事務局  2013年度年報もくじ


第3分科会
『学力形成とテスト・評価・入試』/『同僚性の視点から学校のあり方を考える』

               市川 章人(学力・教育課程研究会)

 

T はじめに

 今年度の研究活動では今の教育の「実態」を明らかにして、現在の課題と方策の検討をしてきた。その過程で、教育現場で教職員がおかれた多忙な状況、青年教職員の力量形成の課題が、子どもの教育と学力形成に大きな影響があり、それをどのように解決していくのかが常に議論の対象になった。そこに、今進んでいる高校制度の改編や実務処理の一元的システム化などが教育内容や教職現場のありようも左右すると考え、本研究集会では、それらの実態から課題と方策をさぐることをめざした。子どもの学力形成の課題と職場づくりが密接に関わっていることを踏まえて、テーマを『学力形成とテスト・評価・入試』/『同僚性の視点から学校のあり方を考える』と2本立てにして分科会をもった。参加者は11人。

U 基調報告 【テーマ】「学力形成をめぐる評価のあり方と教員集団の力量形成の課題」
    鋒山泰弘(本研究会代表 追手門学院大学)

 「PISA型学力」「全国学力テストB問題」等への対応と学力向上という圧力で自治体単位で「教師の授業力アップ」のための施策やテスト対策で子どもの勉強嫌いを生み出している実態がある。他方で、児童・生徒が学びに参加しない状況を打開すべく、「学びの共同体」の方法が、注目を集め、取り組む教師や学校も増えているが、教科内容の習得・習熟が本当にできているのか、という批判もある。学力測定・評価方法が実践を狭くするのは誤りであるが、測定・評価しようとしている教育目標は何かについて教職員集団が合意し、その実現のための方法を柔軟に創りだしていく教職員集団の共同のあり方が問われている。

1.高校入試制度から「評価」をめぐる現状と課題をさぐる

 宮城県の高校入試制度・学力検査について雑誌『教育』に載った文献から現状と課題を提示。

 公立高校の推薦入試で矛盾がひろがり、「推薦入試に代わって、国・数・英の学力検査を課す前期選抜が実施」された。しかし、「出願できる条件」として内申点の数値を明示したため、受験断念を生む一方、見苦しいほど「条件」獲得行動が起きた。高校入試問題も、これまでの「新学力観」の下で単純な「知識・理解」問題を避けて無駄な読解や何の教科かわからない出題傾向が改善されたものの、「数値化された学力=旧学力観への回帰」が起きている。「中学校で積み上げてきた、長期的視野や過程を大切にした教育活動が『数字としての結果がすべて』という浅薄な教育観に吹き飛ばされようとし、この点を問題と考える高校関係者の意識は驚くほど低い」。「まず知識・理解の数値目標をクリアしなければ、創意工夫を生かした教育活動にとりくむことが困難になっているのが実感」

2.学校現場と教育評価をめぐる論点

☆教育評価―教科教育だけでなく、教科外教育、生徒指導(生活指導)を含む。教科以外の教育指導のプロセスにおいて教育評価を位置づける。「子どもの人格に対する評価」を含むが、それは「評定」の対象にしてはならないものを含む。価値づける・意味づけて指導に生かす評価が重要。

(1)「評価」が教育を統制・支配している現状をどのように捉え変えようとしているか。

 ・テストに合わせて教材や目標が狭められる現実の中、教師が豊かな目標を反映したテスト・評価法を作っていけばよい(田中耕治)。「課題提起的」(佐貫)な評価課題を作りだしていけばよい。⇔
 ・テスト・評価法は豊かな教育活動の結果として生まれてくるものであり、その逆を考えると教育活動をゆがめる。子どもの実態に合わせた評価法は前もって設計できない。
 ・「発達課題」は教育過程において「発見」される(佐貫)。
 ・とくに「意欲・関心」は結果として生まれてくるものであり、それを先取りして目標化することは、子どもの内面統制につながる。

(2)どちらの発想が現場を励ますものになるか?

