事務局  2013年度年報もくじ


第9分科会
「教科・領域を合わせた指導」「キャリア教育」を通して考える
京都の教育

               西城信幸(京都障害児教育研究センター)

 

T 基調報告                      西城 信幸

 2011年京都障害児教育研究センター設立以降の3年間の論議の経過を踏まえ、今年度2013年の状況を踏まえながら、考えられることをまとめています。

 京都の障害児教育は、児童生徒の実態把握、理解し、教育実践を創り出していく視点として、発達的な視点を踏まえて展開がなされてきた。その発達を分析、理解していく理論として田中昌人の「可逆操作の高次化における階層-段階理論」に大きく依拠しながら、権利としての障害児教育、発達保障論等の研究成果や各校の教育実践を学ぶことによって、実践がすすめられた。

 また、実践、研究、運動を統一的にとらえ、権利の総合保障を目指した科学的障害児教育の創造を目指した研究、運動がすすめられた。

 全国的には、学習指導要領に乗っ取った実践がすすめられたが、京都では教育課程の自主編成がすすめられ、集団編成において、学年編成だけでなく、発達や障害を踏まえた「縦割り集団」や教科や労働、集団、自治等が大切にされた実践が展開された。

 こうした京都においてすすめられた実践に対し、今日、京都府の教育行政等から、全国との違いを問題視する傾向が強まり、学習指導要領に基づく全国一律の教育が求められてきている。

 ただ、京都がすすめてきた実践や学校つくりについて理解した上での問題点の指摘や批判、改変がすすめられているのかと言えば、必ずしもそうとはいえず、全国的にすすめられている教育動向を後追いしている観がある。

 その結果、行政を含めて学校現場では教育を進めていくうえでの理論的な支柱が明確でなくなり、次々に出てくる新たな視点に揺れ動いている感がある。(例:キャリア教育等)その揺らぎの中であってもこれからの教育の方向性として意識されていることは学習指導要領や国レベルですすめられている教育方針、それを体現する形での特総研レベルでの教育実践や教育方針である。

 ただ、京都府が、「京都府内すべての特別支援学校の教育実践及び学校経営を新しくする。」と宣言しても、各校では、田中理論に基づく発達の学習が進められたり、教育課程の自主編成によって培われた実践を継承し発展させているとりくみもすすめられている。しかし、京都の学校づくりの運動を支え、教育実践を作り上げてきた教職員の大量退職が進んでいく中、失われていくことも多くある。例えば、発達検査などで子ども理解の指標を持ちつつも、実践の場では、教育目標のトップダウンということで高等部卒業後の生活、その社会の現状に合わせる形での求められる姿を目標化し、教育目標も変わってきている。卒業後の生活、主体的、達成感、日常生活・地域生活に生かす、わかってできる等が強調され、その結果として、授業づくりをすすめていく上(内容、教材の選択、展開等)で発達的な視点が希薄化している状況が生まれてきているのではないか。

 さらに、実践を考えていく際の視野も、学校、教室、個人へと狭くなってきており、大胆な実践が少なくなってきていないか。

 また、医療や福祉との連携は言われつつも、運動の視点はなくそれぞれの領域に踏み込んだ要求が出されにくくなり、共に運動を進めていくという発想は出てこなくなってきており、さらに、その運動を支える教職員の母体も小さくなっている。

 こうした現状の中で、私たち京都障害児教育研究センターでは、ワンコイン学習会や夏季研究集会等を通じて、実践の中から発達、発達理論、授業を作っていく上で大切にしていかねばならないことなど、京都の実践が培ってきたものを言葉として表し、これからの京都の教育を支えていく人たちに継承、発展させていく一つのとりくみとして進めてきている。

U 報告 キャリア教育にかかわる全国と京都の状況〜ブームに乗らない確かな実践を〜 西城 信幸

何をめざしどのような実践をするのか

 現在各校で、キャリア教育や教育の目的・目標を考えるときに、卒業後の進路を見通して、社会で生きていくために必要な力は何なのかを考え、高等部から逆算で、小学部から卒業後の生活をイメージして教育目標を考える「ねらいはトップダウン、実践はボトムアップ」という考え(「逆算の教育目標」)が支配的であり、就労先の企業や福祉関係の事業所での活動をイメージして、つけたい力や行動が追及されています。このことは避けては通れないことであり、高等部の教育では必ず意識されている重要な項目です。しかしその前に、大きな前提として教育の目的とは何かを考える必要はないでしょうか。

 教育は、社会参加と自立「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てる」そして「自立を図るために必要な知識技能を授けること」を目的とすることから出発するのでしょうか、教育の目標・目的は人格の形成、民主的人格の完成ではないでしょうか。人格の形成・完成などというと想起しにくくなってきているのかもしれませんが、どのような人間像を想定するのかが、教育の核になることではないでしょうか。そのことを飛び越えて、生活に生かせる力や卒業後の生活で役立つ力を考えるのは、土台の形成が脆弱な中での育ちをもたらすのではないでしょうか。

