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現行「教育基本法」の理念を否定し、教育の目的を覆す「教育基本法改正法案」の廃案を求めます(緊急アピール)


 私たちは2001年4月27日、首相の私的諮問機関であった「教育改革国民会議報告」(2000年12月)に盛り込まれた教育基本法「改正」の動きを直視し、故鯵坂二夫氏をはじめ16氏による『拙速な教育基本法見直しでなく、「百年の大計」にふさわしい、深い教育論議を望みます』とのアピールを発表しました。そして260余名の有識者からの賛同をいただき、教育基本法「改正」の動向に深い関心と批判の目を向けてきました。

 その後、さまざまな動向がありましたが、今年の第164通常国会に政府提案による「教育基本法改正法案」なるものが教育基本法制定後初めて提出されました。国会では「特別委員会」が強行設置され一定の議論がなされたものの、憲法問題での国民的な関心の高まりとも相まった「拙速な議論による改正の強行許さじ」の世論に押され、会期末では「継続審議」扱いとなりました。しかし、「改正」への並々ならぬ決意で執着する勢力は、新しい総裁のもとで9月26日から開催される臨時国会で何としても成立をさせる構えを示しています。

 私たちは、教育の憲法として在る教育基本法をめぐって、前回(2001年)の情勢よりさらに深刻かつ重大な事態に直面しているとの認識にたち、以下の論点で「法案の廃案を求める」緊急アピールを発することに致しました。

 
「改正」法案の重要な問題点

 「改正」法案は現行法の条項に盛られたいくつかの文言を残しつつも、部分的修正にとどまらない全面的な改悪を意図するものです。

 主な問題点の第一は、現行の教育基本法が厳しく禁じている教育への国家権力の介入を公然とすすめるものとなっていることです。現行法は第10条で「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」と定めていますが、「改正」法案ではこの項の後半部分を「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの」と書き換えています。そして新たに第2条として「教育の目標」を掲げ、法律に従う教育の遂行を求め、「国民のための教育」から「国家のための教育」へ180度転換させる変質をもくろんでいます。第二の問題点は、その目標の一つとして「国と郷土を愛する態度を養う」ことを掲げ、教育の名のもとにゆがんだ「愛国心」を子どもに押しつけ、憲法を改悪して「戦争する国」をつくることと連動してその「国を支える人材」を育成することを指向していることです。第三の問題点は、「教育の自由」の規定が大幅に後退することです。現行教育基本法では、第10条の規定により「不当な支配の排除」、「国民に対する直接責任」、「教育条件の整備確立」が明記され、教育現場での「教育の自由」が尊重される仕組みになっています。ところが、「改正」法案ではこれらの条項がいずれも削除され、国家が教育内容や価値に無限に関与できる法的な構造が仕組まれています。第四の問題点は、「教育振興基本計画」の根拠規定が盛り込まれたことです。文科省や教育委員会はこの「計画」を策定することにより、一斉学力テストや習熟度別授業などを画一的に強制できる「うしろ盾」をもつことになります。

 日本教育学会などもこの8月末に、「現在国会に提出されている二法案はいずれも廃案とし、現行法の精神をより豊かに発展させることを願う」との見解と要望を発表しています。また、東京大学基礎学力開発研究センターが今夏に実施した公立小中学校長(約1万校対象)の調査でも、学校長の66%が「改正に賛成しない」との回答を寄せています。

 
今こそ求められる、現行の教育基本法を生かした「教育改革」

 今、この京都も含めて日本の多くの学校では、教育基本法の理念に反した教育がトップダウン方式で持ち込まれ、子どもたちの健全な成長発達を著しく阻害しています。日の丸・君が代の強要や「心のノート」のおしつけ、「少人数学級」よりも習熟度別の「少人数授業」の推進、「国を愛する態度」を評価する通知票、教育格差を拡大する規制緩和や学校選択制の拡大など「改正」法案を先取りする実態が蔓延しています。しかし、子どもや父母、教職員などが真に望む教育は、どの子も生き生きと人間らしく成長することを見届ける教育の実現です。現状での教育問題や不備を改善するには現行の教育基本法を生かした見地での「教育改革」を子どもの立場で考え、とりくむことこそ求められます。

 
臨時国会での「廃案」にむけて

 先の通常国会では成立強行を許さなかったものの、378名を擁する「改正促進議員連盟」などが過半数を制する国会勢力ではいつでも強行突破が可能です。また、野党第一党の民主党は政府案に対抗して「日本国教育基本法案」を提出していますが、その内容は前文に「日本を愛する心を滴養する」ことを挿入するなど、小泉首相や右翼改憲団体の「日本会議」なども高い評価を与えているものです。臨時国会ではこの両案の「すりあわせ」により「改正」のハードルを低くする策動が取りざたされています。それらを押しとどめる源泉は崇高な理念に導かれた現行教育基本法の持つ生命力にあり、「改正」法案を廃案に追い込み、現行法を生かした教育の推進を求める国民的な運動の展開にあります。

 憲法9条を守る国民的な運動、「格差社会」問題ととりくむ運動、教育条件の改善を求める運動などともむすびつけて「廃案」に追い込むことが見通せれば、今の理不尽な教育改革に歯止めをかけ、現行の教育基本法を生かしてすべての子どもたちの豊かな成長を促す教育を国民の側に取り戻すことが可能になります。

 
 
 私たちは、以上のような見地から臨時国会での「教育基本法改正法案」の廃案を求めるために多くの方々の賛同を期待してここに訴えるものです。

             
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2006年9月18日
 
  緊急アピール呼びかけ人
 鯵坂 真(関西大学名誉教授)       安斉育郎(立命館大学教授)
 岩橋祐治(京都総評議長・教育府民会議代表)大島亮準(大原三千院門跡元執事)
 小倉襄二(同志社大学名誉教授)      倉知三夫(京都大学名誉教授)
 金子欣哉(元京都府教育長)        佐伯幸雄(同志社教会牧師)
 信楽峻麿(元龍谷大学学長)        志岐常正(京都大学名誉教授)
 茂山千之丞(狂言師)           鶴見俊輔(哲学者)
 出口治男(弁護士)            土橋 亨(映画監督)
 中西泰子(日本キリスト教婦人矯風会)   中野一新(京都大学名誉教授)
 八本木浄(京都工芸繊維大学名誉教授)   広原盛明(龍谷大学教授)
 益川敏英(京都大学名誉教授)       野中一也(大阪電気通信大学名誉教授・京都教育センター代表)
                                         
*(おことわり)土橋 亨さんの名字の土は「土」に「丶」がつきます。

「緊急アピール」への賛同・ご意見等を京都教育センター事務局メールにお寄せ下さい。
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