「いよいよ、どの条項について改正すべきかという現実的な段階に移ってきた」と答弁するなど、憲法改正に向けた強い意欲を表明している。

 こうした動きと一体に以下に、述べるように学校制度体系の弾力化、道徳の「特別の教科」化、教科書検定や採択制度を使った教育内容統制、国立大学に対する「日の丸・君が代」の強制など新自由主義と新国家主義に基づく「教育改革」が急テンポで推進されている。この動きはグローバル化した世界で活躍する企業戦士と戦争する国家をになう人づくりを目指したものである。
 私たちには、こうした状況をふまえ、憲法を守り発展させる運動、民主的な教育行政と教育内容、子どもたちの学習権保障の取り組みを、今まで以上に旺盛に展開していく必要がある。

Ⅱ.2015年度の主な取り組み~概要と課題

1.第1回京教組・地教行研合同学習会

  (1)概要

 ・6月7日(日)、京都社会福祉会館で開催。府内各支部から10数名が参加した。学習会では冒頭、河口京教組委員長の開会あいさつに続いて「安倍政権の教育政策で学校と教育はどうなるのか」と題して中田康彦氏(一橋大学)が講演(レジュメの骨子参照)。

 ・その後、京都府内の小中一貫校の動向と課題として京都市教組から「京都市における小中一貫校及び一貫教育の現状」、綾部市教組から「綾部・上林地域 小中一貫校について現状と課題」と題して報告をうけた。

 ・その後の質疑・討論では、①学校制度体系の弾力化について、②道徳の「特別な教科」化について、③小中一貫校に関して質問が出され,講師および報告者が答えた。

 ・当日は、民主団体の取り組みが錯綜したことや宣伝や参加組織が十分でなかったこともあり、十分な参加者を確保することができなかった。

(2)中田講演の概要(以下は当時の講演レジュメの要約)

安倍政権の教育政策と学校と教育はどうなるか

Ⅰ. 安倍政権の政策の概要
  1 昨年話したこと
  2 安倍政権この一年

Ⅱ. 教育再生実行会議第五次答申「今後の学制等の在り方について」(第五次提言 2014年
   7月3日)はどう具体化するか
 1. 学校制度体系の弾力化
  ◎学校制度の規制緩和は垂直的な弾力化と水平的な弾力化という形で行われる。
  1 ) 垂直的弾力化としての小中一貫教育
  ・複線化としての小中一貫教育、複線化としての中高一貫化
  ・「多様性の尊重」と異なる意味で、公立学校内部で序列化=垂直的細分化(階層化)がすすむ
  2 ) 水平的弾力化としてのフリースクールなどの認定
  ・「普通教育を受けさせる義務≠ 就学義務」という図式を容認する…戦後の学校教育法制(1947年~)の転換
  3 ) 設置主体と運営主体の分離という弾力化(=学校運営主体に関する規制緩和)
  ・グローバル人材・イノベーション人材の育成手段としての公設民営学校
 2. 大学入試制度改革
  ・「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について」(教育再生実行会議第四次提言、2013年10月31日)
  ・「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申)」(中教審第177号、2014年12月22日)
  ・高大接続改革実行プラン(2015年1月16日、文部科学大臣決定)

  ・入試だけでなく大学と高校の教育課程そのものへのテコ入れ
  ・制度レベルでの弾力化・多様化と少子化の同時進行
   *従来の序列化・「多様化」とも異なる意味での学校の性格分化(G型大学とL型大学)が、高等教育のみならず初等中等教育でも顕在化
 3. 国家による価値統制
  1 ) 教科書検定をめぐる動き
  ・自民党教育再生実行本部「教科書検定の在り方特別部会」、中間まとめ(2013年6月25日)
   ・教科用図書検定基準の変更(2014年1月17日)
  2 ) 教科書採択をめぐる動き
  ・東京・神奈川・横浜・千葉・埼玉・大阪などでの動き
  ・政治的争点としての教科書採択→採択を通じた教育内容の政治化と統制
  3 ) 補助教材に関する通知
  ・東京都教育長通知、文科省初等中等局長通知
  ・教育委員会や校長の責任を明確にするというかたちで,個々の授業担当者の教材に関する裁量を規制
 4. 道徳の「特別な教科」化
  1 ) 金のかからない「教育再生」
  2 ) 不自然を隠せない制度改革
   ①前提としての現状認識
   ②教科には免許が必要
   ③特別がもつ二重性
   ④格上げの効用
   *道徳の「特別の教科」への格上げ自体よりも、それに伴う周辺へのテコ入れこそが    ポイント(道徳を中心に教育課程全体・教員養成への介入が図られる)
  3 ) 強い国家と従順な国民を作り上げるプロセス
  ①前提として存在する国家観
   ②求められる国民統合の強度
   ③理念的・規範的必要性と現実的要請とのズレ
   ④国立大学の入学式・学位授与式における日の丸掲揚・君が代斉唱

