事務局 2009年度年報もくじ

第2部 教育センターと各研究会の活動

発達問題研究会・2009年度活動のまとめ

             西浦秀通(発達問題研究会事務局)



1.2009年の活動経過

2003年には、インターネットや情報機器・道具の普及などと併せて「コンピュータ社会に生きる子どもたちを取り巻く環境」について検討、2004年は「インターネット時代と子どもたちの認識・発達」、2005年は「ケータイ文化と子どもたちの発達環境」、2006年には「子どもたちの発達課題と地域環境」、2007年も引き続き「子どもの発達と自然との関わり」に関して研究、2008年も「人間と自然との相互性」についての議論を継続、2009年1月のセンター研分科会では、「子どもたちのバッファ・ゾーンBuffer Zone(緩衝地帯)」をテーマに、「子どもたちを取り巻く環境の激変」などの検討課題も含めて討論、人間発達の土壌としての学校・地域についての議論を重ねてきた。その後も、認識の発達も含めての「子どもの発達と科学的認識」に関する研究・討議の必要性などから、議論を継続した。

 
具体的には、2009年がダーウィン生誕200年ということもあり、「人の発達と進化」をテーマに、進化の視点で人間の発達をどのようにとらえたらいいのか、「道徳心」や「倫理観」なども自然選択の結果なのか、「心の発達」をどのように考えたらいいのか、などについて議論してきている。

 
そして、月例の研究例会での学習や報告者を招いての「発達理論・発達を取り巻く環境」の研究を背景に、また、運営委員会での議論と問題提起を踏まえ、9月26日(土)に公開研究会「発達・進化からみた野外活動の意義」を開催、龍谷大学教授好廣眞一さんから、子どもの成長・発達にとっての野外活動の意義、人類の進化を踏まえて最近40年余の人類史上の「大異変」、いきすぎた現代社会についての報告があった。

 
続いて10月には、「子ども観を変える−人類の進化と子どもの発達−」と題して公開研究会を開催、これは、「発達の現代的課題」をより広い視点から俯瞰することを目的として2005年度秋から取り組んできた「北欧の教育」研究を踏まえるという側面もあった。

 
昨年度の活動の記録は、以下の通り。

〇1月24日(土)〜25日(日):センター研(第4分科会担当)

〇3月 7日(土):運営委員会(「人間と自然との相互性」、公開研究会について)
           
研究例会(中山善行さん「集団で学習する力:学童保育の中での生活」)

〇4月18日(土):運営委員会(「子どもの発達と自然との関わり」、公開研究会について)
           研究例会(「個体発生と系統発生〜人の発達と進化」、報告:和気徹さん)

〇5月16日(土):運営委員会(「発達課題と地域環境」について、公開研究会について)

〇6月13日(土):運営委員会(「人の発達と進化、公開研究会について)

〇7月11日(土):運営委員会(公開研究会について)
           研究例会(「子どもの成長を支える体制作り−春討、生きもの調査隊、学校内での取組−」、報告:久田晴生さん

〇9月 5日(土):運営委員会(公開研究会について)
           研究例会「子ども観を変える−人類の進化と子どもの発達−」、報告:関谷健さん

〇9月26日(土)午後:第14回公開研究会

〇10月24日(土)午後:第15回公開研究会
            
運営委員会(「人類の進化と子どもの発達」に関して)

〇10月  各支部教育研究集会参加

〇11月 7日(土):運営委員会(第14回・第15回公開研究会総括、「子ども観を変える」に関しての議論、公開研究会・センター研分科会について)

〇11月14日(土)〜15日(日):京都教育研究集会

〇12月12日(土):運営委員会(「子ども観を深める――地域・集団・自然をキーワードに」に関しての議論、公開研究会・センター研分科会について)

〇2010年1月9日(土):運営委員会(「子ども観を深める――地域・集団・自然をキーワードに」に関しての議論、センター研分科会・春の公開研究会について)