 日々の教育実践を考えていくうえで、現在の当該児童・生徒の姿から、発達全体の姿をとらえ、次の課題に向かう上で牽引力となる力は何で、積み残している課題は何なのかを考え、その課題は障害からくるものなのか、発達上の課題なのか、生活歴、教育歴、生活環境などから派生したものかなど、全体的にとらえて当該児童・生徒の教育目標を考えていく必要があるのではないでしょうか。現在、キャリア教育の視点という言い方で求められている卒業後の姿を想起して考えたつけたい力(主体的、コミュニケーション、達成感、自己肯定観など)が前面に出、その前提となる生徒理解や分析が実際の授業や教育計画を考えていく際に生かされてこず、結果として、授業の内容、展開、教材選択、ねらいにおいて生徒の課題から遊離したものになっていないでしょうか。また、目標としていた生徒の課題、「わかってできる」「やったと思える」達成感や自己肯定観に迫りきれずに終わっていないでしょうか。

 また、知的障害のある児童生徒の学習上の特性としてとらえられている、「知識や技能が断片的になりやすく、実際の生活に応用されにくい、成功経験が少ないことから主体的に取り組む意欲が十分に育っていない」などのことを、ただ単に特性としてとらえるのか、現在の発達上の課題としてとらえ、教育実践を組み立てていくのかでは大きな違いがあるのではないでしょうか。単に特性ととらえることによって、実践を組み立てていくうえで、教育目標のおき方や具体的な教材を選定していく際、または課題に取り組む際の手立てが、その児童生徒にとって必要な発達的矛盾などの課題設定がされることなく、さらに思考を十分くぐることなく行動化されるため、結果としてできる形のみが優先され、行動パターンとして教え込まれる授業が組み立てられていないでしょうか。

 今一度、普段の私たちの実践が、児童生徒の発達課題に迫れているのか、教育目標を考えていくところから、振り返る必要があるのではないでしょうか。

 目標を逆算する前に、今、目の前にいる児童生徒の課題は何か、どの課題を追求していくことが児童生徒の力を伸ばしていくことになるのか中心となる課題を考え、教育目標を立て、その課題に迫る教育内容、教材は何か、その展開で豊かな人格を育てていくための文化性や内容は含まれているのか、そして他者との関係、集団との関係、クラス集団としての実践が組み立てられているのかなどを考えていくことが、当該児童生徒が、社会の中で生きていくうえで、学校を卒業し社会の中で自分の役割存在を意識し「自分らしく生きていく力」の土台になっていくことに確信をもって実践していくことが必要であると思います。そのことをもって「キャリア教育」というのか他の言い方をするのかは、運動的な視点も含めて多様な観点から総合的に判断すればよいのではないかと思います。

V 報告 教科等合わせた指導を考える 建山 昌子

1 京都の障害児教育
与謝の海:どんなに障害の重い子どもにも教科学習を
桃山:教育階梯と教科と教科的学習
向日が丘:「障害・発達」と「中心課題」
2 発達保障
・障害別、発達別集団編成
・基礎集団と教育的に必要な集団
・集団学習と個別の課題
・文化性
3 現在の京都の障害児教育
・集団編成の視点
・個別の指導計画
・評価の観点
・自立活動の視点
4 文科省や研究者の講義から
5 中学部の教育課程から
(1) 生活単元「イス作り」・・・道具の使用(身体・手指の調整) 見通し(制作過程と目的)
(2) 自然・社会「栽培」・・・屋外活動(土や植物に触れる) 道具の使用(身体・手指の調整)
(3) 「ごちゃまぜカメレオン」
@ お話を聞きながら操作する
A 友達のしていることを見る
B ゆっくり考えながらわかっていく
C ローラーで大きな虹を描く
D お話の世界を楽しみきる
何がわかったのか(できること、わかること)
感情部分も大切に(楽しむこと、面白いこと)
(4) 乗り物で外出することを楽しみきる 自然・社会「タクシーに乗って」
(5) 教育課程作りと合わせた指導
@ 子どもの実態把握(子供の姿を丸ごと、子ども理解)
A つけたい力
B 教育内容の創造
C 集団の力(子ども、教師、保護者)

W 前半での交流

1 京都市の状況:ユニット制、白河、鳴滝などの職業学科と他校の関係、地域コミュニケーションの中で地域の学校で取り組んできたことが活かし切れていない
2 府立高の状況:教育課程をまとめていく中、全職員で論議、高等部では、18歳の姿が目標に、卒業後の育つ姿から学ぶ

X 「まさ子の部屋」青年シンポ

a:毎日の繰り返しの中で、ある日突然はっと思うことがあることがやっていて楽しいこと。保護者の方に、担任としての思いをどのように伝えるのか
b:一人担任でしているが、専任の先生とどのように連携していくのか悩む。若い先生も多く見本になる先生がいない、授業作りに悩む。
c:集団つくり、リーダーをどのように育てていくのか考えていくのが面白くなってきた。教科の授業作りは文化を豊かにしていきたい。
a:集団で担任を組めることはいいことだと思う。授業作りでは、こんなことができるかなと作っていく楽しみがある。
b:若い人とはつながりがあるがベテランの方とのつながりがない。
a:保護者には、クラス集団で話し合ったことを少しずつ話していく。
c:地域の取り組みもしている、保護者も変わってきているが、親同士、教職員のつながりが大切。

