トップ 事務局 教育基本法
参考資料

教育基本法改悪案 主な問題点

2006.5.22
 

 この資料は、みなさん方の学習・検討資料として役立てるために、メディアの各報道をもとに京都教育センター事務局で作成したものです。下記の「主な問題点」については、あくまで個人的な見解であり、京都教育センターの公式な見解ではないことをおことわりしておきます。(A)

現行 教育基本法 教育基本法 改悪案 主な問題点
【前文】
 われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。
 われらは、個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性豊かな文化の創造を目指す教育を普及徹底しなければならない。
 ここに、日本国憲法の精神に則り、教育の目的を明示して、新しい日本の教育の基本を確立するため、この法律を制定する。
【前文】
 我々日本国民は、たゆまぬ努力によって築いてきた民主的で文化的な国家を更に発展させるとともに、世界の平和と人類の福祉の向上に貢献することを願うものである。
 我々は、この理想を実現するため、個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進する。
 ここに、我々は、日本国憲法の精神にのっとり、我が国の未来を切り拓く教育の基本を確立し、その振興を図るため、この法律を制定する。
◇「この(憲法の)理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである」を削除し、「真理と平和を希求」を「真理と正義を希求」に書き換えている。

◇「公共の精神」「伝統を継承し」などを新たに盛り込んでいる。







 
【(教育の目的)第1条】

 教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
第1章 教育の目的及び理念
【(教育の目的)第一条】
 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
 
◇「真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた」を削除し、必要な資質」に書き換えている。何が必要な資質なのかについては、ここでは明らかにしていないが、第二条の「教育の目標」に関連させている。

 
【(教育の方針)第2条】
 教育の目的は、あらゆる機会に、あらゆる場所において実現されなければならない。この目的を達成するためには、学問の自由を尊重し、実際生活に即し、自発的精神を養い、自他の敬愛と協力によって、文化の創造と発展に貢献するように努めなければならない。
















 
【(教育の目標)第二条】 
 教育は、その目的を実現するため、学問の自由を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
1 幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと。
2 個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。
3 正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
4 生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。
5 伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
◇「教育の目標」に「国・・・を愛する・・・態度」を盛り込んでいる。憲法や現行の教育基本法で十分対応できることをあえて書き込むことには、憲法を変えて「戦争をする国づくり」を進め、それに対応した人づくりをする狙いがある。

◇現行法第10条の改定と結びついて、特定の立場に立つ「愛国心」を教育現場に押しつけ、「日の丸・君が代」強制など内心の自由の侵害がいっそう強まる危険性がある。

◇こと細かなことがらを20以上も「教育の目標」として想定している。「心」だけでなく、さまざまな「態度」を養うことが目標とされ、その達成度がチェック(評価)されることになる。この「20以上の項目」については、学習指導要領(道徳)の徳目に対応しているという指摘も報道されている。

◇5の『我が国』は、「伝統と文化・・・をはぐくんできた『我が国』」であり、当然、天皇や国体(国柄)という形での規定された国を愛せよということにつながっていく危険性がある。
※関連:第7条





 
【(生涯学習)第三条】
 国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない。






 
【(教育の機会均等)第3条】 
 すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。
国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって就学困難な者に対して、奨学の方法を講じなければならない。

 
【(教育の機会均等)第四条】
1すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。
2 国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない。
3 国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対して、奨学の措置を講じなければならない。
◇障害児教育は、現行法の「教育の機会均等」の理念にもとづいた運動で充実が図られてきたのであって、現行法で充分対応できるものである。







 
【(義務教育)第4条】 

 国民は、その保護する子女に、9年の普通教育を受けさせる義務を負う。
2 国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料は、これを徴収しない。









 
第2章 教育の実施に関する基本【(義務教育)第五条】
 国民は、その保護する子に、別に法律で定めるところにより、普通教育を受けさせる義務を負う。
2 義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。
3 国及び地方公共団体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負う。4 国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しない。
◇「9年」という義務教育の期間を削除している。現在進められているエリート重視の教育などの動きを考えると、義務教育の就学年数が短縮されたり、子どもによって期間が変わる可能性も出てくる。









 
【(男女共学)第5条】
 男女は、互いに敬重し、協力しあわなければならないものであって、教育上男女の共学は、認められなければならない。
※削除。二条三項に関連あり。



 
◇男女平等をゆきわたらせるための条項であって、まだ実現の途上にある現在、これを削除することは「ジェンダー・バックラッシュ」と軌を一にする流れであると言える。
【(学校教育)第6条】 
 法律に定める学校は、公の性質をもつものであつて、国又は地方公共団体の外、法律に定める法人のみが、これを設置することができる。
2 法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者であって、自己の使命を自覚し、その職責の遂行に努めなければならない。このためには、教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が、期せられなければならない。

 
【(学校教育)第六条】
1 法律に定める学校は、公の性質を有するものであって、国、地方公共団体及び法律に定める法人のみが、これを設置することができる。
2 前項の学校においては、教育の目標が達成されるよう、教育を受ける者の心身の発達に応じて、体系的な教育が組織的に行われなければならない。この場合において、教育を受ける者が、学校生活を営む上で必要な規律を重んずるとともに、自ら進んで学習に取り組む意欲を高めることを重視して行われなければならない。
◇子どもに対して「規律を重んじる」ことを法律で強制することになる。学校での子どもたちへの指導が、「教育的指導」よりも「秩序維持を優先した指導」に変えられる危険性がある。

