事務局  2013年度年報もくじ


第5分科会
子どもにとってはすべてが育ちの場

               姫野美佐子(子どもの発達と地域研究会)

 

1.[基調報告]

 個人的なことで恐縮ですが、我が子が小学校に入学して1年8カ月がたちました。仕事の都合で、保育園は地元ではなく職場に近いところを選んだので、子どもがいながらもあまり地域のことは知らない生活でした。しかしこの1年8カ月の学校や学童生活の中で、たくさんの知り合いができました。買い物にいったり、地域の診療所に予防接種に行くと必ずといってよいほど子どもの友達がいて「○○ちゃん!」とお互いに喜んでいるので自然にその子のお母さんともあいさつするようになります。また、我が家のとなりは公園で子どもはいつもそこで走り回って遊んでいるので、私も近所の人との会話が増えました。

 私は今の地域に住んで12年になるのですが、初めて「自分の住んでいるところはここ」という実感を持ち始めています。そんな私の経験からも、今日の2つのレポートはとても楽しみです。大山崎、宇治田原町、どちらもひとつの町の中での、子どもを真ん中にした取り組みだと思います。夏休み前になると子どもが学校からたくさんのイベントのちらしをもらって帰ってきます。「映画」「手作り体験」「キャンプ」などそのどれも楽しそうなのですが、その多くは住んでいるところからは遠く、バスや電車を乗り継いでいかなければ」なりません。そういう企画もいいなあとは思うのですが、やはり自分の町で、普段一緒に遊んでいるお友達と一緒に体験できたらいいなあ、「地域」の意味はこんなところからも見えるなあと思ったりします。


2.[報告]

@地域みんなで子育て〜宇治田原サマースクールの取り組み(今西久美子)

1. サマースクールのはじまりと第1回目の企画

◆1988年、わらび座公演「かまくら」をきっかけに様々なサークルが誕生
 ふるさと宇治田原の自然と遊ぶ会、3カ所の地域文庫、おやこ劇場、図書館を考える会、手話サークル、和太鼓サークルなど
◆宇治田原サマースクールの目的
@障害があってもなくても、すべての子どもたちが有意義な夏休みを過ごせる場をたくさんつくる。
A宇治田原をより良い街にするために活動している諸団体が交流する場とする。
B各団体の活動を広く住民にアピールし、活動の輪を広げる機会とする。
◆体制
@呼びかけ人:障害者の働く場「共同作業所」をつくることを目的に作られた「障碍者の住みやすい街をつくる会」
A実行委員会:町内の様々なサークル、生協運営委員会や綴喜教職員組合など。
B地域世話係:地域ごとに数人。申込み用紙を回収してもらう。
◆第1回目の企画:星空映画会、和太鼓教室、セラミックペンダント作り、お話会、けん玉教室、木工教室、竹の水鉄砲づくり、牛乳パックの小物入れ作りなど12企画。

2.多くの協力を得て

◆後援、協賛:宇治田原町、宇治田原町教育委員会、社会福祉協議会の後援。必要経費は、協賛していただいた町内企業や新聞社の協賛金でまかなう(10万円程度)
◆実行委員会と企画の充実
実行委員会の弱体化→大正琴サークル、食生活改善推進委員会、シネマ倶楽部、共同作業所、点字サークル、要約筆記サークルなど、新しい団体へ呼びかけ。地元のお菓子屋さんがお菓子作り教室を、自然や昆虫、植物などにくわしい方が星空観察会や川探検の企画を、手芸が得意な方が手芸教室など、個人企画も増える。

3.23年目を迎えたサマースクール

◆今年の企画:今年初めての企画はダンスサークルによる「EXILEを踊ってみよう」/要約筆記サークルによる要約筆記体験/ルーブゴールドマシーン→町のALTのレベッカさんが担当/ウオーターサバイバル(100人を超える申し込み)→大学生など若い人たちが企画
◆障害を持つ子どもたちのための企画を初心にかえり、実施
◆キャンプの取り組み〜ふくしまっこプロジェクトin宇治田原とのコラボ。ボランティアを含め、70名を超える参加。
※ふくしまっこプロジェクトin宇治田原→夏休み中、3泊4日で原発放射能の影響により外で遊ぶことができない福島の子どもたちを招いて、様々な体験をしてもらおうという企画。

4.今後に向けて

◆地域に根付くとともに市民権を得てきたサマースクール
◆財政面での課題→町商工祭での出店「サマースクールのお菓子屋さん」
◆中学生〜若者の参加
◆さらなる充実を

○質疑応答

Q:サマースクール、京都には他にもありますか?
A:城陽や宇治にある。障害を持った子ども中心。私(今西)が23年前に宇治の「わんぱく学校」のちらしを見て「いいな!」と思い、宇治田原で始めたのがきっかけ。
Q:中学生の参加はありますか?
A:日程さえあえば、参加してもらえるので工夫したい。これからの課題でもある。
Q:述べ700人の参加って多いですね。実人数は?
A:300人くらいです。
Q:写真がとてもいい。プロの人が撮っているのでは?
A:いろいろな人がとっている。ニュースには子どもが大きくうつっている写真を選んで載せている。

報告A大山崎チャレンジクラブの活動(森賢吾)パワーポイントを使っての発表

1. チャレンジクラブって?