Y 講演「特別支援教育の授業つくり」〜「合わせた指導」とキャリア教育〜 大阪市立大学 湯浅 恭正


1 教育課程と自分づくり
○青年期教育から
○自分づくり=青年期のこころの特徴は
 ・自分自身で行動しようとする傾向が強まる
 ・内面の葛藤に苦しみ、悩む
 ・人生の意味や社会の在り方を追求し、自分を自覚する
 ・自分を深く見つめようとする
○自分づくりを支える力・・・自己決定の力とは
自分の(自分たちの)思いが出せる場  自己決定の基礎の形成の場
自分の個性・得意不得意を理解する場  自分のキャリアを考える場
家族・施設・仕事・地域で「あてにし、あてにされる」場 
教科指導:自分たちの学んできたことを伝えよう、自分たちの学びたいストーリーがあり、そのことを伝えたい思いがなければならない
子ども達の側が自分の文脈で言葉を伝えようとすることが大切
ファッションショー:自分の着こなしを見せる
青年期:自分のことを仲間や先生に伝える
悩みや混乱不安が中核になり、安心して自分のことが出せる場が必要=集団づくり・安心して自分が出せる場、時間
人生の意味や社会の在り方を追求し、自分を自覚する
逆算:完成した人をつくる 学びなおしのチャンスがない、キャリア形成には必要
自分づくりを支える力:自己決定の力とは いろいろ情報があり 選択ができる 取り戻しが聞く範囲での失敗  自信・自己肯定
特殊教育の時代 大人の都合でなるべく失敗のない 単純なことなら 選択肢を与えない 失敗させない  生きる力は育たない
○キャリア教育のとらえ方について
・一般的な提案
・実践事例からー生活単元学習や自立活動と関連付けた指導
しかし、小学部では自立活動がキャリア教育と結び付けられてはいるが、中・高になると生活単元学習や進路指導そのままの事例になっている。
・社会への移行(適応・折り合いをつける)と「マイ・キャリア」の形成
高等部の生活単元学習の事例から
自己に向き合い、仲間と向き合い、社会に向き合う力としてのキャリア形成
生活に必要な力とは  スキルのみになっていないか(wont wish)
自分の生活とは違う仲間の生活に目を向ける
調整する  自己に向き合い、仲間に向き合い、社会に向き合う力としてのキャリア形成
「なんとなく」の世界
2 「合わせた指導」=分けない指導 の意義
○生活の単位・単元  生活のメリハリ  生活のストーリー作り
○生活単元学習の類型―鳥取大学の事例から
・校外学習・職業体験等の社会的自立を目標とした単元
・「遊び」を中心にした単元
・有用性のある「物づくり」の単元―作業学習へ
○作業学習のとらえ方
・生活主義と経験主義
3 「合わせた指導」の授業づくり
○よい教材の条件を考える
・陥りやすい二つの点・・・教科のマネ 活動主義(やればいい)
・よい教材の根拠を問う  発展性 手応え
○生活単元学習の授業過程
・単元計画とともに、授業過程に注目する
 中学部の「カレー作り」の事例から
授業過程の醍醐味―教育的タクトで子供の学びを支援する
○生活単元学習の指導案を考える―指導の意図の吟味
 校外学習の事例から
 ほかほかパーティの事例から
○合わせた指導としての「遊び」
カリキュラムにおける遊びの位置
遊びの指導が子供の自立を支える
おわりに
子どもの自立を励ますキャリア形成

指導の意図や根拠を明確にする  生活の内面の世界を意識=人格的自立
教科=生徒にとっては窓、窓の向こうの現実の姿が問題

生活単元・・・タブレット型のスキル形成
作業学習 経験主義 程よい失敗をしながら自分の世界をつくる

生活をつくるという子供の意識
生活に対する要求
作りたい生活
生活の必要性 自分たちでつくる
生活のストーリー
教科指導も自分たちのストーリーにあったものに・・・学びたいもの 要求

教師の研究の場:互いの実践を批判する空間が必要
自分つくりをゆっくりするのがキャリア

Z 意見交換

・教育的タクトについて
 発達をおきかえ 教材を考えるキーワード(見通しの単位 手応えのあるもの、好きな事 表現の手段タイミング等)
仮説をどのように立てたのか交流する 教師の意図
・自我人格の形成について 高等部の時期では大きな失敗につながることも
自分の評価と他者評価
まんざらでもないというのは難しい
 
 「京都教育センター年報(26号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(26号)」冊子をごらんください。

事務局  2013年度年報もくじ


              2014年3月発行
京都教育センター