「多忙化の中で、先にテスト・評価ありきは現場を窒息させている」「学習指導要領体制」、「観点別評価」「見方・考え方」「思考・判断」→「本来の授業準備や教材研究のために必要な時間を奪っている」(評価研究が授業準備と教材研究と切り離されている)⇔「多忙化の中でも、よいテストや評価法を前もって考えて置くことは、計画性のある教育活動を実行しやすくし、児童生徒の力をつけることになり、教師の力量形成につながる」

(3)教員の査定ではなく教師の育ちの評価を成立させるための要件

@ 時間経過による成長発達の分析(何が有効にはたらき、何が達成を阻害したのか、目標設定が適切であったか、どのような課題が残され、何が次の目標になるか。)
A 自己評価・相互評価・外部評価の重要性(伝統的な授業研究という日本の現職研修の意義)
B協業体制による成果の確認(教員集団全体が評価対象になるべき)

3.教育評価と教育課程づくりを結びつける

京都府立園部高等学校英語科の「英会話」(Spoken Interaction)の実践例の紹介

(1)学力の習熟段階の評価課題(パフォーマンス課題)と授業計画

 ・どのようなパフォーマンスができる生徒に育てたいか→学期・学年の最終目標から「逆向き設計」。

(2)「最初の失敗・すぐにはできない」を含んだ単元・カリキュラム設計

(3)習熟段階の学力を見通した長期的評価規準(ルーブリック)の必要性

4.まとめ

 ・数年間の到達目標一覧づくり→教育目標・評価規準・基準の長期的見通しの共有。
 ・目標一覧に対応したテスト問題、習熟段階の評価課題(パフォーマンス課題)の作成・収集・蓄積
 ・評価課題が子どもにとって「挑戦的な課題」になっているか。評価課題から逆向き設計。
 ・作った評価基準は子どもに具体的な助言を与えるために使えるかどうか。


V 実践報告

1.【報告@】PC通して、児童生徒の基本情報が一元管理される学校の課題 中村雅利(京都市小学校)

(1)2014年度から京都市内の小中学校で実施される「校務支援システム」の概要

市教委によると導入の目的とその活用・利便とされることが次のように説明された。

@児童生徒の基本情報を一元管理し、最新情報をあらゆる場面で活用できる。各種名簿も簡単で作成でき、京都市内の転出入や進学の場合も引き継ぐことができる。
 ・基本情報の項目のほか、独自に項目を増やすことが可能。
 ・児童生徒日常の様子を「いいとこみつけ」という名称の機能を使い、記録管理できる。
A指導要録の作成・保存のシステム化をする。
B各校の特色は維持しつつ、できるところは学校の校務事務を標準化する。
 ・学校現場に「必須・推奨・工夫」の三段階を設けて、活用することを求めている。(※必須:全校で必ず実施/推奨:活用は校長の判断だが推奨/工夫:各校の状況に応じて活用)
「必須」:児童生徒の情報管理/児童生徒の出欠管理/指導要録の作成・保存、
「推奨」:通知票の作成/週案

(2)「校務支援システム」導入に関わる学校の課題

「校務支援システムできること」の中に、特に、「通知票の作成」・「確プロ&ジョイプロの結果蓄積」・「週案の作成」があることを踏まえ、導入にあたって次の課題が提起された。
@「校務支援システム」に関して、情報の取り上げ&扱いで重要なことは、どのような情報を、どのような目的で、どのように情報管理を学校として行うのかを議論し明確にする。併せて、情報の入力ができる勤務時間との関わり・個人の力量・仕事の質量を見通して行う。
A週案の提出により、時数だけでなく、授業内容の画一が起こらないようにする。入力することで、自動的に市教委作成の教育課程とリンクできるようになっている。授業づくりは、子どもの実態や確かな学力保障を見据え、教材教具の工夫も踏まえて行うことが重要である。
B通知票の作成が、画一化される恐れがある。研修会では、「推奨」のランクで説明されているが、通知票の形式(枠組み)だけでなく、評価項目も例示としてあげられている。学校裁量で、今までの通知票を生かせれば良いが、「この際」自校で作成した評価基準・規準まで見直しと称して、システムに合わせることがないように注視する必要がある。学校実態を考え、教職員の議論をもって作成された通知票が、これからの子どもたちの学力・生活に生かされるように「自校独自の特色(こだわり)で考えられてきた経過を重要視する必要がある。