〇1月23日(土)〜24日(日):センター研(第4分科会担当)


2.2009年のまとめ

 2009年度も前年度に引き続き、研究の焦点を「思春期の子ども」に合わせ、さらに
(1) 認知的能力
(2) 身体的・運動的能力
(3) 現代社会の中の思春期

 
という3つのテーマに沿って研究活動を進めることを追求した。

 
「子どもたちの発達課題と地域環境」という2005年以来の研究から、子どもの発達の危機的状況が議論されるなかで、子どもたち自身の「様変わり」も指摘されている。「子どもの内面の変容とともに、その居場所(環境)も狭くなって、子どもたちが人工物の中に囲まれて生活をしている状況においては、自然科学観が育ちにくい。心の問題と体の問題を統一的に考えることの重要な時期である」という問題意識を踏まえ、公開研究会やセンター研分科会などの取り組みを通じて、学校内外での子どもたちの様子や発達について、具体的な活動・報告にもとづいた現状理解の討議を行なってきている。

 
そして、2009年1月のセンター研分科会では「子どもたちのバッファ・ゾーンBuffer Zone(緩衝地帯)」をテーマに設定、当日は、これまでの議論や「子どもたちを取り巻く環境の激変」「テレビやネット・ケータイを通じて直に晒される現代社会からの攻撃」「子ども達が素朴に育ちにくい現代社会特有の現象」などの検討課題も含めた<基調報告「人間発達の課題と環境の視点から」 西浦秀通(研究会事務局)>に続いて、4つの報告をして頂いた。

@「木津川流域などに生きる植物探索研究」山村武正さん(NPO法人やましろ里山の会)
A「春討と高校生の成長、及び課題 〜「自分の土台になる」取組〜」
                   久田晴生さん(春討顧問団事務局長、府立朱雀高校定時制)
B「自然って、楽しいなあ!」岡敏明さん(乙訓・第5向陽小)
C「理科室からみた子ども達」浅井定雄さん(京都市・音羽小)

 
理科教育に関する報告が多かったが、バッファ・ゾーンに関しては自然に絞らず「子どもたちを保護し包み込むような緩衝材の必要性」という提起について、「たっぷりとした緩衝ゾーンを味わせたいが、今のカリキュラムの中では忙しくてまるでできないでいる」「小学校低学年・高学年・中学校の時期それぞれに緩衝ゾーンが必要なのではないか」「子どものバッファ・ゾーンだけでなく、職場では教師のバッファ・ゾーンもなくなってきている」「卵から幼虫・蛹を経て成虫になるような、人間にもそんな大事な時期がある」などのように自然認識・社会認識といった視点から「里山の重要性」を再認識するさまざまな発言があった。

 
また、「春討初期の話が聞けてよかった」「生活指導的に、自分探しというのは本末転倒。人工の世界に閉じ込められているから、自分というものが分からなくなる」「今までぼやっと思っていたことが、『バッファ・ゾーン』という形で提示されて、はっきりした。困難でも、人との関係を作っていかなければならないのではないか」などの意見や感想も寄せられ、その後の研究活動に繋がっている。

 「子どもたちの成長発達と認知的能力」に関しては、研究例会で中山善行さんに「集団で学習する力:学童保育の中での生活」を、和気徹さんに「個体発生と系統発生〜人の発達と進化」を、久田晴生さんに「子どもの成長を支える体制作り−春討、生きもの調査隊、学校内での取組−」を報告して頂くなど、テーマを絞り、あるいは研究テーマそのものを発展させる側面からも、定例の活動(研究例会+運営委員会、公開研、センター研)を軸に多彩な内容で原則的な研究を継続してきた。