◇また、改悪案第2条で定めた「目標」の達成を学校に求め、学校統制を強める狙いがある。


 







 
【(大学)第七条】
1 大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。
2 大学については、自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない。
◇大学や私立学校については学校教育法、私立学校法などに定めがあり、ことさら新しい項目を設ける理由はない。



 






 
【(私立学校)第八条】
 私立学校の有する公の性質及び学校教育において果たす重要な役割にかんがみ、国及び地方公共団体は、その自主性を尊重しつつ、助成その他の適当な方法によって私立学校教育の振興に努めなければならない。
◇(同上)
※関連:第6条








 
【(教員)第九条】
1 法律に定める学校の教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない。
2 前項の教員については、その使命と職責の重要性にかんがみ、その身分は尊重され、待遇の適正が期せられるとともに、養成と研修の充実が図られなければならない。
◇教員について現行法第6条の「学校の教員は、全体の奉仕者であって」という言葉を削除している。改悪案第十六条「教育は、・・・この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの」との関連を考えるならば、この削除の意味するところは、戦前のように教員を「国家権力に忠実な」ものとして位置づけ、国家への奉仕者として、強制することにあると考えられる。 
※関連:第7条  【(家庭教育)第十条】
1 父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。
◇家庭教育は、これまで権力介入になじまない分野として国と地方による「奨励」だけが規定されていたが、保護者の「責任」を強調するものに変えられている。このことにより、少年事件をはじめ子どもの「問題行動」などの責任を「家庭教育=保護者の責任」として負わせることになる。




 
【(幼児期の教育)第十一条】
 幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであることにかんがみ、国及び地方公共団体は、幼児の健やかな成長に資する良好な環境の整備その他適当な方法によって、その振興に努めなければならない。





 
【(社会教育)第7条】 
 家庭教育及び勤労の場所その他社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によって奨励されなければならない。
2 国及び地方公共団体は、図書館、博物館、公民館等の施設の設置、学校の施設の利用その他適当な方法によって教育の目的の実現に努めなければならない。
【(社会教育) 第十二条】
1 個人の要望や社会の要請にこたえ、社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によって奨励されなければならない。
2 国及び地方公共団体は、図書館、博物館、公民館その他の社会教育施設の設置、学校の施設の利用、学習の機会及び情報の提供その他の適当な方法によって社会教育の振興に努めなければならない。








 
※関連:第7条 【(学校、家庭および地域住民などの相互の連携協力)第十三条】
 学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする。  





 
【(政治教育)第8条】 
 良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない。
2 法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。
【(政治教育)第十四条】
1 良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない。
2 法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。







 
【(宗教教育)第9条】 
 宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない。
2 国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。
【(宗教教育)第十五条】
1 宗教に関する寛容の態度、宗教に関する一般的な教養及び宗教の社会生活における地位は、教育上尊重されなければならない。
2 国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。








 
【(教育行政)第10条】
1 教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。
2 教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。









 
第3章 教育行政
【 (教育行政) 第十六条】
1 教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。
2 国は、全国的な教育の機会均等と教育水準の維持向上を図るため、教育に関する施策を総合的に策定し、実施しなければならない。
3 地方公共団体は、その地域における教育の振興を図るため、その実情に応じた教育に関する施策を策定し、実施しなければならない。
4 国及び地方公共団体は、教育が円滑かつ継続的に実施されるよう、必要な財政上の措置を講じなければならない。
◇現行法の「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。」との規定は、戦前の軍国主義教育が、何よりも「国家権力の教育介入」によりもたらされて反省から規定されたものである。最大の「不当な支配」は、国家権力による支配であった。

◇しかし、改悪案は、そのときどきの権力に左右されないための、子どもや保護者、国民に「直接に責任」を負うという規定を削除している。その一方で、法令に従うことを明記し、法令をたてに教育への権力的介入を正当化している。これは「国民の教育権」から「国家の教育権」への180度転換で、教育権を「ハイジャック」するようなものである。

◇行政権力が教育の内容に口出ししないように教育行政の任務を「諸条件の整備確立」に限定した部分を削除している。このことによって、行政権力が教育内容に公然と介入をして、それが正当化されることになる。 











 
【(教育振興基本計画)第十七条】
1 政府は、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、教育の振興に関する施策についての基本的な方針及び講ずべき施策その他必要な事項について、基本的な計画を定め、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない。
2 地方公共団体は、前項の計画を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体における教育の振興のための施策に関する基本的な計画を定めるよう努めなければならない。
◇たとえば、競争をあおる全国学力テストの実施を「基本計画」に盛り込み、自治体や学校に押しつけるなどによって、教育基本法を根拠にして国家権力が教育に介入できるようになる。

◇このように「教育振興基本計画」を使って、どんどの教育への国家権力の介入の道が開かれるようになる。
 
【(補則)第11条】 
 この法律に掲げる諸条項を実施するために必要がある場合には、適当な法令が制定されなければならない。
第4章 法令の制定
【(補則) 第十八条】
 この法律に規定する諸条項を実施するため、必要な法令が制定されなければならない。




 
トップ 事務局 教育基本法