★意見交流・感想

 報告者は、現場にきちんと説明されたわけでなく、議論は各現場でされていないこと、一元管理によって児童生徒一人ひとりがデータ項目に沿って“まるごと”つかまれることになり、併せて、全学校のシステム化によって画一化が進む危惧が改めて強調。

 評価・評定では、従来通知表の文言が具体的でなく、親が見てもわからないため、学年便りに、どんな学習をしてどこまで到達させたか副票的なものをつけてきたが、これが維持できるのか。授業づくりでも放射線教育をやろうと思ってもできなくなるのではないか。しかも、PCの入力・管理で多忙化を強いられた上、校内の様子が全てわかり、数値化され、教員管理・教員評価などにも使われ、人事にも影響を与える危惧がだされた。

 参加者からは、京都市教委の進めるデータの一元管理に驚きとともに様々な問題点が出された。

 集める情報は何を目的にして誰が使うか考えるべきだ。本当に必要なものは一人一人の教師と生徒たちの実践の記録であり、それをどう伝え生かすかが大切。

 子どものつまずきと指導のあり方に評価(テスト)が使われずに、点数でそれが管理されることは問題。パソコンソフトで一元管理されたものに基づく教育を進めるなら、教師の専門性が欠落してキーパンチャーになってしまうとの指摘もあった。

 また、テストで学校間の相対比較できることになるが、理科の専任がいるかいないかなど人員配置で教育内容も学力もかわってくる実態があるが、画一化された数字のデータではそういうことは全くわからない。これに対し、こういう問題ではデータでやりとりせず、そのような実態が反映される小中の間の交流がいるのではないかの意見もあった。

 業者が作成するジョイプロ・確プロで生徒個人の学力状況が分かるが、業者がデータを持つことになるのは問題。データは20年保存であり、セキュリティの問題も指摘。

改めて、データの扱いや教育・学校づくりの在り方を考えることの重要性が指摘された。

2.【報告A】高校の「特色づくり」と生徒の自主活動 今、「鴨沂の自由」は  石田暁(京都府立鴨沂高校・全日制)

(1)今、鴨沂高校で起きていること

 専用「紫野」グランドへの「フレックス学園」新設、鴨沂高校旧校舎の建て替え、仮校舎(鞍馬口キャンパス)への移転など教育環境の変化の中で、26年度新1年生から、「京都文化コース」の設定など教育内容が大幅変更され、文化学習の「上からの」導入、学校行事の一方的な見直しなど特色づくりが進められている。基礎学力の向上と伝統ある学校行事、生徒の自主活動をどう継続・発展させていくのか、現状と課題が報告された。

 これまで鴨沂高校では歴史的・文化的な環境に恵まれ、戦後一貫して「自由と責任」を重んじる校風、確かな学力の養成と活発な自主活動の育成を指導の2本柱として取り組んできた。近年、鴨沂高校は校区が毎年振られ、毎年教育課題がちがい悪戦苦闘してきたが、この3年間ぐらい従来のスタイルで教育活動を進めてきた。そこに新たな問題が上から持ち込まれてきた。