 
そして、月例の研究例会での学習や報告者を招いての「発達理論・発達を取り巻く環境」の研究を背景に、また、運営委員会での議論と問題提起を踏まえ、9月26日(土)に公開研究会「発達・進化からみた野外活動の意義」を開催、龍谷大学教授好廣眞一さんから、子どもの成長・発達にとっての野外活動の意義、人類の進化を踏まえて最近40年余の人類史上の「大異変」、いきすぎた現代社会についての報告があった。

 
続いて10月の公開研では「子ども観を変える−人類の進化と子どもの発達−」をテーマにした関谷健さんからの報告を受け、「情報化」「競争原理」による経済・教育の格差と官僚統制強化、「学力格差」「子どもの孤立化」「学習意欲の衰退」と地域社会の教育力衰退について議論、「進化したヒト科の子どもとして見直す」という観点で、日本の子どもたちの希望喪失状況などから子ども観を検討、センター研に向けて研究・議論を継続した。

 
公開研の総括およびセンター研分科会テーマ設定、あるいは次年度以降の研究内容検討を通じて、「子どもたちの発達課題と地域環境」をめぐる問題や過疎化地域での文化的衰退と発達・教育環境などの課題についても指摘があり、これからの議論が待たれている。

 
2010年1月のセンター研分科会では、子ども観を深める」をテーマに設定、地域・集団・自然をキーワードにこれまでの議論や「人間と自然との相互性」「自然の生き物としてのヒトと子ども」などの検討課題も含めて、関谷健さんが「『手と脳の複合体』の進化とヒトの子の探索・学習活動」と題して研究会事務局として基調報告を行い、続く3つの報告をして頂いた。

@「園内での自然とのふれあいで育つ子どもたち」(池添鉄平さん:たかつかさ保育園)
A「学び合いが生まれる」(野村治さん:綴喜・田原小)
B「高校生の成長を支える組織・集団」(久田晴生さん:府立朱雀高校定時制)


3.研究に関して

 研究を進めていく上で、以下の視点を確認してきた。

1 発達理論に基づいているか
2 社会的教育的な情勢・状況を把握しているか
3 子どもたちの実態に基づいているか
4 教育現場が求めているものになっているか
5 研究成果の活用の展望

 
そして、研究活動を今後どのように社会や教育現場に還元していくのか検討し、研究内容の記録・得られた研究成果を冊子か本にまとめて、組織的な研究を継続していくことになっている。


4.2010年の活動方針

 2010年度も「思春期の子ども」研究を継続させていくことを確認している。当面、「発達の現代的課題」、および「人間発達の土壌としての学校・地域」「地域は子どもに何ができるか」などについて、定例の研究例会を学習の場として活用している。この間、実務作業のための運営委員会についても、学習討議の場としての研究例会についても、「発達保障」の観点からの学習も含めて議論をしてきており、また、前年までの「インターネット時代と子どもたちの認識・発達」「ケータイ文化と子どもたち」「子どもたちの発達課題と地域環境」「北欧の教育」「拡張による学習」に関する研究の継続も求められている。

 
今後も、「現代の子どものコミュニケーション」「自主活動と社会的発達」「子どもの発達と自然との関わり」「活動理論と教育実践の創造」「子どもたちのバッファ・ゾーンBuffer Zone」など、これまでの報告や研究を踏まえ、また会員の意見を広く取り入れながら、学校教育や社会環境など発達をめぐる問題を精力的に検討していきたい。

 
加えて、この研究会のあり方を捉え直して発展させようと議論もあり、月例開催を継続している研究会運営や会員組織に関すること、あるいは研究会活動と教育センターとの連携など、多忙化の中で改善・整理していく課題についても、活動の中から議論を深めていくこととなろう。


5.研究会組織体制と構成員

・代表者  宮嶋邦明、築山崇

・事務局  関谷健、西浦秀通

・運営委員 浅井定雄、伊藤晴美、北村彰、久保田あや子、中山善行、和気徹

・会員   (略)

 「京都教育センター年報(22号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(22号)」冊子をごらんください。
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              2010年3月
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