2.京都教育センター研究集会

  ・2015年12月20日(日)に開催。10名が参加。テーマは「今日の学校の組織と運営を検討
する~学校の自主性・自律性は確保されたか」
・報告者は以下の通り。なお報告・討論の概要は本誌に掲載したので参考にされたい。
   (1)今日の学校の組織と運営を検討する 我妻秀範(府高、地教行研事務局)
   (2)京都市教育委員会の学校管理・支配の特徴 中野宏之(京都市教組)
   (3)京都市立高校の職員会議          秋山吉則(仏教大学大学院、元市高)

3.活動総括

 ・今年度は4月1日に事務局会議を開いて活動方針と当面の取り組み課題を整理したが、結   局、6月の京教組・地教行研合同学習会と12月の教育センター研究集会を取り組んだだけで終わった。
  ・また上記の二つの研究会も事前の打ち合わせや宣伝・参加組織の不徹底もあり、十分な参   加者を確保することができなかった。とくに事務局メンバーの退職や各支部・専門部の役員を兼任しているため全員が集まっての会議が設定しにくいなど事務局体制の不十分さが活動の停滞を招き、必要な研究活動を組織することができなかったことを率直に指摘しなければならない。
  ・以上をふまえ、2月20日(土)に事務局会議を開催し、次年度に向けた打ち合わせを行う予定である。

Ⅲ.2016年度の活動方針

1.基本的な考え方

  ・現在進められている「教育改革」のねらいと問題点を明らかにしてする。
  ・教育行政や教育条件に関わって地域や学校現場で起きている問題を明らかにする。
  ・すべての子どもの人間らしい成長・発達を保障する教育を願う立場から、「子どもたち、父母、教職員の願いをふまえた教育条件」を整備する計画の策定を強く求めていく。
  ・京都教職員組合との「合同学習会」を重視する。

2.おもな研究課題

・教育再生実行会議提言や中教審答申などによる「教育改革」
  ・教育委員会制度改革など教育行政に関わる問題
  ・学校組織マネジメントと学校の自主性・自立性の確保など学校組織に関わる問題
・小中一貫教育や公立の小中一貫校など学校制度に関わる問題
・教職員定数、教育予算・父母の教育費負担、学校統廃合など教育条件に関わる問題
 ・教員養成・採用・研修、教員評価制度、学校における新たな職(主幹教諭、指導教諭など)
  や教員免許など教員制度に関わる問題
・子どもの貧困、生活保護・就学援助制度など子どもの学習権保障に関わる問題

3.研究会の組織確立

・事務局会議を定期的に開催して情勢と問題意識の共有化をはかる。
・以下の研究課題について京教組との合同学習会を開催する
  ・教育学にとどまらず法律学・政治学・経済学などを専門とする研究者に協力を依頼する。
・学習会への参加組織を重視する。そのためにも宣伝を重視して取り組む。

4.事務局体制

  ・代表:市川哲(前明治国際医療大学)
  ・事務局長:我妻秀範
  ・事務局員:大西真樹男、奥村久美子、田中正浩、葉狩宅也、本田久美子
  ・会員  :東 辰也、新井秀明、石井拓児、磯村篤範、井上英之、射場 隆、植田健男、
        大前哲彦、大和田弘、梶川 憲、佐野正彦、末富 芳、竹山幸夫、野中一也、
        藤本敦夫、山本重雄、吉岡真佐樹、淀川雅也



 
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              2016年3月発行
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