@ 2012年度〜2013年度に次のような大きな改変が強引に進められてきた
ア)「服装の自由」を「表現の自由」の1つと考えてきたが「制服導入」
教職員の十分な議論と合意がないまま、管理職が導入を宣言 (2013)、生徒・保護者に「制服導入」の是非について何も聞かれず
イ)校舎の「建て替え」→「耐震可能」との専門家に意見、「全面改築」が必要か議論
ウ)紫野グラウンド(専用)に「フレックス学園(高校)」建設(2013.2.4発表)
→硬式野球の公式試合ができるグランドになぜ新しく高校をたてるのかの十分説明なし。
野球部やサッカー部、テニス部などの生徒・保護者も積極的に意見表明をしている。2013年11月22日(土)生徒約50名が「紫野グランド(本校専用)を返してほしい」との要望を持って校長と話し合い(新聞記事)をしたこと、12月14日(土)府立高教組鴨沂分会主催で「教育懇談会」を開いたところ、予想を上回る保護者・生徒の参加、「グランド問題」等で意見交流が行われるなど。

A さらに2014年度に向けて教育内容の大幅な変更が進められようとしている。
ア)2026年度入学生からのカリキュラムの大幅変更
全学年32単位、7限週2回 学校設定科目「京都文化コース」(2年から)
各学年1単位「総合的な学習」の時間→「京都文化」 土曜活用も検討
→教科会や職員会議で問題点が指摘され、「京都文化コース」の内容は未定である。また、7限授業はこれまで、定時制があることやグランドが遠いなどの理由でなかった。
イ)文化学習の「上からの」の導入 「伝統文化」の体験重視、管理職の後押し
「能」の発表。伝統文化フェスティバル(12月)で披露 (2012年度は演劇部)
2013年度、一部の教員で生徒をあつめ練習、「能」の練習優先の指導が問題になった。
ウ)学校の「特色」としての「部活動」づくり

B学校行事の「一方的」な見直し
ア)校外研修の見直し 「平和・人権学習を主目的とする校外研修」をやめる
○「プロジェクト会議」先行して提案  「校外研修」会議で議論なし
○2年生の6月 京都文化を基軸に 関東方面 首都圏・鎌倉・日光等
グループ別文化学習、大学・研究機関・企業等の体験、 日程内に団体観賞を
イ)学校行事全体の一方的な見直し
従来、3年間での成長を考えたプラン(演劇など)でやってきたものがつぶされる。
(2)今後の取り組み
ア)生徒・保護者の意見は イ)教職員の合意は ウ)伝統的な鴨沂の自主活動の意義 エ)「公立高校」としての教育課程の構築
次々と大きな問題が起きて多忙な中であるが、毎日取り組みをやりながら、誰が来ても力を伸ばす教育を進めたい。

★意見交流・感想

 紫野グランドでの校舎の建設は、新聞記事でいきなり公表された。生徒も保護者も憤り、生徒たちは校長とのやり取りも録音し、ユーチューブにもアップするなどいろんな場面で意見表明。

 ほとんどの生徒は今鴨沂で起きていることをおかしいと思っている。教員評価のアンケートにも「鴨沂はあかん」などいっぱい書いている。「不自由」という回答が一番多かったのは一年生。校長が生徒会役員の交替式で認証書を渡すなど、幹部会(生徒会)は学校に言われたことを率先してやるべきだという考えで自主活動を軽視する中での生徒の様子を知って、参加者からは、「高校生の姿がすごい」「教育をこどもたちのために取り戻す(京都の高校生の自主活動の歴史)ために頑張ってほしい」など。

 なぜ、特色づくりを府教委が進めるのかという疑問に対し、「文化」は文科省のねらいの先取り。関西広域連合でも「文化」は京都の担当。トップダウンの文化づくりの流れではないのか。また、特色づくりとは、底辺校や一流校に分けることでもある。

 自主・民主・科学・芸術の教育を支配と統制で破壊し、「伝統」という目隠しで見えなくしようとしているなど、府教委の権力支配的な高校変革の実態がわかった。

 教育内容では、土曜日実施の総合的時間として入ってきた「京都文化」が内容も担当も決まっていないことや、他教科に多く時間配分されて理科の科目が変わり、理科教師が責任持てない状況になるなど、カリキュラムが生徒の進路や学力を保障できるのか、外部から「地元私立大めざすのは無理」言われるなど疑問視される実態を知り、「授業の質をどう考えているかが出ていない」など教育の中身がまともに議論されないずさんさへの批判がでた。