◆1991年4月チャレンジクラブ発足:場所探し、スタッフ確保に必死
◆1994年4月クラブハウス建設:当時の親の出資金で
◆2000年3月 NPO法人格取得:NPO法人京都親子支援センターチャレンジクラブ

2. 異年齢の子どもたち

◆小学部(5、6年生)19人で活動/中学部(中1〜3)22人で活動/WING(高校生)+OBも含む。3名で活動

3.チャレンジクラブの運営

◆保護者による自主運営
◆専従と拠点(クラブハウス)22年の活動

4.チャレンジクラブの目指しているもの

◆子どもを中心に活動:自治、自律した集団づくり
◆親子共に:懇談会(大切にしていること:時間厳守・全員がしゃべる時間をもつ)、行事の運営
◆ダイナミックな活動:高学年ならでは、ほんもの
→なるべく禁止事項を作らないことにしている。ゲーム、マンガもOK。最初はぐちゃぐちゃになるが、GWぐらいには持ってこなくなる。

5.夏山登山:一番大きな行事。3000m級の山に登山。6月から取り組み開始。練習登山3回。今年は立山に登山。

6.夏山に行かなかった年も。

 「登らない」「今年は行かない」という選択肢もきちんと保障。学校などでは、話し合いをしても結局は「やる」ことになってしまうことを子どもたちは知っているから。ある年は、「行かない」ということになったが代わりに「ドラム缶のお風呂に入りたい!」という希望を実現した。

7.琵琶湖キャンプ(中学部)、無人島に行った年も。。。しかし、最近は夏休みが短くなったので、なかなかできなくなっている。

8.町内の学童と合同行事

9.ナイトハイク

 42.195km歩いている。「何故、こんなことをやるのか?」と親に聞かれたが「何故やるのかと考えずに、ただわくわくするからやるということも大事」と答えたら、親も納得してくれた。親も途中の公園などで温かいものを用意してくれる。

10.春の合宿

 中学生の学習合宿。基本は事務局長や大学生が教えている。食事も自分たちで自炊。廃校になった学校を借りているので、体育館や給食室も使える。中学生は普段は夜、平日2回クラブハウスに来て学習している。土曜日には行事の計画を立てたりしている。

11.小学部の日常

 大山崎には、比較的自然が残っている。日常の中で、天王山に入って「基地」をつくったりできる。

12.実践の中で(ここで議論したいこと)

◆生き物を殺す男子、非難する女子、そして保護者
◆友達親子:消費社会?大人と子どもの境界線?どう捉えればいいのでしょう?「仲良しでいいな」と思う反面、思春期を迎える子たちの自立はどうなっていくのかなーと心配でもある。

○質疑応答

Q:森さんは何故、指導員になったのか?
A:チャレンジクラブができた当時は、指導員が3年ぐらいでやめていく、ということが続いていた。僕はチャレンジクラブの前身だった団体にも関わっていたこともあり、続けることになった。
3. 討論(午前・午後合わせて)
○宇治田原の取り組みをきいて思い出したのは、岡山県のある町の取り組み。ここは人口8000人だが、毎年、分厚い「文化報告書」を出しているくらいの取り組みをしている。
○宇治田原の取り組みでは、何よりうらやましいのは、学校を使わせてもらっていること。京都市内では、このような取り組みに学校を使わせてもらえるのは、ないに等しい。宇治田原でも最初は、教育委員会が「主催者団体に教職員組合が入っている」といって後援を拒否されかけたそうだが、それを乗り越えてきたのがすごい。
○ふたつの取り組み、どちらも「質」が高いと思う。なぜ「質」が大事かと言えば、取り組のあとに何人もの人で総括することもあるから。総括会議では「矛盾」に向き合うことになるが矛盾は発達の原動力になる。
○大山崎でも、すべてが上手くいっているわけではなく、運営の悩みもたくさんある。
○棚橋先生が「専門性」が大事ということを言われた。チャレンジクラブには「遊び」の専門性があると思う。これからの課題としては、宇治田原のように他団体などとの広いつながりをつくっていくこと。今までも気になりながら、忙しくなかなかできていない。「つながりをつくる」専門性はどうしたら?

4. まとめ(棚橋啓一:子どもの発達と地域研究会)

 とても良いレポートを聞くことができた。参加者で共通して認識したいこと・・・
@主体性が育っているか?一人ひとりの主体性、集団の主体性の両方。矛盾がいっぱいということは、課題がいっぱいということで、それは発展の原動力になる。
A取り組みの「質」の問題。子どもの発達に欠かせないものとして、「人間的文化がまわりにあること」「人間的文化を身につけている人との共同の営み」があると思う。
B子ども自身が作り出すこと・・・例)大山崎チャレンジクラブの取り組みで、青春18切符で中学生が自分たちだけで旅行する取り組みがあった。このとき、子どもたちは旅行費用を自分たちで「作り出して」いる。子ども自身が作り出すというのは、「教える」「押し付ける」という言葉の反対にある。


 最後に:私たち(今日の参加者)自身の課題。こういう素晴らしいレポートがあるのに、私たちがその広がりを作れていない。どう広げていくか、も今後の課題である。
 
 「京都教育センター年報(26号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(26号)」冊子をごらんください。

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              2014年3月発行
京都教育センター