3.【報告B】同僚性を大切にした職場のとりくみ  谷哲弥(乙訓地域小学校)

(1)はじめに、問題意識

 教育現場の労働条件は過酷で、夜遅くまで教材研究に追われ、自分自身を追い詰めて苦しめている。特に若い先生方にはその傾向が多く、仕事に追われている。その中でも、同僚の先生に、時には思いを語り、時には実践の話を聞き、なんとか仕事を進めている。一方、学校組織としての協同や協力が十分でないにもかかわらず、個人主義的な教育実践や特定の研究会の方法論による実践に固執する一部の人がある。このような中で、同僚性について考え、いろいろな世代の先生の声を集めてわかってきたことや、職場作りをどのように進めていくのかを考察した。

(2)同僚性とは

 いくつかの研究を紹介したうえで、報告者は同僚性として「組織としての学校の職員が、子ども達の学力を高め、発達を促すために共に働くこと」または「教員同士が互いに気軽に相談し相談され、教え教えられ、助け助けられ、励まし励まされる建設的な関係性」を重視している。

(3)教員対象に同僚性アンケートの実施

 校長とも数回懇談してアンケート内容を吟味し、藤岡秀樹教育心理学教授の助言も得て作成・実施。(教員生活年数1〜5年/6〜10年/15〜20年/21年以上で区分)

@ 同僚性の実感について・・・「これまでに同僚性を感じた時はどんな時ですか(自由記述)」
全グループでの共通なことは、「悩みの相談・共感・共有・解決」であった。教員生活年数が少ないほどその傾向が強くなる。何でも話せる雰囲気が職員室や学年会にあることが条件である。
また、「子どもの話ができること」は20年以上の教員生活のグループで多くなっている。教育の本質に関わる話がその中に含まれているであろうし、教育とはどういうものか、子ども像を通して語り、教育観児童観を確かめる時間が意義あるものだと考えられる。
これらのことから、互いに対等で、共感・共有・解決できる関係、そして、教育観・児童観を語り合える関係が必要であると読み取れる結果であった。

A 自分が身につけたい力と同僚性について・・・「自分につけたい力とそれをどのような機会を利用して実現しているのか」
同僚性が高まることで教員同士の能力を高められるのではないかという観点で分析。選択の多いものは、次の通りで、教員生活年数による違いが見られない。
先輩同僚教師からの個別のアドバイス/こどもとのふれあい/自分の意欲や努力/            悩みを相談できる相手の存在/職場の雰囲気や人間関係/学年会/すぐれた講演会

B 同僚から学びたいことは・・・「職場の同僚から学びたいことを、優先順に第5位まで」
全体としては、「教科の専門性」の選択傾向が強い。「よりよい授業づくり」を選択している。
ア)1〜5年教員には、よりよい授業、教科の専門性とともに、学級作りへの学びの要求がある。
イ)6〜10年教員では、1人1人の子どもの行動を理解しようという視線を見いだす。
ウ)11〜15年教員では、選択幅がやや分散し、他者理解・効率的な仕事の進め方などの選択傾向。
エ)教員生活が21年以上になると、改めて教科の専門性やよりよい授業に加えて、新しいものへの視線や幅広い視野や人間性を自らの課題としている傾向が見られる。
教員生活の年数による違いは、様々な問題意識を持った教員が協同するとき、それぞれの観点で幅広い意見が交流されることが、対等な協同を生む土壌になるのではないか。

C 同僚性と多忙感の緩和について・・・「多忙感を減らすために何が必要と思うか(自由記述)」
学年会が教員相互の助け合いになってはいるが、それで多忙感が緩和されているという実感は見えてこない。むしろ、教員定数や児童定数、行事の精選という方向を要求しており、同僚性だけで、多忙感を乗り越えにくいことがわかる。
(4)職場作りについて 〜同僚性を感じ、教員が育つ関係性とは、どんなものだろうか〜

@どの年代の教員にも必要な力として、4点を挙げる。
教科や領域の専門性を高める姿勢/よりよい授業づくりへの熱意・実践/新しいものの取り込む意欲・思慮/職場の人間関係の構築力

A私の経験的職場作り
理科部としての授業研究への積極的な取り組みや、授業作りの努力と経験とともに、教員の研修に貢献してきた姿勢ととりくみが以下のとおりである。
日常の議論で、よりよい授業をめざす教材研究をすすめる。子どもの様子を出し合いながら、行動の根拠の理解や家庭との連携の方針を話し合う。自分の教育についての考えやこれまでの体験をもとに話す機会としながら一緒に仕事をする人の考え方にも耳を傾ける機会としている。

 学級通信の職員への配布・その反応とつながり・若い先生への楽しい企画の相談と協同実施・小さな職場では、生徒指導で困難な学年の先生への声かけなどから校内研への道筋を働きかける。

 また、校内生徒指導部運営などを中心に、自らの失敗談を語り、そこから、情報、指導方針の共有と協力の重要性を提起し、毎週(金)子どもの様子を全教員が短時間でも報告しあう。

(5)まとめにかえての提起

 これまで同僚性を意識することはあまりなく、当たり前に、学年会で、子どものこと・教材のこと・授業のこと、保護者との連携のことを話し合ってきた。しかし、教員をめぐる状況が年々厳しくなる中で、小さな職場から、同僚性を築くことが重要であるとわかってきた。
同僚性が高まることで、その学校職場の教育的機能が高まり、若い先生がより成長し、教員生活の長い教員も個性を発揮することで、自分自身の高まり(自己肯定観)を実感できる。

いろいろな世代の教員の存在は、教員年数のちがいが相互に補完し合い、よりよい職場関係を創り出すのではないかとも考えるようになった。

 若い先生は、自ら進んでさまざまな教材・授業方法・アイデアを取り込み、実践記録を書き留め、それをもとによりよい授業を求めていこう。そして授業観、ひいては教育観を築いていこう。

 経験の長い先生は、自らの問題意識を学習・実践により深めつつ、時に、教育観・児童観を語り合おう(自らの立ち位置の確からしさを確認しよう)。若い先生の話に耳を傾ける姿が職場の安定感を作りだす。同世代が語り合うとともに、リラックスできる雰囲気の中で英気を養おう。

★意見交換・感想

 「同僚性」というのは非常にあいまい。一致して指導するのは教育の本質であり、なぜ同僚性をいう必要があるのかという疑問が出た。これには参加者から、教師集団として指導する体制が崩れているから、どうするか、今の中でやりかた探る点で、幅広い概念ではあるが「同僚性」という面で教師集団をつくることの提起が重要という認識が出された。

 とりわけ、今の若い教員の問題が、いくつか象徴的な例で示された。教育力量の点では、発問や板書を「台本」通り行う、授業の工夫をインターネットから引っ張ってくるが、「ネットに出ているのは良い授業だから出ている」と思っている。職場の先輩に相談しないし、批判されると泣き出しそうになる。一方、帰宅するのは9時ごろという多忙さ。教職を目指す大学生も職場で共同することを学ぶ場がなく、教育現場で担わねばならないという意見も。

 教育の専門性、授業観、児童観、授業づくりなど、世代間の継承を意識することが必要な現場の実態、多忙の中で子どもから学び生きがいが探れる職場づくりの必要性が語られる中で、画一的でなく、個性を大切にしながら、共同がどう作れるかという課題の重要性から、「同僚性」という意義も明らかにされた。
 
 「京都教育センター年報(26号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(26号)」冊子をごらんください。

事務局  2013年度年報もくじ


              2014年3月発行
京都教育センター